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ボブはプレイボーイです

 --3年生女子でメイド喫茶やります


 ある日廊下の掲示板にそないな恐ろしい張り紙がされとるのを確認しておしっこ垂れ被るかと思た。

 隣でなんや最近ずっと憤慨しとる速水と並んでウチはその掲示を眺めとった。


「…私は負けてない、私は負けてない…」


 ちなみに速水は体育祭で日比谷にブチ負けて以来ずっとキレ散らかしとる。


 --進路とかあるから3年生の文化祭参加は任意になる。やけ、今までみたいに各クラスで店出したりとかが無くなるわけや。

 そんな都合を考えて3年の女子がなんやみんなでできるもん…って考えてこないな狂気を爆発させたんやろう…


 楠畑香菜、身の危険を感じるんや…


「速水…アンタこれやる?任意みたいやけど」


 まぁ任意やろ。当たり前や強制されるいわれは無いし強制やったら正気の沙汰やない。


「香菜やれば?リアルメイドじゃん」

「アンタ頭おかしいんか?学校でメイド服なんか着れるか」

「普段メイド服着てる奴が何言ってるの?」

「あのな?普段着とるからこの狂気を正しく認識しとるんや。メイド服なんて面白半分に着るもんやないんやで?」


「--あっ!脱糞さん!」


 ああ、嫌な予感はしたんや…

 ぼんやり掲示板なんぞ眺めとるもんやから奥からドスドス現れた女子に絡まれた。しかも、名前も知らん奴ら…


「脱糞さん、脱糞さん。それ、見てくれた?」「お願いがあるんだけど」

「なぁ、ずっっと気にしとんやけどウチは初対面からも脱糞女扱いされるん?」

「そんなこといいからさ。脱糞さん」


 ……そんなこと?


 そして音もなく音速で消える速水。コイツ……


「脱糞さんメイド喫茶やってくれるよね?」「もうメンバーに入れてるんだけどさ」

「なんでやねん。やらんよ」

「いやいや」「冗談じゃないよ。リアルメイドがやらなくてお話になりますかって話じゃん。もう決定だからさ」


 文化祭のしおり--既に掲載されとる3年女子、メイド喫茶のページにはでかでかと『オフィシャルアドバイザー兼責任者、楠畑香菜』って書かれとった。


「なぁ、これなんがオフィシャルなん?」

「今日から放課後に練習なんだ」「メニューとか考えたいしね♪やっぱり本物のメイドさんのアドバイスなしじゃありえないっしょ♪」

「オフィシャルアドバイザーってなんがオフィシャルなん?」

「じゃ放課後に部活棟の空き教室ね。来なかったら脱糞さんの使用済みナプキン男子に売りさばくからね」「いつぞやの盗撮写真もね。彼氏くんからデータ貰ってるから。絶対来てね!!」

「なぁ、なにがオフィシャルなん?」


 *******************


「日比谷さん。今年も文化祭でライブやりたいんだけどさ…」


 --私は可愛い。

 その美しさは太陽に例えられ、この学校の電力の八割は私の美貌によって賄われている。

 地上を等しく照らすこの美しさはさながら天照大御神…もはやこの国を創ったのは私。世界の創造主。全生命体の母。ちょっと控えめな表現になってしまうけど、あんまり正直に言いすぎても反感を買うし…


 まぁ可愛いってのも大変ってことね。


 お昼休みに軽音部の部長さんから声をかけられた私、日比谷真紀奈。断る理由もない。この私の美しさ、音楽に乗せて世界中に届ける必要がある。


「バックダンサー?いいよ?」

「良かったぁ。やっぱり日比谷さんが居るだけで舞台が映えるからさ!今まで飛び入りばっかりだったけど今年はちゃんと宣伝しとくよ!」


 分かってるじゃん…この日比谷の美しさの喧伝役、特別に担わせてあげる。


「良かったー、楽しみ!」「今年はもう1人ビックなゲストも呼んでるしね!」

「ビックなゲスト?」

「お楽しみ♪」「放課後練習するからよろしくー!!」


 *******************


「…え?」「誰?」「何者だあの美人は…っ!」


 --こんなに周りの視線を集めることが今まであっただろうか?いや、ない。


 私たまちゃん--いや、もうそのあだ名は返上した。

 私、伏見珠代は生まれ変わった。そう……エロい女の子にっ!!


 スカートは膝上5センチっ!!ノーネクタイ、シャツは第3ボタンまで解放っ!!

