文化祭デートォっ!!
私、潮田紬。
今日は母校の文化祭。懐かしい校舎や見知った先生達の姿に懐かしさを覚えつつかつての仲間と楽しむ……
はずだったんだけどメイド喫茶出禁になった。
違う。
そもそも今日は虎太郎とのデートなんだ。
そう。今日は運命の日(天使曰く)
今日私は虎太郎に長年秘め続ける想いを告げる。今日はそういう日……
なんだけど今日は懐かしい元生徒会のメンバーと一緒になったので一緒に回ってる。このままでは告白のムードもクソもない。
さて、私のターゲットの広瀬虎太郎君は、メイド喫茶でツンデレを発動して手を繋いでもらってずっとニヤニヤしてる。時々自己嫌悪に陥って呻いてる。情緒不安定。
あと、メイドさん達が影で「あの人手汗やばかった」って陰口叩いてた。
さてメイド喫茶を出たばかりではあるんだけど……
「ひぃ……ひぃ……っ!!はぁ!?モ、モ○スターァァァァ……」
エナジードリンク中毒の大葉君が禁断症状を発症してる。メイド喫茶でレ○ドブルを貰ったけど大葉君、モ○スターじゃないとダメみたい。
ガクガクと震えながら脂汗を垂らし、もう死にそうだ。道行く人が避けてる…
「虎太郎、紬。ちょっとモ○スター買ってきてくれない?大葉が暴れだしそうだからさ」
と、ここで天使より気が利くと噂の花菱さんが提案する。
彼女は私と虎太郎をいい感じにする為に気を利かせてくれたに違いない。決してパシられている訳じゃないはず……
「えぇ……なんで俺」
「つべこべ言わずに行って下さいよパイセン。雑用はパイセンの仕事じゃないですか」
元庶務の田畑さんの言動からは先輩に対する敬意の欠片も見当たらない。これ以上虎太郎が罵倒されると死んじゃう気がしたので私は虎太郎の手を引いて引っ張っていくことにする。
「紬さん、俺生徒会辞めてまで後輩にパシられるんだけど……会長だろなんとかしてくれ」
「花菱さんは気を利かせてくれたんだよ。言ったじゃん虎太郎……今日はデートなんだよ」
「……っ」
「……?虎太郎?」
虎太郎が石になった!!
「……俺、俺……デート中にメイド喫茶で手を繋いでニヤニヤ……」
「大丈夫だから虎太郎!!虎太郎にはもう守るべきプライドなんて欠片も残ってないよ!?」
「ごふっ!!」
虎太郎が吐血した!!
*******************
--折角思い出に溢れた母校に帰ってきたんだから色々見て回ろう。
私達は体育館の前にやって来た。
各クラスとかの出し物の案内が掲示された掲示板。なんでもないこの場所も私にとっては思い出の場所。
入学式の日。クラス分けの記された掲示板の前で私と虎太郎は出会ったんだ。
「虎太郎覚えてる?私と虎太郎が初めて会った場所だよ」
「ああ、紬さんが自分の名前読めなくて死にかけてたとこね」
「今死にかけてるのは虎太郎だよ」
あれから流れで生徒会に入ったり……
『せいし會』に襲われたり……
万物の記録を巡って図書館で冒険したり……
勉強したり……
たくさんの思い出の始まった場所。
「虎太郎……あのね」
「紬さん。なんか今舞台やってるって」
ちょうど人が掃けてきていい感じになった時虎太郎が間の悪いことになにかを見つけた。
今体育館でやってるらしい演劇。題は『屑と私』
どうしよう……面白くなさそうだ。でも、虎太郎は気になってしょうがない様子。
「……観る?」
「観よう」
--『屑と私』
主演私役--伏見珠代
屑役--小比類巻睦月
私の浮気相手役--三越伊勢
私の浮気相手の奥さん役--滝川エレキテル
その他etc……
あらすじとしては屑なDV旦那に虐げられる銀行員の私が銀行員の浮気役との関係に溺れ多額の横領をしていく……的な。
実際の事件を脚色したみたいなストーリーだ(パンフレット参照)
「紬さん、ポップコーン買ってきたよ。楽しみだね」
「ありがとう……」
胃もたれしそうな演目に対して虎太郎、ポップコーンまで持ってきてうきうきである。
そして劇が始まる……
「おらっ!!おらっ!!なんで味噌汁にえのきが入ってねぇんだっ!!ボケっ!!殺すぞ!?あぁっ!?」
「あなた……許してっ!!ああっ!!」
--スパーーンッ!!
