ランボル姉貴と浪漫旅行記
--今日は待ちに待った文化祭っ!!
「別に待ってねぇよ」
たくさんの人が出入りする今日、みんなが安全に楽しめるように校内保守警備同好会、一層警備に力を入れていこうと思いますっ!!
「やだよ、めんどくせぇ」
浅野詩音でしたっ!!
「達也ぁぁ……」
「--俺と、やり直してくれないか?」
さて、謎の殺気を感じて駆けつけてみればなんだかほっこりする光景を見せられて、とりあえず問題なさそうなので一安心。まぁ、今は神楽さんが門番当番なので大概の事は問題にならないと思うけど……
「あ、お疲れ様です。代表」
と、神楽さん(と小麦色の肌の女の子と翼の生えた女性)が声をかけてくれた。
「おい!?その翼の生えた女はなんだっ!?」
「お疲れ様です、神楽さん。何事もない?」
「ええ詩音さん。少しゴタゴタしかけましたが……今のところ問題ないです」
「問題あるぞ!?なんだソイツはっ!?」
「交代するね?神楽さんは文化祭回ってきなよ」
「ありがとうございます」
「待て!?この翼の生えた奴を連れて行け!!」
門番係を交代させて私と美夜の番です。
「おいっ!?なんだお前はっ!!なんで翼が生えてんだっ!?」
「私?ミートソース・ブルーマウンテン・チーズカマボコ」
「ふざけてんのか!?」
もぅ、美夜ったら文化祭だからってはしゃいじゃって。今更翼が生えてるくらいのことで…
「こんにちは」
「こんにちは、ようこそ文化祭へ」
とここで正門に新たにお客さんがやって来た。
ジーパンに白Tの上からブラウンのコートを羽織った素敵な女性。大人びて見えるけど茶髪のショートカットに縁取られた顔立ちはそんなに歳は変わらなく見えた。肩から下げたミニバッグは軽快な出で立ちを強調する。
落ち着いたシンプルな服装の醸す大人びた雰囲気。カッコイイ大人の女性っぽい女の子である。
「招待状をお持ちですか?」
「え?招待状?」
尋ねるとその人はキョトンとした顔で返す。
「姉さん!!アイツ逃げたっ!!空飛んで逃げたぞっ!!」
「すみません…招待状をお持ちでないお客さんは入場できないんです」
「えー……それは初耳だなぁ」
「安全強化月間でして……」「そうなのか?初耳だ」
困り果てた顔をする彼女に申し訳ない気持ちになる。しかし、招待状がないということは生徒の身内でもなさそうだし……
何処の馬の骨とも知れない人は入れられない。
「後輩の学校の文化祭だからわざわざ来たんだけど……」
「ごめんなさい」
「……神戸からはるばる来たんだけど…」
「ごめんなさい」
「……あー、道混んでたな」
「ごめんなさい」
「免許取りたてで頑張って走ってきたんだけど。神戸から」
「ごめんなさい」
「ガソリン代高かった」
「ごめんなさい」
「ランボルギーニで来たからさ……燃費悪いんだよね。めっちゃガソリン食ったわ」
「ごめんなさい」
「またとんぼ返りしたらガソリン代がもったいないよォ……」
し、しつこいなこの人……
後ろから睨みを効かせる妹を何とか抑えつつ、穏便に帰ってもらう為に頭を働かせる。
「あーあ、楽しみに来たんだけど……」
「本当に申し訳ないです。でも、この文化祭めっちゃつまらないので……正直見て回っても時間を無駄にするだけなんじゃないかと思いますよ?それよりも街を観光でもして帰った方がいいんじゃないでしょうか?」
「私、今日の為に4時起きしたんだけど?」
「4時起きの価値はあると思いますよ。この街は」
「でも、ここの文化祭去年テレビに出てたよね?とっても楽しそうに見えたけど……」
「いえいえ全然。もうクソほども楽しくないです。つまんなすぎてそこら辺でみんな寝こけてますから」
「あれ?楽しくないんだって、文化祭」「なんだよ……折角招待状貰ったけどやめとくか」
ああっ!!奥のお客さんが帰っていくっ!!くっ!!……我が校の収益がっ!!
