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最後の試練は思いつきませんでした

 --関西煉獄会との戦いに身を投じる俺、佐伯達也。強くなる為に挑む師匠からの3つの試練……


 第1の試練、小比類巻を倒せ

 第2の試練、千夜と1ヶ月接触禁止


 そして最後の試練……



「……ふん、多少は強くなったね、達也」

「師匠……」


 宇佐川先輩宅近くの空き地。不良の溜まり場になってるらしいその場所で俺と師匠は睨み合う。

 ちょうどたむろしてた不良達と彼岸神楽がそれを見守る。


「おいおい……まじかっ!?」「あの魔人宇佐川とタイマン……」「どうなっちまうんだよ、一体……」


 ギャラリーの腕に覚えのありそうな不良達か恐れ慄くその反応は目の前対峙する師匠の戦闘力をそのまま表している。

 ……が、対面した俺が誰よりもその力を実感していた。


 強い……昔より遥かに……


 俺はかつて師匠に勝っている。が、あの時と今では向かい合った時の威圧感が比にならない。

 かつての師匠との対峙をライオンとの一騎打ちとするなら、さながらこれは自分に向けられる核弾頭と向かい合っているかのような…………


「……達也」

「はい」

「これが最後の試練だ。これを乗り越えたなら私がお前を強くしてやる」


 --試練その3~宇佐川結愛を倒せ~


 ……どうして師匠の稽古をつけてもらうのに師匠を倒さないといけないんだ?


 *******************


 …………めんどくせぇ。


 今の心情を表すとしたらそんなとこか……


 私宇佐川結愛は今、とっても面倒臭い後輩佐伯達也とのタイマンに挑もうとしている。


 時は遡りうん十日前…

 どうやら私はヤクザ者のターゲットにされたらしい。で、カレシまで巻き込まれたんだがそれは力づくで解決した。

 が、それでは収まらない。

 今この街を騒がせているヤクザ。その中にこの達也のライバルが居るんだと……


 達也はそのライバルに勝ちたいから強くなりたいと私に弟子入りを懇願。

 私としてはめんどくせぇ連中の相手なんてごめんなので願ってもない話だけど、コイツの相手もめんどくせぇ。

 ので、適当な試練を3つほど与えた。


 んで、これがその最後。


 私に強くしてもらいたいなら私を倒してみろよって……


 これで私を倒したら私に稽古つけてもらう意味なくね?って達也は思ってるかもしれんけど、別に3つ目の試練を思いつかなかったとかでは無い。断じて。


 あれだ……これで私が適当に負ければ「お前は強くなった。私を踏み越えて行きねぇ」とか言ってカッコよくかつ綺麗にこの面倒事終わらせられるだろ?

