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お会計は8万だぜ

「北桜路市のみなさーんっ!お元気ですかー?こんにちはーっ!!北桜路TVのお時間でーすっ!!本日は台風直撃ということでお外はとてつもないことになってまーすっ!!」


 ビュウウウウウウウウッゴォォォォォォォォォッ!!


「さて人が飛ぶ素敵なお天気ですが、本日のゲストはこちらのおふたりでお送りしますっ!!どうぞっ!!」


 ザァァァァァァァッゴロゴロッ!!ドカァァァァァンッ!!


「……どうも。こんにちは」

「おーーーっほっほっほっほっほっ!!皆様、ごきげんようーーーっ!!」

「はーいっ!本日はこちら、本気坂48の城ヶ崎麗子さんと、ファッションモデルの日比谷真紀奈さんにお越しいただきましたーっ!!」


 ズドォォォンッ!!ゴゴゴゴゴゴッ!!ゴガッ!!ズゥゥゥゥゥンッ!!


「よろしくお願いします」

「よろしくですわーーーっ!!おーーっほっほっほっほっほっ!!」


 --私は可愛い。

 私の可愛さはもはや天変地異レベル。なにせ私の美貌ひとつで世界情勢に大きな影響が出るんだから。もはや私のその日の美しさが世界のバランスを決めていると言っても過言では無い。

 この日比谷真紀奈を手に入れられたならばその国は一気に世界経済のトップに躍り出る……日比谷真紀奈とは石油にも勝る神の御業による奇跡の存在……

 ……いや、私こそが神か。


 ……そんな日比谷ですがやっぱり本物の天変地異には勝てねぇって話で。


 先日東京のテレビ局で収録の仕事があって帰ってきたら地元が死んでた。

 ……がっ!恐ろしいことにこの街には「台風?いや予定通り収録しますよ?」という恐ろしいディレクターが居るんだ。


 --観測史上最大とされるこの台風6号。

 異常な勢力と超長時間同じ場所に停滞し続けるという意味不明なこの台風の被害は、既に街のインフラを破壊し多くの住民に避難を余儀なくさせていた。


 ……そんな中で私、日比谷真紀奈が今日出演するのは地元ローカル番組、『北桜路TV』である。

 しかも東京から引き続きこの城ヶ崎麗子と共演である。


「おーーーーっほっほっほっほっほっ!!」

「……煩悩寺、私綺麗?髪の毛大丈夫?」

「メデューサみたいになってるッスけど、美しいッス!!」


 マネージャーがそういうなら私は可愛いんだろ。流石にこの土砂降り強風雷ゴロゴロの中で地上波に出るのは嫌だった。

 ……まぁ、こんな日比谷もたまにはいいか。


「さて、本日は芸能界随一の美女おふたりとこの北桜路市を散策していきまーすっ!!」


 この大悪天候の中なんの疑問も持たずにスカートめくれまくりの中、司会のタレントさんと一緒に歩き出す。


 この北桜路TVは北桜路市をゲストと共に散策し、色んな人と触れ合ったりご飯食べたり…というどこにでもある番組。ちなみに生放送なのである。

 ……電柱がぶち倒れてるけどこれ、ちゃんと放送されてる?


