家元の腰に世界がかかっております
--トイレの花子さん。
学校の女子トイレの個室に住むという妖怪…なのか都市伝説なのかは知らんけど、トイレをノックして「花子さん遊びましょ」と呼びかけると「ええよー」てな感じで出てきて遊んでくれる…のかは知らんけど。
まぁそんな、トイレの女神と紙一重の存在な訳だが……
『私は昔ここに通ってた生徒なんだけど、トイレの便器に忍び込んだら出られなくなって死んじゃったの』
うちの花子さんは想像を絶する死に方をした呪縛霊らしい。
--私、葛城莉子は古城幸恵を救うため、そしてぶち飛ばされた軽自動車を弁償させるために古の大妖怪を妻百合花蓮に押し付けるため奮闘中。
なんとか妻百合君と連絡をつけてくれると思った小比類巻の野郎が想像以上の役立たずで私は古の妖の力なのかなんか知らんけどヘドロにより便所に引き込まれそうになったらそこが花子さんの家だったらしい。
そして便器から出られないはずの花子さんが何故かヘドロの力で実体化したのが前回までのあらすじ…
……?
「……うちのOBか」
『いや卒業してないから』
「なぜ便器に忍び込んだりしたのかな?というか、どうやって忍び込んだのかな?」
『美少女のウ○コ食べたくて……』
?
『なんかさ、やっぱり直絞りがいいじゃん?鮮度的に。ひねり出されたそれを直接口で受け止めるのがさ……』
??
『まぁそんなわけでたくさんの美少女のクソを食べたくてこうして現世に留まってるんだけど……』
意味わかんねー花子さんは異常に白い自分の体をまじまじ見つめていた。便器から出てきていくらか時間が経ったがまだ濡れている……
『あの下痢ピー……なんか凄いパワーを感じたんだよね。もしかしてあれを浴びたせいで私…生き返った!?』
「おめでとう」
『えぇ!?やだっ!!私トイレから出たくないよっ!!もう美少女の肛門に寄生出来なくなったってこと!?』
寄生!?
……いやそんな場合ではない。私は忙しいんだ。こんな便器から出てくる不審者に構っている暇はない。
先を急ぐ私を引き止めたのは花子さんだ。『待って』と私の腕を掴む手はべっしょりだった。
「なにかね?放したまえ」
『こんな…いきなりトイレから引っ張りだされてこんなとこに1人置いてくの?』
「君が出たんだろ?」
『あなたのせいでこんなことになってるんだけど…?私をトイレに帰して。安住の地を返して』
「私のせいじゃないよ」
『あなたの下痢ピーでしょ?』
「違うわ」
こんなトンチンカンな事態をどう説明したものか…と思ったけどそもそもこの子の存在がトンチンカン。
ので、しつこく粘っこく絡みついてくる花子さんに説明してやることにした。
「実はね…今太古の大妖怪が復活してるのかしてないのか知らないんだけど大暴れしてて……」
『ふむ』
--かくかくしかじか
『つ、詰まり!!「“つまり”な?」私の浴びたその下痢ピーは古の大妖怪の下痢ピーってこと!?』
あるいは下痢ピーなのかもしれない……
『つまり古の大妖怪を倒さないと私の平穏は帰ってこない……!?』
「倒したら戻ってくるのかは知らないよ。しかし私は生徒を助けなければならない」
そして自動車とアパートの扉を弁償してもらってビールを飲まなければならない。
「その妖を封印したのか知らんけどその一族の末裔がこの学校の生徒なんだよ。その子に丸投げしなければならない。分かるかい?私は忙しいんだ」
びっしょりの手を振り払うと今度はびっしょりな髪の毛が首に絡みついた。
『待って!!』
「君が待て!!伸びるのかその髪の毛!!しかもなんか臭いぞ!!」
『私も手伝わせてよ!!私早く元の生活に戻りたいもんっ!!』
……便器の中に帰りたがる女子高生…
しかし、こんな臭くて……髪の毛にトイレットペーパーのカスとか絡みついてる地縛霊なんかと一緒に行動したくない。なんか…便秘になりそう……
『私役に立つよ。こう見えて強力な呪縛霊だから』
「……具体的には?」
『どんな人でも強制的に脱糞させられる』
「……」
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皆様ごきげんよう。妻百合花蓮でございます。
朝から凄まじい勢いで暴れられておられる台風6号様、この街を通り過ぎる気配もありませんで同じ場所に停滞しておいでです。
車が飛ばされ、人が空を舞い、家がカールおじい様のご自宅の如く天高く浮かび上がるこの天候……
橋本先輩のお見舞いに参りました私も絶賛病院に閉じ込められ中でございます。
橋本先輩、橋本先輩と交際されておられる宇佐川様、私……
3人きりの病院の中も次第に不穏な雰囲気に包まれて参ります……
「……なんか、電気がチカチカし始めたね」
「……そーだな」
病院全体の照明が付かれたり消えられたり…病院スタッフ様方が慌ただしく走り回っておられる足音が聞こえて参ります。
備え付けのテレビをつけますと、台風はますます勢力を拡大されておりまして、1979年の台風20号より更に強力だそうでございます。観測史上最強の台風でございます。
そんな迷惑な台風様は通過することなく、この街を蹂躙されております……
……香曽我部先輩は大丈夫でしょうか?もし電気が止まって空気清浄機が動かなくなりましたら…………
--とうおるるるるるんっ!とうおるるるるるるるるるっ!
なんでございましょうか?この人の声で電話のコール音を真似られるような音は…?