 だってめんどくせぇもの、稽古とか。

 夏休みは圭介と行きたいとこ沢山あるし……


「……と、言うわけで」

「どういうわけですか?」

「達也……お前は1度私に勝ってる。手加減はしないよ?」


 ビリビリと空気が震え出す。まるで大気が振動するかのようにそれは触覚で感じられ、振動は破壊を伴い地面を伝い、私達の立つ地面を割っていく。


 可愛い後輩であることには違いない。

 が、後輩のケンカの世話までしてやるのはめんどくせぇ。

 が、半端なままケンカして後輩がやられるのも可哀想だ。


 まぁ稽古をつける約束だし……手加減はなし。私は『力』を解放した。


 圭介の浮気を疑う怒りで手に入れた私の力。大地を割り空を震わせ、降臨する。


 私が魔人、宇佐川結愛。


「ひぃっ!?」「こいつぁ……一体……」「ててて、天変地異だぁ……」

「……馬鹿な。この人一体何者なんだ……てか、これもう三途より強いだろ絶対…」


 戦慄するギャラリーの不良と彼岸神楽。

 外野ばかりが冷や汗をかく中、肝心の達也はまるで明鏡止水のような表情だ。


 さっきまでの緊張がない。私は戦闘態勢に入った達也の表情に確かな成長を見た。


「……師匠、俺の力、見極めてください」


 達也が懐から出したのはスタンガン。

 まさかこの私にそんなものが通じると思ってるのか?と様子を見ていたら……


「ふんっ!!」

「あぁっ!?アイツ何やってんだ!?」「自分にスタンガン当ててやがる!?」「恐怖でイカれたか!?」


 …………

 バチバチと迸る電流は大の男も失神させよう。それを自らの体に流し焦げ臭くなるまで電気を浴びる。

 私は見抜く。


 達也の体が解れてく……


 魔人の神通力、サーチアイにより達也の全身をくまなく観察する。電流の流れる筋肉が叩かれまくったステーキ肉みたいに柔らかく解れている。

 スタンガンを止めた時、達也の筋肉に柔軟性が宿っていた。


「…………試練によって得た俺の柔らかさ…師匠も驚いてくれるはず……」

「ふん、柔らかくなったからなんだって?能書きはいいから来い」


 まずは拳骨でその力を比べ合うか……

 てか、何してんだろ私。冷静になってみれば私はなんでこんなに本気で後輩とタイマン張ろうとしてるんだ?


 素朴な疑問を吹き飛ばしたのはいつの間にか眼前に迫ってきた達也。

 その超加速はあっという間に私の懐を取って、固く握った拳をもう突き出していた。


「速いっ!?」


 彼岸神楽が驚きの声を上げる。その時にはもう拳は私の腹を打ちその衝撃は背中まで突き抜けていた。


「なんて近さから……っ!」「なんて威力だよ!!」

「……寸勁」

「え?」「なんだって?嬢ちゃん。」

「ワンインチパンチ……ゼロ距離から放たれる打撃……彼は私の道場であらゆる格闘技を吸収した」


 ……このパンチ、食らったことあるぞ?


 そのまま乱れ打ちが叩き込まれる。息も吐かせぬ猛打の嵐。その一打一打が記憶を呼び覚ます痛みだ。


 ……これ、ノアの使ってた拳法か。


「シッ!!」


 直後、達也が消えた。体を低く下げ、下から頭に目掛けてキックが飛んでくる。つま先が突き刺さるような衝撃だ。


「すげぇキック!」「まるでかまいたちだぜっ!!」

「……あれはカポエイラ。ブラジルの格闘技」


 よろめく私の顔面に閃光のようなジャブ!まるで見えない。が、質は軽い…


 そろそろ反撃するか。


 打ち出されるジャブを無視して突っ込むと拳を突き出す。それを回避する達也が右ストレート。それを更に躱して超至近距離へ。

 手も出ない近さから脚を振り上げ踵落とし。当たれば地面でも砕ける威力だ。


 が、臆せずそれを迎えに来る達也は見事にそれを受け止めかつ、脚を取って私を投げた。


「すげぇっ!?」「足で一本背負いだっ!!」

「……あのパワーを受け止めるのは容易ではありません。力に反発せず受け流す動体視力と柔軟性……佐伯さんは電気の力により柔の技を身につけた……」


 地面に顔面から叩きつけられた。


 転がる私に容赦ない追撃。振り下ろされる踵は私のと遜色ない。喰らえば頭が割れるだろう。


 ……なるほど。私を倒した時より、一緒にカチコミした時より遥かに強い。こんだけ強くて何が不安なんだろ?


