むっちゃん死なないでっ!!
あけましておめでとうございます。
本年も「お前なんなん?」そして白米おしょうをよろしくお願いします。
--私は可愛い。
どころではないっ!!
むっちゃあああああああああああんっ!!
体育祭振り替え休日、むっちゃんとサボテンデートしようと思って家に行ったら家がなかった。台風で吹き飛んだらしい。
方々回って得た情報から私はむっちゃんが危機的状況にあることを知った!
「小比類巻さんの息子さん?なんか病院に閉じ込められてるらしいわよ?精神でも病んだんじゃない?気の毒ねぇ……」
「違う違う。小比類巻ならなんか死病に罹って入院してるって風の噂で聞いたけど?精神科じゃないよ」
「こっひーなら数百年ぶりに広がりだしたって言う伝説の風土病に罹ったんじゃなかった?」
「噂じゃ致死率100%らしい」
「感染力が凄まじいから隔離されてるらしいよ。なんかね、49日高熱と痛みに苦しんだ末全身が燃えて亡くなっちゃうんだって。噂だけどね?」
日比谷真紀奈、もうバタフライする勢いで凪の家へ……
「凪凪凪凪凪凪凪凪凪凪凪凪凪凪っ!!」
「うるさいなぁ……今何時だと思ってるの?」
親友、阿部凪の家には深夜2時だと言うのに電気がついていた。凪、そんなに夜更かししてるからお肌が荒れてブサイクになるのよ。
「凪凪凪凪凪凪凪凪凪!もうっ!!何その格好!!寝巻き着てる場合かっ!!」
「深夜2時の正装だよ?なに?明日は学校だよ?何してるの?犬のフンでも踏んだ?」
「どころじゃないんだよぉぉぉっ!!」
私は今むっちゃんに降り掛かっている事態を詳細に(全部人から聞いた話)凪に説明した。凪は信じてないような顔をしていたが、そんな場合ではない。
「このままじゃむっちゃんが燃えて死んじゃうっ!!」
「…それ、どこの地域のなんて病気よ」
「凪!!私せっかくリレーで1等になってむっちゃんと婚約したのにこんなのってないよっ!!」
「いつしたの?病院行きな?」
「むっちゃんを助けなきゃ…」
「はいはいどうぞ。どうせ明日になったらケロッと学校来てるよあの人。キ〇タマ撃たれて生きてるんだから……」
「凪ーーーーーーっ!!!!!!」
てめぇそんな呑気な服着てるからそんなふざけた思考になってんだ目を覚ませっ!!
ビリビリッ!!
「いやーーっ!?何すんの!?」
「凪、意外とオッパイあるね」
「バカじゃないの!?バカじゃないの!?ねぇ!その話裏とった!?小比類巻君に会いに行った!?」
「伝説の風土病だよ!?隔離されてんだよ!?会えるわけないじゃんっ!!」
「確証もなしにそんな訳分からない話をする為に私の家に深夜に押しかけてパジャマをお釈迦にしたってこと?」
ふざけたことばっかり吐かしてると絞めるぞ?
「助けないといけないのっ!!!!」
「分かったから…でも信じられないから明日学校に来てなかったら助けに行こう。私はもう眠い」
「何悠長なこと言ってんの!?正気!?」
あっ!?なによその「お前が正気か?」みたいな顔はっ!!
「落ち着こうよ。こんな時間に何をするの?助けるって具体的には?明日真偽を確かめて具体的なプランを立ててから行動しないと時間が無駄になるよ?いいの?」
「ぐっ……流石凪……」
「とにかくこんな真夜中にアクションを起こすなんて非常識。今日は帰っておやすみ」
「……帰りの電車ない。泊めて?」
「はっ倒すよ?」
「……えー、今日の欠席者は…小比類巻か。他は全員元気ですねー」
翌朝。
登校した私達を待っていたのはむっちゃんの死へのカウントダウン。それを確信させる担任の発言。
私は人目も憚らず凪を締めていた。
「言ったじゃんっ!!言ったじゃんっ!!」
「ぐげっ……ぐっ…ぐるじい……」
「やっぱり伝説の奇病に罹ってるんだっ!!こうしてる間にもむっちゃんが死んじゃうかも
しれないんだっ!!うわーーーんっ!!」
「わたじがじぬ……」
「むっちゃんが死んだら凪のせいだからっ!!」
「げほっ……げほっ!!お、落ち着きなよ……なんで休みなのかなんて分かんないじゃん…」
「おーい、日比谷、阿部お前らホームルーム中にうるさ「先生っ!!むっちゃんなんで休みなの!?」
「……小比類巻は死にかけてるらしいから今日は休み」
ガーーーンッ!!
