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お前の頭蓋骨で甲羅酒?

 波乱に次ぐ波乱の展開、ついに私達は真相へ王手をかけた。

 学校を休んでまで事件解決に奔走するのは私達校内保守警備同好会代表、浅野詩音とその他愉快な仲間達。


「こら、たった1人の妹をその他で済ますな。てか何書いてんのよそれ」

「活動レポート」

「これ同好会活動じゃないじゃん……」


 校内保守警備同好会は今無期限活動停止処分になってるけど、私達が追いかける事件の真実をここに調査記録として書き綴っていくことにする。


 --我が校で起きた野球部盗撮動画流出事件。

 その解決のため接触した愛染高校の剛力山君の証言から事件の首謀者は愛染高校の鬼瓦君だという事が判明。

 同好会を守る為--我が校の名誉を守る為、私達は単身愛染高校へやって来た。


「……鬼瓦君から話を聞いて全てを明らかにする。行くよ!美夜!!」

「だからって学校にまで押しかけなくていいだろ。また先公からどやされるぞ?」


 だとしてもこれは同好会活動ではない。

 校内保守警備同好会を、野球部の男子を、そして剛力山君を救う為私達は突撃する。



「…すみません、浅野と言う者ですが」

「…はぁ?」

「2年の鬼瓦君に面会お願いできますか?」

「無理ですけど…授業中ですし……」


 受付で突っぱねられた。


「学年首席の頭で捻り出した結論がこれなの?姉さんって意外と馬鹿だよね?意外とって言うかシンプルに馬鹿だよね?」

「美夜…お姉ちゃんはね善は急げという言葉を知ってるの」

「急がば回れって言葉も覚えときなよ。授業中に乗り込んで行ってホイホイ会えるわけないじゃん。放課後に個人的に接触するのがベストだと妹は進言する」


 見事に追い出された私達。校門前でしょぼりんしてたらスマホが鳴った。出るとお母さんがすごい剣幕でキレ散らかしてた。


『今学校から連絡があったんだけどあなた達何してるの!?今日学校行ったんじゃないの!?』

「ごめんなさいお母さん…今私達は愛染高校に居ます」

『だからなんで愛染高校に居るの!?学校からあなた達が愛染高校にカチコミかけたって連絡が愛染高校から来たって電話があったんだけど!?』

「かけてません」

『消火器は?』

「持ってます」

『カチコミじゃない!学校に来なさい!!お母さんも今から--』


 愛する母へ裏切りの通話終了で応える娘を許してください。私は涙を呑んでスマホの電源を切り全てが終わるまでこのままにしておくことを誓う。


 ごめんなさいお母さん…でもこれだけは分かって。あなたの娘は決して人の道に外れてはいないから--


「鬼瓦ってのはどこに住んでる?家を言え。ダジャレじゃないぞ?」

「ひぃっ!!な、なんだお前…っ!!」


 と、決意を新たにしてたら隣で美夜が遅刻してきた愛染の生徒を脅してた。消火器で…


「喋らねぇと頭蓋骨が無くなる。この消火器の赤はな…今まで砕いてきた馬鹿の頭の血の色で染まってんだよ」

「た、助けて…知らないっ!!」

「じゃあ死ね」


 ゴチンッ!!


「美夜ーーっ!!このお馬鹿なんてことするの!!美夜ってばどうしていつも行動が短絡的なの!?考える脳がないの!?」

「姉さんに言われたくない」


 --ウーーーッウーーーッ


 正門に設置されたサイレンが鳴り響く…まずい。

 危機感募る私の焦りを照らす赤色灯の輝きは私達をしっかり捉え、重たい正門の扉をゆっくり開きながら敵対者の排除に動き出す。


 …聞いたことがある。


 群雄割拠の北桜路市。そこで『決して手を出してはいけない』とされる魔人がこの学校には居ると--

 ここは彼女のナワバリ。その中で粗相をしようものならその人物は決して生きては帰れない。法の縛りすら超越した絶対強者…


『正門前に敵対者出現、生徒は速やかに校内に避難してください--』


「…なにこれ?ここは国の重要施設かなんかか?」

「美夜…私達は虎の尾を踏んだんだよ」


 重たい門扉が開いた時、赤黒いオーラを纏ったその魔人がゆっくりと姿を現した。

 重々しい足音を響かせながら私達の方へ向かってくる女子生徒の上に胡座をかいて鎮座する。戦場に参上する一騎当千の武士もののふの如きその姿には本能的な恐怖を湧きあがらせざる得ない。