 必殺の一撃は私に直撃することはなかった。


「っ!?」

「……甘いぞ、達也」


 私の頭を割るより先に見えない壁に阻まれた足が弾き返される。

 ここから先は私のターンだ。


 *******************


 --圧倒的パワーとスピードにばかり目がいき見落としそうになる。が、俺は見抜いた。

 先輩の強さは驚異的なフィジカルにある。

 術理が足りない。

 それは俺も同じだった。だから学んだ。三途の原点で、奴の持つ全てを--


 俺の技は尽く師匠を圧倒する。が、言い換えればそれは小細工を弄さねば師匠には勝てないということ……


 そしてそんな優位も勝ちを確信した踵落としが謎の力に返されたことで揺らいだ。

 未知の反撃に距離を取る俺。

 同時に頭上を暗雲が立ち込め、腹に響く遠雷が轟く。地面が不安定に揺れ亀裂の奥から地獄の業火の朱が覗く……


 師匠の空気が変わった……

 俺は持参した刀袋から家宝の刀をそっと抜いた。


「な、なんなんだよ……」「一体…何が起きてるんだ?嬢ちゃん……」

「…………分かりません。ここから先は…私にも……」


 師匠の周りを黒いオーラが覆う。触れれば切れそうな気迫に1歩も動いてない師匠に対して後ずさりしてしまった。


「……今の一撃で終わっても良かったけど、気が変わった」

「……師匠」

「沢山努力したんだな。そんなに勝ちたいんだな?なら……私も真面目に稽古をつけてやろう」

「……っ」

「試練は終わりだよ。ここからは…………真剣勝負、お前を強くしてやるからさ…せいぜい--」


 瞬間、師匠が消えた。

 超スピードで動いたとかそんなんじゃねぇ。マジで目の前から姿が消えたんだ。


 ゾッとする俺の後ろで声がした。近い。


「--死ぬなよ?」


 その声だけで気を失いそうだった。

 俺は反射的に振り向きざま刀を振るってた。空気を切り裂く一閃。遥か後方まで剣線が飛んでいく程の一撃だった。


 が、俺の横薙ぎは師匠に触れることすら叶わず俺の体は後ろに向かって吹っ飛んでいた。


 全身を叩く衝撃。触れたのは師匠の体じゃない。全く別の……目に見えないなにか……っ。


 地面に叩きつけられる--と思ったら俺は吹っ飛ぶ途中で空中で制止した。見えない巨人の手に掴まれたみたいだ。

 体がねじ切れるかと思うほど強い力が全身に加わる。両手足、胴…全てが別方向に向かってだ。


「ぐぅぅあああああああっ!!!!」

「どうした達也?お前の勝ちたい男の腕力はそんなものじゃないんだろ?ほら、早く抜け出さないと……」


 師匠が人差し指を上に向ける。それが下に…指揮者がタクトを振るみたいだ。

 直後、脳天からつま先までを衝撃と熱が走り抜ける。

 俺に直撃した雷が地面を伝い電流の波を走らせた。全身が粉々になったかと思った。


 口から黒煙を吐きながら崩れる俺……倒れる俺を地面から突き出す棘が迎え撃つ。

 串刺しにされて即死--誰もが次の瞬間鮮血を散らせる俺を想像したろ。

 師匠ですら、視界の中でつまらなそうな顔をしてる。


 が、超高速で下から伸びてくる棘を俺は素早く回避した。


「なに!?」

「おぉぉぉぉぉおおおおっ!!!!」


 かつてない加速、かつてないスピード。新幹線など優に超える俺の猛ダッシュに流石は師匠、素早く反応。

 空で手刀を振り下ろすと地面がそれに沿って割れた。


 高速で師匠に迫りながら肌で感じる鋭い予感。

 それを信じ俺は不可視の斬撃を紙一重で回避した!


 驚きを隠せない師匠がまた何かをする。師匠の目の前に目に見えない膜のようなものが張られていく…気がした。

 見えねぇ…が、感じた。


 それより速く俺は師匠に唐竹割りの一撃を見舞う。

 超反応で見切った師匠には直撃しなかった…が、浅く頬を裂く。


「…佐伯さん。まさかここに来て…覚醒を!?」

「か、覚醒?」「どういうことだい、嬢ちゃん…」

「恐らくですが……雷に打たれたことでさらに筋肉が解れ、かつ死の予感により開かれた第六感が超常的宇佐川さんの能力を肌感覚で感じ取ることを可能にした…」

「?」「?」

「つまり……立ったと言うことです。宇佐川さんと同じステージにっ!!」



 --凄まじい攻防だ。

 目に見えない斬撃が雨あられと降り注ぎ皮膚を削っていく。その全てを知覚できるが量が多すぎて避けきれない。


「…くっ……そぉっ!!」


 致命傷覚悟で前に飛び出す。刀を頼りにその切れ味を信じ--


 が、足下が爆ぜた。

 灼熱感が下から噴き出し俺の体を突き上げる。紙一重で回避した俺の左腕を溶岩が焼いた。

 直後天空から降り注ぐのは無数の槍だ。


「達也っ!!見せてみろお前の全力をっ!!」

「おっ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」


 刺突のゲリラ豪雨。地面に叩きつけられる槍の雨は地面を穿ち、地盤を貫く。防ぎきれず地面に叩きつけられながら槍の雨を食らう。


 ………………し、死ぬ……

 強すぎる……いやもう強いとかじゃねぇだろこれなにこれ?


