ジャスティス!!
第236話 〇ジャスティス!!
--期末試験も終わり学校は来たる夏休みに早くも浮かれている。今年受験生だという3年生までもまるで緊張感のないたるみ様…
いや、それも今に始まったことでは無いか。
この学校の気の抜け様、まるで緊張感のない日常風景はなにも夏休み前に限ったことでは無い。
--これでいいのか?
この学校に籍を置いて1年……私はずっっとこの学校を見てきたが、その疑問を払拭することは叶わなかった。
この学校に果たして真面目に勉学に取り組む生徒が何人いる?
右を向けば全裸の変態が廊下を走り、左を向けば訳の分からん危険生物が生徒を襲っている。上を向けば誰かが首を括っていて、下を向けばどこぞの変態が女子のスカートを覗こうと仰向けになっている。
これが学び舎のあるべき姿か?これが学生のあるべき姿か?
正さなければならない。正義の名のもとに……
「……校内改革同好会?」
「はい、先生」
同好会設立の為書類を提出する。また変な奴が来たみたいな顔をする教師。確かに変な同好会だろう……だが、こんな同好会が必要なこの学校がおかしいのだ。
「……具体的に何する同好会?」
「学校を改革します。あるべき姿へ……」
「……あー…そう」
やる気のない教師が同好会設立を許可する。ここから始まるのだ……
「代表者は?」
「--決まっています。この私……巣子苦正義です」
*******************
この学校には「おかしい」が溢れている。
その最も際立った部分、かつ学校改革に最も重要な部分なのがこの学校特有のおかしな同好会である。
なにしてんのかも分からない同好会が多すぎる。そいつらの活動が学校の秩序を乱しその上学校がその活動を認めているのだ。しかも活動費まで出している。
校内保守警備同好会を筆頭にかつて存在した頼ろう会、フラフープ解放運動、ほくろの数数えよう同好会……など。
その中でも最も謎なのが……現代カルチャー研究同好会。
現代カルチャー……すなわちメイドとアイドルを研究する同好会らしい。既に訳が分からない。
同好会勧誘のポスターには猫耳のメイド…もはやメイド喫茶のポスターだ。
学校にこんな不純なポスターを貼り出すなんて言語道断である。学校の風紀と秩序と常識を崩している。
--同好会活動の許可が出たその日、私は最初のターゲットである現代カルチャー研究同好会に乗り込んだっ!!
「すみません。校内改革同好会の者ですが」
「……はぁ」
アポなしで突撃した私を出迎えたのは常識が服を着て歩いてるような女の子ではないか。我が校のイカれた同好会だ。きっと会員も頭から花が生えてるレベルのイカれかと思ったんだが……
「校内の秩序を取り戻しに来ました」
「…………はぁ」
困惑した様子の女の子は部屋の奥へ「校内改革同好会の方がお見えになっております」とバカ丁寧に告げる。
「……入りたまえ」
ドクンッと緊張するような厳かな声…いや臆するな、正義は私にある。
入室すると狭い同好会室の真ん中に陣取るテーブルを囲む3人のメンバーが私を待ち構えていた。
この奥に座る碇司令みたいにカッコをつけている男こそが、この同好会の代表--我が校の癌その1、3年小比類巻睦月……
「よくおいでなさった。口臭解禁同好会のお人」
「校内改革同好会です」
舐めてるのか?
