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オタク文化=メイド

 --俺の知らない間に会員にされた『アイドル研究同好会』が知らぬ間に『現代カルチャー研究同好会』に変わって久しい……

 1度同好会申請をしてないという理由で潰されたのだが不死鳥の如く復活しやがったこの同好会……

 全く不本意なことだが先日部活、同好会会議というものがあり、何故か3年の小倉先輩を差し置いていつの間にか代表になっていた俺は出席せざるを得なかったんだが……


 一体いつぶりだろうか……俺は久しぶりに同好会の教室の扉を開く。


「空閑君。久しぶり、なにしに来たの?」

「お菓子は?」

「何しに来たとはご挨拶だな……お前らのせいで俺は大変だと言うのに」


 小倉先輩は今日ぶつかり稽古は休みか……ちょうどいい。


「お前らに連絡事項があるんだ……先日の会議のことだ」

「会議……?なんだねそれは。そんなことより拙者、少し痩せたと思わないか?」

「ああ安心しろ、走れば地割れが起こるくらいにはまだデブだ。良かったなチャームポイントが健在で……でだ。先日の会議で各部活や同好会の予算とかについての話し合いがあったんだが……」

「なぜそんな大事な会議に空閑一等兵が……?この部の部長は拙者--」

「ここは部じゃねぇしお前が代表だと言うのならそこで菓子を齧ってないで相応しい仕事をしろよ。まぁいい……でだ、活動費を出すにあたって来週の会議までに活動報告書なるものを提出しろと言われた……」

「「活動報告書?」」

「普段何してますかってことだ……それによって出される費用が決まる」


 途端に室内に冷たい沈黙が流れる。実に気まずそうな小倉先輩と橋本。

 アイドルになる気があるのかないのかよく分からん馬鹿ふたりをじーっと見つめて咳払いをひとつ。


「というわけで……活動報告書に書く何かをしなきゃならん。毎日教室で菓子食って狂喜乱舞してますじゃ話にならんからな……」

「狂喜乱舞とは……?」

「橋本、お前のダンスレッスンは発狂してると勘違いされて救急車を呼ばれても文句は言えんぞ?まぁお前の下手くそなダンスレッスンはいい……」

「空閑君ひどい……」

「空閑一等兵、流石に言い過ぎだぞ?大体偉そうなことを言ってるが、君が1番活動してないからな!?プロデューサーだろ!?」


 おっと何かを勘違いしてるな?ここはてめーらがアイドルになる為の同好会だろ?なぜ俺が頑張る?


 まぁいい……

 俺がわざわざこんな話を持ってきたのには訳がある。そもそもそんなかったるい報告書などどうでもいいのだが……


「てことでなにかしようか……報告書映えするやつ……」

「君が普段僕らがやってることを書けば済む話だろ?」

「馬鹿か橋本……いいか?報告書で活動費が決まるんだぞ?金のかかる有意義で学校が喜びそうな活動をしてないと意味が無いんだよ」

「…ぶっちゃけ拙者らの活動なんてそんなに金かからんでござる」

「空閑君、まさか活動費をネコババするつもりかい?」

「あのな?失礼なこと言う前によく考えろ。なんでアイドル研究同好会が潰されたと思う?あんなふざけた活動してたからだろ?」

「それは空閑君が無理矢理取材を受けたからだろ……」

「名前変わっただけで内容何も変わってませんじゃまた潰されるぞ?考えろ。現代カルチャー研究同好会に相応しい活動を……あと会員が増えればまた活動費が上がるらしいから新規会員の勧誘もしよう」

「絶対活動費目当てじゃないか……」


 *******************


 同好会会議開始。

 小倉の手からスナック菓子を奪い取って3人机を囲む。


「…そもそも現代カルチャー研究同好会って何をする同好会なんだろうね……」

「橋本軍曹……今更それを議論するのか?」

「いや建前は必要だ。豚は黙ってろ。アイドルになりたいんですなんてほざいてたらまた潰れるぞ……現代カルチャーを研究する同好会だよな……」


 現代カルチャーとは……?

