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あぶないっ!!こんなところに蜂がっ!!

『只今より、文化祭2日目を開始します』


 --私は可愛い。

 この世には様々な『可愛い』があると思う。例えば女性の容姿に対する『可愛い』、小さな子供とか小動物とかに対する『可愛い』、服や小物などのデザインに対する『可愛い』…

 いずれの『可愛い』も見る人の目を奪いその華やかさを記憶に焼き付ける。『可愛い』ものを見たら誰でも幸せな気持ちになる。

 見る者の口元を自然と綻ばせてくれる、それが『可愛い』--


 この日比谷真紀奈の使命とは、その『可愛い』の権化である私の持つ魅力を1人でも多くの人に届けることだ。

 故に私は日々、たくさんの人に私の『可愛い』を発信してる。だって、私可愛いもの。


 --本年度の文化祭が招待制になったのはこの日比谷真紀奈の人気があまりにも凄まじいから誰も彼も押し寄せてきたらパニックになってしまう。そんな事情がある…はず。多分。


「きゃーーっ!!」「おいっ!!あれホンモノの日比谷真紀奈だぞ!?」「こっち向いてーー!!」「抱きてぇ!!」「結婚を申し込みてぇ!!」


 文化祭2日目--

 普段と違い開放された学び舎には様々な人が押し寄せる。当然、今世間の注目を浴びまくっているこの日比谷真紀奈が居れば自然と話題にもなる。


 私は親友兼引き立て役の阿部凪を引き連れながら校内保守警備同好会に押し止められるギャラリーに手を振る。


「午後から軽音部のライブで踊るから見に来てねー♡」

「きゃあああああっ!!真紀奈様ぁぁ!!」「な、なんてこった!!日比谷真紀奈が俺にウインクしたぞ!?」「寝ぼけてんのかてめぇ!!俺にウインクしたんだよ!!」「君にこの愛を捧げたい…っ!!」


「……すごい人気だね。日比谷さんすっかり遠い人になっちゃったよ。橋本君もアイドルやるんだって。垢抜けちゃってね。なんだか私寂しいよ」

「室外機に「おはよう」言ってる凪の人生にこれ以上寂しいことってあるの?もういい加減寂しさの天井でしょ?」

「え?張り倒されたいのかな?」


 容赦なく日比谷のヒップに蹴りを入れてくるこの女…私がお前のことを友人として認めてなければとっくに公安警察に逮捕されてるからな?あの日富士山で友達になって良かったな?


「凪、お腹空いたでしょ?」

「え?…朝ごはん食べたし別に……」

「奢ってあげるよ。すごく美味しいパン屋さんがあるんだ♡」

「…もしかして昨日5分に1回行ってた現代カルチャーのコッペパン屋さん?私はいいかな……」

「え?この日比谷真紀奈とコッペパンデートできるのに?何様?」

「日比谷さんって性格面なにも改善されてないよね?小比類巻君と楠畑さんが付き合い出した時になにを学んだのよ?」

「うっ!?頭が……割れる……っ!?」


 はなぢでてきた。


 ……むっちゃんと脱糞女が現在交際中などという悪夢は一旦忘れて今日は折角文化祭なのでむっちゃんとデートしようと思います♡

 脱糞女はメイド喫茶で忙殺されているのはリサーチ済み…脱糞女が暇になる前にむっちゃんをオトそうと思います。


 むっちゃんの同好会、現代カルチャー研究同好会は乾燥コッペパンなる画期的な商品を売り出してる。

 なんでも保存食にも宇宙食にもなるのが売りの乾燥したコッペパンなんだとか。食べて見た感想はペラッペラのコッペパン。

 でもいいの。なんたってあそこに行けばむっちゃんが私の為に…そう!私の為にっ!!コッペパンを乾燥させてくれるからっ!!


「むーーーっちゃんっ!!」「こんにちはー。おはようございまーーす」

「いらっしゃいませでございます」「やぁ、日比谷さん、阿部さん」


 出迎えてきたのはよく分かんねー清楚系美少女とよく分かんねージャニーズ系男子。


「あれ?むっちゃんは?」

「こっひーなら香曽我部さんと買い出しに行っちゃった。今は僕と妻百合さんで店番」

「日比谷先輩、昨日はたくさんのお買い上げありがとうございますでございます」

「帰ろうか凪」

「どうしてだい!?買っていっておくれよォ!!」「ノルマに達成しなければ小比類巻先輩から吊るされてしまうのでございます」


 …てか、この男誰?


