恋はエロいの魔法
「アメリカのオンナはね、パツキンボインが当たり前なんよ」
前回までのあらすじっ!!
私たまちゃん、ボブ君と恋人になるっ!!頑張るっ!!以上!!
こうして始まった私、伏見珠代のボブ・ジョーダン攻略大作戦。
作戦最高顧問、恋愛マスター滝川は「このままじゃダメっしょ」とある日私を街まで連れ出した。
今まで外出なんてファミレスでご飯か写真の被写体探しくらいしかなかった私にとってはごちゃごちゃした街の中心部は新鮮。初めて来たとは言わないけど明確な目的を持ってオサレなお店の前を行くのは初めて。
そう、私達には目的がある。
「パツキンボイン……」
「つまりさー、日本の慎ましい女の子みたいなのじゃなくてもっと性欲が具現化したみたいな?そんなんばっかなのよアメリカって。知らんけど」
慎ましい……私はマスター滝川のパイオツを見る。揺れていた。
「だからさー、たまちゃんももっとオサレにエロくキメなきゃダメだと思うんよ」
「はぁ……」
エロく……?
「いくらアプローチしたってさ、その相手が芋女やったらキョーミ湧かなくね?」
「芋女?それって私のことですか?」
「やっぱさー、モテたいならそれなりに外見磨く努力は欠かせねーと思うんよ」
「……はぁ」
美容室の前で立ち止まる滝川さんは私に教えを伝授する。
「オトコはさ、女の顔、乳、ケツ、脚。大体ここしか見てねーから」
「……」
「ボブだって見てみあれ。あんなの獣欲が服着て歩いてるみたいな見た目してんじゃん?つまり、そゆこと」
なんか私、相談する人間違えた?
「ボブ君は…ソンナンジャナイヨ?」
「オトコはみんなそうだって。考えて?可愛い女の子の事は知りたいじゃん?でもブサイクは?どーでもいいんだよ。見た目からなんだよ。たまちゃんだってボブがカッコイイから好きになったんしょ?オトコの場合はそれがエロなの」
そんな……
確かに黒くて大きくてムキムキだけど…ボブ君がそんなケダモノだったなんて……
「つまり……世の男達から今までそんな目で見られていたと……」
「いや見られてないんよ。たまちゃんは」
「さっきから失礼じゃないですか?」
「たまちゃん、告られた事なんてないっしょ?」
「だから失礼じゃないですか?」
乳千切るぞ?
「オトコはエロでオチる。これだけ覚えとけばおけ」
この人は恋愛=肉体関係みたいな思考回路なのかな?噂じゃヤクザの組長と援助交際してるとか石油王の愛人とか言われてるし…
やはり相談相手を間違えたのかもしれない……
「たまちゃんはさー」
「あっ!」
話の途中でいきなり滝川さんが私の分身、メガネを奪い取る。メガネをかけてる人のメガネを奪うってそれは我が子を誘拐するのと同じくらいの大罪なんだけど…!?
「顔はかなりいい感じだからさー、磨けば光ると思うんだよねー」
「え?あ…ありがとうございます……」
「とりまコンタクトにしよっか?」
「えっ!?それはいや。私にとってメガネって人生の相棒なんだもん……」
「メガネが相棒とかウケる」
「このメガネとのストーリーは…私が小3の頃まで遡ります」
「長っ。小3から同じメガネかよウケるwwどんだけ?長くなりそーだからいいや。でもさ。たまちゃん目大きーしぱっちりしてるしお肌もキレーだし、この芋臭いメガネと髪型変えるだけで全然ちげーと思うんだけどなー」
「……私の三つ編みにも壮大な物語が……」
「とりま髪型から変えてみよっか」
「涙無しには語れない……壮大なサクセスストーリー……あれは私が小5の頃……」
「あたしがサイコーにエロい女にしてやるよ☆」
*******************
ここは滝川さんの行きつけの美容室らしい。道理でお客さんがみんなキラキラ輝いてる。
例えば隣に座って雑誌を読んでるおねーさん……なんでこんなに髪の毛がクルクルしてるのか謎である。
「担当の美岸です。よろしくお願いしますね」
「あ、はい。お願いします……」
例えばこの美容師さん。どうして頭頂部とサイドで髪の毛の色が違うんだろ……あの緑色のちょんまげには意味があるのかしら…謎である。
「今日はねー、たまちゃんをサイコーにエロい女の子にしてほしーんだ☆」
「サイコーにエロい……?もう十分色気ムンムンだけどもっともっと魅力的にしてくれってことだね?任せて」
ドの付くセクハラに聞こえたけどイケメンが言うと爽やかなのはなぜ?なんなら少し嬉しい……!?
