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ポール・パパイヤん

 --剛田君から託され、校内保守警備同好会を次へ繋ぐ為に奔走する野球部盗撮動画流出事件解決……

 私の妹浅野美夜の第六感、真実へ走る羅針盤の針は1度シロと断定された愛染高校の男子生徒を指し示す!!


 浅野詩音、行きますっ!!



 --てなわけでやって来ました。


「……この病院に奴は居る。なんでも全身複雑骨折に内臓破裂で全治3週間らしい」

「……え?そのダメージで生きてるの?てか、うちのメンバーはそんな大怪我負わせたの?ほんとに事件じゃん……」

「……しかし奴は事件に関与している。私の勘がそう言ってる。つまり、もしそうならうちの同好会は不当な理由で活動停止に追い込まれたって事だ」

「いや…美夜?いくら関係しててもそんな大怪我負わせたらダメよ?」


 問題は暴行事件を起こした校内保守警備同好会の面会に応じてくれるのかってことなんだけど……



 沢山のお見舞い兼お詫びの印を抱えて私達は問題の男子生徒の病室へ……

 美夜がドアを消火器でノックしたら中から弱々しい声が聞こえてきた。


「……ど、どなたですか?」

「…校内保守警備同好会の者だ」

「……こ、校内ほしゅー…?」

「校内保守警備同好会だ。君を暴行したのはうちの同好会メンバーだ。私達はその同好会の代表だ」

「くっ!!口封じに来たってこと!?」

「違う」「今回の件をお詫びさせて欲しいんです。お時間頂けますか?」

「ひっ……ひぃ……」

「……開けるぞ?」


 美夜がドアに手をかけるとまるで気が狂ったみたいにパニックになる少年。さながら殺し屋に狙われる物語の鍵を握る人である。


「殺さないでっ!!僕は何もしてないっ!!助けてっ!!」

「殺さないから入るぞ?」

「僕は悪くないんだぁっ!!!!」


 ……怯え方が尋常じゃないと思ったけどよく考えたら全身複雑骨折に内臓破裂の大怪我負わされたんだからそりゃビビるよね…豊富派、クビにしてよかった……


「……お見舞いにポール・パパイヤんのショートケーキ持ってきたんだけど?」

「えっ!?あの開店前に売り切れるというポール・パパイヤんですか!?」

「うん」「開店前に売り切れちゃうの?誰も買えないじゃん、美夜すごいね。どうやって手に入れたの?」


 なんとあんなにビビってたのにポール・パパイヤんに釣られた少年は「どうぞ」とすんなり入室許可をくれた。

 恐るべしポール・パパイヤん。私も今度から交渉用にストックしとくことにする。


 私達が病室に入るとベッドの上で身動きできないくらい包帯ぐるぐる巻きにされたミイラ男みたいな少年が視線のみをこちらに向けていた。


 顔が分からないけど目元から判断して間違いない。この子が例の容疑者……


「……ポ、ポール・パパイヤん……」

「ちわ」「校内保守警備同好会の浅野です」

「はぁ……はぁ……ポール・パパイヤん…」


 血走った目を向けてろくに動きもしない腕を伸ばす。血に飢えたケモノが獲物を求めるようなポール・パパイヤんへの執着……


 私はそんな彼の目の前で床に両手をついてまず頭を下げた。もうすごい勢いで。床を突き破った頭が刺さるくらい…


「この度は大変申し訳ございませんでしたぁ!!」


 これが浅野詩音の本気の誠意……どうかほんの少しでも届いてほしい。


「…ポ、ポール・パパイヤんは?」

「この度は私の同好会の生徒が大変なご迷惑をお掛けしました!!今日はその謝罪に参りました!!全て同好会代表の私の責任です!!本当に申し訳ありませんっ!!」

「……ポール・パパイヤん……」


 床に顔が埋まってよく見えないけど彼は私の謝罪よりポール・パパイヤんが気になる様子。多分私の誠意1ミリも伝わってない。

 気配のみで感じる美夜がそんな少年へとゆっくり近づく。


 そして言うんだ。


「…ポール・パパイヤんを持ってきたと言ったな?あれは……嘘だ」

「…う、そ……?」


 折角私が床を叩き割る勢いで土下座かましたのにそれを全部無為に帰す美夜の非道。我が妹の残虐極まる嘘に少年は震える声を零した。11月とはいえ暖房の効いた病室内に溶けて消えたその声は極寒の雪山に震える声みたいだった。


