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たまちゃん、頑張る!!

 ……みんな、私が誰かなんて知らないと思うんだ。あんまり出番がないから。けど今日は私のそんなストーリーに注目してほしい。


「ぁぱぱぱぱぱっ!!」「けーーーっ!!」「…ほぅ、ほぅ、ほぅ…」

「…私ちょっと写真撮って来るから、みんな大人しくしててね?」

「めけけけけけーーーっ!!」


 --伏見珠代ふしみたまよ。高校3年生。写真部部長。顔がちびまる子ちゃんのたまちゃんだからみんなからはたまちゃんって呼ばれてる。


 私の所属する写真部はとにかく奇想天外な奴らばかり……奇抜な同好会にばかり目がいきがちだけど写真部の部員はまともに口を聞けない人が沢山。

 そんなみんなを纏めあげること3年……ついに私も卒業が迫ってきた。

 この学校では卒業アルバムに載せる写真は私達写真部が撮るんだけど……まぁ今それはいい。


 そう……私達の卒業。それが意味するところ。それはみんなと離れ離れになるってこと。

 つまり私はこの最後の1年に悔いを残してはいけない。



「ヘイ!パスっ!!」「こっち空いてるぞ!!」


 運動靴のキュッキュッとした床を擦る音…体育館で部活動に勤しむみんなの掛け声、汗の臭い……

 そんな青春の1ページにシャッターを切る。


「ナイスシューっ!!」「一本返すぞっ!!」「俺空いてるぞっ!!」


 レンズを通して見える世界は彼が映り込むだけで華やいでキラキラしだす。その度に私の胸はドキドキ高鳴るんだ……


 --私、伏見珠代は恋をしている。


 卒アルの撮影と言いつつ、バスケ部のみんなを撮影しつつ、私の目は自然と彼を追いかけていた……


 弾ける汗。

 躍動するたくましい体。

 覗く白い歯。


 今日も彼はかっこいい……


「……今日も…素敵だなぁ……ボブ・ジョーダン」


「Hey!!Pass!!」

「だから俺空いてるって言ってんじゃんっ!!」


 *******************


 --私、諦めないっ!!


 高校最後の思い出……私はみんなの思い出を3年間フィルムに収め続けていた。

 今度は私の思い出を刻む番……私の人生にっ!!