「具体的にはどうしましょうか?刈り上げます?」
「あ、いや……刈り上げはやめてください」
「ツーブロックとか?」
「……え?」
「たまちゃんはさー、セミロング似合うと思うんだよね。ゆるふわ的な?今髪の毛が重たい感じだからここはバサッと切ってパーマとかかけちゃお☆」
「なるほど……じゃあ一旦サイドを刈り上げてトップの毛を上から被せる感じにしようか?」
「なんで刈り上げるんですか?」
「5ミリと3ミリ、どっちがいい?」
「刈り上げないでください」
こうして私、たまちゃんは超エロい女の子になる為に髪の毛とお別れすることになった。
小5から連れ添った私の三つ編み達……それが今ハサミによってチョキチョキと切り落とされていく……そのさまを見ているとなんだか泣けてきた……
「あー、いいッスねー。エロいっすよ」
「髪の毛も染めちゃおー。ゆるふわ女子目指して☆やっぱり明るい茶髪とかが良くね?」
「エロくなってきてますねー」
「ゆるふわ天然ガードゆるゆる系でいこ。多分アメリカには居ないタイプっしょ。イけるこれ」
「エロ……っ」
あの……さっきから髪の毛切りながらうなじ撫でるのやめてもらっていいですか?なんなんですか?
--その後、染料みたいなやつ頭からぶっかけられて……髪染めってこんなだっけ?
巨大なドラム式洗濯機みたいなモノの中にほたくり込まれて……パーマってこんなだっけ?
「おーーっ☆」
「……エロいっスねー」
鏡で自分の姿を見せられた私はその変容ぶりに思わず屁が出た。
なんか……都会の大学生(文芸部)って感じがする。
これが……私?なんか、テレビとかで見たことあるぞこれっ!?
滝川さん曰くゆるふわ系…分かりやすく言えば顔で違いが分からない昨今の若者女子の顔になっていた……
髪の毛ひとつでこんなに変わるなんて……
野暮ったい黒髪の三つ編みは肩くらいの長さになった毛先クルクルの茶髪のおかげでかなり軽快な印象……軽くなりすぎてまるで翼が生えたみたいだ。
これ多分、レッドブル飲むよりいいよ?
「いいじゃんいいじゃん☆ガード緩めで簡単に持ち帰れそーな感じに仕上がってんじゃん☆」
「……褒めてます?」
「いや……エロくなりましたよお客さん」
「なんで乳揉んでます?」
「エロいんで」
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髪型を整えたらなんだかメガネが邪魔に感じてきたよ……丸メガネ、ダサい?
「次はコーデじゃね?頭ん先からつま先まで完璧コーデしてサイコーにエロい女の子になろうぜ☆」
「……これでボブ君落とせますか?」
「イチコロっしょ☆」
「ワンナイトとかやですよ?」
「コーデキメたら大丈夫じゃね?」
駅の周りには沢山ブティックがあるみたいだ。こんなに沢山の洋服屋さんを物色したことない。だって普段服なんてお姉ちゃんのお下がりかリサイクルショップだもの。
結局決めたのはピエール・ガンバルマンだった。
「いらっしゃいませ」
「……え?滝川さんここ、高いんじゃぬいの?私あんまりお金ないですよ?」
「ダイジョーブ☆今回はあたしの奢り☆サイコーにエロくするって約束したしー?」
「いや…悪いです……」
「おけおけ☆あたしに任せときってば」
……いいのかな?
「店員さん、この子チョーエロくしてください」
「なるほど……それでしたらこちらなどどうでございましょうか?」
これを着ておけばとりあえずエロくなれますよと、訳の分からない説明と共に出てきたのはビニール製の雨カッパかよってレベルでスケスケの服だった……上下共にやたら丈の短いトップスとスカート……
「今年の春に出たばりの日本限定モデルです」
「エッロ……☆」
「いや、エロいというか……ほぼ公然わいせつ罪」
「ビニール製でフルスケルトンとなっておりまして……お客様を更にエロく、意中のあの人を更に猿に……そんな一品でございます」
意中のあの人を猿に!?
「……か、買います」
「まじかwドン引きだわw」
!?あなたが連れてきたんですよね!?
「ありがとうございます。こちらのお値段が6,800,000円になります」
!?高っ!?値段の方がドン引きだわっ!?
「……え?なんでそんなに高いんですか?」
「日本限定モデルですので……」
「日本でこれ着られる方居られるんですか?」
「私の知る限りいらっしゃいません」
着れねぇだろコレ。フルスケルトンだぞ?どうやって着るの?
……でも、これを着ればボブ君が猿に…いや?猿になっていいのか?いや。恋愛マスターの言うことだ。疑うな。
「めっちゃ高いやんww」
「滝川さん…ありがとう。私、エロくなれたと思うよ」
「めっちゃエロいよ?だって、全透けだもんwぶっちゃけこれ着てる人に会ったら正気を疑うわww」
「私!頑張るっ!!」
「……てか、学校制服だからこれ着れなくね?ウケるwwww」
「お会計、6,800,000円になります」