「ポール・パパイヤんなんて手に入るわけが無いだろ?開店前に売り切れるのにどうやって買うんだ?残念だったな?」

「あ……あ…………」

「今日はお前に確認したいことがあって来たんだよ。私の訊くことに嘘をつかずに答えろ。さもないと入院期間がもう3週間増えることになるぞ?」


 美夜……いつからそんなヤクザみたいなやり口をするようになったの。


「あ……あ…………ああっ!!」

「ポール・パパイヤんは自分で買うんだな」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


 *******************


「……僕の名前は剛力山ごうりきやま斬鉄ざんてつです。愛染高校の2年生です」

「待って?めちゃくちゃ強そうじゃんお前。名前だけ……」


 床に頭をめり込ませたまま私は美夜と会話する愛染高校の少年--剛力山君の言葉に耳を傾ける。

 写真で見た少年の顔はそばかすのあるもやしって感じだったけどその名前は四天王って感じ。

 もしかしたらものすごく強いのかもしれない。


 ……ところで頭が抜けない。

 床を叩き割っておいてあれだけど女子高生の頭突きで割れる床ってどうなんですか?


「まぁいいや。で、訊きたい事ってのはな?お前、うちの高校に出入りしてたよな?しかも野球部の更衣室に……」

「……うっ」


 分かりやすい反応。もしかして本当に関与してる?


「知ってるとは思うがうちの野球部で盗撮事件が発生しててな…私らはその事件の調査を行ってたんだが……」

「……?どういうことですか?」

「だから、盗撮事件があったから校内保守警備同好会が調査してたんだよ」

「…………?」

「頭割るぞ?」


 死んでておかしくないダメージを負ってるにも関わず頭を割ろうとする私の妹。でも頭が抜けない私にはどうすることも出来ないの……

 ところでこの体勢、土下座の体勢で頭を床に突っ込んでるわけだけど、パンツ大丈夫かな?見えてない?


「……まぁそれでうちの学校で怪しいことしてたお前が怪しまれてうちのメンバーにボコられたわけなんだけど……ホントのところはどうなんだ?」

「ほ、ホントのところってのはどういうことですか!?」

「……事件への関与だよ。お前、なぜ全く関係の無い野球部の更衣室に侵入した?」


 ドスの効いた美夜の声。ベッドの震える音。スースーするお尻っ!!


「……ぼ、僕は何も関係ないです!!やめてください!!」

「じゃあ何しに更衣室に出入りしてたんだ?」

「言えません!!言ったら……殺される……」


 もう関与を認めたようなものだよね?流石美夜の第六感。そして、美夜の鋭い勘が捉えた事件の全貌が少しずつ見えてきた気がする。


「何を言ったら殺されるんだ?」

「ひぃ……どうして更衣室に入っていたのかを喋ったら殺されるんですっ!!」

「誰に?」

「鬼瓦君に殺されるんです!!許して……僕は何も知らないっ!!」


 もうほぼ答えが出ました。


「……その鬼瓦って奴にカメラ仕掛けて来いって言われたんだな?」

「ひぃっ!?」

「そして動画サイトに流してんのはお前じゃないから……警察もお前と盗撮事件を結び付けられなかった。そういう事か……」

「実行犯と主犯は別に居たんだね。美夜……」

「ひぃぃ!!殺されるぅぅ!!」


「僕はなにも喋ってない」と繰り返しながら布団の中に潜り込む剛力山君。震える声から涙が滝のように溢れ出ているのが分かる。けど、その情けない様子に名前の方が泣いてそう……


