ザトウクジラが脳挫傷……ぶふっ!!ふふっ!!
--10月末に迫る文化祭。ロングホームルームではクラスの出し物なにする?とかあーでもねーとかこーでもねーとか……
立て続けに迫る学校行事に学校が浮かれてる。そんな中でもあたしら現代カルチャー研究同好会はへいじょー運転っしょ!
……て訳にもいかねーんだわ。
なんせ今、代表の小比類巻先輩が「文化祭の演劇に出る条件の『アレ』の交渉に行ってくる」とか言って不在。橋本パイセンはなんか東京に行っちゃってんだわ。「僕アイドルになったから」とか寝言言ってた。
つまり今、3年不在の現代カルチャー研究同好会。あたしと、1年の妻百合花蓮のみ。
つまりこの香曽我部妙子。今日はあたしがリーダーっ!!
「つーちんっ!!あたしのことは代表と呼びなっ!!」
「……しかし香曽我部先輩、それは小比類巻先輩にあまりにも失礼というものでございます」
「いいんだよ居ないんだから。さて、今日のどうこーかい活動なんだけどさ。同好会室の大掃除……」
「申し訳ございません香曽我部先輩、本日の活動はもう決まっております」
え?
「本日は愛染高校様の海洋研究部と親睦会を行うことになっております」
は?
聞いてねーし。
あたし、聞いてねーし。
じゃあこの……掃除用に連れてきたこの…ヤカンヅルどうすんの?
「いつの間にそんな話が出来上がってんの?てか、代表居ないけど大丈夫なん?」
「しかしもうお約束しておりますので…ところで香曽我部先輩、そちらの……豚とワームの頭を合体させたような生き物は…?」
「ヤカンヅル。腹の中が異空間と繋がってんだ。なんでも飲み込むんだぞ、コイツ」
「はぁ……」
「日本最強クラスの妖怪だからな?こんなふうにしてるけど」「ブーーッ」
「…はぁ」
「同好会室汚ねーじゃん?だからさ、コイツで掃除しよーかなって……」
「……はぁ」
「--ごめんください」
何奴!?
「あ、香曽我部先輩、愛染高校の方々がお見えになったよう「何者だっ!!名を名乗れっ!!」
引き戸を開いて入ってくるのは頭からワカメ被ったみてーな陰気な女とそいつが引き連れた2人の男女。
恐ろしいことに女の方には顔のパーツごとにホクロが付いてた。つまり目鼻口耳で6個もホクロが付いてやがる。
で、男の方はニュウドウカジカみてーな面してる。
「初めまして……愛染高校の海洋研究部です」
で、先頭の女は海の悪霊だし……
コイツらビジュアルで押してきやがった。なかなかの圧だな。
「ようこそお越しいただきました。私、現代カルチャー研究同好会の妻百合花蓮でございます」
「……どうも……部長の松田十和子です」
「おっす。香曽我部妙子だよ。早速だけどさ、入る前に消毒してくんね?」
「ブーーーーッ!!!!」
*******************
……で?なにすんの?
「粗茶でございますが……」
「……どうも。鯨の深い瞳を思わせる…お茶ですね……」
「……?恐縮でございます」
ズズズズズッ
めっちゃ音立てて啜るやんコイツら…ラーメンくらい啜ってんぞ?
「……それで、小比類巻代表は?」
「あー、小比類巻パイセンはイモガイに刺されて死にかけてんで(もう治った)今日はお休みなんですよ。なんで居ないッス」
流石に約束すっぽかして消えましたとは言えなかった。
「なんと……」
「興味深い」「是非刺されてみたいものですね」
なんだコイツら?
「それで今日は親睦会って聞いてっけど、なにすんの?」
「……ホエールウォッチングに行こうかと思ってます。へへ……」
「…吠えるウォッチ?」
「ホエールウォッチングでございます。香曽我部先輩。鯨を見るのであります」
「……なんが楽しいんスか?」
「スナメリが……メリークリスマス…ふふっ!」
「流石部長」「お見事」
マジで何?コイツら。
「…今回はこの親睦会を通じてお互いの活動を知り今後お互いの活動を絡めていけたらなと思ってます……ザトウクジラが…脳挫傷……ぶっ!!」
「今日もキレキレですね、部長」「流石です」
それ、ダジャレのつもりか?
