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最後の試練

 --その日この国の平和を司る法の番人達がそのていた……

 国家公安委員長、警察庁長官、警視総監、各県警本部長…等。


 基地に集うそれらを上空から確認し私は今回訪れた国の空を見る。

 夜だから暗い……いやそれだけでは無い。

 どんよりと……不吉な空気の漂う空だ。踏み入ることを躊躇うような……そこにはかつてこの国に足を下ろした時には感じることは無かった冥界のような不吉さがあった。


「お母さん、達也と千夜は?」

「ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世、今日は2人に会いに来たわけではないのよ」


 この子は連れて来ない方が良かったかもしれない……なんて思った。



 プライベートジェットが米軍基地に着陸すると同時に居並ぶ官僚達がずらりと整列する。我が家では亭主関白やってそうないかついおじさん達が下手したら娘程の歳の娘に敬礼してた。が、その敬礼は不慣れなものである。


 --日本。


 私の、いや私達親子の恩人の住む国であり、そして私の怨敵の住む国でもある。


「ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世氏、長旅御苦労様です。この度は突然のお呼び出しに応じて頂き感謝しております」

「……早川長官。私はもう引退した身です」

「存じ上げております。しかし、今回どうしてもあなたのお力を借りたい」


 戦争とは無縁の日本という国にこうして協力するのは初めてだが随分腰が低い。これが『慎ましさ』?ジャパニーズスタイルか?

 あるいは私にへそを曲げられたらこの国はそれこそ危機的状況に陥ると……?


「詳しくは総理官邸で……大臣もお待ちですので……」

「断っておきますが私はまだ引き受けた訳ではありません。今回の依頼を引き受けるかどうかはお話を伺ってからです」

「はっ!」


 ……とは言ったものの、私の答えは既に決まっている。

 どうして引退し、戦場から身を引いた私がわざわざ日本の協力要請に応じるのか…


「……預けた勝負があるから」

「え?」

「いえ、なんでも……」


 ……それにしてもジャパンの車は乗り心地が最高だね。




 --内閣総理大臣公邸。


 そこに集まり円卓を囲むのはまさにこの国の政を取り仕切る重鎮達。つまり私が今回呼ばれたのは国にとって存続にすら関わる一大事……そう言っても過言ではないだろう。

 日本の警察組織は優秀だ。

 そんな彼らが余所者、しかも傭兵なんかに泣きつくくらいだ。それは想像に難くない。


 ただ事前に受けた説明を聞く限りこの体制はあまりにも大袈裟…そう言う他ないだろう。

 あの男の存在を知るまでは……


『--関西煉獄会。関西圏を中心にその勢力を増大している振興組織です。主な傘下に三代目珍比等ちんぴら組、華呉蘇はなくそ組、麻麻零度まーまれいど会…等18組織。その他様々な反社会勢力が協力体勢を取っております。構成員は約1万人。準構成員やその他協力組織含め約10万人。最近では関東圏にも進出してきており、既に複数の暴力団が壊滅、あるいは吸収されています』


 --関西煉獄会殲滅作戦。

 それが私が今回呼ばれた理由なのだが、超大規模暴力団とはいえ所詮はヤクザ。

 そんな連中の為に今この国は自衛隊やそれらの有する最新鋭装備……果ては各国から呼び集めた一流の戦闘屋まで投入しようとしている。


『煉獄会のトップは会長、芦屋友蔵あしやともぞう。No.2の若頭トンチンファン、舎弟頭、御頭頭尾おかしらとうび、以下幹部組員多数……その保有する戦力はもはや一暴力団とは言えません』


 説明をする官房長官が声を荒らげる。


『彼らはこの国に現れた侵略者なのですっ!!彼らは既に中国、韓国等近隣諸国にまでその勢力を拡大している!国内だけではないのです!!分かりますか!?侵略してきているんですよ!終いには軍艦を持ち出す始末です!!これを放っておく訳にはいかないのです!!』

「……ふむ、確かに他国へ向けて煉獄会が行った侵略…用いられた兵器……ある種戦争と呼べるレベルかもしれない。しかしだからといって世界に誇る我が日本警察が一暴力団の為に実戦にも等しい軍事作戦を……」

『総理、あれは暴力団ではありません。国際的犯罪組織なのです』


 スクリーンが切り替わる。そこには手元にある資料にもある顔ぶれが映っている。煉獄会の幹部、及び特記戦力達……

 この関西煉獄会の1国にも匹敵する戦力を支える怪物達ということだ。


『若頭、トンチンファン。中国人、中国黒社会に絶大な影響力を持っており中国進行において重要な役割を担っています。その影響力、そして高い戦闘力を買われ組織のNo.2に就いています。その他幹部構成員含め複数の武闘派戦闘員が大勢所属しており、兵器調達専門のチームもあります』


 …………


『そしてなにより恐ろしいのはそれらの戦闘員や軍事力ではなく……外部からスカウトしているヒットマンチーム!』


 映し出されるのは凄惨な殺戮現場。

 転がっているのは警官だろうか?恐らく特別な作戦を実行する戦闘チームだろう。完全な武装によく訓練されていそうな屈強な警官。

 それらがまるで粘土細工のように丸められ沈んでいる。


 そのほかにも、様々な作戦を決行したのだろう。そしてその結果として転がる夥しい数の骸の映像が流される。どれもやられた一流のチーム達は普通ではないやられ方をしていた。


『各地から募った一流の殺し屋を戦闘に投入しています。その戦力は警視庁の誇る特殊急襲部隊がまるで子供扱い!ご覧頂いた映像は全てヒットマン1人の手によって、素手で壊滅させられています!!』