「凪ーーーーーーっ!!!!!!!!」
「痛たたたたたたたっ!!鼻がもげるっ!!」
「……お前らいい加減に--「うわーーーーーんっ!!莉子せんせーーーーっ!!」
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「うわぁぁぁぁぁぁん莉子せんせーーーーっ!!むっちゃんが高熱で激痛で49日で燃えて死んじゃうぅぅぅぅぅっ!!」
「落ち着きたまえ。君達、ここは本来病人怪我人しか入ってはいけない場所だよ?」
「先生、この人頭が病気で怪我してます」
「莉子せんせぇぇ助けてぇぇぇ…」
むっちゃんが死んじゃう…私と結婚する前にっ!!胸を蝕んでいくその危機感が私を突き動かしていたっ!!
「今度は一体なんだね」
「私のフィアンセのむっちゃんが死病に罹ってて死にそうなんです。莉子せんせー治してっ!!」
「むっちゃん…?」
「小比類巻君のことです。莉子先生」
「ああ、まだ諦めてなかったんだね…で?なんだいその死病っていうのは?」
「数百年ぶりに再来した風土病で高熱と激痛で体が燃えて死んじゃうんですって」
凪の説明に莉子せんせー、保健室の先生のくせに「は?」みたいな反応だ。この人には生徒の健康を預かる資格はないっ!!
「聞いたこともないね。そんな病気」
「莉子せんせーは養護教諭の風上にも置けない先生です」
「なっ…何を言うんだい日比谷君。そんな訳もわからない病気は治しようがないよ。そもそも私、病気を治すのが仕事ではないんだが…」
「そんなこと言ってたらむっちゃん死んじゃうっ!!」
私の情熱が莉子せんせーを動かした。「全くやれやれ…」と莉子せんせーは重い腰を上げて書類棚からなんか分厚い本を取り出した。
「風土病で…高熱が出て痛みがあって燃えて死ぬ病気……」
「あるんですか?莉子せんせー、そんな漫画みたいな病気が」
「阿部君、体が燃えるなんて病気がある訳……あった」
どれ!?むっちゃんを蝕んでいる病魔の正体は!?
「……オマエ・クタバルゾ菌感染症……症状としては高熱、下痢、内臓からの出血とそれに伴う激痛。末期症状として人体発火現象を引き起こす…致死率90%…」
「ガタガタガタガタ」
「漫画みたいな致死率だな…しかしこれ……南米の病気だよ?」
「え?もしですよ?もし小比類巻君が本当にその病気だったら大変じゃないですか?日本に持ち込んでるわけですよね?」
「…………もしそうなら保健所の立入検査とかが学校にも入ると思うよ?そもそも南米の病気にどうやって感染するんだい」
「きっとあれだ…バイト先のパン屋に南米の人が来たんだ……莉子せんせー何とかしてっ!!」
「……何とかって」
「どうやったら治るんですか?」
「治療法は確立されていないようだね」
ガーーーーーンッ!!
そ、そんな……じゃあむっちゃんは…むっちゃんは……っ!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁんっ!!莉子せんせーっ!!」
「大丈夫だ。きっとそんな病気じゃないから。君は何かを勘違いしてい--」ベチィンッ!!「ふべっ!?」
「なんとかして下さァァいっ!」
「日比谷さん落ち着きなよ」
「なぜ今殴った?」
「わぁぁん莉子せんせー何とかしてくれないと自宅燃やす!」
「やめなさい」
「車も燃やす!!」
「買い換えたばかりなんだ。喚かれても治療法がないんだからどうしようもないよ。あと、授業に戻りなさい」
「実家も燃やすぅぅっ!!」
「分かった分かった。分かったから…彼のことは私に任せて君達は……」
「私のSNSアカウントに住居載せてやるぅぅっ!!日比谷真紀奈の愛人の家ここですって載せてやるぅぅっ!何とかして莉子せんせーーーっ!!」
「待ちたまえ。分かったから」
莉子せんせーはド〇えもんじゃなきゃダメなんだ。どんな時でも何とかしてくれなきゃダメなんだ。それが莉子せんせーなんだ。
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莉子せんせーと凪を連れて向かったのは感染症センターなる施設らしい。ここでむっちゃんが治るの?
治らなかったら莉子せんせーの人生終わらせてやるんだもん。
せんせー曰くここに古い友人が居るんだとか。つまりここにどんな病気も治せるブラック・ジャックが居るんだね?