 俺一体何と戦ってんだっけ?って思いながら薄れゆく景色…息も出来ない程の鉄の雨に打たれそのまま俺は--


 --……これが終わったら俺…結婚するんだ。


 --達也〜♡


 この……声は……


 千夜……

 花畑が見える……

 1面ひまわりの……ひまわり畑……そこで真っ白なワンピースと麦わら帽子の千夜が…


 達也〜♡

 千夜〜♡

 あははははは〜♡

 うふふふふふ〜♡


「…………っ!!!!」

「トドメだっ!!」


 地面が砕けに砕け、瓦礫と割れた地面が転がるのみの更地と化した戦場でいつの間にか天空へ浮き上がってた師匠が腕を大きく上から下へ……


 漆黒の空が割れて師匠の意志に呼応するようにそれが現れた。

 それは天を割って地上に災いをもたらす大災。

 この惨劇の中まだ生きてた逞しいギャラリーが驚きの声を上げる。


「な、なんだこいつはっ!?デカい蛇!?」「あ、あれは……龍なのか!?」

「あれは……世界をその体に包みし蛇神…世界蛇、ヨルムンガンドですっ!!」


 そんな馬鹿な。


 天空より降りし毒蛇が禍々しい口を開け迫る。その瞬間、俺の全身に猛烈な『死』の予感が駆け上がる。


 こ、殺される--


 確信していた。いや、頭だけで街一個呑み込めそうな大蛇が襲ってきたらそうなるだろ?

 が、俺は立っていた。

 なぜなら俺は知っていたから……


 この猛烈に香り立つ『死』を。

 その『死』を前に何も出来ない無力感を。

 その『死』を体現した男を--


 ヨルムンガンドとアイツが、俺の中でダブった。


 瞬間、足下の溶岩よりも熱く俺の体は発火した。

 コイツに勝てねぇようなら俺は……何度あの場に立っても同じなんだ……っ!!


「おぉぉぉあああああああああああああああああああああああああぁっ!!!!!!!!!!!!」

『キシャーーーッ!!!!』


 互いの咆哮が重なり合い世界が激震する。俺は飛んでいた。


 超高速で振るわれる刀は摩擦熱で発火。獄炎を纏いし刀剣の刃はそのまま真っ直ぐな線を描きながら大蛇の頭に突っ込んだ。


 世界ごと切り裂くつもりで振るった一撃。その銀閃はヨルムンガンドの頭を上顎と下顎でふたつに割ってみせた。


 ドン引きするギャラリー。ドン引きする師匠。ヨルムンガンドを割って師匠の懐に飛び込んだ俺を「嘘やん」って顔で師匠が見ていた。


 俺は『死』を乗り越えたっ!!



 --ザンッ!!


 *******************


 横たわる世界蛇の亡骸が空き地を押しつぶす。全てが終わった戦場は空襲の後のようだった。


 俺の一撃に切り倒された師匠もそんな焦げ臭い更地と化した空き地に横たわっていた。


「…………師匠」

「……強くなった。いや……強すぎてドン引き」

「師匠のおかげですっ!!」

「…………もう、教えることは何も無い。てか、ぶっちゃけもう関わりたくない。何お前」

「俺……まだ師匠から何も教わってないッス」

「……教えたさ……沢山…………」


 師匠の手が伸びる。俺は膝を着いてその手を取った。


「……光の先を……見つけたか……」

「……よく分かんないけど、多分……」

「じゃあ、もう教えることは無い。私は私の全てをお前に伝えたよ……」

「師匠……」


 光の先ってなんですか?


「最後の試練をもって、お前の修行は終わりとする……倒してこい……お前が超えなきゃならない男を…………」

「………………っ」


 ……ありがとう、師匠。

 俺は……必ず勝つよっ!!



「オカルト同好会だっ!ここにヨルムンガンドが現れたってほんとか!?」「あれじゃないですか?ん?でっかいうなぎ?」「……良き」

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