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問題ないすか(0.1mgでクジラとか動けなくする薬なんだけど)

「睦月ちゅわんごめんなさい…あたし、責任取らなきゃならないひとが出来たの…だから、あなたとは一緒になれないわ……」

「……」

「約束して…あたしとの思い出…ずっと忘れないって……」

「…………」

「……これ、せめて受け取って…あたしのキモチ…」

「………………」

「ごめんなさいっ!!」


 --現代カルチャー研究同好会の1日は奇妙な冒険のようなスリルと不思議にまみれている。

 今日も我が同好会代表の小比類巻君へ我が校最強のモンスター、剛田剛君が突然の別れを告げて嵐のように去っていく……


 橋本圭介、高校三年生の冬である。


「ヒューヒュー先輩なに貰ったんスか?」

「とても興味がそそられるのでございます」


 こちらは僕の後輩の校内保守警備同好会からの拷問から立ち直った香曽我部妙子さんと僕と一線を超えかけたのに何事もなかったかのように振る舞う妻百合花蓮さん。


「……なんか…え?なにこれ…ナマコ?ナマコだなこれ。つーちんやるよ。ありがとうは?」

「……いえ、剛田先輩からのお気持ち、大切にされることをおすすめ致します……」

「キモ……」


 さて。

 今日は同好会の日。冬休みが間近に近づいた冬の晴れた日…

 今日はそんな同好会の1日に密着していこう。特に何も無いけどね。


「さて、今日お前らに集まってもらったのは他でもない…」


 ナマコを僕の鞄に押し込みながら代表、こっひーが告げる。今日の活動内容を…

 妻百合さんは身構えているがどうせ大したことはしないはずだ。身構えるだけ無駄である。


「冬休みの活動についてだ。予定は特にない」


 ほらね?


「ただし俺が呼んだら地球の裏側に居ようと来るように……」

「もうすぐ冬休みでございますね…」

「つーちん何すんの?」

「実家に帰らせて頂きます…香曽我部先輩は?」

「魔女狩り〜♪」

「……?」

「はいはい!橋本軍曹は冬休み東京に居るから来れないです」


 僕の申告に返ってきたのは小比類巻君からのナイフの投擲!!


「……僕の肌に傷をつけるとはなかなかいいナイフだな。デザインから見てベンズの中期型…あの形状…毒か」

「平気でございますか?」

「問題ない」

「問題ないすか(0.1mgでクジラとか動けなくする薬なんだけど)」

「小比類巻パイセン、ナイフ投げんでもらっていいっスか?」


 つーちんの手前強がっては見せたが問題あったようです。橋本圭介、全身が痙攣し床にダウン。流石0.1mgでクジラとか動けなくする薬……


「橋本、東京に何しに行くんだよ…」

「冬休みに入ったらデビューへ向けて本格レッスンなんだ……事務所が東京だから……」

「なんのデビューすか?橋本パイセン」

「だからアイドルだよ」


 あ、僕アイドルデビューに向けて一時期髪染めたりしてたけど妻百合さんが「こんなの私の敬愛する橋本先輩じゃないでございます!!死んでくださいまし!!」って猛反発したので元に戻しました。

 多分アイドルやる時だけ金髪にします。ヅラで……


「あーはいはい」

「オカルト同好会にタレコむか?「都市伝説、橋本圭介アイドルデビュー説」って…」

「夢は叶わないから追い求められるのでございます」


 驚いたことにこの期に及んでまだ信じようとしない……あと、寒気が止まらない。この毒、強すぎ……


「えーっと……つーちんは京都の実家で橋本は東京で俺は脱糞女と温泉で……やっぱ冬休み休みにしよ」

「パイセン、あたしもどっか行きたいッス!温泉行きたいッス!!」

「……不特定多数の人間の垢が浮いた温泉に?」

「おぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 香曽我部さん、イメージだけで嘔吐。宇宙服のヘルメット内が汚物に侵食され窒息寸前。夏フェスで熱中症やらかしたことをまるで学習していない……


「あ、あとついでになるけど今日東○大学の教授が俺らを取材したいらしいわ。この後」

「「「なんでそれがついでなの!?」」」


 *******************


 --東○大学といえば日本一と名高い名門じゃないか。

 そんな大学の教授が僕らに取材って…なに!?