「えーーー、後輩に逢いに来たのに…」
「いやいや、後輩さんもつまんないから来て欲しくないって言ってましたもん」
「じゃあ文化祭はいいから後輩に会わせてくれない?会ったらすぐ帰るから」
「いえいえ、後輩さんも会いたくないって言ってました」
いよいよ痺れを切らせて前に出てくる美夜の消火器をなんとか取り上げていたら「そっかぁ……」と彼女は納得してくれた様子で頷いた。
「じゃあ、やめとこうかな……あーあ、折角神戸から来たのに」
「申し訳ございません。観光を楽しんで帰ってください」「二度と来んじゃねーぞ?」
お帰りだ。私達は揃って頭を下げて踵を返す女性を見送る……
……と思ったら彼女、背中を向けているのになかなか帰ろうとしない。なんかずっとこっちをチラチラ見てる……
「……」「おい、アイツ帰らないよ姉さん。なんか怪しくね?拘束するか?」
「……ちら」
「やっぱり怪しいぞ姉さん!ちらって言ってる!!」
「……ちらっ…ちらっ」
「口で言ってるぞ!!口でちらって言ってる!!」
なかなか帰らない彼女はそのまま回れ右してまたこっちにやって来た。警戒する美夜が消火器を構える。物騒な得物を除けば威嚇するチワワみたいな可愛さを感じさせてくれる。
「……」
「……なにか?」
「…神戸から--」
「すみませんほんとに。でも規則なんです」
「私さ、神戸から来てるからこっちのこと全然分からないんだ。観光楽しんでって言われてもどこをどう楽しんだらいいのか分からないんだよね」
「……」「……」
「案内してくれないかな?」
「いえ……あの、私達学校から出られないので--」
「神戸から遠かったなぁぁぁぁぁぁ」
……なんだろう。この人からとてつもなく変人の香りを感じる。てか、変だっ!!
「あぁぁぁぁぁっ!!クラッチペダル踏みすぎて左足がぁぁぁぁぁっ!!!!」
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浅野姉妹と行く!!桜の街観光ツアーっ!!
……と、言うことで見知らぬ女の子と街に繰り出した私達浅野姉妹。
だって「案内しないならポルシェで突っ込む」って言うんだもの……ランボルギーニは?
「楽しもうね♪」
「楽しもうね♪じゃねぇよ。お前ふざけんな。どうなってんだ。この街には馬鹿と変態と狂人しか居ないの?」
美夜は早くも仲良くなりそうだ。
「それでこの街はなにが楽しいの?」
「えっとですね……桜が有名です」
「今10月だよ?」
「紅葉も名物です」
「どこにもないよ?」
「えっとですね……山の方へ行けば……」
「行こう」
「温泉もありますので……」
「待て、冗談じゃねぇぞ?近場にしろ近場に」
ぼちぼち燃え上がり始める秋の色合いは美夜には不評みたいで、他の観光名所を探すことに……
……ぶっちゃけこの街、桜以外に特に見るとこない。どこにでもある地方都市故……
というわけで無難に駅の方へ行くことに…駅まで出ていけば時間など早馬の如し。もう瞬きの間に消え去る。
「文化祭よりも楽しいと噂のこの街。楽しみにしているよ?わくわく♪つまらなかったらベンツで突っ込んじゃう」
やたらハードルを上げつつしっかり脅しも織り込むこの鬼畜。彼女を満足させるのが私達の任務。この学校の平和は私達の両肩にかかっているっ!!
「おい、石屋があるぞ石屋」
と、美夜が何かを発見。
石屋とはパワーストーンとか石でできたアクセサリーとか売ってるお店の事だった。見知った街だと思ってたけど探してみれば目新しい発見も沢山。
そしてランボル姉貴も興味をそそられたらしいので入店!!
