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お前は一生目を開けるな

「虎太郎君、魔眼持ちだったんだ…」


 --天界人口管理局日本支部少子化対策特別室室長

 ミートソース・ブルーマウンテン・チーズカマボコ。略してミブチ。

 日本の少子化対策の為のカップル成立サポートプロジェクト『はよヤれ』の責任者として今下界に降りあるカップルの成立の為奮闘中。

 それがこの広瀬虎太郎と潮田紬。

 結ばれるまでに幾多の困難立ち塞がるこの2人をくっつける為私は今潮田紬のサポートに回ってるんだけど…


 どうやらその『最大の困難』が到来したみたい。


 虎太郎君が運び込んで来たのは完全に石化した紬。なんか…石になってる。叩いてみたらコツコツって音がした。

 まるでメデューサにでも睨まれたかのような……


「なんか…俺が目を開いたら石になっちゃった」


 半泣き(糸目)の虎太郎君。

 どうやら彼は魔眼持ちだったらしい。


 --魔眼とは。

 魔力を宿した眼のこと。見られたら石になる。

 かつてペルセウスの献上した魔物メデューサの首を盾に付け敵対者を尽く石にしたという女神アテナのアイギスの盾。そのアイギスの盾から滴り落ちたメデューサの血が下界の地に染み込みそれにより生まれてくるという。


 虎太郎君はそういう人だった。


「実渕さんこれ…どうしよう?」

「なんで私のとこに連れてきたのよ」


 完全にカチコチにされた紬はこのままでは元に戻らないだろう…そして彼が私に助けを求めてきたのはやはり引力。2人の運命は確かに繋がっているという証拠か……


 ……まぁ私もこの2人くっつけるの仕事だし。このまま石像やられても困るわ。そういう意味では私に助けを求めてきたのは都合がいい。

 つまり私には紬を助ける手がある。


「とりあえず虎太郎君は一生糸目で生きなよ。あと、紬ちゃんは私が何とか治してあげよう」

「え?……実渕さんにどうこうできるの?ていうか、誰の手にかかっても手遅れ感があるけど……」

「そりゃ普通の人にはね……正確には何とか治せる方法を知ってる…かな?」

「実渕さんはあれか?ファンタジーに出てくるたまたま出会ったら魔王の倒し方詳しく教えてくれる便利なおじいちゃん?」


 軽口叩く虎太郎君には緊張感もこの前私と気まずくなったことへの引け目も感じられない。

 私は紬を抱えた虎太郎君を壁に追い詰め壁ドンする。


「うわぁぁっ!!もうやめてくれっ!!俺はもう騙されたくないっ!!や、やめろぉぉぉっ!!俺を誘惑するなぁぁっ!!」

「違うから……虎太郎く--あぁっ!?目を開くなっ!!」


 ブスッ!!


 私のダブルフィンガーが開きかける魔眼を潰す。危うく私の体まで石化するところだった……

 天使すら石化させるとは……恐ろしい。恐らく魔眼の中でも最上級。これは天界に封印案件では?


 ……まぁめんどくさいからいっか。


 ただでさえこの2人めんどくさいんだ。面倒は極力最小限でお願いしたい。

 なことはどーでもいいので私は壁ドンしたまま血涙を流す虎太郎君に覚悟を問う。


「紬ちゃんを元に戻すには過酷な旅を乗り越える必要がある……虎太郎君にその覚悟がある?」

「……?き、急に何?」

「紬ちゃんの為に命かけられる?」

「命かける案件なの!?」


 アンタのせいで紬石になって死にかけてんだろーが。ん?石になったら死ぬのか?


 私の問いかけに虎太郎君流石に困惑。どうやら覚悟が足りないみたいだ。

 しかし紬を元に戻すにはそれなりに試練を乗り越える必要がある。半端な覚悟ではダメだ。

 ……ここで虎太郎君にくたばられでもしたらそれこそここまでの努力がパーだし、仕方ない。ここは私が……


 その時虎太郎君は見えてるのか知らんけど絹の糸より細い目で手元の紙切れを見つめていた。細長いそれを両手でぎゅっと大事そうに握りしめる。

 手を離すもんだから紬が地面に落ちてた。危ねぇな割れたら死ぬぞ?