 これほど誇れる同好会活動がこれまであっただろうか?いや、ない!


 というわけで校長室へ……

 ちなみに僕はベンズナイフの毒が効いてしまったのでつーちんに抱えられながらです。香曽我部さんは「絶対嫌!!」って運搬を拒否しました。


「オラァ!!」


 我が代表がアグレッシブ過ぎる入室。ノック代わりの蹴りで校長室のドアが吹き飛んだ。

 校長室のソファーには既に有識者そうな顔のおじ様が待ち構えていたではないか。

 そして校長は扉に押しつぶされて意識を失っていた。


「はじめまして…東○大学で文化研究を行っております。志学高尚しがくこうしょうです」


 驚いた…僕ら以外にそんなことを研究してる人が……


「俺様が現代カルチャー研究同好会の代表、小比類巻睦月です。先生、お噂はかねがね…先生の著書、拝見させて頂きました」

「ほぅ!それはそれは……ちなみにどの本を……?」

「………………」


 隣に控えるつーちんの脇腹をものすごいスピードで肘で小突いてる…


「……こ、高齢者で見るネットとの共存…で、ございます……」

「そうですか。それで感想は?」

「か、感動致しましたでございます…」


 流石つーちんのリサーチ能力。しかし感動するのか?その本…


「まぁまぁ、おかけになって話しましょうや先生、座れ、はよ」


 と、まるで部屋の主かのように対談を促すこっひー。さっきから礼儀正しいのか無礼なのかよく分からない…


「この度「若者から見る新しいの世界」という本を出版させていただくことになりまして……」

「印税は入りますか?俺らに」

「……いや、それはちょっと……どうかな?はははは」

「ははははははは」


 こっひー、目が笑ってない。


「それで日本でも有数の秘境であるこの北桜路市で同じ研究をしている同好会があるという噂を聞きつけまして…是非参考の為に、今後の研究の発展の為にお話を伺いたく参りました」

「その研究が発展するとなにかいいことがあるんですか?」

「さぁ?」


 この2人、やる気あるのかな?

 全身が硬直した僕は座れないのでつーちんの膝に頭を預けてソファーをひとつ占領中。つーちんの柔らかい太ももの感触に涙が出そうだ。ありがとう、こっひー。


「日本でも独自の文化を築いてるこの街で現代文化を見てきたあなた達の見識、是非私のモノにしたい」


「この人さっきから地味にこの街馬鹿にしてるよね?(ヒソヒソ)」「しっ!お聞こえになりますよ香曽我部先輩!!(ヒソヒソ)」


「……まぁそういうことならばお力を貸さんこともない……して、何を聞きたいのかね?若き求道者よ…」


 自分より遥かに歳上の教授様に向かって先駆者かのように振る舞う小比類巻君には間違いなく同好会のトップの貫禄があった。


「…そ、そうですな……この街の若者が作る特有の文化…この街独自のものを教えて頂きたい」

「そうですね、週末にはパンプキン祭が開催されます」

「パンプキン祭?」

「然り……おや?ご存知ない?東○大学のなんとかかんとかの権威が?」

「…………あ、ああ!あれね?知ってるよ!?うんっ!!簡単にだけどね!?詳しく教えて頂けますか?やはり直に触れている人の体験談に勝るものはありませんからねっ!!」

「まぁ……先週で言うとパンプキンの活きが良かったな?な?」

「そうだね…」「そう思いますでございます」「やばかったッス」


 嘘である。パンプキン祭など実在しない。


「他には?」

「他には…そうそう、この街には紫色の信号機がありますが……あれもこの街独自のルールに基づいたものでしょう?あれにはどういった意味が……?」

「は?」「紫信号はどこにでもあるっしょ?」


 チッチッチッ。


「私の地元、京都にはございません」

「僕が東京に行った時にも見てないよ。知らなかっただろう?」


 こっひーと香曽我部さんは地元から出たことがないんだね?田舎者……痛っ!