「まぁ、座りたまえ。つーちん、お茶を…」
「かしこまりました。私、茶道も嗜んでおりましたので…お茶、点てさせて頂きます」
つーちんと呼ばれた常識人の皮を被った狂人がなにやら茶道具から用意し始めた。
カチャカチャとお茶を点てる音…そしてその間の謎の無言…
やはり私の見込み通りこの同好会おかしい。
お茶が出てくるのを待ってる義理もない。本題に入らせてもらう。
「今日は同好会活動で来ました…早速だがあなた達--」
「あの、飛沫散るんでマスクつけてから喋ってもらってオケ?」
…彼女は同じ2年の香曽我部。まさか同好会活動をしていたとは。てか他のやつマスクつけてないだろうが。
渡されたのはホッケーマスクであった。
「小比類巻君、これどうしたんだい?」
「橋本よ…これは我が同好会に代々伝わる秘伝のマスク…」
「聞いたことがないよ小比類巻君」
「お前もまだまだ新参者だからな」
「この同好会僕の方が長いよ小比類巻君」
「ぶっぶーっ!現代カルチャー研究同好会になってからは一緒ですー!」
「……千年原人返してよ」
「おい、終わった話をなぜ今ぶり返す?」
「ちょい、はよマスクつけてってば」
…………
このホッケーマスク、臭い。
「…粗茶ですが」
「飲めるか」
*******************
お茶…おいひい。
「それで?君は何をしに?入会希望?」
お茶を堪能した私が緩んだ機にメガネがふざけた事を抜かしてくる。そうだ。私は正義の名の元ここへ来た!!
「違います。私は同好会活動の為に来ました」
「同好会活動…」
「ふむ…なるほど」
「小比類巻君、分かるのかい?」
「知らんわ」
どこまで人を馬鹿にするんだコイツらは。特にこの代表…この人を舐め腐った態度と顔が気に入らない。やはりこんな同好会はない方がいい。
「…私達校内改革同好会は--」
「私達って君以外に何人いるの?」
「……」
「ちょっと小比類巻君」「可哀想ッスよ」「前回参加させて頂いた会議には居られませんでした。まだ出来たばかりの同好会なのでございましょう……」
……コイツ。
「私の使命はこの学校の改革--つまり、この学校をあるべき姿に戻すこと。そのためにこの同好会を作りました」
「あるべき姿とは?」
「小比類巻先輩、あなたはこの学校をどう思いますか?」
「ウォシュレットを温水にして欲しい。あと冬場の便座が冷たいのが辛い」
「小比類巻君、ウォシュレット使わないじゃないか」
「え?ウォシュレットって温水じゃないんスか?」
「香曽我部先輩はお使いにならない…?」
「だって汚ねーし」
「分かるよ僕もあんまり好きじゃない」
「つーちんは?使う?」
「……いえ」
「じゃあ誰も使わんのか…ならいいな?」
「そうでございますね」
「うん。あんなん使わねー」
「良かったー」
……
「もういいよありがとう。ただ便座だけは冷たいから何とかしてくれ」
「学校に言ってください」
「おい、学校を改革するんだろ?お前」
「そういうことではないんですよ…もっとあるでしょ…例えば--」
「なんかうちの学校トイレットペーパー無くなんの早くないッスか?」
「左様でございますか?」
「うん…男子トイレもだよ。定期的に補充して欲しいよね」
「なるほど…だそうだ。うちの同好会からは以上だ」
なるほどじゃねーよ。
「こういうとこなんだよっ!!」
感情の昂った私は思わずテーブルを叩いて大声を上げてしまった。その場の全員がビクッとする中私は小比類巻代表を指さす。
「はい」
とんがりコーンをはめるな!!小学生かっ!!
「この学校はおかしいっ!!生徒もおかしければ先生もおかしいし学校運営もおかしいっ!!その最たる例がこの同好会だっ!!」
「つーちんとんがりコーンお食べ?」
「いただきます」
とんがりコーン食うな!!
「あの…いきなり酷くない?僕らが何したって言うんですか?」
「じゃあ訊くがメガネ!!」
「メガネ…え?君2年だよね?」
「何してる同好会なんだここはっ!!」
ここで唐突な沈黙。ほら見ろ、パッと答えられないという事はろくな活動をしてないんだっ!!
こんな頭のおかしい奴が集まるから学校がおかしくなるんだっ!!学校でいきなりお茶点てたりホッケーマスクつけさせたりおかしいよっ!!