 ゆるふわ系メイクで決めた今の私は蠱惑的な視線を投げかけながら放課後の劇練習に投下していた。


「…滝川さん、私エロい?」

「エロいエロい。もう飲み会だったら3秒でホテルに連れ込めそうなくらいエロい☆」


 憧れのあの人、ボブ・ジョーダン君…

 アメリカでパツキンボインに囲まれていた彼をオトすにはこれくらいしないとダメ…らしい。


 劇練習の場には約束通りボブ君が来てくれていた…彼の視線がサングラス越しに私を見つめている。


「Takigawa is cute」

「勘違いということもあるぞ?ボブ」


 やるぞ…私、やりますっ!!



 --ということで演劇部主導で3年生混合劇練習が始まった。


「えー、演目は『屑と私』ね。じゃあ今から配役を決めるんだけど…」

「待ってよ」「題名からなんも分からん」「どんな話?」

「えぇ…?屑な旦那に振り回される銀行員の私が巨額の横領をして破滅してくみたいな…?」

「……」「もっと可愛らしい演目なかったんですか?」「でも楽しそう…」

「とにかく!主人公の私と屑の旦那と私の不倫相手の男がメインキャラなんだけど…」


 黒板に各キャラの名前が書かれていく。


「屑な旦那はまぁ…小比類巻君ね?」

「っ!?」

「あとは…オーディションで決めようか。なんかやりたい配役ある人ー」


 滝川さんが私の脇腹を小突く。


「チャンスじゃーん。シナリオ的に一番イチャイチャするの私と不倫相手っしょ?」

「…っ!?」

「イケイケ☆」


 と、その時なんとボブ君が誰より早く挙手。


「I'll do an affair」

「え?なんて?」

「コイツ不倫するって言ってるぞ。あと、俺の配役が強制的に決まるの納得いかん」

「おっけー、他に居ない?じゃあ不倫相手ボブ君ね。屑役なら小比類巻君しかいないじゃん。他には?」


 ボブ君……自分から…っ!これはチャン--


「Hey」

「はいボブ君」

「I want to have an affair with Mr. Takikawa」

「え?」

「コイツ滝川と不倫させろって言ってるぞ」


 っ!?!?

 ガン開きの眼で隣を見る。一瞬ポカンとした顔する滝川さん。直後「ウケるww」とヘラヘラ笑ってた。


 なんで!?なんで!?こんなにエロい女の子がここに居るのに!?やはり私はまだたまちゃんだと言うのか!?


「じゃあ--」

「は、はいっ!!」


 勇気を出すのよ珠代……っ!もうたまちゃんなんて言わせないんだからっ!!実らせてみせる!この恋をっ!!


「……えっと、誰?」

「伏見ですけど…」

「え?え!?た、たまちゃん!?えぇ!?イメチェンした!?」

「私も私役やりたいですっ!!」

「ええぇ!?どうしたのたまちゃん!?」

「私役に立候補しますっ!!」

「たまちゃんどこ行った!?」

「聞いて!?」


 *******************


「それじゃ、配役オーディション始めるよー。台本通りやってみてね」

「部長さんよ。劇出てやってんだから約束通りアレ、後でくれよ?」

「焦らないの小比類巻君。それは本番までちゃんと出てくれたらよ」

「話が違うぞ」

「バックれるじゃん、君」


 …何故か滝川さんと戦うはめに……

 いいえ!たまちゃん負けないっ!!主役の私役、必ずもぎ取ってみせるっ!!


「じゃあベッドシーンね」


 !?


「ベッドシーンが……あるの?」

「あるよ?とりあえず今ベッドないからたまちゃん、そこの机の上に仰向けになってね」

「………………」

「ボブ君、脱がして」

「OK」

「待って待って!?待って!?!?いいの!?演劇でそのシーン出せるの!?てか!脱ぐの!?やなんだけど…」

「半裸みたいな格好で何言ってんの?」


 この格好……半裸なの!?


 その時!ボブ君が私を押し倒してベッド(仮)に無理矢理寝かせてくるっ!!地味に頭ぶつけた…痛い……

 上に跨ってくるボブ君が前をはだけさせる。男性フェロモンの塊が眼前に迫るっ!!


「あわ…あわわわっ!!」

「Don't be nervous」

「はわぁぁぁぁーーーーっ!?」

「It's cute」


 い、いけない…っ!!こんな……っ!!婚前の男女がこんな……っ!?


 ボブ君のゴツイ手が私のシャツのボタンに手をかけて--っ!!


「いやーーーーっ!!!!!!!!」


 --ベチィィンッ!!!!


「Oh…」

「はいカットー。次ー。滝川さん」


 …叩いちゃった。

 でも…流石にまだ早いんだもん。私はエロい女の子だけど尻軽じゃないもん。そんな…流れでそんなことしないもん。

 しかしまずい…

 いや…滝川さんは私のサポーター。大丈夫だ。間違いない。滝川さんは失敗してくれる…他に候補いないならこれはもう必然的に私--


「あぁん♡」

「Sweet」


 ……


「ヤッバ……筋肉が違うわ筋肉が……」

「I'm fired up!」

「ちょっとちょっとっ!!脱がすだけでいいんだって!!滝川さん!ボブっ!!」


 ……???