「舐めてんのか!!おしりペンペンだっ!!ケツ出せ!!」
「お願いあなたっ!!お尻下膨れになっちゃうっ!!」
「へへへ……ベルトと有刺鉄線かどっちか選ばせてやる!!」
「あぁ……あぁっ!!」
--ベチィィィンッ!!!!
「あぁぁぁーーーっ!!!!」
……てな感じの屑と私のDVシーンが40分の劇のうち20分くらいを占めていた。半分の時間を占めるスパンキング音と私役の悲鳴……狂気の体育館。
「……虎太郎?寝てないよね?」
隣の虎太郎は糸目なので起きてるのか寝てるのか分からない。ただ起きてたとしたら身動ぎもせずに見入ってることは間違いない。
「ちゃんと観てる?」
「……紬さん、この体育館を見てると『せいし會』との戦いが懐かしく感じるね」
観てなかった。思い出の中だった。こんな下品なシーンの最中に思い出と邂逅して欲しくなかった。
後半になってようやく私が不倫を初めて横領に手を出し……
「あぁ……いけない。私には旦那が居るのよ?」
「……俺は日比谷さんの脚を舐めたいんだ」
「……?」
「君の脚で妥協するつもりは無い」
「……いや、台本通りやってよ」
「はぁ……はぁ……」
「舐めてんじゃん、妥協してんじゃん。てか君日比谷さんにフラれたんだよね?知ってるよ?」
……
「……虎太郎起きてる?ちゃんと観てる?」
「……体育館の照明に引っかかったバレーボールってどの学校にもあるよね。毎回思うんだけどあんな高くまでよく打ち上がるよね。紬さん」
虎太郎……演者がぺろぺろ脚舐めてるシーンで青春の1ページをめくってた。
多分ちゃんと観てない。自分から誘ったのに……
「はぁ……はぁ……金……金……ゼロがいっぱい……横領たのしい……はぁ……」
……
「虎太郎起き--」
「くかーーー」
「……」
「ぴーーー」
*******************
--『屑と私』結論から言うと照明係のゴツイ黒人が気になりすぎたのとどっちかと言うと『屑と私』というより『屑な私』だった。
「紬さん、面白かったかい?」
「……虎太郎は?」
「うん、スッキリしたよ」
そしてこの男、堂々と寝てました宣言である。クソみたいな劇に2000円も取られてこの始末……
虎太郎…もしミブチさんとそんな感じでお出かけしてたなら例えミブチさんにその気があったとしてもホテル前でフラれるよ……この人やる気あるの?
「でも……正直文化祭あんまり気乗りしなかったけど楽しいね。紬さんが一緒だからかな?」
「っ!?」
虎太郎、それは無理がある!!無理矢理ぶっこみすぎだろ!寝起きの顔が「退屈してました」って言ってるよ!?
「やっぱり高校時代ずっと一緒に居たから紬さんと一緒に居ると安心するね。俺の1番の親友は紬さんなのかもしれない」
「……」
--ここまで来て私、潮田紬にはいくつかの?がある。
ひとつは虎太郎のこの態度である。
虎太郎には「文化祭“デート”」って伝えたはず……もう正直これだけで告白なんではないかと思う私は初心なのかはさておきだ。
このなにも私を意識してない感じってなんなの?
これがちょっと前まで女の子に振り回されて〜とか言ってた恋愛脳お馬鹿さん?
あと虎太郎ってこんなキャラだっけ?
もうひとつの疑問としてはなにか用事を忘れてる気がする……まぁそれはいいや。
不意に訪れる不安感……どうしようこれ。私この流れで告白して成功するの?ミブチさん!!