「姉さん…アイツは……」

「魔人、宇佐川結愛--」


 世界の災厄、魔境の覇者、世界を貪るもの…そう、世界最強の女子高生宇佐川さんだ。

 対峙するプレッシャーは尋常じゃなく、その溢れ出る戦闘力は神楽さんをも凌駕する。


「…はっは…お前ら終わったぞ!!宇佐川のお出ましだっ!!俺の頭をカチ割ったこと地獄で後悔しろ!!」


 美夜が構える。ゆっくり愛馬の女子生徒から降りる宇佐川さんに容赦なく消火器をぶん回す美夜は無謀にも特攻を試みる。


「美夜っ!!だめっ!!」


 私はこの人の恐ろしさをよーーく知っている。なんせ私は…この人の家の家政婦だもの。

 ついでにかつて橋本君の警護任務の時にこの人が殺し屋と巻き起こした尋常ならざる戦いを目撃している。


「おらぁぁぁっ!!」


 愛染高校最強の警備システムを前に問答無用で殴り掛かる美夜は宇佐川さんの頭を消火器で割る前に軽く吹き飛ばされた。

 まるで見えない壁に弾かれたかのように…


「くばぁぁ!?」

「美夜ーーーーっ!!」


「--浅野詩音」

「…はっ!!」


 気づいたら目の前に絶望。

「てめー絶対生きて帰さねぇぞ?」という強い意志の籠った眼差し。私はその場にへたり込むことしか出来ない。

 今の私にできるのは弁明と命乞いのみ。


「ちちち、違うんですです宇佐川さんさんっ!!私達!!ある事件の調査に来たんですです!!」

「それがうちの生徒の頭をかち割る理由になるのか?」


 なんか後ろで亜空間ゲートが開いて中から殺意の塊みたいな漆黒の刃がズラリと並ぶ。


「安心しろ、殺しはしない。ただ、明らかにうちの生徒をいじめるお前らは生かしちゃおかない」

「最初と最後で矛盾がすごい!?違うんですっ!!私達には救わなきゃいけない人達が居るんですっ!!」

「……救う?」


 話を聞く気になったんだろう。後ろでこちらに狙いを定める刃がスルスルとゲートの中に引っ込んでいく。


「……私はいじめっ子は許さない」

「は、はい…そうなんです、私達もです!!」

「お前達もいじめっ子を粛清に来たっての?」

「こ、ここの生徒の剛力山君が鬼瓦君にいじめられている疑惑があるんですっ!!」


 瞬間空気がビリビリと張る。ニトログリセリンを扱う科学者になった気分で龍の逆鱗に触れないよう慎重に言葉を選ぶ。


「剛力山君は…鬼瓦君に脅されて不本意な盗撮の実行を強要されたんです…私達は彼の無念を晴らすために…」

「……」


 相変わらず赤黒いオーラは出てるけどこちらに向かう狂気は鳴りを潜めた。正直生きた心地がしなかった。


「詳しく聞かせろ。この学校でいじめは許さない」


 *******************


 事情を話したら宇佐川さんも「いじめっ子は撲滅する」と協力を申し出てくれた。

 ただ「それとうちの生徒の頭を殴り割ったのになんの関係性が?」と軽くボコられた。

 おかげで顔が3倍くらいに腫れた。


「鬼瓦ってのはうちの学校でも札付きのワルでな…学校にもたまにしか顔を出さない」

「ぼうべずが(そうですか)」

「アイツは地元の暴走族を纏めてる。そいつらはここら辺のゲーセンにいつもたむろしてんだ。聞き出せば住所も分かるはず」

「ばりばぼうぼざいばず(ありがとうございます)」「べぇばん、ばべべべぇ…(姉さん、しゃべれねぇ…)」


 顔が膨れてて喋れないけど……まぁいいや。さぁっ!!月に代わって粛清ですっ!!