「……それは?」


 紬より大切そうなそれはなに?


「……母校の文化祭の招待券」

「ほぅ」


 あ、紬が渡しに行ったやつか。


「紬さんに貰ったんだ……こんな俺に……女の子をホテルに連れ込むような俺に……一緒に行こうって……」

「お、おぅ……」


 虎太郎君の決意が固まった。覚悟の眼差し。眼差しを受けた外の雀が石化して落ちていく。


「俺……紬さんを助ける。命をかけてでも…っ!」

「……死ぬかもしれないよ?」

「どんな困難にも打ち勝ってみせる。俺は……紬さんと文化祭に行くんだ……っ!!」


 --予感があった。

 この試練を乗り越えたなら、私の役目は終わるんじゃないかって…

 虎太郎君の強い覚悟を受けて私はそんな予感を予感よりも確かな感触として感じていた…


「……いいよ。教えてあげる。紬ちゃんを助ける方法」

「ありがとうだけどなんでそんなこと君が知ってるの?」


 *******************


「--いいかい?虎太郎君。君のその魔眼は太古の神話の時代……魔物メデューサの血涙から力を得たものだ」

「魔眼ってなんだい?」

「魔眼の呪いを解除する方法は私の知る限りひとつ……メデューサの魔力をその身に宿すこと。早い話、体に抗体を作る」

「ほむほむ」

「その為にはメデューサの血が必要だ。でもメデューサは英雄ペルセウスに討たれてる。今彼女は冥界の監獄タルタロスに救われぬ魂として封印されてるの」

「……」

「私達はタルタロスに降りてメデューサの首をもっかいチョンパして血を手に入れる。その為にまずタルタロスに入るのに必要な鍵を手に入れる」

「…………」

「タルタロスの門番、魔物カムペー…コイツを倒して鍵を奪い取らなきゃならない」

「……ごめんね?話に全く着いて行けないよ、俺」

「でもカムペーはかつて巨人族すら押さえ込んだ最強の門番……私達の力じゃ勝てない。勝つ為に必要な助言を今から貰いに行くよ」

「待ってくれその前に……」


 翼で空を飛ぶ私の脚にしがみついた虎太郎君が半泣きで叫ぶ。この期に及んで覚悟が揺らいでいるとでも?


「なに!?なんで飛んでるの!?アンタ何者!?てか俺が何者!?こんなぶっ飛んだ体験は高校時代にもなかったぞ!?」

「……私の正体についてはまぁいずれ。そしてその助言をくれるのが……グライアイの三姉妹。魔女よ」

「知らない知らないっ!!」


 さて、というわけで過酷な命懸けの旅(文化祭までのタイムリミット付)が始まった。


 本日私達がお邪魔させて頂くのが予言の魔女、グライアイ三姉妹が住む岩屋です。

 場所はオーケアノスの端っこくらい。


 そこの切り立った岩山の山頂にお住いがございますのでアポ無し突撃させて頂きます。


「虎太郎君、気をつけるんだよ。彼女らは性格が悪いからね」

「待ってくれここはどこ?海外?パスポートは!?」


 山の岩壁にぽっかり空いた穴の中に私は滑り込んだ。

 中では目的の三姉妹が『火曜どうでしょう?』をアナログで観てた。このオーケアノスは地デジ対応してなくてもテレビを観れる世界で唯一の神域でもある。


 寝っ転がって煎餅かじってた三姉妹はびっくりして飛び起きた。


 --グライアイ三姉妹。

 海神ポルキュースとケートーの間に産まれた怪物三姉妹。その姿は灰色の細い髪の毛とシワだらけの皮膚…典型的な中年太りのおばさんって感じである。色あせたピンクのエプロンがよく映える。

 そして極めつけなのはなんとこの三姉妹。歯と目が1個ずつしかなくてそれを三姉妹で共有してるんだとか!!