「日比谷さん、午後のステージは頑張ろうね?」

「凪、コイツ誰?」「橋本君」


 橋本君だったかぁ。どうしても今のビジュアルは記憶に残らないなぁ。

 正直、むっちゃんが居ないならこんな詐欺まがいのコッペパンに用はないんだけど…


「……むっちゃんの財布を私で潤しておこうか、100個ちょうだい」

「ございません」「おひとり様1個までなんだ、ごめんね日比谷さん」

「じゃあ、凪の分と2個」

「……乾燥コッペパンってなんなの?橋本君」

「阿部さん、それについては僕らもずっっっと考えてるんだ。でもね、乾燥コッペパンは乾燥コッペパン以外の何物でもないんだよ。深く考えようが考えまいが、乾燥コッペパンは乾燥コッペパンなんだよ」

「いや、乾燥コッペパンが分からないんだよ乾燥コッペパンなんだよとか言われても分かんないんだよ」


 愚かな凪…むっちゃんのやることに意味や理由を求めるなんて……凪はまだまだむっちゃんの事を理解出来てない。この三流め。死になさい。


「乾燥コッペパンとは保存食にも宇宙食にもなる新開発の全く新しいジャンルの携行食でございます。水分を極限まで抜いておりますので通常のコッペパンに対し当社比2倍の保存期間を実現させております」

「そうなのか…流石つーちん」


 橋本君、そうなのかとか言ってる。凪が理解できないのはまだしも、この人自分で何売ってるのに理解してないなんて…

 まぁ、むっちゃんのとこの商品だしな…


「当社比とは?」

「ヤ○ザキ調べでございます」

「あ…そうなんだ」


 定価100いくらで買えるヤ○ザキのコッペパンが1000円で買える。ただし、むっちゃんが乾燥させています。そこだけは留意されたし。よろしく。


「水分を抜いたことによるパサパサを軽減する為に中の生地を抜いておりますので食べやすくなっておりますよ。いかがでしょう?アントニオ先輩」

「阿部なんですけど?『あ』しか合ってないよ?初対面でどうして苗字当ての賭けに『アントニオ』いったの?」

「アンジャッシュさん、実はね今日は特別な商品ラインナップでお送りしてるんだ」

「阿部!!阿部凪です!!よろしくね橋本君!!」


 自信満々な橋本君が取り出したのはもはや外側の皮しかない形だけコッペパンがクラムチャウダーを包んだ新商品だった。


「クラムチャウダーを挟むことで水分不足によるパサパサを更に軽減しております」

「「へぇ〜」」


 独自のパサパサ対策により中の生地を抜かれているコッペパンの強度はクラムチャウダーをまるで支えられていなくて容赦なく橋本君の手にこびりついていた。


「よりしっとりと食べられるよ?2500円だけど買う?」

「限定10個となっております。お買い得かと存じます」

「「へぇ〜」」

「どうする?日比谷さん、ロナウドさん」「いかがでございましょうか?」

「普通のでいいよ♪」


 もはやあれはコッペパンでは無い気がした。コッペパンのパンくずが入ったクラムチャウダーである。

 てか、どうしてクラムチャウダーをパンにそのまま挟もうと思ったんだろ。流石むっちゃん。


 …さて、体積の構成の八割が空気のコッペパンを受け取ればもう用はない。むっちゃんの所へ向かわねば…


「お買い上げありがとうございますでございます」

「…ね、ねぇ?このコッペパン、ペラペラだよ?1000円だよね?」

「それがパサパサ対策だよ、イチローさん」


 …そうだ。

 むっちゃんの売上の為にこの日比谷の影響力を使って宣伝しておこう!!


「これ…1000円だよね?」

「ありがとうございますでございます」

「返品は受け付けてないよ?泡姫さん」

「え?…これ、どこ食べるの?食べ終わった骨付きチキン渡された気分なんだけど?」


 震える凪と橋本君と現代カルチャー研究同好会の木っ端をスマホのカメラに収めてシャッター切った。

 肝心のコッペパンは映すのやめとこ…多分実物みたら誰も買いに来てくれないから……


 *******************


 よぉ、オラ。知ってる?アフリカマイマイって美味いんだぜ?

 だからって焼く?人のアフリカマイマイ、焼く?焼かねぇよな?アイツら許さねぇ…


「風香、あの1年の屋台にグンタイアリ突撃させようと思うんだけどさ、やっぱり18小隊が適任だよね?」

「レン…くだらないことしないの。そもそも、アフリカマイマイ売ったのレンだからね?」

「風香もレンもさ、香菜のメイド喫茶行こうよ」


 私田畑レン、長篠風香、速水莉央--ここに脱糞女こと楠畑香菜を加えた4人組はこの学校の覇権を握ってる。つまり、この学校の道は私らの道。


「速水、この廊下の法定速度は80にする」

「何言ってんの?レン…遅すぎ。そんなチンたら走ってられないよ?」


 私が必死に速度標識を打ち付けていたら風香が「そーいえばさ、レン」と耳打ちしてくる。

 んだよコノヤロー、くすぐってぇだろ?えへへ♡帰ったら、ケツでも撫でてやるか。


「オカルト同好会の占い屋さんに件が居るって」

「くだん?」

「人面牛身の妖怪だよ」

「……っ!!」


 …オカルト同好会って言ったら、修学旅行の時チュパカブラ捕ってくるって約束してた奴らだよな!?