 私達は(宇佐川さんの後ろに隠れながら)ゲーセンに突入した!


「おいお前ら…いじめっ子を探してんだけどよ?居場所を吐けば痛い目は遭わなくて済むぞ?」

「っ!?あ、あれは…宇佐川!?」「や、やべぇ!?宇佐川結愛だっ!!」「殺されるっ!!」


 流石魔人宇佐川結愛…怖がられっぷりが半端じゃない。強面のヤンキー達が軒並み土下座し始めた。その圧倒的恐怖、逃げることすら許さない。


「な、なんでも喋るんで勘弁してくださいっ!!」「俺らなんにもしてないッス!!」

「……鬼瓦はどこだ?」

「いや…」「それは……」

「……いじめっ子の仲間は粛清だぞ?」


 拳をチラつかせる宇佐川さんに彼らはあっさりボスを売った。


「ボスなら…今シノギの関係者と会ってて……すぐそこの廃工場に居ます……殺さないで…」

「びのび?(シノギ?)」「ぼーぼーぼぶばびのびっべばんば?(暴走族がシノギってなんだ?)」


 全てを吐き出したメンバーは尋常じゃない涙をじょんじょろりんしながら命乞いをする。そんないじめっ子の仲間達に対して「何もしない。お前らあんまり悪さするなよ?いじめっ子になったら即粛清な?」と手を出さずにゲーセンを後にする。


 そして居場所が分かったなら即突撃っ!!

 あなたのせいで涙を流した人達の分、しっかり頭蓋骨鏡開きなんだからっ!!



 ゲーセンのすぐ裏に廃工場という謎の立地。出来すぎたご都合展開が私達の移動時間と交通費を軽減。


 宇佐川さんが廃工場の入口を思い切り蹴破るとまたまた都合よくすぐそこに怪しげな数人組が…


 愛染高校の学ラン…この背中が鬼瓦君で間違いないはずっ!!

 そしてもう2人はシノギとやらの関係者…?外国人だ。外国人と廃工場なんて犯罪の臭いしかしない。

 不穏な気配に抱える不安を宇佐川さんに押し付け私達が啖呵を切る!!


「そぞばべぇべす!!ぼうばいぼぶべいべぼーぼーばいべずっ!!(そこまでです!!校内保守警備同好会です!!)」「べーばんびばばぼうばいぼぶべいべぼーぼーばいばばい(姉さん今は校内保守警備同好会じゃない)」


 顔が3倍だから上手く啖呵切れな--…


「浅野ォォ!!」「コロセッ!!」


 なんで!?


 突然殺気立つ外人さんが光り物を抜いてこちらに襲いかかってきた!!話し合いの余地のない暴挙に私と美夜は完全に出鼻をくじかれる。


 やられる--


「ふんっ!!」

「ッ!?」「フギャッ!?」


 ……宇佐川さんが居て良かった。

 宇佐川さんが咄嗟に覇王色(?)発動してなかったら私達、今頃串刺し双子の塩カルビになっちゃってたよ。

 覇王の放つ気合いにチンピラ外人が2人揃って綺麗にぶち倒れます。

 見るからに悪そうな顔してる…きっとこの人達も盗撮動画流出事件に関与してる違いない。後で豚に膝齧らせながら尋問だ。


 そして残るは鬼瓦君…


 鬼瓦君は体に対して1.5倍くらいの大きくて丸い顔をしてた。顔の中央に顔のパーツが寄ってる。肌の色もなんか土気色。岩のボルダーが人の体に乗っかってる感じ。


 なんか怖い。

 怖い人ってのは剛力山君が言ってたけどホントになんか……不気味…


「ばばばばぼにばばらぶんべぶべ?(あなたが鬼瓦君ですね?)」「ばんばべべぇぼのばおば。ばんばんばんばぼばいべいびぶびぼんばばっびびびぼ(なんだお前その顔は。アンパンマンか古代兵器ブリオンかはっきりしろ)」