 目はともかくたった1本しかない歯って役に立つんだろうか…?好きな人が被っちゃったどこぞの五姉妹もびっくりである。


 三姉妹はアポ無し訪問した私達に対してひとつしかない目ん玉にを手に持ってこちらに向けてくる。お怒りだ。


「なんだいアンタらは!!」「いきなり入ってきてんじゃないわよっ!!」「どういうつもりだいっ!!」

「--天界人口管理局日本支部少子化対策特別室室長、ミートソース・ブルーマウンテン・チーズカマボコ。グライアイ三姉妹、天界地上治安維持法に則りいかなる場合も協力してもらう」

「実渕さん!?君は本当に何者!?どうして翼が生えてるんだっ!?」

「うるさいな。この翼はド○キで買ったんだよ」


 魔眼持ちがなに翼くらいで喚いてんのよ。


「天界……?アンタ天使かい?」「貧相な天使も居たもんだね」「お断りだねっ!」

「貧相ってなによ?いいから質問に答えて。タルタロスの門番カムペーを倒したいから助言をして。なんかこう……楽ちんで畳んじゃえるような方法ない?」


 天使を軽んじるおバカ三姉妹は私の問いかけにゲラゲラと笑う。ちなみに目ん玉は今長女、歯は三女が持ってる。

 知らんけど。皆同じ顔に見える。


「タルタロス?いくら天使でもあそこに降りたらタダではすまないよ」「命知らずだね。それにカムペーを倒す?」「あれを殺せるのは神くらいのものさ。巨人だって勝てやしない!」

「……うん、その…神様とかは面倒臭いからなるべく地上でできそうな方法を……」

「友達を治したいんです。お願いします。なにかないですか?」


 懇願する虎太郎君の声に三姉妹のギョロ目(1個)が向いた。シワだらけオババが醜悪な笑みを向ける。


「坊や。人にものを訊くのにその態度はないよ?」「タダでは教えられない。タダでは……」「坊やはなにを払ってくれるんだい?」

「……え?」

「え?じゃないよ。主婦の貴重な憩いの時間を奪っておいて小僧っ!!」「坊や、その命と引き換えにその娘、助けてやろうか?」「…ちょっと、こっちくらい見たらどうなのさ?」


 --ピカーーッ!!


「っ!?」「ぎゃああああっ!?」「まさか…魔眼!?」


 こっち向いたら三人が石になった。しっかり目を開いてるあたり確信犯である。

 まぁ後もつかえてるのでこんな奴らに尺使ってられないしちょうどいいか?


 徐々に魔眼を使いこなし始めた虎太郎君は完全に石化する前に目を閉じたようで三姉妹は下半身のみが石化。目は一個でも視力は共有らしい。


「おい、助かりたい?」

「て、天使様っ!!」「助かりたいです!!」「このままじゃ買い出しにも行けやしないよっ!!」

「だったらカムペーを倒す方法教えて」

「いや、それは……」「いくらアタシらでも…」「あれは神にしか殺せない」


 あっそ、もう買い出し行けなくていいんだ?


「期待はずれだね。虎太郎君、行こうか?」

「わーーっ!!待って!!」「分かった!!分かったから!!」「喋りますっ!!」

「……最初から喋りなよ。ね?虎太郎君」

「舐めてると脳みそまで石にするぞ?ババア」


 …え?怖。どうしたの急に。もしかして人外の力に目覚めてイキっちゃってる?


 まぁちょっとイタイ虎太郎君はいいとして…三姉妹はその“方法”を提示する。


「あるとすればひとつ…」「神に匹敵する可能性はいつだって人にしか宿らぬもの…っ!!」「地上にいるある男に頼ればいい。その男の力をもってすれば巨人族すら屈服させる怪物も敵ではないだろうっ!!」


 ……ある男?


