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スマイルしてますか?

 --校内保守警備同好会の次期代表争い。それを賭けた野球部盗撮動画流出事件解決競走。それは豊富派の暴走を呼び暴行事件にまで発展した。


 得川派が先んじて容疑者を絞ったはずなのに、先に動いたのは豊富派だった。私にかけられた豊富からの不穏な言葉…

 その真意を探る為私は豊富派と接触を図る。


 --この跡目争い、これ以上我が同好会の信用を失墜させない為にもこの彼岸神楽が止めてみせる。



 豊富派の豊富含め暴行事件実行犯グループは警察に身柄を拘束されてる。残っているのは末端構成員。そしてそれは事実上豊富派の壊滅も同義だった。


 そんな豊富派残党との接触は簡単だった。

 元々豊富派はただ暴れたいだけのような集団…頭を失ったメンバーには仲間意識も同好会会員としての矜持もない。


“餌”をぶら下げて体育倉庫に呼び出せばあとはボコるだけである。すぐ喋った。


「豊富派はどうして愛染高校の容疑者にたどり着けた?」

「おいおい…ひでぇないきなり殴るなんて……」

「え?「鼻が邪魔です、潰してくれませんか?」って?」

「嘘嘘、分かったよ…でも俺、派閥でも下っ端だしよ…あんまり知らねぇからな?詳しいことは…」

「有益なら明日に繋がる…無益なら死…」

「ひぃ…えっと、俺ら豊富派は豊富さんの側近の大原田おおはらだが情報収集を担当してたんだよ…それしか知らねぇ!!」

「そのおお何とかは今どうしてる?」

「あの人はもう豊富さんを見限ったぜ!!暴行ん時も現場には居なかったんでサツの追求からは逃れられてるっ!!」


 …大将を切り捨て逃げるか。側近が笑わせる。


「なぁ?それより約束の……」

「購買限定10個販売、河豚の白子入りホットドッグのことか?」

「早くくれよ…喋ったじゃねぇか…へへ、アレがねぇとよ…」

「……無益だったから死ね」

「え?は?……うぎゃああっ!!」


 --ボコボコ☆


 …大原田、奴がこの事件の真実を握っている。それは間違いない。


「くっ…かか……」

「……お前は同好会を辞めろ。次視界に入ったら殺す」


 *******************


 --武闘派豊富派側近兼情報班、大原田。

 山賊のような集団である豊富派の例に漏れず彼もまた武闘派だと聞いている。なんでも失われた忍術を嗜むとか…


「……奴が真実に最も近い男…それは間違いない。そして私の読みが正しければ……」


 大原田は得川派から情報を得ていたはず。その真偽を確かめる。


「アヘヘ…エヘへ……」

「大原田は放課後必ず仲間と一緒にハンバーガーを食べに行くとか…急がねば……」

「アヘヘヘヘヘ…」

「失礼」


 なんか笑ってる女の横を通り過ぎた時、殺気を感じ私は咄嗟にその場でサイドステップ。私の居た場所に向かって手が伸びていた。


 …豊富派か?