「……いや、あなた達の顔も今あんな感じだけど?」


 失礼極まる美夜へ白い目を向ける宇佐川さん。その先にはあなたがついさっきボコボコにした顔面が2つ…

 そして顔の膨れ具合なら負けてない鬼瓦君が宇佐川の姿を見るなり「すんませんでしあぁぁっ!!」って土下座した。


 流石魔人宇佐川結愛。もはや戦闘にすらならない。圧倒的な武力というものは力の衝突を抑止する。勉強になります。


 ……それにしてもあの外人さん。どうして私達のこと知ってたの?


 頭に?を作る私達の前でまともに喋れない私達の代わりに宇佐川さんが鬼瓦君を詰める。凄まじいプレッシャー…あまりのプレッシャーに鬼瓦君の顔がひび割れます。


「おい……お前剛力山いじめたの?」

「いっ…いじめて……ません」

「そう?無理矢理盗撮やらせてたって聞いたけど…本人に訊いていい?嘘だったらお前の脳みそ吸っていい?」

「まじすんませんやったかもしれないです…」

「どっちだよ?」

「やりましたっ!!」

「…………剛力山に謝る?それともここで千手壊拳?」

「謝らせて頂きますっ!!」


 剛力山君の病室で私が披露した土下座にも負けず劣らずの土下座。硬そうな頭で床を叩き割る。


「ぼうばばいぼびぼうばぼばばびたぼぼばばたべぶべ?(動画サイトに動画を流したのはあなたですね?)」「ばぼばいびんばばんば?(あの外人はなんだ?)」

「……え?なんだって?」

「いいから答えろや」

「いや宇佐川さん…あいつら何言ってんのか分かんないッス…」


 イライラしながら美夜が岩のボルダーに超至近距離に迫る。


「ば(あ)」

「ば?」

「ぼ(の)」

「ぼ?」

「ば(が)」

「ば?」

「び(い)」

「び?」

「び(じ)」

「び?」

「ん(ん)」

「ん?」

「ば(だ)」

「ば?」

「べ!?(れ!?)」

「べ?…ばぼばびびんばべ?」

「ぼぼぶぼ?(殺すぞ?)」



 --美夜と鬼瓦君の意思疎通に軽く数時間かかって夕暮れ頃…

 夕日に染まる廃工場でようやくすれ違い続けた2人の心が重なりました。時間かかりすぎて腫れが引いてきた私の目からは感涙が止まりません…

 一生終わらないかと思った。このやり取り……


「…あ、あの外人は……そうっ!!俺らだってこんな盗撮なんてしたかったわけじゃないっ!!誰が野郎の着替えなんて…っ!!」

「じゃあなんでこんなことした?」


 もう飽きて帰ってしまった宇佐川さんの代わりに美夜が消火器で脅しながら尋問する。

 すると恐怖に歪んだ鬼瓦君の口からとんでもない事実が飛び出した……


「俺らも脅されてたんです!!アイツら……海外の犯罪グループで…「ある奴らに復讐するから手伝え」って……!!盗撮事件が起これば奴らは必ず現れるって……っ!!」

「……復讐?」「美夜…この事件…まさか私達を狙って?」


 あの外人さん達、私達の事知ってた。つまり、ここまで全て彼らの思惑通り…?


 裏で渦巻く巨大な陰謀の臭い……


「……コイツら、何者?喋る?お前の頭蓋骨で甲羅酒?」

「い、言うから頭をかち割ろうとしないでくれ…コイツらは……」


 ……ごくり。


「--離羽威亜惨リバイアサン、海外の凶悪犯罪グループですっ!!」

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