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煉獄会殲滅作戦

 --関西煉獄会殲滅作戦。

 その殲滅戦に日本政府からの応援で参加することになったのが私、ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世。

 既に一線を退いた身ではあるがこの私には決着をつけなければならない相手が居る。ソイツがこの関西煉獄会に居る。


 まぁそんなことはいいんだ。

 私は与えられた任務を全うするだけ。


 本作戦は日本警察、自衛隊、そして私達外部から招集した傭兵チームで行われる。

 目標は幹部組員の逮捕--ということになっているが投入された装備は明らかに殺意の体現だ。

 必要に応じては……いや、もはや生死は問わない。

 作戦責任者から告げられた組員、協力者への対応は暗にそう告げている。


 --この街が戦場になろうとしている。



 東京を遠く離れ九州。桜で有名な街、北桜路市……

 関西煉獄会はここに侵攻し活動拠点を広げている。そしてここには煉獄会が総力を挙げて潰そうとしている報復対象が居るらしい。

 その報復対象を聞いた時は流石に冗談かと思った。


「……巨大マフィアが勢力を挙げて潰そうとしているのがただの女子高生か……どう思うよ?ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世」


 作戦に駆り出される傭兵達を乗せた警察車両。隣に乗るこの男もまた中東で名を馳せた伝説級の傭兵、バーバーバラ・イヤン。


「…初対面のはずだけど私の名前を噛まずに一語一句間違えることなく言い切るとは……あなたは中々見所がある」

「この世界最高のビッグネームに褒められるとは光栄だ。戦場に生きててあんたの名前を知らねぇ奴は居ねぇよ」


 ……ただ殺戮の日々を送っていただけなのに、随分名があがったものだ。そんな私をも上回る怪物がこの国に居る。


「……煉獄会のターゲットもそんな子なのかもしれない」

「ん?」

「--宇佐川結愛。愛染高校3年生。通称『魔人』。彼女は既に煉獄会とっておきのヒットマンチームを潰しているらしい。ただの女子高生ではないのかもしれない」

「…魔人とは恐れ入ったぜ」


 が、私達には関係ない。彼女は煉獄会のターゲットであって、私達のターゲットでは無い。


 今回の任務はとあるロックミュージシャンの警護、及び彼を粛清に現れるだろう主力級メンバーの掃討である。

 そのミュージシャンの所属事務所と煉獄会が揉めたらしい。そこで事務所の看板のミュージシャンを見せしめに殺害しようというのだ。


 そんな可哀想な男がこの街、北桜路市のロックフェスティバルに出演するというのだ。


「警察の話じゃ既にこの街で活動してる武闘派組員と合流し、準備を進めているらしい。主導となってるのは舎弟頭、御頭頭尾おかしらとうび。武闘派ではないが幹部組員だ」

「……メインターゲットだね」

「そうさ。舎弟頭主導の元この街に潜伏してるヒットマンチームが動く」

「……この作戦で主力を削れば、今後の作戦が格段にやりやすくなる」


 初陣にしてかなり重要な任務ということ…

 なにより、この街に居るあの男との決着という私にとっては最も重要な目的を果たすチャンスかもしれない。


 必然、私の気合いも爆発し、溢れ出す殺気は同乗してる一流の傭兵達をも震え上がらせるほどだった。


