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リアルガチ地獄巡り

 るんるんるん♪

 こんにちは!!本田千夜です!!今日から冬休みです!!みんな、エンジョイしてますか?


「おはよう千夜、今日はオシャレしてどこかに出かけるの?」

「ぐっどもーにんぐ、お母さん。今日は達也とデートなんだ♪」

「あらそう」


 今日は12月24日、クリスマスイブです♪

 クリスマスイブに達也とデートです♪


 いつもより気合いを入れておめかしして待ち合わせ場所の駅前まで…向かう足取りも自然飛び跳ねるように軽やかなステップです。



 --駅前。

 冬休みシーズンになってから賑わいを増した駅前は人でいっぱい。元気もいっぱい。屈指の待ち合わせスポットの駅前には朝からカップルの姿が…

 そんな人混みの中で一際存在感を放つ彼が私を待ってます。


「達也!」

「…っ!千夜っ!!」


 戦いの場に駆けつけた時最愛の人がやられてたくらいの勢いで私を呼ぶこの人が私のカレシ--佐伯達也。

 紋付袴に日本刀を差した立ち姿は隻腕の剣士のそれです。ちなみに片腕は彼岸三途君に斬り落とされたらしいです。


「千夜…今日も綺麗だ。不思議だな…君を見る度に心拍数が110を超えるのはどうしてだろう…」

「病院行ったら?」


 達也は相変わらず達也ですけど、私達は並んでデートを始めます。今日はどこに連れて行ってくれるんでしょうか。


「千夜、今日はイルミネーションを見に行こうと思うんだ…」

「わぁ楽しみ!」

「千夜……愛してる…」

「で?それまでどうやって時間潰すの?」


 イルミネーションということは夜だよね?


「ああ、完璧のプランがあるんだ、とっておきの場所があるんだ」


 達也のオススメスポットだなんてちょっと不安なんだけど今日は達也がエスコートしてくれるらしいので楽しんで行こうと思います!!



 --リアルガチ地獄巡り--


「ご予約のお客様はこちらのトロッコにお乗り下さーい!」


 駅から少し行った場所…

 市街地にぽつんとあるのは遊園地のアトラクションみたいな場違いなゲート。結構なお客さんが居るみたいで達也もここに並ぶのでここがとっておきの場所みたいです。


「達也…これは?」

「リアルガチ地獄巡りだ」


 どうしようアトラクション名以上の情報がない。


「ここ、最近できたんだ。結構有名でな」

「私知らなかった」

「きっと千夜も気に入ってくれると思うんだ。3ヶ月前から予約しておいたのさ」


 すごい人気だ。


 ゲートをくぐったらすぐにトロッコ乗り場があって、トロッコの線路がジェットコースターばりに真下へ向かって急降下してます。

 ほんとになんでこんな所に……


「さぁ千夜乗ってくれ」

「…達也これ、アトラクションだよね?」

「いいや?地獄巡りだ」

「別府の?」

「いや、リアルガチな地獄巡りだ」

「リアルガチな地獄巡りってなに?」

「リアルガチで地獄を巡るんだ」


 全っっく情報が入ってこないです。


 ボロいトロッコにお客さんが乗り込んだらスタッフさんがこのアトラクション(?)の説明を始めます。

 良かった、達也の説明ではなんの詳細も分からないので…


「ようこそ!こちらはリアルガチ地獄巡りです!!リアルガチで地獄を巡っていただきます!!」


 ダメだ。リアルガチな地獄巡りということしか教えてくれません…

 ただトロッコに乗り込んだお客さん達のワクワクした面持ちから察するに、とても楽しいアトラクション(?)なんでしょう。


 アトラクションは絶叫系もわちゃわちゃ系も好きです。わくわく。


「皆さん、決してトロッコから大きく身を乗り出したり、落ちたり、誘いの声に反応したり、しないでくださいね?何かありましても当社は一切責任を負いませんので」


 …え?誘いの声ってなんですか?


「それでは!!リアルガチな地獄をご堪能くださいっ!!」


 スタッフさんがノリノリでレバーを引くとゆっくりとトロッコのタイヤが回りだします。

 そのまま引き寄せられるように緩やかなスタートを切ったトロッコが急降下している線路に沿って降下していきます!


 結構なスピードで。


「きゃあああっ!!」

「千夜!心配するな!!俺がついてる!!」


 やっぱりジェットコースター的なアトラクションですね。


 ジェットコースターばりのハイスピードでぐんぐん落ちていきます。線路は地面に掘られたようなゴツゴツした岩肌の剥き出しの穴の中を走ります。


「達也すごいね!ほぼ垂直だよ!!」

「千夜!ここからが本番さ!!」


 ……


「きゃああああっ!!」

「千夜、まだ叫ぶのは早いぞ?」


 …………


 ……これ、永遠落ちてるだけでは?