 そして彼の怯え様から真実は完璧に見えた。

 多分、その鬼瓦って子は剛力山君を脅かして無理矢理やらせたに違いない。この子もまた不本意に事件に関与させられ暴行を受けた被害者……


 私はそんな彼も救わなければと心に誓う。カッコつけようにも頭が床から抜けない。ここは美夜に譲るしかないのか……


「……よく分かった」


 いつもなら私がキメるところを美夜が攫っていく。きっと剛力山君の手を力強く取ってとかそんな感じで……


「--でもお前、関わってんのに自己申告しなかったからその鬼ちゃんなんとかと同罪だからな?お前人に謝らせといて実は僕がやりましたじゃ済まさねぇぞ?」

「ひぃぃぃぃぃっ!!ひぃぃぃぃっ!!」


 なんか違う。


「お前らのせいでうちの同好会活動停止に追い込まれたんだけどどう落とし前つけるんだ?」

「ひぃぃぃっ!ひぃぃぃぃっ!!」

「鬼なんとかの居場所を吐け。さもねぇと頭かち割る。この消火器、見えるか?赤いだろ?これ……今まで頭かち割ってきた奴らの血の色だから」

「え!?そうなの!?美夜!?今すぐ自首して!!」


 連続殺人鬼、浅野美夜の強烈なプレッシャーに完全に心を折られただろう剛力山君だけど、彼は壊れた人形のように首を何度も横に振る。見えないけど、多分。風切り音的に…


「僕は何も喋ってない……僕は何も喋ってない……」

「ああ喋ってない。喋ってないからいいだろ?私らは鬼なんとかと友達になりたいだけなんだよ。早く喋れ」

「喋れない喋れない喋れない喋れない喋れない……」

「…………お前の頭であの…メロンくり抜いて中に酒入れて飲むあれ…やるぞ?」

「喋れない喋れない喋れない喋れない喋れない喋れない喋れない喋れない喋れない喋れない……」


 ……怯え方が尋常じゃない。この子、鬼瓦という子に相当な脅しをかけられてる。

 流石に見過ごせない。私は強引に迫ろうとする美夜を叱責しようと床材の中で口を開こうとした。


 でも--


「……おいいじめられっ子。ここで全部話さないと、ここから出ても待ってんのは鬼何とかに怯えるいつもの毎日だぞ?喋れ」

「……喋れない…こ、怖いんだ……鬼瓦君が……」


 パチンッ!!


 美夜の張り手が瀕死の重症患者に飛んだ!多分、音的に!!


「甘ったれたこと言ってんじゃねぇっ!!お前の行動のせいで沢山の人が迷惑かかってんだっ!!その責任くらい取れやっ!!強要されたじゃ済まさねぇぞっ!!」

「……美夜」

「いつまでも虐げられたままか!?弱い奴が下を向いて生きていく……そんなのが正しいのか!?いいのか!?そんなんでっ!!変わりたいって思うんならなぁ…なにかひとつでもてめぇで変えるしかねぇんだっ!!何もしなきゃ、何も変わらねぇんだぞ!?」

「ひぃ……」

「ひぃじゃねぇっ!」


 パチンッ!!


 美夜の心の咆哮……とビンタ。大丈夫?殺さないでね?相手は全身複雑骨折と内臓破裂の重症患者だよ?


 ただ……美夜の厳しい怒号の中には過去の私達の姿が重なった。そして美夜の声には確かに優しさが込められてるのを姉は感じました。


 色々あって私がいじめられたりそのせいで喧嘩したりした中学時代。

 そのせいで拗れて生徒会潰したりした高校時代。


 変わっていった美夜だからこそ、その言葉には重みがあるように感じました。


 バシンッ!!


 うん、ビンタにも確かに重みがありました。


「お前が変えられねぇなら私らが変えてやる……っ!!お前が退院した時下向いて歩かなくていいように……だからせめてっ!!」


 バシンッ!!


「ごべらぇ!?」

「ここでくらい勇気出してみろやっ!!」


 ベヂィィンッ!!!!


 ……ちょっと強くない?大丈夫?


「言えっ!!」


 ドベヂィィンッ!!!!


「げぼらっ!?」


 パアァァァァァァァァンッ!!!!!!!!


「がっ……かっ!!」

「吐け!!」

「美……美夜?」


 バァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!

 --ボキッ!!


「ごはっ……っ!!」


 --ピーーーーーーーーッ


「……あ」

「え?美夜?」

「叩きすぎた……あれ?なんか……え?何この音。ピーーッて……あれ?心電図……?の線が……真っ直ぐに………………」


 ピーーーーーーーーーーーーーーッ


「………………やべ」

「美夜ぉぉぉぉぉぉっ!?!?」

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