「……紫色の信号は頭上注意の意です」

「頭上……頭上から何かが降ってくるんですか?」

「この街の若者は家でサンダーバードを飼うのがブームでしてね。空を散歩しているサンダーバードが雷を落とすので……」

「散歩しているペットに対して信号機がどう機能するんですか?」

「全てのサンダーバードには登録義務がありますので……登録されたサンダーバードが付近を飛行する時、信号機が紫色に光ります」

「なるほど……」


 嘘である。


「俗に言う「はぐれサンダー」とは未登録のまま飼育されているサンダーバードです。サンダーバードを未登録で飼育したら…死刑です」

「なんと……」


 嘘である。


「なるほど……若者文化に対応し街が進化している……紫色の信号機はその象徴のようなものなのですな?」

「いかにも……」

「その他にはなにかございますかな?」

「……そうですね先生、この街の若者のカルチャーとしては、やはりメイド喫茶は欠かせないでしょうね」


 出た。現代カルチャー研究同好会正式活動課題、メイド喫茶。この街の若者の現代カルチャーといえばメイド喫茶、これには僕らも依存なしだ。


「メイド喫茶…」

「いかにも。きゃっと♡らぶ港中央店…この街の若者達の情報の発信地です。この街の若者文化は全てあそこから始まる」

「ほぅ!実に興味深い!!」


 そこまでかなぁ…?


「なぜそれほど若者達がそのメイド喫茶に集まるのですか?」

「メイドさんが居るからに他ならない」

「メイドさん……」

「しかも、猫耳が生えている……」

「なるほど…」


 何がなるほどなのかさっぱり分からないけど、この街の若者文化の中心が決まった瞬間だ。


「やはり現代的文化に「オタク文化」は欠かせませんか……」

「オタクではない。メイド喫茶だ」

「いわゆる「萌え」文化ですな?」

「燃えではない。にゃんだ」

「……?」

「……?」


 どうやら取材は終わったらしい。教授が手帳を閉じた。早く病院に連れて行ってほしい…


「では最後に……折角ならば君達が現代文化を研究するようになったきっかけを……」

「ふりかけ……」

「いやきっかけ。現代文化の探求者としての同士達のことを詳しく記させて頂きたいんです」


 現代文化の探求者とは……本当になんなんだろ。そもそも「現代カルチャー」ってなんだ?

 なんて何万回と考えた疑問には答えなど用意されていない。

 そしてそんな不毛な自問自答は早々に切り上げ僕は質問に返す。


 現代カルチャー研究同好会のきっかけ--そんなのひとつしかない。


「アイドル研究です」

「アイドル……?」

「アイドルこそ現代カルチャーですから。ね?こっひー」

「いかにも…」

「なるほど…確かにアイドルの世間へ与える影響力は無視できない…」

「あとメイド喫茶!ね?こっひーパイセン!!」

「いかにも…」

「なるほど」

「そして猫ちゃんでございます。猫ちゃんの癒しを求めて私、この同好会へ入会致しました。ですよね?でございます。小比類巻先輩」

「いかにも…」

「猫ちゃん……」


「現代カルチャーとは千差万別…」と結論を出しつつ、こっひーは自信満々にチェキを取り出す。

 仲睦まじく映るこっひーと脱糞女こと楠畑さん……


「アイドルとメイドと猫ちゃん……つまり全てはきゃっと♡らぶに集約されている」

「なるほど……!」


 何がなるほどなのかな?


「偉大なる現代カルチャーを極めし教授よ……真実を知りたくばきゃっと♡らぶへ行きなさい。そこに現代カルチャーの全てがある」

「……っ!!」

「料金は楠畑というメイドのツケでいい」

「同士よ…道を示してくれたこと感謝します」

「印税、よろしく」


 同じ道を求める者同士…固く握りあった握手はまたひとつ、志しを同じくする者達が繋がったことを象徴する。


 --僕達現代カルチャー研究同好会の活動は本となり永遠に語り継がれるだろう。



 こうして、今日の活動は終わった。



『こらウン○タレ!アンタの紹介言うて来たおっさんがウチのツケでタダ飯食うて帰ったんやけどどないなっとんねん!!』

「……許せ、彼も答えを求める求道者だ」

『いてこますぞ?』

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