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伝説の生徒会役員達

 --ドキドキドキドキ


 ついにこの日が来たんだね……

 東京を離れて懐かしの地元へ帰ってきたら駅に一歩降り立った瞬間に色んな感情が流れ込んできた。

 懐かしいような……新鮮なような……

 高校時代に幾度も降りたはずの駅の景色がなんだかこんなだっけ?って感覚で私“達”を出迎えてくれた。


「……ようやく着いたね。紬さん」

「うん……」


 潮田紬は広瀬虎太郎に恋してる。

 そしてここは私達の地元--かつてドタバタの高校時代を過ごした桜の街だ。


 かつての後輩からお呼ばれして今日は母校の文化祭。

 そう……虎太郎と2人……


「さぁ行こっか。虎太郎、招待状持ってる?」

「持ってるよ」

「もう始まってる時間だね……行こう虎太郎」


 私は渾身の勇気を振り絞って虎太郎の手を取った。


 文化祭デートだっ!


 *******************


「--フラグは立った」


 文化祭前日。

 すっかりいつもの場所になりつつある公園のベンチで私の恋のキューピット、ミートソース・ブルマウンテン・チーズカマボコ--略してミブチさんが私に告げる。真剣な口調だ。


「タルタロスまでの旅を経て……君と虎太郎君の運命は大きく進展した」

「待ってタルタロスってなんですか?」

「メデューサの魔力を宿したことで君はもう虎太郎君の魔眼で石化することもないだろう……」

「色々突っ込ませてもらっていいですか?」

「がっ!これらは全て運命がなるべくして課した試練っ!!これまでの全てがだよ!!そして、その過程--積み重ねは君が作ってきた道!!私は十分に可能性を感じているっ!!」


 ……ごくりっ


「女の子相手に散々恥をかいた虎太郎君、その傷に優しく染み込む君の優しさ……そして共に青春を過ごした懐かしのあの場所……全てがゴールテープに向かって動き出しているっ!!」

「おぉ……」

「そしてっ!逆に言えばここを逃したならもう次は無いっ!!」


 ……っ!!


「……告れ」


 ミブチさんは有無を言わせぬ気迫で私に詰め寄った。超真剣な眼差しにはおふざけはない。

 つまり--明日が勝負だと……


「……でも、私虎太郎と同じ大学に受かってから--」

「なら君達に未来はないね。うん」


 そんな殺生な……


「紬ちゃん、何度も何度も言ってるけど、2人の運命を繋ぐのはあくまで君達自身だ……そしてついに君は自分の力でその糸を繋いだんだよ?」

「……っ」

「傷心の虎太郎君へ文化祭デートのお誘い……これはもう、告るしかない。というか、ここでまたなにもなかったら虎太郎君、更に精神ダメージ受けて死ぬよ?」

「死--」

「他でもない君の選択だっ!!紬ちゃんっ!!」


 まだ覚悟の固まらない私の肩を掴んでミブチさんが強く、強く告げる。私の恋を支え続けてくれた戦友がありたったけの勇気をくれる……


「明日、戦いを終わらせるんだっ!!じゃないと私、いつまで経っても天界に帰れないでしょっ!?」


 はずだったんだけど……


 *******************


「虎太郎、今日の服、どうかな?」

「えっ?」


 手を繋いで学校まで歩く道中、私達はどっからどー見てもカップルだったと思う。

 ただ惜しむべくは虎太郎の初さ……


「あー…………し、白くて、もふもふしているね」


 いや、2度に渡る失恋によるダメージか。


「虎太郎はかっこいいね。うん。かっこいいよ」

「…本当かい?具体的には?」

「え?……えっと……なんか……気取ってない感じというか……家からそのまま出てきました的な……」

「……」

「……」


 残念が過ぎるのは私の男性経験の無さか。


 そしてやってきた我が母校。

 正門にはカラフルなアーチがかかって遠くの校舎にも賑やかな横断幕とか飾りとかが見える。一気に懐かしさが込み上げてくる。つい1年前、ここで生活してたのになんだかとっても感慨深いよ。