 *******************


「調査結果によるとこの夏フェスへ参加する我が校の生徒数は107人にものぼります。つまり、このフェスティバルを我が校内保守警備同好会が警備するのは必然かと…」

「いや、しかしですね」

「しかしもへったくれもないんですよ」

「消火器の持ち込みは……」

「我が同好会の基本武装なので」

「いや、他のお客様のご迷惑にもなりますので…」

「いや」

「いやではなくてですね……」


 北桜路市港中央区公園。

 ここで本日より2日間開催される夏フェス、そこに夏休み中の我が校の生徒が多数参加するとの事でこうしてはいられないと私達校内保守警備同好会が出動しました。


 こんにちは。浅野詩音です。


 最近は暴力団による物騒な事件も多発してるし、うちの生徒も巻き込まれた事件がいくつかある事だし、こんな人の集まる所危険すぎるということで出撃したんだけど…


 運営に止められた。


 今同好会のメンバーが事情を説明してるんだけど中々了解が得られない。彼らはことを軽く捉えてるようだけど事態は予断を許さない状況なの。

 なんせ我が同好会のメンバーですら例の暴力団との戦いに巻き込まれているんだから…


「姉さん、流石にイカれてると思う」

「こら美夜、あの人達も仕事なんだから、そんか事言ったらいけません」

「いや……私らがイカれてんの」


 消火器を装備して警備準備万端な私達の横を物々しい警察車両が通過していく。近頃街中でああいう厳戒態勢のポリスメンをよく見るけど……


「ほら姉さん、私らがやらなくても警察がちゃんと警備してくれるから。私らは帰って焼肉でも食おう」

「美夜、私達の生徒を守るのは私達じゃないといけないんだよ」

「いやいいって」

「何言ってるの!警察なんかに任せておけませんっ!!」

「お前はどの立場から言ってんだ」

「……おかしいですね」


 姉妹の言い争いに割って入って違和感を口にするのは我が同好会最高戦力、彼岸神楽さん。

 1人だけ専用武装(真剣)を帯びた彼女の気合いの入りようはここ数日でまたさらに凄まじくなった。どれくらいかと言うと授業中に飛んでる蝿を条件反射で切り捨てるくらい。

 つい先日もうちの生徒が誘拐される事件が起きたし、あの時何も出来なかった不甲斐なさからだろうか?山篭りしたみたいだし……

 彼女も校内保守警備同好会の一員としての自覚を持ち始めたみたい。


 さてそんな彼女の言う違和感、無視はできない。


「何が気になるの?神楽さん」

「……たかが音楽イベントでこれだけの警備……確かに最近街中厳戒態勢ではありますが……今の車の中に乗っていた人達、明らかに普通の警官の装備ではなかった」

「見えたのかよ今の一瞬で?」

「はい、視力8.0なので」

「マサイ族かよ」


 美夜とのやり取りも早々に切り上げた神楽さんは日本刀を抜きながらつかつかと運営の方へ向かっていく。それを美夜が慌てて止めた。


「ちょっと待て。何しに行く!?」

「先輩方では埒が明かないので直接交渉に」

「交渉に抜き身の刀いる?てか音楽フェスに刀いる?」

「消火器もいらないでしょう?」

「いや消火器はいるだろ……一応警備に来たんだし。てか、逮捕されたいんかお前は。てかもう帰るぞ」

「美夜、ここは神楽さんに任せてみよう」

「いや馬鹿か?」


 私が美夜を止める間に「失礼」と神楽さん運営の方へ……そのままメンバーが警備の交渉をしてる運営事務所に消えていく。


「--ぎゃーーーーっ!!」


 直後響く甲高い悲鳴に私も美夜もビクッとした。この悲鳴、ただ事ではないっ!!