 カルチャー--文化?現代文化?

 つまり現代人の生活とか、今根付いてる文化がどうやって形作られたかとか……そういうのを研究しろと……


「現代カルチャーとはすなわちアイドル……」

「黙れ……現代文化の研究だろ……分かった!パソコン買うから活動費寄越せって言おう!」

「無茶苦茶だろう……大体活動費の額は学校が決めると言ってたじゃないか……」

「そうだ……つまりだ。現代文化を研究する上でインターネットがあればより便利だから的な……実際はパソコン買わないけど……」

「携帯があるし…学校にコンピューター室があるじゃないか。空閑君もしかして馬鹿?」

「殺すぞ?」


 まぁいい……金をくれのこじつけは後で考えよう。

 とにかく活動報告書を作る為には実際にこーいうことしてますよって書かないといけないし写真とかもいるらしいし実際になにか活動しなければ……


「よし2人とも……早速現代文化についての見識を深めに行くぞ」

「今から歌のレッスンなんだけど」

「拙者、体幹トレーニングが……」

「無駄なことは辞めるんだ。急げ。さっさと終わらせて帰りたいんだ」

「君、プロデューサーとしての自覚ある?」

「ありまくりだろ?今からこの同好会を学校映えするようにプロデュースするんだから……」


 *******************


「現代カルチャーって何を調べるんだい?というか、これじゃこの同好会の趣旨からズレすぎだよ」

「橋本、そもそもこの同好会の趣旨が常識からズレすぎだ」


 俺は馬鹿2人を引き連れて図書館へ……

 夕暮れ時の図書館は静かな読書の聖域--夕焼けで赤く染った館内には寂しさが漂っている。


「よし、なんか適当に調べろ」

「なにを?」

「拙者、活字は読めんでござるよ」

「なんでもいいんだよ……そうだな…ネット社会と若者の趣味趣向の伝搬とか……」

「?」「?」

「ネットによる情報伝達の容易さによりより多くの人々が共通の趣味を共有できる現代の--」

「?」「?」

「ネットによる文化の多様化をだな……」

「?」「?」

「現代を代表するものといえばネットだからそれを無理矢理絡めてだ--」


 もう何喋ってるのか分かんなくなってきた。そもそも“文化”とはなんだ?分からん。

 馬鹿どもにふわふわした題材を与えつつ館内を物色するが適当な資料になりそうなものはない。

 とりあえずこんなことしてますよってレポートでも作れればいいんだが……まず何を研究するのかがもう分かってないので出端から躓きまくってもう立てない。


 約立たず2人はぽかんとしたまま夕日を眺めてる。

 そもそも現代文化なんて小難しい題材をこの馬鹿達に研究させようと言うのが無茶だ。



「--もうやめよ」


 諦めて図書館を後にする俺は2人に提案する。


「難しく考えすぎた……現代カルチャーとはすなわちオタク文化だ」

「ほぅ」「ふむ」

「すなわちオタク文化を研究すればいい」

「オタク文化についてのレポートを書くのかい?」