 今度は妖怪かよ!!


 …件、欲しい……


「ねぇー、メイド喫茶行こ?」

「黙れ莉央。私らは昨日行ったんだよ。そんなことより私らは家族を迎えに行かなきゃならない」

「……?ご両親でも来てるの?」

「違う」「件だよ。莉央も来る?」

「……?」



 --時速80キロで安全走行しつつ私らはオカルト同好会へカチ込むことになった。

 チンケなテントをそれっぽく改造した占いの館の暗幕を私が思いっきり蹴破る。

 …が、カーテンなのでしなやかに躱される。なんかモフって揺れただけ……かっこよく突撃するはずがよー…


 ……


「舐めてんのか!?こらぁ!!きききききーっ!!」

「レン、落ち着いて…」

「風香、前々から思ってたけどさー、レンって病気よ絶対。どっか頭がおかしくなってんだよ」

「昔はこんなじゃなかったのに…ひぃん」


 このくそカーテンぶち破ってやる!!ははははは!ビリビリだぜっ!!私を舐めるからだ死ねっ!!


「な、何をしてるんだお前達!!やめろ!!」


 ……コイツは、オカルト同好会の代表宮なんとか。奥に居るのは阿久津と武だな?


「風香、道具だしな」

「ないよ」

「チャカのことだってばよ」

「ないってば」

「は?修学旅行でビッグフッド狩り行く時買った銃は?」

「常備してるわけないじゃん」


 風香にはハンターとしての自覚が足りない。獲物はいつどこから現れるか分かんないってのに…


 まぁいい。こっちには札束という暴力があるんだもーん。パパの力見せてやるもーん。慄け!!愚民どもよっ!!


「ははははははははっ!!」

「何を笑ってるんだっ!!貴様営業妨害で校内保守警備同好会に突き出すぞ!?」

「田畑先輩に長篠先輩では無いですか…どうしたんですか?」

「良き…」

「莉央!焼きそば買ってきて!!」


 唐突に莉央をパシる私の理不尽がオカルト同好会に牙を剥く!!時速120キロで焼きそばを買いに行く莉央は今日はセーブ気味だね。

 まぁ文化祭で人多いしね!!安全運転で行けよってばよ☆


「ここに件の件が居るよな?」

「ペットに欲しいなーと思ってきたんだけど…」


 私と風香のはよ寄越せアピール。これを受けた上級国民以下の市民は無条件で従わなければならない。

 なのによー、この男ときたらよー、なんかムスッとした顔で首を横によー…


「いきなり来て何を言う。件はうちの商売道具--」

「振ってんじゃないよっ!!」


 俺のターン!!キイロスズメバチの巣をドロー!!このカードをドローすると中からキイロスズメバチが敵を襲うっ!!敵は死ぬっ!!


 --ブゥゥゥゥゥゥンッ!!


「ぎゃああああっ!?」

「みっ…宮島先輩ぃぃ!!大変!!先輩は過去スズメバチに刺されていますっ!!次刺されたら死にますっ!!武先輩!!」

「…良き」

「良いそうです」


 オカルト同好会は大パニック。でも仕方ない。安定した資産と愛を持った私らに飼われるのが全ての生物にとっての幸せなんだから…

 それを拒否した宮なんとかは動物愛護法違反、死が相応しい。


「ぐはっ…!!死ぬっ!!阿久津君!!武!!助けてくれっ!!」

「……良き」

「良きですね先輩」

「お前ら生皮剥いでやるからなっ!!」


「……レン、なにも蜂をけしかけなくても……」

「そんなとこよりよー、早く件を連れて帰ろうぜ〜?」

「楽しみだねっ!レンっ!!」


 …にしてもブンブンうっせぇなコイツら何匹いるんだ?適当に手をパンッ!!てしたら1匹潰れた。


 手のひらねっちょりさせながら占いの館に侵入したらさー、こん中にも蜂が侵入してさー……もうすご--


「も、もーーー……」

「……?」「……?」


 ものすげー数の蜂が件に集ってた。もうアレ、すごい刺されてた。ブスブスに刺されてる。体中、ボコボコ。

 横たわる瀕死の件君が私達を見てる…

 なんというか……


「もうっ!!レンのせいで死にかけてるじゃんっ!!だからミツバチにしときなさいってあれだけ…」

「なんか…不細工じゃね?」

「え?」


 なんかさー…もうちょい可愛いの想像してたんだが?だって牛でしょ?だったらさもっと可愛い顔してんじゃないの?

 だって牛と馬って仲間よね?つまりウ○娘よね?

 え?ウ○娘にこんな顔の奴いた?おっさんやん。


 ……なんか、嫌だ。


「レンー、風香ー、焼きそばー」

「あ、莉央帰ってきた。流石に時速120キロは早いね」

「焼きそば食おーぜ♪」


「……も、もーーー……」

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