「…僕ら現代カルチャー研究同好会はアイドルになる為の同好会だよ」
「アタシら現代カルチャー研究同好会はメイド喫茶で遊ぶ同好会ッス」
「わたくし達現代カルチャー研究同好会はアイドル文化とメイド喫茶文化を日々研究させて頂いております」
「俺ら現代カルチャー研究同好会は同好会経費をもらうという活動をしている」
ほらみろ。
「やっぱりおかしいっ!!こんな同好会がまかり通ってるこの学校がおかしいっ!!」
「おい、失礼な奴だな…おかしいおかしい言うがね君、君の同好会だって大概だぞ?」
「私は正義だっ!!」
「何言ってんだコイツ」
この人頭が残念な人なのねみたいな顔で私を見るんじゃないっ!!正義は私にあるはず!
「学校とは学び、自己を高める成長の場ではないのですか?それを…学校の運営経費でこんなアイドルとかメイド喫茶とか…訳が分からない。家でやれ。この同好会に回す分の経費を他に回したらもっと有意義な学びが実現するとは思いませんか?」
「たった1人しか居ない同好会に金回すよりはマシだ。」
「…っ!!くっ!!私の同好会はまだ出来たばかりです…っ!!これから……」
その時、小比類巻代表が哀れみを込めた眼差しと共に私の肩を叩いた。なんだろう……とてもムカつく顔をしていた。
「…な、なんですかその顔は……」
「君の言うことは正しい。この学校はおかしい」
「あなたがその筆頭だ」
「だがな?おかしい学校で正論を振りかざしてもそれは変な奴としか見られないぞ?君の同好会が何をしたいのか知らんが…もし君の語ったさっきの持論をこの学校に実現させるのが目的なら諦めた方がいい」
「なにを…っ!!私は知っている!!頭のおかしい生徒の中にもちゃんとした平穏な学校生活を望む生徒が……」
「同好会メンバーが1人では君、すぐにでも解体させられるぞ?君の同好会…」
………………っ。
--今月中に最低もう1人会員集めてね?じゃないと同好会として認められないから。
同好会設立の時先生に言われた言葉が頭を過ぎる…
「活動レポートはどうする?毎回何書く?同好会に喧嘩売ってますって書くのか?あんまり過激な改革活動してると校内保守警備同好会に目ェ付けられるぞ?」
本当に純粋に私を哀れんでいるこの男…頭のおかしい男から憐憫を向けられるこの屈辱。しかも…
「あと、多分君の同好会に入る奴は居ない。なぜなら頭のおかしいこの学校ではお前の方がおかしいから」
しかもトドメにこんなこと言ってきた……
この時私の頭に浮かんだイメージは革命を訴え街頭で声をあげ演説をしながらも誰からも身向けもされない無力な革命家…的な光景。
寂しい木枯らしに吹かれ涙を呑むその姿は…未来の私だと言うのか……
目の前の絶望に打ちひしがれる私の前で現代カルチャー研究同好会の皆が慈母のごとき微笑みを見せる。それは仏様のような…後光が差して見えた。
「悪いことは言わねぇ…もっとマシな同好会創れ。同好会活動したいなら他の同好会入れ。うちは要らんけど、お前面倒くさそうだし」
「同好会をつくるコツ、僕で良かったら教えようか?」
「君ウォシュレット使う派っぽいし、毎日ケツ消毒しとけよ?」
「ホッケーマスクはお土産に差し上げますので、お持ち帰りくださいませ」
クソみたいな後光だったけど…
「うっ…うっ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
--正義とは…
正義とは…無力なのかっ!?
私の正義は……
「うわぁぁぁっ!!私は正義なんだぁぁぁっ!!!!!!!!!!」
……走り去る私の背中にウ○コ色の後光がいつまでも差していた。
「……さよならジャスティス」
「ありがとうジャスティス」
「2度と来んなジャスティス」
「来世でお会い致しましょうジャスティス様」
正義、負けないっ!!