「「「--佐伯達也」」」


 *******************


 --北桜路市。

 この下界でもっとも混沌に満ちた場所…神々すら恐れるという魑魅魍魎の魔窟。それがこの街。

 この街に巨人族すら抑え込む神の産みし怪物を倒せる男が居るらしい……


「ああ…紫色の信号。懐かしい……」

「たしか……この釣り堀って言ってたな。しかし何者…?もしかして神の血を引いた人間か?」

「あの実渕さん?そろそろ手がしびれてきたんだけど紬さん持つの代わってもらっていいですか?」


 無視して釣り堀に降り立つ。釣りしてたおじさんが驚いてびっくり転けていた。まぁ翼生えた天使が降りてくればそうもなるか…


「……?居ないぞ?呼びかけてみよう。佐伯達也くーーん?」


 ザバァァァッ!!


 ……まさかの釣り堀の“中”から出てきた。


「うわぁぁっ!?河童だぁっ!?」ゴンッ!!


 ツチノコ見つけといて今更河童でビビるな虎太郎君。あと紬を落とすな。



 --タルタロスの門番を打ち倒せる男。

 その男、佐伯達也は海藻やら苔やらを全身に纏ったじめじめしてて臭い男。なんか不潔。

 でも隻腕のその男には何者も寄せ付けない圧倒的オーラがあった。


 ……コイツ、天界のパワハラ上司に匹敵するオーラを……


「……アンタか?俺を呼んだのは」

「君が佐伯達也だね?私は天使。天からの使命を受けた天使だよ」

「そうだったのかい!?実渕さんっ!?」


 せっかく神々しく光ってみせたのに虎太郎君の反応で台無しだよ。

 かつこの磯男、せっかく神々しくしてやってるのになんか反応がシラケてる。


「……天使だかなんだか知らんがほっといてくれ。俺は貝になるんだ」

「……なんで?」

「俺は……大切な人を傷つけた。そんな俺に人として生きる資格は無い」

「もしもし?ごめんごめん今いい?ちょっと照会して欲しいんだけど…うん、佐伯達也。うん。運命の相手検索してもらっていい?ごめんねー」「実渕さん誰と喋ってるの?」


 天界と交信中……


「……本田千夜か」

「……っ!?お前……なぜ千夜の名前をっ!?」

「戦いにばかり夢中になってカノジョに愛想をつかされたんだって」「中々特殊な破局の仕方だな」

「うんあぁぁぁぁっ!!やめろぉぉぉぉぉっ!!」


 なるほど……佐伯達也と本田千夜は天界公認カップルになっている。ならば手助けしてもバチは当たらないね。

 私は交渉の材料を手に入れた。


「--佐伯達也。後悔してるならこのミートソース・ブルーマウンテン・チーズカマボコがチャンスをあげよう。私達に協力しなさい」

「……な、なにを…?」

「この男、広瀬虎太郎も愛する人を石にしてしまって今彼女を助ける為に旅をしてます。しかし、私達だけの力では彼女を救えない。あなたの力が……必要」

「待ってよ。愛する人だなんて……」


 何照れてんだよ。もうめんどくせぇから今のうちからフラグ立てとけ虎太郎。


「俺の……力……?」

「命じます。戦いなさい。貝になるのを諦め私達と戦いなさい。そうすれば私の力で本田千夜と寄り、戻してあげましょう」


 力を見せつける目的で指をタクトのように振れば佐伯達也の薄汚い体があらピカピカに。しかも腰に立派な剣まで……

 腕も治してやりたかったけどなんか圧倒的な力で切断されていてその斬った男の力の残滓が残ってて無理だった。


 --空気が変わった。


 奇跡を目の当たりにした佐伯達也が、とても初対面の人に向けるとは思えないほどの鬼気迫る表情を向ける。


「……嘘は無いな?」

「ないですないですないですっ!!」


 やべぇ怖…コイツマジでやれるかもしれない。


「嘘だったら天使だろうがなんだろうが……斬り捨てる……」


 あぁもう任せてください!!最優先で寄り戻すんでっ!!


「……待っててくれ。千夜…………千夜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



 --最強の男、佐伯達也がパーティに加わった。

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