「1人だと?」「しかも素手……?」


 ……たしかにあの殺し方は素手によるものだろう。


『ヒットマンチームは組織の正式な構成員ではありません。失ったとしても組織的にダメージが少なく補充も効きます。そしてこの戦力!!これが煉獄会の最も恐ろしいところなのです!!』


 居並ぶ官僚達が青い顔して私の方に視線を集めた。


「……今対煉獄会用に各国から一流の傭兵を集めています。その頂点に立つのがあなただ」

「……」

「どうか、ご協力願いたい……」


 ……関西煉獄会。

 たしかに恐ろしい組織だ。規模も、保有する軍事力も、在籍する戦闘員のレベルも……恐らく日本の警察組織はこれほどのレベルの敵を想定していない。

 いや、日本に限らず、世界中の警察、対テロ部隊も……


 こいつらと戦うことはもはや戦争に近い。


「……ある男の情報を教えて頂きたい」


 それらを踏まえ、そして全てどうでもいいと一蹴し私は頭を下げる要人達に頼む。


「この組織のヒットマンチームに…彼岸三途という男が居るはず……」

「……っ」「…あの男ですか?」「……ええ」

「おそらくは…関西煉獄会最強戦力。私はその男に用がある……警察は今の彼の動向をどこまで掴んでいますか?」


 彼岸三途--

 その名前に会議室内は異様な緊張感と静寂に落ちる。まるで植え付けられたトラウマを抉られるような……


「……たしかに、あの男は別格。あの男を止められるとすればあなたしか居ないでしょう……」

「……是非」

「……関西煉獄会は現在国外進出にも力を入れかなり広範囲に侵略を進めています……が、そんな中にあってある国内の地方都市に対して戦力を相当数投入しています」

「……ある、地方都市…?」

「ええ……奴は今、そこに居ます」


 *******************


 山を降りた時には世間は夏休みに突入していたようだ。久しぶりに見る街は若者の活気で溢れていた。

 そんな中を道着姿で無精髭を生やした俺が歩けばさぞ目立つだろう。浮きまくりの俺達を道行く人が好奇の目で見ている。


「……本田千夜さんに連絡取らなくていいんですか?」


 同じくくたびれた様子で隣を行く彼岸神楽がそう問いかける。くたびれたと言ったがその目に光る闘志の炎はごうごうと燃え盛っている。

 彼岸神楽の言葉にスマホを手に取りかけたが、やめた。


 ……千夜、もう少し待っててくれ。


「……これが終わったら俺…結婚するんだ」

「それは現実的ではありませんね。まだ高校生でしょう?」


 --佐伯達也。最後の試練に挑む。



 ……一見平穏ないつもの街。しかしその日の街の表情はいつも通りの影に確かに物々しさを感じさせる。

 賑わいを見せる街の中に不釣り合いな私服警官。駅付近に至っては特別警戒と称して明らかに普通では無い装備の警官が警備をしている。


 街中を歩けばそこらに張り紙……そこには先日千夜を攫ったクソ野郎の顔も……


「……警察は本格的に関西煉獄会殲滅に乗り出してます」

「随分大袈裟だな。街の人はなんとも思ってないのか?」

「昨日今日からではないので……あなたは道場に篭ってたから知らないでしょうけど……」


 ……俺らの出る幕はないのかもしれない。

 市井の治安維持を任された頼もしい警察を横目にそんな思いが過ぎった。と、同時に焦りも……


 先を越される訳にはいかねぇ。



 --その一帯は特別に静寂に包まれている。

 まるでそこだけ人が住んでないかのような……しかし建ち並ぶ住宅には生活の匂い。


 人気のない、と言うよりは皆が息を殺して生活してるかのようだ。なにかに怯えているかのようだ。


 その中で堂々と佇む古い日本家屋……俺達はその戸を叩く。


「--はーいっ」


 宇佐川の表札のかかった家から出てきたのはいつぞや会った女子高生のお手伝いさん。彼女は俺の顔を見るなりビクッと体を硬直させたでは無いか。

 こんな可憐な乙女に怖がられるなんて……


「……え、臭い…………」

「佐伯さんあなたお風呂入ってないでしょう?」


 違った、臭かった。


「……すみません、結愛さんを--」

「ここだ」


 っ!?

 俺と彼岸神楽が一気に跳び退く。いきなり真後ろから声がすれば誰だって驚く。が、それより恐ろしいのは今の俺らのセンサーはビンビンに緊張していること。

 今の俺らに気づかれずに背後を取るのはホワイトハウスに生身で侵入するに等しい……


 とか思って後ろを見たら居ないじゃないか。


「あ、結愛さんおかえりなさい。大根ありました?」

「おかえりなさいじゃねーよ。お前が買い物行けよ、バイト代返せ」


 お手伝いの声。バッとその場で振り返ると跳び退いた先の後ろをまたしても取られていたではないかっ!


 ……やっぱり、師匠はすげぇ…………


「ん……来るなら連絡くらいしろ」

「すみません師匠……修行から戻りました」

「あと臭ぇ」


 やめてくれ。


「カノジョさんに会わないで良かったですね」


 だからやめろってば。


 師匠はお手伝いさんに買い物袋を渡して奥に下がらせる。俺らが何しに来たのかは分かってるって面だ。


 まぁそうだろう。


 --師匠に稽古をつけてもらう為の条件、3つの試練……その最後…………


「師匠……」

「おう。いいんだな?」


 俺は今から第3の試練に挑む。その為に来た。


「師匠の首、頂戴します」

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