「……ま、まさか。もう既に何かあったんじゃ……っ!美夜!!」

「美夜!!じゃねぇ!刀持った奴が入ってきたら悲鳴もあげるわ!!まじで逮捕されたいんか!?辛いぞ!?」

「…………自分で人生に泥塗った人の言葉は重みがあるね、美夜」

「喧嘩売ってんのか?」


 *******************


「おいおい!!Youの警護がこの怪しい集団ってマジですか!?」


 --北桜路ミュージックフェスタ。


 その会場である港中央公園の出演者控え室で対面した件のロックミュージシャンは『モーリー・モリモリ』と言った。確かにドレッドヘアーがモリモリだ。


 今回煉獄会から狙われる詳しい経緯については事務所が揉めたくらいしか私達には情報が渡されていない。が、昔から芸能界とヤクザの繋がりは囁かれている。

 この目の前のイカついサングラスの奥で私達傭兵部隊を睨む男の目も、やはり一般人にはない雰囲気がある。


「海外の傭兵!?ワット!?おいおい間違えて俺を撃たないでくれよ!?Youは今回のフェスの目玉--」


 何やら汚い日本語を喚いていた男がバーバーバラによって向けられた銃口に黙らされる。

 手荒だが、これくらい血と砂埃にまみれた戦場では挨拶みたいなものだ。指がトリガーにかかっていないだけ紳士的と言えるだろう。


「侮辱は許さねぇぞジャパニーズ。こっちはお前の命守ってやろってんだ。お前らがヤクザとどんな阿漕な商売してても見ないふりしてな」

「オー…オーマイガー……勘弁してくれよ。おいマネージャー…Youは生きてここから出れる?」

「…警視庁が配備したプロフェッショナルです。ご安心ください」


 ……この女、マネージャーか。


「シャン・アンソエール・ルイゴッホ・マッカンシー・モルケンチャロフ・ルイセルフ・L・アンジョリーナ・タナカ二世さん!!」

「ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世だ」


 飛び込んできた警官に鋭い指摘。私は名前を間違われるのを許さない。


「あぁっ!くそっ!徹夜で覚えたのに…」

「覚えきれてないじゃないか…なんだ?」


 本来ならまともに人の名前も覚えられない奴と話すことなんてないけど仕事中だ。不満をぐっと飲み下し耳を傾けよう。


「先程運営の方から…なにやら怪しげな連中が会場警備に加わりたいと…」

「怪しげな連中?」

「ええ…学生みたいなんですが」


 なんということだ。日本の警察は優秀なはずではなかったのか?学生くらい止めてみせろ。


「日本刀を振り回して…えらい強さでして……もう手に負えませんっ!!」


 …日本刀。

 ジャパニーズサムライの魂。その単語から連想される白銀の輝きがあの獣のような闘気を思い出させた。


「……バーバーバラ、ここを少し頼む」

「オーライ」


 私は湧き上がるその予感をぐっと抑え込み、今にも拳銃に手をかけそうになるのを堪え運営事務所に足早に向かった。


 護衛対象を一流とされる傭兵達に任せて…


 向けたその背中に一抹の不安を感じたのは気のせい…のはずだ。



 --私が駆けつけた時そこは惨劇の現場と化していた。


 運営の人間はみなケツから刀を生やして地面を転がっている。致命傷だ。色んな意味で。

 惨劇の現場の中心で暴力の限りを尽くしただろう女が佇んでいる。話に聞いた通り本当に学生だった。


「……?」

「……何者だ?お前…煉獄会のヒットマンか?」


 現れた私に怪訝そうな目と警戒の色を表す女に私はナイフを抜いた。何者であろうとこれを見過ごすことはできないだろう。


「煉獄会?やっぱり奴らがここに来るんですね…あなたは?見たところ警官ではなさそうだけど…」

「答える義務は無い。答えるのはそちらの方だ」


 両者の間に漂うのは濃密な空気。2人の闘気が粘土を増して息が詰まりそうだ。この平和の象徴みたいな国でこんな強者と相対することになるとは人生本当に分からない。


「口ぶりからしてお前、煉獄会と関係があるのは間違いない様子。詳しく話を聞かせてもらおうか」

「……私は校内保守警備同好会の彼岸神楽。煉獄会と戦う為に来ました」


 …………彼岸?


「彼岸…だと?」

「……?」

「……お前、彼岸三途の身内か?」


 その言葉を吐いた瞬間に彼岸を名乗る女が加速する。一気に加速し間合いに入りながら腰から日本刀を抜き放つ。


 …速い。が……


「脇が甘い」


 イノシシの様に突っ込む馬鹿のがら空きの横っ腹を蹴り飛ばす。流れる体は急所を晒しまくったただの的。

 が、まだ殺せない。


 ナイフの尻の部分を頭に打ち下ろそうとしたら、私の右手が跳ね上がってきた刀に弾かれる。

 正確な軌道。反応が遅れたなら手首が斬り飛ばされていた。


 斜め上から一息の間に乱れ打ち。それが連続で続く。私の体が一気に押し込まれる。


 ……つ、強いっ!?


 反撃。喉目掛けて放たれる刺突をナイフで弾く。そのまま真っ直ぐ突きを放つ。

 女は反応が遅れたようだ。そのまま突き刺されば心臓を貫くだろう。そこで焦って止めた。

 まだ殺せない。

 慌てて軌道を逸らした私のナイフは女の左脇を浅く削っていく。急に起動を逸らした私の体が今度は流れた。


 --その隙に……


「--シッ!!」


 女の銀閃が煌めく。

 線を描く真っ直ぐで美しい太刀筋が吸い込まれるように私の首に滑り込んでいた--

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