「ようこそ文化祭へ!」「招待状をお持ちですか?」


 しかし正門になぜか消火器を持った門番が居る。いや、これくらいは普通か……


 私達の差し出した招待状を目にした門番さんは「広瀬先輩と潮田先輩ですね」とはにかんだ。

 たしかに招待状には名前が綴ってあったけど……


「少々お待ちください」と告げられ門番に待たされること数分……


 奥の方から手を振ってやって来るふたつの人影に私も虎太郎も思わず口元が綻んだ。

 そこにはかつての仲間--可愛い後輩が変わらず元気な姿で居たから。


「浅野さん」

「久しぶり…」


 やってきた浅野姉妹の姿に一気に気持ちが高校時代にタイムスリップした。


「お久しぶりです、広瀬先輩、潮田先輩」

「……うす」


 浅野詩音と浅野美夜--

 彼女らは私達の後輩、詩音さんは元生徒会のメンバー。一緒に仕事をした期間はほぼ皆無だったし、浅野姉妹の問題に巻き込まれてなんやかんや大変だったけど、なんだかんだ今ではいい思い出です。


 相変わらず手錠で繋がれた姉妹は今校内保守警備同好会の代表を2人でしてるんだって。


「元気そうでよかったよ。2人とも仲良くしてるかい?」

「おかげさまで。広瀬先輩はなんだか垢抜けした気がします。ね?美夜」「……そうか?」


 詩音さんも美夜さんもなんだか少し雰囲気が変わった気がした。特に美夜さんは私が知ってる頃より遥かに目付きとかが丸くなった気がする。


 さて、懐かしい再会もほどほどに詩音さんが手を叩いて「皆さんももういらっしゃってますよ!」と言う。


 ……皆さん?


「もしかして、生徒会のみんなも来てるのかい?」

「ええ。皆さん来てくださいました!久しぶりに皆さん集まりたいと仰ってましたし!」「……ついでにあのクレイジーコンビも」


 ……そっか。みんな集まってるんだ。

 元生徒会のみんな…懐かしい。卒業旅行か会ってない。会いたいな……


 ……いや待て?

 みんなに会っちゃったら「文化祭デート」じゃなくなっちゃわない?


 唐突に湧いて出る葛藤--懐かしいメンバーに会いたい気持ちと、虎太郎を落とさなければならない使命との間で--



「--潮田、広瀬!」


 ああ、葛藤する間もなく私達を呼ぶ懐かしい声。

 遠くだけどあのメガネ……忘れるはずもない。とりあえずデートは一旦端に置いといて私達は懐かしいさに従って彼らの元へ……


「久しぶりだな、小河原」

「久しぶり小河原君。メガネが輝いてるね」


 小河原秀哉君。メガネが本体。相変わらずのインテリ風メガネである。今日もメガネが太陽光を反射して輝いてる。本体より輝いてる。


「俺のメガネはいつもピカピカさ」

「おーい!虎太郎、紬、知ってる!?こいつカノジョができたんだってよ!」


 花菱百合子。球技大会で刺さったバッドの穴はパテで埋めてあるから大丈夫。相変わらずのハイテンションに安心。


「スーーハーースーーハーーッ!」


 大葉雄太郎君。エナジードリンク中毒。まだ治ってない。


「懐かしいメンバーが揃いましたねっ!!」「オグリマスも喜んでるぜ。ヒーーーッハァァァァッ!!」


 そして後輩の長篠風香さんと田畑レンさん。こんなキャラだっただろうか…?元々変な子だとは思っていたけど…


「…ブルルルルッ」

「……なに、こいつ」

「アフリカスイギュウのオグリマスです。広瀬先輩、乗ってみますか?」「こいつ、肉が固くて食えねぇんスよ。はははははっ!!」


 アフリカスイギュウのオグリマス君。デカい。鼻息で吹き飛ばされそうだ。


 --そして浅野姉妹。

 1人も欠けることなく、あの時の生徒会メンバーが揃った…いや、詩音さんが居るからあの時よりも完璧に揃った。多分、このメンバーでの生徒会が発足された時以来なんじゃないだろうか?


「いやぁ…こうして懐かしい面子で集まると感慨深いな…みんなの顔ですらなんか有難く見えてくるんだから不思議だ…」

「スーーッハーーッ」

「大葉もそうだなって言ってる」


 小河原君はエナジードリンク中毒者との意思疎通に成功した。


「雄太郎、今度私が通ってる看護学校来なよ。治してやるからそれ」

「スーーハーーッ」


 花菱さんは相変わらず根は優しいんだ。そして大葉君はみんなの人気者…というよりこんなだからみんな心配で仕方ない。この人これでも自動車整備工場に就職したんだけど職場では上手くやれてるのかな?