 ボブ・ジョーダン君は普通科2組に2年の時から交換留学でやって来てた留学生。アメリカ出身。

 私とはクラスが違うけど、全校集会の時一目見て私は確信した。この人が私の運命の人なんだって……


 でも私たまちゃん。恥ずかしながら地味な見た目と控え目な性格のせいでまっったく彼から存在を認知されていない……

 それどころかこの恋を相談する人も居ない。部活の子達はあんなだし……


 写真ばかりと向き合ってきた人生だから恋愛経験なんてゼロ。好きな人との距離の縮め方なんて分からない。


 私一人の力ではこの恋の成就は不可能……


 その日の放課後私は勇気を振り絞った。

 普段よその教室に行くことなんてまず無いけど、その日私は勇気を振り絞って3組の教室の扉を開いていた。


「……あの」

「ん?」「おっ!?君もしかして…たまちゃん?」「想像以上にたまちゃんだぜ……」


 文化祭の準備で教室に残ってたみんなからの謎の熱烈な歓迎を受ける。そして奥に目的の人が居た。


「滝川さんに用があるんだけど…」


 --恋愛マスター滝川。

 これまでオトしてきた男は数百では足りず……我が校の男子の半分は彼女で大人になったとまで言われている究極のビ○チ。

 正直なんか違う気もするけど……


 --色恋のことなら滝川に聞け。


 みんな口を揃えてそういう。私は彼女の力を頼ることにした。




 --場所を誰も居ない空き教室に移して…


「君、写真部のたまちゃんでしょ?なんだっけ?ゆーめいな賞取ったってこの前表彰されてた……」

「ピューリッツァー賞です」

「そーそー、すごいねー。で?あたしになんの用?」


 いかにも遊んでそうな…私みたいな人種は絶対近寄れない雰囲気に反してゆる〜い口調でフランクに接してくれる彼女に対して私は床に頭を擦り付ける。


「先生!!私に恋愛のイロハを教えてくださいっ!!」

「また来たよ。ウケるw」

「……また?」

「前もねー、あたしにそーだんに来た人居たんだ〜。でもなんであたし?」

「……恋愛の事は滝川さんに聞けば全てが解決すると紹介されました。」

「誰だよw」

「田畑さんと長篠さんです」

「出た。最凶コンビ」


 あの人達の写真は撮るのが命懸けだ。ジャガーに殺されかけたもん。


 まぁとりあえず聞かせなよと、滝川さんが椅子に座るので私も向かいに…超短いスカートから伸びる脚が組まれるともうパンツが見えそう。


「誰が好きなん?」

「……2組の…………」

「尾白?長瀬?小比類巻?」

「……ボブ・ジョーダン君」

「ぶはっ!?」


 なっ……!笑うなんてあんまりじゃない!?パンツ撮るぞ?


「あのアメリカン?まじか。すごい趣味してんねたまちゃん。いやいいと思うよ?」

「でも私…接点なくて。どうやって近づいたらいいのか……」

「でもボブってさ〜文化祭終わったくらいのタイミングで帰っちゃうんしょ?」


 えっ!?


「2組の子から聞いたよ〜?もし付き合えたとしても超遠距離になるよ?日本からアメリカ、ウケる」


 ヘラヘラ笑う滝川さんの言葉が右から左へ流れていく。私は突然の現実を受け止めきれずに放心状態。

 目の前が真っ暗になった。


「……そ、そんな」

「どーすんの?それでも告る?」

「…………」


 目の前に迫る選択……でも……


「私、やります」

「おぉーマジか……」

「私の気持ち伝えたい……っ!私にボブ君に想いを伝える為の秘訣を教えてくださいっ!!」


 私本気です、先生!

 それは伝わったみたい。滝川さんも「そうかぁ……」としみじみ頷いて腕を組む。おっぱいがむにゅってしてる。


「ならムードよね?やっぱ」

「ムード……」

「そうそう。フツーに告るだけじゃダメだと思うんだよねー。だってさ、アメリカ帰っちゃうわけだし。そう考えたら日本こっちで告られても断りそーじゃん?それを跳ね除けるくらいのあっとー的ムード。これよ」

「ムード……っ!!」


 然りと頷く滝川さん。流石に恋愛マスターだ。なんだか言うことが違うように見える。今まではなんかバカっぽい子にしか見えてなかったけど……


「ムードってどうやって作ればいいんですか?」

「ふっ。たまちゃん……もうすぐ何がある?」


 そんなの簡単っしょと言わんばかりに人差し指を立てて不敵に笑う滝川さん。全国模試88位の私はすぐにピンと来た。


「文化祭……っ!!」

「こーこーせいの青春って言ったら、文化祭しょっ!こんな青春てんこ盛りなイベントがあんだからさ、乗るしかなくね?このビッグウェーブに」

「文化祭で告白……」

「しかもこーこー最後の文化祭っしょ?」

「……っ!!」

「ボブにとっても大事な文化祭っしょ?これ。ここでぶちかますんだよ」


 流石恋愛マスター……っ!!恋愛におけるタイミングと相手の心理への立ち入り方……完璧だっ!!


 ……でも。


「……でも、私今までボブ君と全く接点ないし。いきなり文化祭で告白だなんて……」

「今から接点作ればよくね?」

「でも……私そんな……」

「たまちゃんさぁ、そんな奥手じゃオトコなんて捕まえられないぞ?まぁたまちゃんはそーゆータイプだと思ってたよ。任せなよ。ちゃんと考えてあるからさ」


 ……っ!ボブ君だけじゃなくて私の事まで考えたプラン…っ!嗚呼…恋のキューピットって実在したんだ。


「任せとき、あたしがたまちゃんの青春に最高の1ページ刻んだるからさ」


 *******************


 --1,2年の時と3年の時では文化祭も勝手が違う。進学、就職等の進路へ向けて本格的に準備をしなければならないから。

 今は亡き生徒会が1,2年からのみの選出であるように、文化祭も3年になるとクラスの出し物はおろか参加も任意。

 クラス全体の希望でなければクラス単位でお店出したりしないから、「文化祭に最後まで参加したいっ!」て子達は各々寄り集まってなんかする……


 そのひとつがこれだ。


「3年の演劇……」

「そ、これに参加すんの」


 --屑と私っていう演目らしい。全く内容が想像出来ないんだけど……


「演劇だったられんしゅーあるっしょ?ボブと一緒に出たらさ、必然的に一緒にれんしゅーするわけじゃん?そこでアプローチできるくね?」

「……っ!!」


 空いた口が塞がらない。なんて緻密な計画……っ!