「アヘヘヘヘヘ…エヘへへへ…」

「おいコラ、真横にラリってる女が居んのに無視すんなよ」


 違った。

 ヘラヘラ笑って目があちらの世界に逝ってる女の隣に立つこの男…間違いない。小比類巻睦月。

 めんどくせぇ奴がリストBランク。現代カルチャー研究同好会の代表だ。たしか得川派によれば『ピコピコハンマーの村上』を撃破した武闘派。

 そしてよく見れば隣でアヘアヘしてるのは同同好会の香曽我部妙子。


「……なんのご用で?」

「何じゃねぇよ。お前だよな?校内保守警備同好会って」

「いかにも」

「たこにも?」

「……酢だこにも」

「よし…話は通じそうだな……おい、うちのつーちんからは話聞いてるよな?お宅らに連れてかれてからうちの福神漬けがずっとこの調子なんだが?」

「アヘヘヘヘヘ……エヘへへへ……」

「お気の毒に…」

「お気の毒じゃねぇよ。説明がないんだがお前らうちのメンバーになにをした?返答次第では俺らも相応の礼をさせてもらうぜ?」


 全く面倒な……


「……それについては私は関与してない。申し訳ないが、得川先輩にお尋ねして頂きたい。私は急ぐのでこれで…」

「待ちな」

「失礼します」


 こんな奴らに構ってる場合ではないのだ。大原田に逃げられる。


「……そうかい、じゃあ覚悟しなよ校内保守警備同好会。キンタマ生えてる奴はそのタマ無いものと、キンタマ生えてない奴はその股にタマを生やすと伝えとけ」


 背中に投げられる冷徹な声。現代カルチャー研究同好会は4人しか居ない同好会のはずだが…小比類巻を除けばさほど危険な生徒も居ない。

 なのに天下の校内保守警備同好会に喧嘩を売る胆力…


「……今は時間がありません。質問なら後日、校内保守警備同好会の同好会室へお越しください。そこで正式にお答えします」


 私が応答した時には彼らはもう背中を向けていた。この同好会が大変な時に面倒な連中を敵に回した気がするが……


 まぁいいそれどころじゃない。



 --そして大原田の教室に向かった時にはもう遅かった。奴らは駅前のハンバーガー屋まで繰り出した後だった。

 おのれ…

 逃がすわけにはいかない。


 *******************


「いらっしゃいませー」

「こちらに大原田とその一団は来ましたか?」

「……えっと、ご注文をお伺いします」

「スマイル、店内で」

「えっ…ス、スマイルおひとつですか……?」

「はい」


 この彼岸神楽、このハンバーガーショップに飯を食いに来たのではない。


「……申し訳ありませんが、当店ではこちらのメニューのいずれかをご注文頂き--」

「おまたせ致しました。スマイルでございます」

「っ!!巌擬さんっ!!」

「阿部さん…お客様のどんなオーダーにもお応えするのがプロよ。日比谷さんが居たならきっと完璧なスマイルを提供したでしょう」

「……はい、巌擬さん」


 般若みたいな顔のおばあちゃんとなぜか涙ぐむ女性スタッフ…そして般若のスマイルの破壊力はこの彼岸神楽を怖気させる程のものだった。


「……是非いつか死合わせて頂きたい。ではスマイル、堪能します」

「ごゆっくり」

「……え?スマイルを店内で…?」


 喫食スペースを図々しく独占する下劣な一団の中に私の探し求める男--大原田は居た。

 仲間達とゲラゲラと周りも顧みず大笑いをする馬鹿。しかしその姿には本来あるはずの隙を感じさせなかった。ここまで隙なくハンバーガーを食する外道がかつていたか……


「……大原田。お前に用がある。表に出ろ」


 私が頂いたスマイルを抱え彼らに接触する。

 楽しい雰囲気をぶち壊した乱入者に対して彼らは下から睨めつけるように私を見てから無言で立ち上がった。


 流石は武闘派暴力集団。大原田の取り巻き3人は有無を言わさず拳での語り合いを強要する。

 一言も交わさず襲い来る暴力を私は全て片手でいなす。なぜならもう片方の手には頂いたスマイルが抱えられてるから。


「ほう…」「今のパンチ…全て躱すか…噂以上だな彼岸神楽」「何の用だ?」

「お前達に用はない。大原田と話をさせろ」


 ザワつく店内。その中で大原田の「くっくっく…」という静かな笑みがこぼれた。


「くっくっく…くっくっく…クックドゥルドゥルドゥー……」

「ここでは店の迷惑だ。表に出るぞ」

「……彼岸神楽。まぁ来るとは思ってたぜ。しかし…俺はもう豊富には見切りをつけた。同好会の席も興味が無い。俺らが争う理由はないと思うが?」

「……そちらになくても、応じないならこちらには出来るな」

「コケーッコッコ!!面白い。お前も校内保守警備同好会の武闘派…我を通すなら力で通して見たらどうだ?」

「……お前達が校内保守警備同好会の名を語るな」


 吐き出す殺気に呼応し雑魚が一気にかかる。先程のは挨拶と言わんばかりにスピードもパワーも上がった拳と蹴りの波状攻撃…


 が、応じないならば覚悟しろ。