「おぉ……」「わぁ……」「うほっ♡」
小さなお店の中は照明に当てられた宝石のような石達がキラキラ輝いていて、アロマ?の香りも漂いオシャレな女子高生の放課後である。クラシカルな雰囲気が魔女の隠れ家みたいだ。
「おぉー、こんな店あったんだぁ。私が居た頃はなかったぞ」
「え?」「え?」
私、居たの?この街。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃったよ。素敵な運命の出会いを探してるんだ。運命頂戴」
「姉さんコイツ電波だ」「こら、美夜!」
不思議な不思議なランボル姉貴にも店員さんはまるで百貨店のエリートスタッフの如く「それでしたらこちらはいかがでしょう?」と完璧な答えを導き出してくれる。
薄ピンクの石でできたブレスレットである。いちごミルクの飴玉みたいで美味しそうだ。
「なんすかこれ?」
「こちら当店オリジナルのインカローズのブレスレットでございます。インカローズには運命の相手と巡り合わせてくれるパワーがあるんですよ」
「まぢか。どうかな?」
「いいんじゃないですか?」「お似合いお似合い。それにしとけ」
ブレスレットを手に取ったランボル姉貴は「パワーを感じる」と呟いている。心做しか髪の毛が逆立って見えた。
「……君は引力を信じるか?」
「え?」「突然何ほざけてんだ」
「この出会いに意味があると--」
「出来れば考えたくないですね」「あるとしても今すぐその引力を断ち切りたい。お前は神戸に帰れ」
随分気に入った様子……お土産にぴったりだと思--
「でも私カレシ居るからなぁ…」
「……」「……」
この人のカレシは大変そうだ……
「もっとこう……違う運命に巡り会いたいんだ店員さん。例えばスタンド使いとか…」
「スタンド使いは勝手に惹かれ合うものですので……そうですねぇ……」
次に手を取ったのは黒い石。黒糖飴みたいで美味しそうだ。
「オブシディアンのブレスレットです。この石には潜在能力を開花させる力があるんですよ。スタンド能力にもお目覚めになられるかと……」
「いや、スタンドはスタンドの矢じゃないと開花しないから」
「あ……すみません……」
「うん、適当こかないでくれる?」
じゃあこの人は一生スタンド使いには巡り会えないと思う。
「私さ、仕事運アップさせたいんだけど…」
「お仕事何されてるんですか?」
「惑星ペカポッポ侵略先鋒隊長」
「……?」
店員さんが困ってる!!
「で、でしたら……タイガーアイなどおすすめですよ?お仕事の運気アップ、金運アップのパワーストーンとして有名です」
「……これ付けてたら戦闘民族ライシャノット星人に勝てる?」
「……え?」
「私の戦闘力が今53万くらいなんだけど1億はないと厳しいんだよねーあいつら」
「…………???」
「金運とかいいからさ、戦闘力アップさせてくれる石ちょーだい?」
「せ、戦闘力…………」
店員さんの頭から湯気が出始めた。これは危険だ。ランボル姉貴のペースについていけなくなっている。
「……戦闘力でしたら、こちらがおすすめかと……」
出てきたのは煌びやかな店内に不釣り合い極まりない無骨な石ころ。もはやただの石。
「こちら隕石の破片でございます。多分凄いパワーを秘めてると思うのでライシャノット星人も目ではないかと……」
「なんでこんなとこに隕石あんだよ……」「美夜、すごいね。ゼロがたくさんだよ。誰が買うのこれ?」
おっと、ランボル姉貴。かつてないほど運命を感じているのか隕石をじっっっと見つめている。
そして隕石に飽きた美夜は奥の水晶に手をかざしだした。
「……ふぅん。なんか……パワーを感じるね。今までにない力の奔流だよ。これ」
「ありがとうございます」
「姉さん!今水晶に未来が映った!!探偵事務所してるぞ将来!!」
「このパワーは……まさか、これ…スタンドの矢!?」
「姉さん!この水晶買おう!!占いの館やろ!!」
……とんでもないことが連続して起こっている!!
ランボル姉貴、この億超の隕石ご購入なるか!?私は固唾を呑んで見守るしかない。
そして……
「……お買い上げになられますか?お客様--」
「あ、財布持ってきてねぇわ」
「……」「……」
……金がなければ運命も掴めない。そんな大切なことをこの人は教えてくれた。
ありがとうランボル姉貴。私タイガーアイ買います。
「ツケで」
「なりませんお客様」




