マンティコラ襲来っ!!
「た、大変だっ!!アイツが現れたぞっ!!」
「えぇ!?」
「こ、校内保守警備同好会は何してるんだっ!?」
「校内保守警備同好会は無期限の活動停止だ!!浅野姉妹は動かないっ!!」
「そ、そんな…」
「じゃあ一体…一体誰がこの学校の治安を守るってんだ……うぎゃあああああっ!!」
--阿鼻叫喚の地獄絵図。今まで抑え込まれていた地獄の釜底から湧き出したような怪物達が解き放たれている。この学校に未だかつて無い混乱と恐怖が撒き散らされていた。
……みんな、ごめん。
無力感と悔しさに打ちひしがれるのは校内保守警備同好会代表、浅野詩音。
その隣でメロンパン(しかもクリーム入り)を貪り食らうのが同同好会代表にして私の最愛の妹、浅野美夜。
私達はマンティコラの襲撃を受ける体育館をただ眺めることしか出来なかった。
そして我が校の治安維持を一手に担っていた校内保守警備同好会がこうなったのにはわけがある……
私達3年生の卒業を控え決めなければならなくなった校内保守警備同好会次期代表。
その選出方法として選ばれたのが野球部男子盗撮動画流出事件を最も早く解決するというものだったんだけど……
次期代表を巡って争っていた豊富派と得川派の競争に巻き込まれた愛染高校の生徒が怪我をして入院--事態を重く見た学校から無期限の謹慎を言い渡された。
結局豊富派も得川派も壊滅……なにも得るものが無いまま校内保守警備同好会はこうして学校内での地位を失っただけ……
「ゴルガァァァァッ!!」
「きゃあああっ!?」「うぎゃあああっ!!誰か……誰か助けてくれぇっ!!」「いやぁぁぁぁぁっ!!やめて!!お腹には赤ちゃんが……赤ちゃんが居るのっ!!」
「……みんなが危機に瀕してるのに…何も出来ないなんて……くっ!」
「いや姉さん。私はむしろ活動停止のおかげでコイツと戦わなくて済んでホッとしてるけど?なんで学校にマンティコラ出現してんだよ。ここはRPGのステージか」
めんどくせぇ奴リスト上位者の暴走、無限監獄に閉じ込められていた怪物達、他校からの侵攻、第3勢力の介入--
我が校の安全は完全に崩壊していた。
「校内保守警備同好会は……浅野姉妹は何してるんだっ!!」「こんな時に助けてくれないなんてっ!!」「なんの為に居るんだよぉっ!!」
悲鳴に混じる怨嗟が私の心を締め付けた……
「……アイツら好き勝手言いやがって…」
「……ごめん美夜。私やっぱり!」
立ち上がる私を美夜が引っ張って止めた。というか2人に繋がれた手錠が勝手に止めた。
「勝手に活動したら次はどんな処分食らうか分かんねぇぞ!?進路に響くだろ!!」
「……美夜、でもっ!!」
「神楽も動かせねぇのに姉さんだけでマンティコラになんて勝てるかよっ!!」
「…………ごめん美夜。分かってる……でも、でも私っ!!校内保守警備同好会だからっ!!」
--ガシャンッ!!
「痛たたたたたっ!!またこのパターンだよっ!!毎回毎回自分一人での戦いを覚悟した風で手錠が外れてねぇんだよっ!!強制的に私も連れてかれてるだろうがっ!!心中に巻き込むなっ!!」
「離して美夜っ!!」
「やかましいわっ!!……が私はピッキングという術を覚え……」
ああっ!?美夜がチンたらしてる間にマンティコラがこっちにっ!?
「ガルアアアァァァァッ!!」
「きゃあああああああっ!!」「うわぁぁぁぁっ!?」
悲鳴をあげることしかできない情けない治安の番人に容赦なく牙が襲いかかる--
「--おいたはダメよ♡」
その牙は届く前に漆黒の拳に阻まれへし折れた先っぽと共にマンティコラの巨体が軽々と天空の彼方へと吹き飛んでいく。
巨腕を振るい怪物を制するその姿--まさに金剛力士。
校内の危機を救ったその人は……
「……っ剛田君」「キ〇タマオカマっ!!」
「………………」
「ご、剛田剛だっ!!」「剛田が助けてくれたっ!!俺達……助かったんだっ!!」「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「--災難だったわね、詩音ちゅわん。美夜ちゅわん」
マンティコラ撃退後体育館裏に私達を連れてきた剛田君が重々しく口を開いた。日陰に沈んだ色黒の肌はヤマンバギャルにも匹敵するかもしれない。
そんな彼が最初に口にした労いと慰めの言葉になんと返したらいいか分からず口を閉ざしていたらそんな導入もほどほどに剛田君が要件を切り出した。
「……聞いたわ。今回の校内保守警備同好会の事件」
「全部お前のせいだけどな?痛っ!?」
「ごめんなさい……私達の問題のせいで事件の解決が遅れてしまって……」
美夜の頭を流れるように叩きながら深く頭を下げる。つむじ辺りに降り注ぐ視線を感じると頭を上げられなかった。
そう、今回の野球部盗撮動画流出事件、結局まだ犯人は分からず終い……
事件が解決してないにも関わらず同好会は凍結してしまったという状況……依頼者の剛田君には面目が立たない。
「……あの事件のせいで沢山のハニー達のケツ穴が汚されたわ」
「その傷心につけ込んでお前も何人か掘ったろ?」「美夜、やめなさい」
「……学校の事は任せてちょうだい」
頼もしくも野太い声を受けて私は頭を上げた。そこにはこんなに真剣な顔見た事ないってくらい真剣な顔した剛田君が居た。