「体験した方が早い。な?そうだろ。身をもってオタク文化を体験することで現代人の趣向を探るのだ。そこから現代人が何を考えて生きているのかをだな--」


 等。

 馬鹿2人が何も考えないから俺が苦労する。プロデューサーも楽じゃない。

 ここで俺の頭にひとつの妙案が浮かんだ。

 手っ取り早くオタク文化に触れられてしかも活動費に絡められそうな……


「……拙者、やっぱり上辺だけの活動などやだ。拙者らはアイドルを真剣に目指してるんだからそれを恥ずかしがらずに報告すれば……」

「メイド喫茶行くぞ」

「「メイド喫茶!?」」

「オタク文化と言えばメイド喫茶だろ?メイド喫茶行くからって言って活動費を毎回請求できるし…ん?なんか言った小倉先輩。」

「行くでござる」


 *******************


「お帰りなさいませだにゃん♡ご主人様♡」

「ただいま」

「香菜ー、彼氏が来たぞー」


 そろそろあがりって時間にとんでもない客が来おった。しかも3人……

 またアイツや……一体何回来れば気が済むんや。


「……なんやねん」

「なんやねんとはご挨拶だにゃん。ちょっと取材させてくれよ」


 無理矢理オーダー取りに行かされた思たらいきなり訳分からんこと言い出しよるし……

 連れの2人も眼鏡の方はノリノリで猫耳付けよるしでっかい方は鼻息荒いしなんやねん。猫耳付けんな。


「取材ってなんやねん……」

「実は今日は同好会の活動で来たんだが……」

「同好会の活動でメイド喫茶!?てかおどれ同好会とか入っとったん?なんの同好会やねん」

「現代カルチャー研究同好会」


 何する同好会なのか全く想像つかへん……


「でな?オタク文化の体験をしに来たんだが、ただ飯食って帰るじゃ活動として弱いから取材させて」

「店長に言ってくれにゃん♡ご注文は?」

「あ、僕はにゃんにゃんカツカレーで…」

「待つでござる。これは誰が払うでござる?」


 なんやその喋り方。


「は?年長者」

「プロデューサーだろ?君が払えよ」

「うん。言い出したのは空閑一等兵だよ?」


 プロデューサー?一等兵?なんやねんこいつら怖。


「…………やだ」

「おい」

「拙者40円しか持ってない」

「おい橋本、お前俺の親友だろ?出せ。親友代」

「……えげつな。おどれそれいじめ言うんぞ?」

「だったらてめー払え」

「なんでやねん」


 親友代言われたら眼鏡が払うことに決まった。こいつもこいつでなんであっさり了承しとんねん。親友は金では買えんのやぞ?


 3人分のオーダーを取って厨房に戻る。もうあのテーブル行きたくない…


「美玲、あのテーブルに注文持ってってな?ウチもうあがりやけん」

「ダメよ。彼氏でしょ?」

「ええ加減にせえよ?そもそもあいつはなー……」


 ………………そうや、あいつは日比谷の…

 あんなのの何がいいねんホンマに…人間って分からんわ。


 ……ん?

 てかあいつら、学校の活動でここ来たっちゅうことやろ?