 もうかれこれ10分くらい落ちてますけど何もありません。ただ洞窟みたいな穴の中を真っ直ぐ降りていってるだけです……緩急もなくただ真っ直ぐ……


 これ、何が楽しいんですか?


 なんだか手を挙げて叫んでるのも恥ずかしくなってきたので無言でトロッコにしがみついていたんですが…そうしてること更に数分……


 微かな照明の照らす暗闇ばかりの岩肌がぼんやりと赤く照らされてるのが分かります。それと同時にムワッとした空気が肌を包み込んで12月だと言うのに玉のような汗が滲みました。

 そして……


『うわぁぁぁっ!!』『ぎゃぁぁぁっ!!』『ぐはぁぁぁっ!!』

「っ!?」

「千夜、ここからが本番だぞ」

「えぇ……なにこれ?なんかすごい悲鳴が……」


 突然変わるアトラクションの雰囲気に呑まれていたのも束の間、突然狭いトンネル状の通路が大きく開けて巨大な地下空間が広がりました。


 そしてドン引き……


 そこに広がるのは阿鼻叫喚の地獄絵図…

 まず、全体が球状の空間で、所々岩壁から溶岩が噴き出して滝を作ってます。

 あとなんか粗末な布切れを纏った血まみれの人達がなんか手にはめた鉄製の爪で殺し合いをしてました。

 あとその人達を角の生えた人が虐めてました。


 何を言ってるのか分からないと思うけど見たまんまその光景が広がってます。


『ぐはぁぁっ!!』『ひげぇぇぁっ!!』『がははははっ!!』『ごべぇぇっ!!』


 ものすごい悲鳴…


『皆様、長らくおまたせしました!リアルガチ地獄巡り、本番でございます!!皆様が今居るのは八大地獄の第一層、等活地獄でございます』


 と、説明するのはトロッコのスピーカー…


『こちらの地獄には殺生の罪を犯した咎人が落とされ、互いに殺し合い、また地獄の鬼達に殺戮され続けるのです!!』


 …………は?


「た、達也…これは何を見せられてるの?」

「だからリアルガチ地獄巡りだ。このトロッコの通る線路は大型ショッピングモールの地下開設の為の工事中にたまたま見つけた地獄への道に引かれてるのさ」


 え?地獄ってそんな簡単に出てくるものなんですか?地獄がお隣さんくらいの距離感なんですけど?地下数階の深さに潜ったらもう地獄なんですか?


「……え?じゃあこのトロッコは地獄を巡る観光トロッコなの?」

「そうだが?だから言ってるだろ。リアルガチ地獄巡りだって…」

「……」

「気に入ってくれたか?だがまだまだ本番はここからだぞ?」


 --私達の乗り込んだのはリアルガチな地獄巡りツアーでした。


 *******************


「--ぎゃあああっ!!」


 第二階層、黒縄地獄。

 殺生と盗みの罪を働いた罪人が落ちる地獄らしいです。あと、なんかトロッコに乗ってたお客さんが1人吸い込まれるようにトロッコから落ちていきました。


『今逝かれたお客様はこの地獄に相応しい罪を背負っていたのでしょう。引きずり込まれました』


 だそうです。業の深い人だったんですね。怖すぎ…

 この地獄ではたくさんの人がむち打ち食らってました。


 第三階層、衆合地獄。

 殺生、盗み、邪淫の罪を犯した人が落ちるそうです。

 ものすごく大きな剣山をたくさんの人が血まみれになりながら登ってました。痛そう。


「うわぁぁっ!!」「きゃああっ!!」

「ははは千夜見ろ!また2人地獄に落ちたぞ!」

「なんで楽しそうなの!?」

「人がゴミのようだっ!!」


 第四階層、叫喚地獄。

 殺生、盗み、邪淫、飲酒の罪。

 お酒の力を借りて悪さした人が落ちるそうです。

 煮えたぎる大釜の中でコトコト煮込まれる罪人達は圧巻でした。


「うわぁぁぁっ!!」「死にたくない!!死にたくないっ!!」「助けてくれぇぇぇっ!!」

「ねぇ!下に行くにつれてどんどん落ちてく人達が増えてるけど!?地獄巡りというより地獄行きツアーじゃん!!」


 第五階層、大叫喚地獄。

 殺生、盗み、邪淫、飲酒、嘘の罪。

 どんどん罪が加算されてもう大変なことになってます。大叫喚地獄は叫喚地獄の強化版って感じでした。


 第六階層、焦熱地獄。

 殺生、盗み、邪淫、飲酒、嘘、邪見。

 邪見とは仏教以外の信仰の事だそうです。


「うわぁぁぁぁっ!?」「ひぃぃぃぃっ!!」「やだっ!!やだぁぁぁぁぁっ!!」


 ここで大半が叩き落とされました。ここは煮えたぎる火山の中みたいな灼熱の地獄で通過するだけで溶けそうでした。


「ヒャッフォォォッ!!最高だな!!千夜!!」

「どこが?」


 …私達クリスマスイブになんで地獄に居るんですか?