「--邪魔だ」

「あっ!!」「いっ!!」「うーっ!?」


 3人の攻撃を躱しつつあっさりと外に放り出し邪魔者を制圧する。ガラスは割れ、客は逃げ出した。


「お、お客様!?」


 般若があわあわと止めに入るのを静止しつつ立ち上がる不敵な笑みを浮かべた大原田を迎え撃つ。

 流石武闘派派閥No.2…醸す雰囲気は伊達ではない。


「私に勝てると思ってるのか?」

「お前こそ…同好会で真の実力を見せていない俺の力を見誤っていないか?」


 そもそもコイツの実力など知らん。


 直後、大原田がテーブルをこちらへ蹴りあげる。食事を提供してくれた店に有るまじき狼藉。粛清が必要だ。

 視界を塞ぐテーブルを私は素手で弾き飛ばす。


「…っ!」


 その私の腕に無数の手裏剣がいつの間にか食い込んでいたではないか。


 全くの無音で懐へ滑り込んでくる大原田の制服の袖が破れ、湾曲した刃が飛び出した。我が校の武闘派に違わず類稀な戦闘力を有している。

 全く気配を悟らせない踏み込みは天晴れ。


 腕から生えた白刃が滑り込む。それを極限の集中力で躱し、腕から引き抜いた手裏剣で応戦する。

 彼岸一族であらゆる武器術を学んだ。私の正確無比かつゼロ距離の投擲は腕でガードを固めた大原田の守りに深く食い込む。


「--流石我が同好会最強っ!!だが戦いとは馬鹿正直にやっても勝てんぞっ!!」

「ん?」


 瞬間、大原田の目の前で爆煙があがる。

 煙玉か…

 店内が白煙に包まれ、奴の気配が完全に消える。


「きゃああっ!!」「爆発だァっ!!」「店長!!ふざけた客が暴れてますっ!!」「阿部さんっ!!店を守るのよっ!!」「嫌ですっ!!」


 ……奴は?


 煙を振り払いながら視界を確保する私の背中に無数の冷たい痛みが走る。いつの間にか背後を取った大原田の手裏剣攻撃が深く突き刺さる。

 同時に足首に絡みつく鎖分銅。私の足に絡みつくのとは反対の鎖は店の柱に縛り付けられ完全に私の動きを封じた。その精度、スピードは『鎖鎌の穂崎』とは比べ物にならない。


 鎖に捕まり距離を取れない私に容赦なく肉薄する大原田。その手には直刀が握られていた。


「終わりだ、俺に楯突いたことを地獄で後悔しろ」

「…それが遺言か?」


 私の首に冷たい予感が走る。それは刃の通り道…その予感。


 直後それに沿って正確に襲い来る刃…私はその振るわれる刃が叩き折られたことすら気づかない神速で迎え撃つ。


「っ!?」


 振り抜き、折られ、初めて気づく大原田。気づく前に追撃を加え仕留めることも出来たがあえて見逃した。

 死をも超えていく私の超加速--引き出させた男へのせめてもの慈悲。ここで退けば終わらせる。


 距離を取る大原田が冷や汗を垂らす。


「…見事なスピード……まだ余力を隠してたかよ」

「余力?本気でも出させてたつもりか?投降しろ。知ってることを全て話してもらう。拒否するならこの程度では済まない」

「…俺も武闘派だ。ここで負けを認めては大原田の名に傷が作ってもんだ」


 大きく後ろに跳躍し距離を取る大原田。私は足の鎖をもう片方の踵で踏み砕き襲いかかる。

 ここで初めて抜刀する。この一太刀で仕留める。


 ……が。


「こらあんた達っ!!私の店を--きゃあっ!?」


 あのスマイルの般若おばあちゃんが大原田に捕まってその首にクナイが添えられる。


「巌擬さんっ!!」

「阿部さーーんっ!!助けなさいっ!!」

「あなたの店じゃないですよ巌擬さんっ!!」


「--来い。ババアごと斬れるならな」

「…ふん」


 何が大原田の名に傷がつくだ。こんなやり方で勝ったところで……


 どうやらこの男はとことん畜生に堕ちたらしい。ならば手加減も無用。この男なら大概死なないだろう。


 ……本気で斬りかかりでもしなければ。


 おばあちゃんを盾に大原田がクナイを投げてくる。しかも、柄尻になにやら導火線に火がついた爆弾的なものまで付いている。


 が、今の私にはもはや空中をゆるゆると舞う羽毛にも等しい。全てを避けつつ、店の外へ弾き飛ばすつつ、大原田に肉薄する。


「っ!?」


 おばあちゃんへクナイを振り上げる大原田。

 しかし…その手は鮮血を撒き散らすことなく……否、自らの血の飛沫を上げつつ手首より上が吹き飛んだ。

 斬られて初めて気づく大原田が呻き声を呑気に上げてる間にも、私は奴の背後を取っていた。それに気づくのにまた遅すぎて、待ってる間に寝落ちするかと思った。


 首は勘弁してやる。まだ殺す訳にはいかない。

 峰打ち--なんか骨がぼきっていうくらいの力で叩き込んだそれにおばあちゃんを抱えたまま大原田が縦回転で飛んでった。


「--スマイル、ご馳走様でした」


 ドゴォォォォッ!!


「きゃああああっ!?巌擬さぁぁぁん!?」

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