「さて、今回は北桜路市港中央区を散策しまーすっ!!ご覧下さい!!駅前ですが誰も居ません!!」

「居るわけないよ……」

「おーーっほっほっほっ!!今Twitterで『収録なう』ってツイートしておきましたわーーっ!!」

「来ないよ誰も」

「おやっ!あそこに第1村人発見です。日比谷さん、ちょっと声掛けて来てくださいよ」


「助けてくれーっ!!」


 そこには駅前のタクシー乗り場でひっくり返ったタクシーに潰された運ちゃんが…

 嬉々として私に絡んでこいと煽るタレントに狂気を感じる。


「た、助けて……タクシーがひっくり返ったんだよっ!!」

「こんにちはー……えっと、何されてるんですか?」

「おーーっほっほっほっほっほっほっ!!ごきげんよう!!」

「ご機嫌じゃねぇよ!!姉ちゃん達助けてくれっ!!」

「楽しそうですわねーっ!!おーっほっほっほっほっ!!」

「舐めてんのか!?車の下敷きになってんだって!!」


 美味しいご飯屋さん聞いて


 暴風にも負けじとスタッフからのカンペが…


「あのー、ここら辺で美味しいご飯屋さんってありますか?」

「おいっ!!何考えてんだこっちは死にかけてんだよっ!!冷やかしなら帰ってくれっ!!」

「おーーっほっほっほっ!!美味しいご飯屋さんならタクシーの運転手に訊くに限りますわーーっ!!おーっほっほっほっ!!」

「頼むから助けを呼ぶなり引っ張り出すなりしてくれねぇかな?」

「それで美味しいご飯屋さんは?」

「それでじゃねぇよ!!鈴鹿通りに安くて美味いトンカツ屋があるけど!?」

「なんて名前のお店ですのーーっ!?おーーっほっほっほっほっほっほっ!!!!」

「ヒノキ屋だよ!早く助けてっ!!」

「それでは早速向かってみましょーっ!」


 運ちゃんをシカトしもう用はないと言わんばかりにスタスタ目的地に向かって歩き出すタレントさんとスタッフ達……これが地上波で流れているという恐怖……


「ふざけんなーーっ!!」



 鈴鹿通りのヒノキ屋といえば、安くて早くて美味しいと評判のトンカツ屋さん。夫婦でやられててうちの学校の生徒も大好き。

 もちろんこの日比谷も何度かご馳走になってる。お店にサインもした。


 ……って話をしてたら。


「では撮影許可を取って来てくださーい!!」

「頑張るのですわーーっ!!おーっほっほっほっほっ!!」


 シャッターの閉まった店の前に台風の中放り出された……

 私の背後では電柱や街路樹や車が転がってる。今にも吹き飛ばされそうになる中でガシャガシャ風に揺れるシャッターを前に日比谷立ち尽くす。


 ……え?やってないよ?見たら分かるじゃん。


「ヒノキ屋さんやってないけど…」

「このままじゃ撮れ高がないでーすっ!」


 あるわけないだろこんな天気の中ロケってそもそも何するってのよ。


「すみませーーんっ!」


 ガシャガシャ!!


 とりあえずシャッターを叩いてみる。確かお店兼自宅だったはず…いや、この天気だしもしかしたら避難したかも……


「すみませーーんっ!!」


 ……日比谷真紀奈。18年間人に迷惑をかけず、ポイ捨てもピンポンダッシュもしたことなく今日まで生きてきた。

 人生初の迷惑行為は歴史的台風の最中閉まっている店のシャッターを叩きまくる。しかも地上波で。


 すると2階の窓が開いた。危ないから開けないで。


「誰だいこんな日に……おや?」

「すみませーんっ!北桜路TVっていうTVのロケなんですけどーっ!!」

「ロケ!?お父さん!TVのロケが来たよ!!」

「ちょっと撮影させてもらっていいですかーっ!?」

「今日!?」

「お店開けてくださーいっ!!」


 ……何してんだ私。


 お店のおばさんが顔を引きつらせていたその時、暴風の中静かにお店のシャッターが持ち上がった。

 薄暗い店内からのそっと現れたのは初老の頑固オヤジって感じのしかめっ面をしたお店のご主人。

 ……いや、しかめっ面なのはこの迷惑行為のせい?


「あ、ご主人、あのですねロケで……」

「入んな」

「え?」

「腹、減ってんだろ?」


 *******************


 オヤジィィィィっ。


「今回特別にお店を開けてもらいましたー。タクシーの運ちゃんイチオシのうなぎ屋さん、ヒノキ屋さんでーすっ」

「おーっほっほっほっほっほっ!!トンカツ屋さんでしてよーーっ!!」


 お店誰も居ない。貸切である。当たり前である。


「あんたなにもこんな日に開けなくても……」

「いいんだよ。かかぁ……オイラァ飯屋だぜ。腹が減ってる客が居るなら飯を出す。それだけの事だぜ。シメるのは飯を食わせたあとでいい」


 シメられるらしい。やっぱり怒ってるっ!!