センターの駐車場に車を停めるタイミングで中から中年のおじさんが出てきた。ハゲ散らかした頭にバーコードが流れる、白衣を着たいかにもそれっぽい雰囲気の人だった。
便宜上これからブラック・ジャックと呼ぶ。
「葛城。久しぶりだな。どうしたんだ急に」
「…すまないね、生徒のわがままに付き合わせてしまって…実は相談があるんだ」
おぉこの感じ…偉そうなお医者さん(?)といかにも対等に接する莉子せんせー。身近に居るけど実は只者ではない人の雰囲気。
「話は電話で聞いたけど…オマエ・クタバルゾ菌感染症だって?」
「教え子に患者が出たんだよ」
莉子せんせーの説明を彼は一笑に付す。
「ありえない。あの病気は撲滅されている。それにこのセンターには一類感染症の患者が国内に出た場合すぐに連絡が来るようになっている。そんな報告は受けてないぞ?」
「ほら見たまえ。そういうことだ。きっと風邪かなにかだよ。安心しなさい」
「『葛城莉子、私の愛人です、住所晒します』っと…」
「すまないどうやら本当のようだ、ちょっと診てやってくれないか?」
「日比谷さん…その脅し実行したら日比谷さんにもダメージ行かない?」
みんな真剣味が足りないっ!これでむっちゃんが死んだらこの場の全員の住所晒してやるっ!!日比谷真紀奈の影響力でっ!!
「葛城よ。仮にだ。仮にそれが本当だとしてもあの病気には対症療法しかない」
「なんでもいいから診てくれ頼むから。見ろ、今にも投稿ボタンを押しそうじゃないか」
引っ張って行こうとする莉子せんせーに対してブラック・ジャックは「待て」と言う。
「私が今まで嘘を言ったことがあるかい?」
「…本当なのか?葛城。君がそこまで真剣に言うなんて…しかし、まさか……」
「何とかしてくれ。頼むから。住所を晒されてしまうだろう」
莉子せんせーの緊迫した空気感にブラック・ジャック、ようやく事の重大さを認識したみたい。
美の女神日比谷真紀奈のフィアンセが死ぬこと--その事態の重さを。
「…とりあえずセンターに連絡する。そして、専門チームを派遣しよう。俺も行く」
「…お、おう。恩に着る……よ」
「日比谷さん、日比谷さん。どんどん大事になってるけど大丈夫なんだよね?」
「凪、私は聞いたんだ。むっちゃんが高熱と激痛で燃え死にそうって」
--世界の女神、日比谷真紀奈の最愛の人。その影響力は絶大だ。
ブラック・ジャックの要請から数分でセンターの屋上から緊急ヘリが飛び立つ。
大空に飛び上がる私達は防護服を着込んだ専門チームと共にむっちゃんのもとへ!!
「…葛城、本当なんだよな?信じていいんだな?」
「……それは日比谷君に聞いてくれ」
「これで誤情報だったら俺の首が飛ぶからな?な?」
待ってて…むっちゃん。
「あ、もしもし?お世話になります私息子さんの高校の養護教諭の葛城と申しますが…えっと、息子さんは今どちらに…ええ、今ヘリで向かっております」
むっちゃんのお母様と連絡がついたらしいっ!むっちゃんは市内の病院に入院中とのこと!
もう少し耐えて!!むっちゃん!!
「…入院中?」「入院してるならなぜセンターに連絡が来ない?」「この情報、ほんとうでしょうね?」
ヘリコプター内の専門チームの中に不穏な空気が漂う。莉子せんせーとブラック・ジャックと凪は肩身が狭そうだ。
--そしてついにむっちゃんの入院している病院に緊急ヘリが降り立った!!
「アンボイナガイの毒ですよ?え?伝染病?いやいや、違いますけど?確かに死にかけてはいましたけど…」
むっちゃんの担当医さんの説明にその場のみんなが凍りついていた隙に私は病室に滑り込んでいた。
「むっっちゃぁぁぁぁぁぁんっ!!」
「ぽろけ?」
「ちょっと後遺症で頭おかしくなってますが…回復してますよ。うちの病院にそんな感染症の患者さんは居ませんけど…?」
「……」
「どういうことだ?葛城」
「おいふざけんなよ?」「は?やっぱりガセネタじゃないか」「説明してもらおうか?」
「………………ひぃ」
「良かったよぉむっちゃんっ!むっちゃんが死んじゃうかと思ったよ!!」
「…えれぺけれ?れれれ?」