「なので今回はホエールウォッチングに連れて行って頂きます」
「鯨ってどこで見れんの?」
「……本日はとても貴重な鯨を見れるチャンスなので、是非……イッカク…角が直角……ぶはっ!!くっ……くくくくくっ…」
「もう最高です部長」「キレッキレですね」
イッカクの角が直角なわけねーじゃん。折れてんだろそれ。
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うちの高校には生物部ってのがあんだけど、なんで今回現代カルチャー研究同好会と親睦会しようとおもったんだ?
「……セミクジラで…セミファイナル…ぶっふっくっ…くくっ!」
「なぁなぁおたくの部長さんなんとかなんねー?そろそろウザイんだけど?」
やって来たのは港中央区の湾岸地帯。とても高校生が放課後に集う場所じゃねーし潮風で髪がキシキシする。ぎゃあああああっ!!
「ところで活動絡めてとかなんとか言ってたけどこれから定期的にかいよーけんきゅーぶと活動するってこと?つーちん」
「聞いた話によりますとお互いの学校で特別に活動費が出るようでございます」
ああ……小比類巻先輩、金が目当てだな…
「……今回は船の上からホエールウォッチングしていきます。こちらが今回私達が乗る船です」
うんこう丸って書いてある。
見たとこ小さな漁船だけど……たださ!
「……なんか全体的に汚ねー。も少し綺麗な船のなかったん?」
「おうおう姉ちゃん!!俺の船にケチつけんのかい?」
船の奥から出てきたのは黄ばんだ白Tをパツパツに着こなした垢まみれのおっさん。真っ白な髭が顔の半分を覆い尽くしてて一部髭が黄ばんでる。毛もごうごうだ。
つまり最悪だ。近くに居るだけでビョーキになるっしょ!
「コイツはなぁ!こんななりしてっけど幾多の海を俺と越えた戦友だぜ!!」
「船長……今日はお願いします。コクジラに……告りたい……ぶはっ!!」
黙れ。
「さぁ乗りな。アイツを見に行くなら俺に任せておけ!!」
「おじゃま致します」
「嫌だ嫌だ嫌だ!!こんな垢まみれのおっさんと汚ねー船乗りたくないっ!!うんわぁぁぁぁ!!」
「……香曽我部先輩」
断固拒否のあたしにつーちんが耳打ちしてくる。できることならつーちんにも近寄ってほしくねーんだけど?近いって。あっ!飛沫が!!
「ここで拒否されますと活動費もパーになってしまいます。小比類巻先輩がお怒りになられるかと……」
「……」
「ここはひとつ、いつもお世話になっております先輩方への恩返しだと思いまして……」
「……むぅ」
--再びこれを着ることになるとはな。宇宙飛行用防護服。
これ着たらめっちゃ暑いんだよね。
でも無理。こんな汚物の吹き溜まりみたいな空間で海に出るのに生身とか絶っっっっ対ありえないから。
「つーちん、あたし気分が悪くなってきた」
「それで、本日お見せ頂きますお鯨様とはどういった……?」
「俺から説明してやるぜ」
このおじさん!この狭い空間でタバコ吸ってんだけど!?有り得なくね!?
「この近海に出没するシップクラッシャー。白い悪魔『モリー・ビックリ』…今日はやつを狩りに行くぜ」
なんだよサロンパス破壊者って。誰だよモリー・ビックリって。
「……モリー・ビックリはこの辺の海で漁船を見つけては破壊している巨大な白いザトウクジラです。ナガスクジラの…川流れ……くくくくっ!!くっ……ぶはっ!!」
「ザトウクジラなんて、この周辺に出没するのでございますか?」
「これを見な」
つーちんの疑問に垢まみれのおっさんがボロボロの長靴を脱いで見たくもねー足を見せてくる。
けどその足は健常者のそれじゃなくて、機械的な足……いわゆる義足だった。
「俺はつい先日、やつに遭遇したんだ……俺も最初は噂の類だと思ってた……だがやつは居たんだっ!!」
おじさんは銛を手に興奮した様子で語る。別に聞きたくもねー。てか唾飛ばすな。
「この脚はやつに持ってかれた……俺はこの義足を見る度にやつの面がチラついて眠れねぇんだっ!!」
「それで顔色が良くないのでございますね」
「俺はやつに復讐する。今度こそ仕留めてやる!」
「……え?今日ホエールウォッチングじゃないんスか?」
「仕留めてやるっ!!」
マジかコイツ。今日ホエールハントしに来てんぞ?話が全くちげー。てか1人でやれ。
てか、船見つけたらぶっ壊しに来るような鯨をよく見に行こうとか言い出したなコイツら。
「楽しみですね」「この航海の自伝を書きたいです、部長」
「イワシクジラが……言わっしゃる……ぶはっ!!ははははっ!!」
ダメだコイツら。
ここに居たらこのあんぽんたん達と心中じゃね?