「この学校はあたしが守る……あなた達が帰ってくるまでね」
「剛田君……」「唇切れてんぞ?リップ貸そか?」
「その代わり……あたしとの約束、有耶無耶にしないで」
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「……というわけで事件の真相には私達だけで独自に迫ることにしたわ」
「お前代わっていいぞ?神楽」
「……浅野代表」
剛田君からの強い願いを抱いたまま私達はその足で彼岸神楽さんの下へやってきた。私達の報告を受けて神楽さんは即答で「私も手伝わせていただきます」と申し出てくれた。
でも私はゆっくり頭を振る。
「ありがとう……でもあなたまで動いたら校内保守警備同好会の活動と捉えられてしまうかもしれない。そうしたら次はどんな処分を受けるか分からない……下手したら同好会そのものを解体させられるかもしれない」
「しかし……危険です」
「大丈夫…美夜も居るから」
「代わってやろうか!?神楽!!」
神楽さんはどうしても不安を拭えない様子ではあるけれど納得はしてくれたみたい。これでいいの。
これは代表たる私達の責任…私達の最後の大仕事だから。
「事件を解決して、必ず同好会を元に戻すから……それまで待っていて…」
「詩音代表……」
「それとね、私と美夜で話し合ったんだけど……」
どうしても伝えたいことを神楽さんの手をしっかり取ってから伝える。
「校内保守警備同好会はあなたに継いで欲しいの……」
「……わ、私が……!?」
「あなたしか居ない」「というかマジで適当なのがお前しか居ない。やれ」
まさか自分が--と思ってたんだろうな。神楽さんはかなり困惑した様子だった。そして私達の視線を受けながら申し訳なさそうにゆっくりと首を横に振った。
「……いえ、私のような若輩では、代表達が築き上げてきた同好会を受け継ぐにはとても……」
「神楽さん」
私は改めて握った手に力を込める。握り返してくる力はゴリラのそれ……手の甲の骨が砕けるくらい。
うん力強い。これなら安心してこの子に任せられる……
「この学校には校内保守警備同好会が必要だよ。そして、それを継ぐのはあなたであってほしいの」
「……代表」
「私達の傍で誰よりも頑張ってくれたあなたが相応しい。あなたの為に…私達は同好会を守る。だからそのバトンを受け取って」
「……そんな、寂しいこと言わないで…留年してください。代表」
「しねーよ。私ら姉妹の華々しいキャリアに傷つけろってのか?」
華々しい……?
メキメキ……ッ!!
感極まったのか神楽さんの握力がさらに上昇。私の手が丸まったちり紙の如く縮小、圧縮されていく……
この握力……間違いない。校内保守警備同好会の代表はこの子しか居ない……
「少し……時間をください」
「なんだその、たかが同好会の代表受けるくらいでその世界の存亡を賭けた戦いに誘われた元最強の戦士みたいな反応は」
「うん。いい返事を待ってるから…」
--というわけで。
浅野姉妹、校内保守警備同好会を取り戻す為……この学校の明日を守る為進軍!!
野球部盗撮動画流出事件の真相に迫るっ!!
……しかし調査をしていた豊富派、得川派の捜査がなんの成果もあげていない現状、手がかりはゼロに等しかった。
早速途方に暮れる浅野姉妹……
屋上で沈みゆく太陽が今日という日が無為に終わることを責めるように網膜を焼いていた。
「……やっぱり、地道な聞き込みから始めるしかないのかなぁ?」
「…神楽の話では得川派がかなり容疑者を絞っていたらしいけど……」
「でも、それって豊富派を騙す為の嘘だから……」
「いや、入手した証言等に関しては間違いないものだったって宮原は言ってた。得川派のデータを洗い出すのは近道かもしれない」
「こらぁっ!!そこで何をしとるかぁ!!屋上は立ち入り禁止だっ!!」
「……そうかもね」
「姉さん…そう考えると豊富派に暴力を振るわれた愛染高校の生徒……アイツなんかおかしいと思わねぇか?」
美夜が突拍子もないことを言う。でも、我が妹は意外とキレるのだ。一旦耳を傾ける。
「無視するかぁ!?停学処分にするぞっ!!」
「……その子に関しては警察まで調べたんだよ?何も関連が出てこなかったから問題になったわけで……」
「いや……だとしたら全く関係の無いその野郎が野球部の更衣室に出入りしたのなぜだと思う?」
「なぜって……」
「…せ、先生を無視するとは何事かぁ!!」
「アイツの顔写真見た時……なーんか引っかかるモンがあったんだよ。私……」
まさかの勘ですか…
でも真相究明に迫る立場としては『勘』という名の特殊能力を侮ることはできません。なぜなら、真実を追い求める時大体『勘』がほぼ正確に真実を捉えるから。そう相場が決まってるから。
……他にあてもない。それに私達の同好会が迷惑をかけたのは事実。謝りに行ってもバチは当たらないと思う。
「……会ってみようか。その子に……」
「…お見舞いにチェロス買っていこ。USJで…」
「かかぁ…俺先生辞めようと思うんだ…だって、だァれも俺の事相手にしてくんないんだぜ?」
『何言ってんだい!!アンタ!!その歳で他に仕事ある訳ないだろう!?』
「かかぁ……」