「店長、オススメはなんでしょうか?」

「おーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!一流は舌が肥えてましてよーー!?絶品でなくては、食レポしませんわーーっ!!」


 黙れ城ヶ崎。こんな日に開けてもらってなんでそんな偉そうだ。


「オススメはねぇ。何を出しても満足させる、それがオイラの店でぃ」

「おーーっほっほっほっほっ!!私、そんなにお腹が空いておりませんことよーーっ!!この写真に載ってる、高菜だけ頂けませんことーっ!?」

「それ、定食のお漬物だから…定食頼め」

「えー、それでは…高菜を3つで……」

「待って?トンカツ食べよう?しかも3人とも同じの食べるの?」

「ちょいと待ってな」


 いいんだ!?


 城ヶ崎と進行役、余程お腹が空いてないらしい。カメラに映らないスタッフがガッツリトンカツ定食頼んでる横でオーダーから30秒で高菜が出てきた。


「へいお待ち」

「おーーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!!!早いですわーーーっ!!!!!!」

「なんせ市販の漬物皿に乗せるだけだからな」

「おーーーっほっほっほっほっ!!まさかの、市販のお漬物ですわーーーっ!!!!」

「あのー…お漬物だけだと絵的にアレなんでご飯とか持ってきてもらっていいですか?」


 この進行役タレントっ…とんでもなく図々しいメンタルの持ち主に違いない…


「へいお待ち」

「おーーーーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!またしても、早いですわーーーっ!!!!」

「サ○ウのご飯チンしただけだからな」

「おーーーっほっほっほっほっほっ!!まさかの、サ○ウのご飯ですわーーーっ!!」


 オヤジ!!これ生放送らしいよ!?いいの!?


「それでは日比谷さん、城ヶ崎さん、食レポどうぞ!!」

「…いただきます」「おーーーっほっほっほっほっほっ!!頂かせて頂きますわーーーっ!!」


 ぱくっもぐもぐ……


 …………


「…どうでぇ!美味ぇだろうちの飯はっ!!」

「いや、うちの飯じゃないでしょ?」

「おーーーっほっほっほっほっ!!特に言うことはございませんわーーーっ!!!!!!」


 最低な食レポである。


「おふたりとも美味しそうですねー。特にこの……たくあんとご飯のコントラストが…もぐもぐもぐ」

「たくあんじゃないしちょっと進行さん、あなたなにトンカツ食べてるの?」

「スタッフさんの頂きました。日比谷さんも食べますか?」

「おーーっほっほっほっほっほっほっ!!自慢の味、是非ご賞味させて頂きますわーーーっ!!!!」


 ぱくっもぐもぐ…


「どうでぇ?」

「お味は!?」

「……あ、美味しいです」

「おーーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!普通ですわーーっ!!」


 てめぇまじで口を慎め。街のみんなの大好きな味だぞ?


「おうよ!なんせ今チンしたばかりだからな。美味ぇだろ。そこの向かいの店で売ってるカツだぜ」

「え!?」

「おーーっほっほっほっほっほっ!!よそのお店のトンカツでしたわーーーっ!!」


 悲報 この街の名物トンカツ、オヤジの料理が出てこない。


「お会計が8万円だぜ」

「高っ!?」

「おーーっほっほっほっほっほっほっ!!まさかの、ぼったくりトンカツ屋でしたわーーーっ!!」

「えー……トンカツも漬物も全てよその商品を提供してくれるこちらトンカツ屋さんヒノキ屋さん。一店舗で様々な味を楽しめる、北桜路市の頑固オヤジの味、大変美味しゅうございました」

「オヤジの味じゃないし。オヤジなにもしてないし」

「鈴鹿通りにありまーす!みなさーん!!是非とも1度お立ち寄りくださーいっ!!」

「おーーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!おーっほっほっほっほっほっ!!」

「お会計は8万だぜ」

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