「つーちん……」
「精一杯協力させて頂きます」
「嬢ちゃんの目には海の輝きがある。俺の相棒にならねぇか?」
ダメだコイツもあんぽんたん……
なんとか船を引き返させる方法を考えてたの時っ!!
--ドォォォォォォンッ!!!!
ものっすごい轟音と共に船が揺れた。あたしは吐いた。
船のすぐ横の水面が白く泡立って、深い青の下に確かになんかの大きな影があった。
海の下に潜むそれにあたしらは本能的な恐怖を駆り立てられる。
「来やがった!!」
「あれが……モリー・ビックリでございまかっ!?」
「デカい……」「部長!」
「ザトウクジラで……砂糖醤油……ぶっ!!くくくくくくっ……!!」
ドガァァァァンッ!!!!
ヤバいヤバいヤバいって!パッと見この船の倍以上ある巨体がさっきからうんこう丸にダイレクトアタックしてるって!!
こんなん秒で沈むぞ!!
「おーーいっ!!おっさん何とかしてって!!仇なんだろ!?はよ!はよ倒せっ!!」
「任せなっ!!」
おっさんが超ぶっとい銛を片手に船の縁に足をかける。そのまま眼下の巨体と対峙する。
クジラ野郎はこの船をあくまで潰すつもりらしくさっきから何度も船に体当たりしてやがる。
ただ、船を襲うため水面近くまで浮上してきてた。
そんな無防備な馬鹿野郎へおっさんが銛を構えた。
「覚悟しやがれ!!モリー・ビックリ--」
「なにするんですかっ!!」
その時、おっさんを後ろから蹴っ飛ばしたのは今までの幽霊みたいな佇まいからは想像もつかねー剣幕で襲いかかった松田十和子ちゃん。
「あっ」
完全なる不意打ち。おっさん海に転落。
……いやお前がなにしてんの!?
「信じられない……こんなに可愛い鯨を殺そうとするなんて……どんな神経で……」
「あんなに可愛いおっさんぶっ殺してんじゃんアンタ!!いやいやどーすんの!?」
--ドカァァァァァァァンッ!!!!
「……シロナガスクジラが…城流す……ぶふっ!!」
「やかましいってば!?これ沈むよ!?」
おっさんどーなった?
てかおっさん居なくなっちゃったし、これもう船動かせねーし……鯨なんかキレてるし……
「……香曽我部先輩……」
「つーちん!これこのままじゃあたしら海の藻屑じゃね!?」
「自然とは厳しいものにございます」
「諦めてんじゃねー!!あたしこの重装備で海に落ちたら120%死ぬぞ!?」
……んなことほざいてたら。
ものすごい鯨の鳴き声(?)みたいなのが腹の底まで響いてくる。どんくらいかと言うと、宇宙服のあの……フェイスガードみたいなとこが割れた。
猛烈な水飛沫はまるで海ん中で爆弾が破裂したみたい……そんな飛沫から飛び出してくんのは……
「「「「尻尾っ!?」」」」
「……ああ、鯨は美しい…………」
めっちゃデカい尻尾がそのまま上から叩きつけられる。無謀にも挑んだ小舟はその一撃で叩き潰されてあたしらは無惨にも飛び散ってた--
……嗚呼、先輩。
なんでこんな奴らと親睦会とかやろうと思ったんスか?
「ミンククジラが…ミンミンミン……ぶはっ!!げはははははははははっ!!!!!!!!」
--ドポーーーンッ!!