「あっ…ヤバ♡ああっ♡」

「Berrysweet」

「こらーーーっ!!!!!!」


 ……………………(憤怒)



 もう…凄かった。

 流石に恋愛マスター。エロさが凄い。この……ビ○チがっ!!


「めんごめんご☆なんか流されちゃ…痛い。たまちゃん痛いって!!イタタタタタタタタ!?」

「……右乳首引き千切るよ?(憤怒)」

「ヤバwまじめんごだから☆まぁ…ちょっとベタベタして触られただけだしこんなんスキンシップみたいなも--」

「卒アルにお前の写真載せねぇぞ?」

「アイムソーソーリー☆」


「…………ボブ君日本語喋れなくて分かりにくいからやっぱり主要キャラはなしね?」

「WaT!?」


 *******************


 --私は可愛い。

 そしてここは体育館。

 体育館には軽音部のライブ練習用の機材が持ち込まれ、照明の全てはこの日比谷を照らすために存在しているように輝いている。


 日比谷真紀奈。舞台入り…

 バックダンサー……否もはや主役の登場に軽音部とダンス部が歓喜の嵐(のような気がする)


「待ってたよ日比谷さん」「よろしくねー。これ、振り付け」

「任せて。この日比谷真紀奈……盆踊りですら男を失禁させる色気で…」

「やぁ日比谷さん、頑張ろうね」


 ……?


 突然背後から声をかけてくるその人の爽やかに輝く笑顔に思わず網膜を焼かれる日比谷。


 そこには謎のイケメンが……


 暗めの落ち着いたブラウンの髪の毛にパーマをかけてトップをふわっとさせた爽やかな笑顔を向けてくるお肌つやつやのイケメンさん。大人びた雰囲気の中に確かにある幼さとそれを強調する丸メガネ……

 それとなんか…石田純一が首に巻いてそうなキラキラした……なんか布!!


 誰?


「……どちら様?こんなイケメンさん、うちの学校に居たっけ?」

「日比谷さん!日比谷さん!!その人だよ!特別な助っ人!」「びっくりっしょ?日比谷さんもよく知ってる人よ?」


 ……?私の知り合いに、このジャニーズ系のイケメンが……?


「やだなぁ日々さん、僕だよ。橋本」

「……ハシモト?」

「橋本圭介」


 ……???


「……嘘つけ。瓶底メガネしかあってないじゃん」


 そんなわけあるか。橋本君と言えばマッシュルームカットの冴えないモブメンのことを言う。こんな…ちょっとテレビに出てそうなイケメンが……


 と、目の前の戯言を一蹴しようとする私の前でそのイケメンは遊戯王カードを懐からドローした!

 真紅眼の黒竜初期!!


「…ま、まさか。ほんとに…橋本君?」

「日比谷さん知ってる?彼、アイドルデビューするんだって」「芸能人が同じ学校に2人だなんて…ドキドキしちゃうね♪」


 ……っ!?


「あわ……?あわわわわ???」

「そういうことなんだ。よろしくね日比谷さん。みんなも、最高のライブにしよう」

『いえーーいっ!!!!』


 なんかコミュ力まで上昇してる!?


 なんか……華がある!?

 こんなの…今までの橋本君じゃないんだけど!?


「おっと重そうだね。それ持つよ」


 橋本君、こんなさり気ない気遣いなんてできなかったじゃんっ!!


「じゃあまずは振り付け覚えて…それから合わせてみようか」


 こんなリーダーシップ発揮出来なかったじゃん!!


「やっぱりセンターは日比谷さんかな☆」


 語尾に☆とか付かなかったじゃんっ!!


 --日比谷真紀奈、足下がガラガラと崩れる予感…

 なんか、私のキャラがどんどん食われている気がする……なんか……


 ……なんかおかしいっ!!こんなの橋本君じゃないっ!!!!


「じゃあ僕が1回踊ってみるからね。よく見てて」

『はーーい』


 ダンス部じゃないんかいそこ!!


 ……し、しかし。橋本君。君がそんなに踊り上手くないの、むっちゃんから聞いて知ってるからね?(←人の事言えない)

 調子に乗るのはそこまでだか--



「--っ」



 ……嗚呼、そういえば彼、なんかこの前光ながら踊ってたっけ……?

 そういえば彼、踊ったら光ったっけ……?


 …なんでだろう?この……カクカクダンスを眺めていたら……


「……涙が止まらないよぉ……凪ぃぃ…」


 ……っ!日比谷、負けないっ!!

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