「流石……で、ボブ君はこれに出るんですよね?」

「知らね☆」


 あ?一眼レフでぶん殴るぞ?


「出ないなら誘えばよくね?」

「そ…そんな度胸あるならもっと前から仲良くなってますし……」

「しゃーねーなぁ。一緒に行ってやるからさ。がんばって誘いなよ。な?」


 滝川さん……意外と面倒見いいんだな……なんだか知らなかった意外な一面が見えてくる。

 先生……好き♡



 --こうして滝川さんに連れられて私達は放課後の2組の教室へ。


 やっぱりなんだかんだ言って3年生もお店とか出したいもので、このクラスも遅くまで居残りで文化祭の準備に勤しんでいた。


「チョリーース☆ボブ居る〜?」


 このチョリーースというのは多分滝川さんみたいな人種の間で普及してる挨拶なんだと思う。

 ボブ君と取り継いでくれた男子が当たり前のように滝川さんの肩に手を回すのを見て世界の違いに目眩すらした。


「Keep you waiting」


 来たっ!!


 教室の入口まで出てきてくれたボブ君。思えばこんなに近くで顔を見たことない……


 ガチムチの筋肉と漆黒の肌……嗚呼、こんなにグラサンをつけこなした男の子って歴史上存在したのかしら……


 いつもレンズ越しに見つめていた彼が今こんなに近くに……心臓が……


「なんか〜たまちゃんが用事あるってさ〜。」

「っ!?」


 そんなっ!滝川さんあんまりだよっ!!いきなり喋れるわけないじゃん私の気持ちがどれだけ重いか知ってんのかぶち殺すぞ?


「What?」

「あわ……あわわわわわ……」

「ほれ、はよ言いなよ。何しに来たん?」


 黙れ。そこんとこフォローしてくれないのかよお前がまぢなんの為に来たのよ。


「あ、あの……」


 頑張れ、大丈夫よ。私は全国模試88位……


「……」

「……」

「……いや…なんでもな--」

「なんかー、3年の演劇に一緒に出ないかって。ボブと一緒に出たいんだってー!」


 ……っ!?滝川貴様っ!!こっちの覚悟が決まる前に……っ!!


「Theater?」

「--滝川さんがね!!!!ひとりじゃ恥ずかしいからって一緒に誘いに来たんだけど!?」

「……え?」


 しまった思わず……いやでもどー考えてもこっちの覚悟を決める前に勝手に言ったお前が悪い。


「ほら!ボブ君もうすぐ帰っちゃうでしょ?アメリカ!!思い出にどう!?あ?出んのか出ないのかはっきりしろ!」


 嗚呼私……どうしてこういうタイミングでいつもスケバンになっちゃうんだろ。


「OK」

「っ!!!!」

「お、やったじゃ〜ん☆ほんじゃ一緒にがんばろーね」


 滝川さん……

 私の咄嗟の嘘にも付き合ってくれるなんて…

 滝川さんは深い度量を持って私の嘘を否定することなく話を合わせてくれた。


 流石先生……好き♡




「--あたしが誘ったことになっちゃったじゃん。たまちゃんチキン過ぎw」

「ごめんなさい……」


 教室を離れてからも滝川さんはヘラヘラしながらも私を責めることはなかった。


 滝川さん。いい人じゃないか本当に……


「でもありがとう…私、頑張るよ」

「……」

「滝川さん?」


 私の顔をまじまじと見つめる滝川さんから突然メガネを奪われた。これ、交番に行った方がいいのかな?


「……」

「……なに?」

「たまちゃん」

「え?」

「オトコをオトすならまずオシャレからだぞ♡」



「Takigawa seems to like me」

「?小比類巻君、ボブ君が何か言ってるよ?」

「日本語喋れ何言ってんの分かんねーよボブ、殺すぞ?」

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