 え?あいつらもしかしてウチのことバラすんちゃうやろな……

 ……一応口止めしとかな……


「まぁいいや。私が持ってくから香菜あがっていいよ?」

「……いや、ウチが行く」

「……やっぱり彼氏だもんね?」

「やかまし--「美玲ちゃーん!!」


 ケラケラ笑う美玲を呼ぶ声がホールから響いてきて、美玲が露骨に嫌そうな顔をした。

 またあいつやな……最近店に来るようになった大学生くらいのデブ……

 あいつ美玲がお気に入りらしい。連絡先とかしつこく聞いてくるって辟易しとる。


「……ウチ行こか?」

「いいよ…私行かないと他の子に絡むし……ほら、8番テーブルの注文、もうすぐできるよ?」

「……」

「8番さんカツカレー3つね」


 *******************


「……何してるにゃん?」

「写真」


 橋本、お前と猫耳とにゃんは絶対に掛け合わせてはならない。これから飯を食おうと言うのに吐きそうだ。


「ねぇ…連絡先教えて?今度会お?素敵なお店あるんだ……」

「ごめんなさいにゃ、ご主人様。美玲、忙しいから--」

「萌え萌え〜♡」

「萌〜♡」


 色んな客がいるなぁと店内を見回してたら俺たちのカツカレーがやって来た。脱糞女がカレー持ってきやがった。もう少し考えて欲しい……


「お待たせしましたにゃん♡」

「ウ〇コ入ってないよな?」

「殺しちゃうぞにゃん♡」

「ふぅ……香菜ちゃん……あーんして。拙者にあーん」

「……」


 デブは初メイド喫茶にご満悦だ。ついでに活動レポート用の写真を撮ろう……


「あー……って、おいこら。何しとんねん」

「あ?取材だから、1枚撮らせて?」

「早く……あーん」

「あかん。ウチはチェキ以外撮影NGや」

「……ちっ、いくらだ?」

「あかん言うとるやろ?あとな、ウチがここで働いとることバラしたらおどれら……土の下に埋まってもらうけんな?ええな?」

「メイドさんが怖い……」

「早く……あーんしてあーん」


 困ったな……パシャパシャやってたら男性スタッフがこっちを伺ってる。流石に調子に乗りすぎたか……写真は本当にNGらしい。


「じゃあ取材させてくれ。どんな仕事かとか、客層とか、大変なこととか……」

「あーん。まだ?あーん」

「取引や。取材に応じたらウチのことは口外せんな?」

「しないしない」

「一筆書いてもらうで?」

「あーん……」


 コースターの裏にボールペンで誓約書書かされた……

「よし」と確認してコースターをエプロンのポケットに突っ込む脱糞女だが……言えない。既に学校では噂になってることを……俺が喋らずとも半分バレてることを……


「なんや?どんな仕事か?おどれらみたいなオタクに媚びへつらう仕事や」

「ふむふむ……」

「あーんは?」

「あとなー、客層は若いのから中年まで来るで?みんな癒しが欲しいんやな。ここは都会のオアシスや」

「ふむふむ……」

「…………アーン…」

「大変なことはやっぱり変な客が居ること……」

「例えば?」

「おどれらみたいのや」


 何を言うのか。タバスコ口にぶち込まれてもクレームひとつ言わない聖人のような客だぞ?

 ここは具体的なモデルケースが欲しい。


「どういった客が困るの?具体的に……」

「具体的にって……せやな。ウチらの連絡先とか訊いてきたり、外で会おうとか……」

「メイド喫茶とはキャバクラである…と」

「ちゃうやろがい。キャバ嬢は連絡先交換するやん!ウチらはそういうのはせぇへんの!」

「セクハラとかは?」

「あるで?ケツ触られたり……」

「ほうほう…具体的にどんな感じ?」

「具体的!?どういうことやねん!?」

「ちょっと体験してみていい?お前のはアレなんで…他の子を……」

「ええ加減せな店の床下で永眠させるぞこら。つかウチのはアレってなんや、アレっておい」

「いや……手に付いたら…やだ……」


 率直な、忌憚なき意見。ありのまま、お前という女についてある程度の付き合いがあれば誰もが気にするであろうことを指摘したら何故か脱糞女が身を乗り出してきた。


「殺す」

「おおぉっ!?お触りオーケーなのかこの店は!!さっきと言ってることが違…やめろ!首が!!店長ー!!店長を呼べー!!」


 *******************


 --定例の部活動、同好会会議が終了し、提出された活動報告書を纏める。

 これも生徒会の仕事……纏めたものを顧問に提出し、生徒会会議で各部活、同好会の活動費を決定する。

 とは言っても金の話…生徒を参加させるのは建前で実際は先生方が決める。


 ツチノコ捕獲で一躍時の人である俺の周りも最近ようやくマスコミが落ち着き、生徒会業務も以前の通常運行が返ってきた。


 --生徒会会議。

 会長が纏められた報告書を読み上げていく。読めない漢字が多すぎてこっそりふりがなをふってやったのは内緒だ。


「--では英会話同好会の来月の三学期予算は5万円と……次に、現代カルチャー研究同好会」


 決定した内容を書記が淡々とホワイトボードに書き連ねていく。

 会長が次に手にした報告書は最近できたばかりの同好会で……


「…………」

「?」「?」「?」「…どうした潮田?」


 その活動報告書に視線を落としたまま固まった会長にその場の全員が注目する。顧問が声をかけてハッとした会長が眼鏡の位置をクールに直して気を取り直した…ように見えたが目が動揺してる。どうした?


「……現代カルチャー研究同好会、活動報告……現代オタク文化体験の為、メイド喫茶に来店……えっと………………最近のメイド喫茶は首絞めプレイが流行とのこと……メイド喫茶に通うため、活動費を月に最低5万円要求します……との事です」


 …………………………………………


「……現代カルチャー研究同好会って、何?」

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