 第七階層、大焦熱地獄。

 殺生、盗み、邪淫、飲酒、嘘、邪見、犯持戒人。

 犯持戒人の罪とは尼さんやロリっ子への強姦だそうです。恐ろしい…


「…母さん、俺ようやく楽になれるよ…グッバイ人生……」

「達也今自ら飛び降りた人が居たんだけど…これ自殺志願者ツアーじゃないよね?」

「いよいよラストだぞ千夜。ボルテージ上げてけ!!」


 何故達也がこんなハイテンションなのか理解不能です。達也の全てを受け入れると決めたけどこれはちょっと……


 ちなみにこの階層は焦熱地獄の強化版でした。ネタ切れでしょうか?


 *******************


『皆様、大変長らくお待たせ致しました!!』


 もう私と達也しか乗ってません……


『楽しい地獄巡りもいよいよ最後となります!!ご覧下さい!!最後の第八階層、阿鼻地獄です!!』


「うぐわぁぁぁぁぁっ!!」「ひぎぇぇぇぇぇぇっ!!」「コロシテ……コロシテ……」「あへっ!!あへへへへへっ!!」


 今までとは比較にならない程大きくて、たくさんの悲鳴が木霊してます。あまりの責め苦におかしくなって笑ってる人まで居ます。一周回って幸せそうです。


「ヒャッホォォォォォォッ!!」


 私の隣の人もおかしくなってます。


『こちらの阿鼻地獄は殺生、盗み、邪淫、飲酒、嘘、邪見、犯持戒人に加え父母、聖者殺害の罪を背負った人々がたどり着く地獄です。この世の罪という罪を凝縮したようなとんでもないワル達の悲鳴がまるでオーケストラのように鳴り響いています』


 この世のワル中のワルがアル中みたいにおかしくなってる地獄です。


『ここでは今までの全ての地獄を全てかつ何万倍にした強烈な苦痛を楽しむことができます。ここだけで今までの全ての地獄を堪能出来るお得なスポットとなっております』


 堪能したくない……


『それではごゆっくりお楽しみください』


 アナウンスが訳の分からないことを言ったかと思ったらトロッコがゆっくりと途中で停車しました。


 眼下に広がる考えうる全ての苦痛と恐怖を煮込んで凝縮して3日間熟成したかのような光景……


「…えぇ、こんな所で停められても……」

「千夜」


 その時、焦熱地獄で火照った汗まみれの達也の手が私の手の上に重ねられます。

 ジトジトしてるのでやめて欲しいと思って彼を見たら大焦熱地獄の熱気とは関係なしに彼の顔が緊張で赤くなってるではありませんか。


「……千夜、あそこを見てくれ」

「……え?」


 達也がトロッコから見える右側の景色を示します。達也の視線に従い私もそちらへ目線を走らせたら……


「「「「「「達也、千夜、メリークリスマス!!」」」」」」


 ……無数の剣がそびえ立つ山の岩壁でなんか血まみれの亡者達が叫んでます……

 なんか私達の名前を呼ばれた気がしました。あとメリークリスマスとか言ってます。え?地獄にクリスマスの概念が?仏教以外の信者が落ちる地獄とかあったような……


 しかし、それだけではなかったです--


 突如として燃え上がる亡者達。大焦熱地獄の数万倍の業火で焼かれる亡者達がものすごい絶叫を上げて……


「……っ、これって……」


 なんと人文字でした!

 燃え盛る亡者達が形作るのは--


「……ここで言おうと決めていた。千夜…俺からのクリスマスプレゼント…地獄のイルミネーション…気に入って貰えたかな?」



 --結婚してください--


 ……………………イルミネーションじゃないし……


 まさかの地獄でのフラッシュモブ…カクカクしながら恐る恐る達也の方を向くと信じたくない光景が……

 何を信じたくないかと言うとこの人の頭のネジの飛び加減とセンスです。


「……千夜、俺はお前が居てくれたから何度も、何度も立ち上がり、間違いを正す事が出来た……」

「……」

「俺はお前を泣かせた男かもしれない……でも、俺は変わった。そして、誓うよ…俺は誰よりもお前を幸せにする」

「…………」

「--千夜、結婚してくれ」


 佐伯達也、高校二年生…地獄のド真ん中で一世一代の大告白でした。


 指輪、持ってました……


 えっとまず私達まだ学生だしなんでクリスマスイブに地獄に居るのか意味わかんないしイルミネーションとか言ってるけどあれ地獄の罪人がただ燃えてるだけだし……


 …………は?


 ………………えっと……は?


「……」

「……」

「……」

「……千夜、答えを聞かせてくれ」

「……は?」

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