「おや、紬さん占い屋があるよ」
「なんか文化祭というより観光地みたい」
次に虎太郎のハートを射止めたのは占い屋さんである。『オカルト同好会』なる同好会がやってるらしい。あと、料金表見たら5000円ってあった。平均的に高くない?この文化祭……
「いらっしゃいませ」
「ようこそ、占いの館へ」
「……良き」
入店すると暗幕の張られた内側はロウソクが1本点っているだけ。薄暗い室内に4人の顔が浮かんでいる。
「こらーっ!ロウソクは火事のリスクがあるからやめなさいって何度も言ってるでしょ!?」
「「「……」」」
外から雰囲気をぶち壊す見回りの先生はさておき。
「さて、何を占ってほしいのかな?お客人」
「恋愛、仕事運、金運は5000円から。特別コース人生プロデュースプランは10000円からになってます」
「……良き」
……高い。
ぼったくりの価格帯に絶望していた時、私はあることに気づく。
それは4人居ると思っていたテント内……そこに浮かび上がる青白い顔に違和感を覚えたところから。
それが人では無いということに気づくのは、後ろにどっしり構える山のような獣の巨体のシルエット。
その顔よく見たら角とか生えてるし……どう見ても四足歩行の獣の頭に人の顔が張り付いていた!
「うわきゃぁっ!?」
「どうした!?紬さん!!」
「こ、虎太郎!!人面の何かが……っ!!」
「なんだそんなことか」
虎太郎はタルタロスの冒険を経て並大抵のことでは動じなくなってしまった。
私が悲鳴をあげた謎のそれについて、したり顔の男子が説明を補足する。
「よく気づいたなお客人。そう、この占いの館は件を使ってその人の未来を占う…特別な占いの館なのだ」
「あまりの正確性の為料は割高になってます。ご了承ください」
「……良き」
……件?
「件っていうのは牛の体に人の顔がついた妖怪だよ。未来に起こる災いなんかを予言したって言い伝えもあるんだ」
虎太郎は目の前に本物の妖怪が居るのに眉ひとつ動かさない。まぁ魔眼持ちの虎太郎自身が妖怪みたいなところがあるから納得である。
恐怖と不気味さのあまり虎太郎にしがみつく私。動じない虎太郎に男らしさを見たけど正直こんなかたちで見せられたくはなかった……
「で?どうします?」
料金表を差し出されながら男子にコースの選択を迫られる。
「……じゃあ、俺人生プロデュースプランで」
「虎太郎大丈夫?10000円だよ?騙されてないこれ?」
「大丈夫さ紬さん。俺、感じるんだ……この件から未知のパワーを……」
未知のパワーとか言い出したよこの人。疑うことを知らない曇りなき眼してる。あ、糸目で眼見えなかった。
「毎度、では阿久津君」
「はい」
男子に促されメガネの女子が足下から大きな水晶玉を持ち出してきた。彼女は念を込めるようにそれに手をかざして「見える……見えます……」と唸る。
は?件は?
「なにが見えます?俺の人生……」
「はい……受難。大きな災いの波がいくつも見えます……」
「わ、災い……?」
「ふふ、阿久津の未来予知はもはや見聞色の覇気クラスですよ。お客人……」
「……良き」
件使わないの?あれ?さっきまでのくだり丸々なによ。
「災いとは……俺の人生の災いって一体……」
「いくつもの大きな災いが降りかかるでしょう……普通の人のような人生は望めません」
「紬さんすごく怖いこと言ってるよ……」
「……まぁ、目を見たら石になるからね。普通の人生は無理だよ、虎太郎」
「あー……具体的には……沢山の人から騙されます」
「っ!?」
「今この瞬間にも、騙されています」
「……っ!?」
そりゃ現在進行形であなた達が騙してるもの……
こうなってくると奥に佇むこの人面牛不気味で仕方ないよ。なんなの?
「そんなあなたの人生設計プランですが……」
「……っ(ごくり)」
「…………誰も信用してはいけません。騙されますので。あと、雨の日は出歩いてはいけません。騙されますので。新しいことにチャレンジしてはいけません。騙されますので。仕事を真面目にしてはいけません。騙されますので。ペットを飼ってはいけません。騙されますので」
人生どん詰まりで草。
「宝くじは凶でしょう」
「きょう……?今日当たるってこと?」
「あなたの人生にとって凶でしょう」
「きょうってなに?今というこの日?それとも都?京都の都?」
「凶でしょう」
「なるほど……?」
「誰も信用してはいけません」
きっと虎太郎は将来こんな感じの人から沢山騙されるんだ……私がついてしっかり守ってあげないといけないんだ……
嘘つき占い師から大切なことを教わった気がした。
「毎度、お客人。10000円です」
「嘘だ。俺は何も信じない」
「いやいや、お客人、お金は払ってもらわなきゃ困りますよ?」
「信じない。俺はそんな言葉は信じないぞ」
「ごねるんですか?校内保守警備同好会呼びますぜ?」
「俺は信じない」
「……良き」