 ……みんな変わらないな。


「浅野ぉ…お前らアレだ。よくもぬけぬけとこの集まりに顔出せたな?」「レン、なんであなたはいつもそうやって空気を悪くしようとするの?」


 と、ここで田畑さんが浅野姉妹に噛み付いた。

 …まぁ、2年生になっても生徒会に立候補しようとしたのに彼女ら姉妹のせいで生徒会そのものが無くなっちゃって、田畑さんと長篠さんの気持ちも分からなくはないけど…


「……それは、申し訳ないと思ってる。本当に…先輩達にも迷惑をかけ「おい、誰に口聞いてんだ?てめぇら散々校内の風紀を乱しといて何様?言っとくけどお前ら、私よりやべーからな?」


 殊勝な詩音さんに反して凶暴な美夜さん。柔らかくなったっていう印象は勘違いだったみたいです。


「そのアフリカスイギュウ、うちの最強戦力に頼んで3枚卸しにしてやろうか?てか、私の権限でお前ら100年でも200年でも閉じ込めておけるんだからな?あ?」

「なっ…なんだぁ浅野美夜!!やんのか!?」「レンっ!校内保守警備同好会だよ!!やばいよ!?敵に回さない方がいいって!!」


 …私達の知らない間に校内保守警備同好会はみんなから恐れられる組織になったらしい。私達が居た頃はみかじめ料とか取ってた。


「ねーねー、紬」


 と、後輩達のじゃれ合いを眺めていたら花菱さんがヒソヒソ声をかけてきた。


「虎太郎と一緒に来たみたいだけどさー…なに?ついにお付き合い、初めたの?聞いたよ?今東京住んでんでしょ?紬」

「……」


 …生徒会メンバーの同級生組は私が虎太郎を好きなのを知ってる。応援もしてくれてた。

 それだけに今日は気まずかった。けど、なんか1人ウキウキしてる花菱さんの前で嘘はつけなくて…


「…まだ、だけど。今日虎太郎誘ったのは…告白する為……」

「きゃーーーーっ!?!?」

「どうした?花菱」「スーーハーーッ」


 そんな…殺人現場に居合わせたレベルの悲鳴あげなくても。虎太郎の視線が怖い。

 しかしそこは花菱さん。


「そっかぁ!!でも…私ら居たら邪魔だね」

「…いや、そんなこと……ある」

「よっしゃ!私がタイミング見て2人きりにしてあげるよ!!いい雰囲気作ってあげるからさ!!ガンバっ!!」


 …花菱さん。どこぞの天使より気が利いてるよ。ありがとう。


「ひぇ…すんません。お詫びと言っちゃなんですが知り合いが店やってんで招待します……安くさせるんで勘弁してくだせぇ…本当に…700年は無理っす」「お願い浅野さん。オグリマスはなにも悪くないの…」


 ちょうどそのタイミングで浅野姉妹に屈服した田畑さんと長篠さんの提案で安くて美味しい出店に行くことに…


 --ドンッ!!


「っ!?」

「な、なに?今の感じ…」

「スーーハーーッ」

「感じたかみんな?なんか…命の危機を一瞬感じたんだが…」

「なんだい?一体…この感じ…タルタロスの時に似てる…」


 なんか殺気みたいのを感じた…気がする。


「…何かあったみたいです。すみません皆さん、私達少し見てきます」「いいよ姉さん。こういう時こそ大人しくしとくもんだって。神楽も居るし大丈夫だって」


 詩音さん、ここで謎の殺気に対し美夜さんを連れて私達から離脱していく…「いやだっ!!絶対ろくなことねぇっ!!」と必死に抵抗する美夜さんがなんだか可哀想だった。

 でも固い絆を表す手錠により2人は一心同体だった。


「…では田畑と長篠。その店とやらに案内してもらおうか。俺のメガネが食を求めている」

「飯飯〜♫」

「スーーーーーハーーーーッ!!」


 …この感じ久しぶりだ。


「…懐かしいね、虎太郎」

「…そうだね」


 気づけば私も虎太郎も表情が柔らかい。最初はどうなるかと思ったけど、いい感じにお互い緊張が解れたみたい…


 --文化祭デート、楽しむぞっ。

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