「あ、電話だ」
「着信音のクセ強くね?圭介」「流石のセンスでございます」
知らないお電話番号は出てはいけませんよ?橋本先輩……
出られました。お知り合いのようです。
「もしもし?」
『わたしのかわいいドッピオ』
「あ、ボス」
ちょこっとだけ聞こえて参りましたがどうやらお人違いのようでございます。ここにドッピオ様はいらっしゃいません。
「妻百合さん。小比類巻君からだよ」
なんと、小比類巻先輩でございましたか…橋本先輩がスマートフォン様をこちらに渡してきております。代われということでございますね。
「もしもし?小比類巻先輩、パッショーネのボスへの就任、誠におめでとうございます」
『…橋本と一緒に居たとは良かった。ある人に電話をかけて欲しい。急用があるんだと』
「かしこまりました。お電話番号をお教え頂けますか?」
『おまえにわたしの『キング・クリムゾン』の能力の一部を「借りておりませんしエピタフがあっても番号は分からないでございます」
『……そうか』
「はいでございます」
小比類巻先輩が仰られた番号はなんと先程私のスマートフォン様にかかってこられた番号でございました。
不肖、妻百合花蓮。お電話かけさせていただきます。
ぷるるるんっぷるるるんっ
『……もしもし!?もしもし!妻百合君かね!?』
「葛城先生でございますか?私、妻百合花蓮と申します。先程小比類巻先輩からご連絡を頂きまして僭越ながら私、折り返しお電話させて頂きました。よろしくお願い致します」
『ああなんでもいいけど……今いいかね?大事な話があるんだが…』
「なんなりと」
葛城先生が電話口で申されるその要件とは、私の想像を遥かに上回る、予想外の事でございました。
『君、陰陽師なんだって?』
まず出端から予想外でございます。
「……えっと」
『君の家の御先祖様が昔に封印した妖怪が大暴れで危うく便所の泡と消えるところだったよ』
葛城先生の語られるそれはつい先日帰省致しました時、家元から聞かされた話と見事に記憶の中でリンク致します。
……しかし葛城先生がどうしてそのようなことを……?
いえ、それどころではございません。
「……詳しくお聞かせ願います」
--我が妻百合一族の歴史古く、はるか昔、天皇にお仕えする陰陽師としての頃まで遡られます。
かつて京を恐怖に陥れたと言われます伝説の大妖怪、日本三大妖怪の一角、九尾の狐……
その妖怪を滅し、その魂を封印されたのが我が御先祖様。
その魂のうちひとつは殺生石へ、ひとつは我が妻百合家の管理されます勾玉へ……
そしてひとつは九尾の狐が愛したとされます女性の一族へ代々と……
『…ああやっぱり私の聞いた話と同じだ』
私から妻百合の歴史を聞きました葛城先生はとても安堵された様子でございましたがこちらはそれどころではありません。
「……では、古城様がその封印の一族…」
『そうだ。そしてその封印が解けたのか知らんけど今こうなってる。古城家は全滅だ。このままでは世界が終わる』
とてもざっくりと世界滅亡を聞かされました私、妻百合は驚愕と恐怖に慄きます。
…………我が妻百合流、毎年行われます神事にて家元が舞います舞は、妻百合で管理します封印の勾玉の封印を維持する為の儀式でございます。
ですがその神事、今年は中止となりまして……
何故かと言いますと家元にのみ継承されるその神事の舞が舞えなくなったからでございます。
家元のぎっくり腰で。
家元曰く、3つの魂は惹かれ合いひとつでも封印が解けますと残りの封印まで……との事でございました。
…………これ、我が妻百合流のせいでは?
次期妻百合流家元として、この世界滅亡の危機、見過ごすことはできないでございます…
「……じ、事情は分かりましたでございます」
『じゃあ後任せていい?ちゃちゃっと封印してくれる?』
「いえ……あの…………私、どうやったら封印できるかとか……存じ上げませんでして……」
『え?いやいや……え?何とかして?』
「も、もちろん……えっと……一旦家元…お父様に事情を説明させて頂いてよろしいでしょうか?」
『しなさいしなさい』
…………なんということでしょうか。
妻百合流のたった一度のミスで……家元のぎっくり腰でこのようなことになるとは…家元の腰に世界の命運がかかっておられたのですね……
「?どうしたんだい?妻百合さん。顔色がすごく悪いよ?」
「吐きそうなんか?」
「…………いえ。あの……いえ。なんでもございません。少しお電話よろしいでしょうか?」
「いいけど……」
「あ、電気消えた。停電だぞ圭介」
「わひぃぃぃいっ!?!?怖いよぉっ!?」
「……お前それ素でやってるなら男辞めろ。全くクソ台風が……」
申し訳ございません。このクソ台風、私達のせいでございます。
「この台風のせいで家にも帰れねぇ……うち、じいちゃんと二人暮しなんだよね」
それは心配でございましょう…申し訳ございません。
「じいちゃん……死んでたらどうしよう。聞いてる?妻百合」
「ガタガタガタガタガタ」
「どうした?」
「も、もし……そうなっておられたら……腹を切ってお詫び致します…………」
「……なんで?」
助けて……家元。
ぷるるるんっぷるるるんっ
『…もしもし?花蓮か?そっちは大丈夫かね?凄い台風だと聞いているが……』
「いいい、家元っ。大丈夫ではございませんっ!!このままでは……このままでは、世界が滅んでしまいますっ!!」
『え?』
「え?」「大袈裟だぞ妻百合」
古の大妖怪、九尾の狐……
果たしてこの世界はどうなってしまうのでしょう。
いえ、そんな他人事みたいに言っている場合ではございません。
妻百合花蓮、世界の存亡をかけました戦いが始まります。




