犯人は誰だ!?
皆様ごきげんよう。私、妻百合花蓮と申します。初めましての方は以後お見知り置きを。
さて、梅雨も明けて参りしまして明日からは学期末考査という時期になりました。もちろんこの妻百合、日々の授業の予習復習は抜かりなく、試験に向けての勉強も日々して参りました。勉強は積み重ねでございますので。
しかしやはり試験が憂鬱という方は私のクラスにも多く、皆様明日からの試験に向けての勉強に顔を曇らせておられます。
お気持ちは分かります。高校での成績は今後の進路に多大な影響を及ぼしますもの…ええ。
本日の授業は試験対策の自習でほとんど終わりまして、放課後…
試験期間前になりますと部活動等もお休みになりますので皆様この時だけはワクワクされたお顔をしておられます。
…ちなみに私の所属する現代カルチャー研究同好会に関しましては試験期間中の活動についてお尋ねしたところ小比類巻先輩の方から「俺が休みと言ったら休み、それ以外は毎日」とご返答頂きました。
試験中だからといって現代カルチャーへの研究を怠らないその精神性に感服致しました。
というわけでして、同好会活動の待つ放課後、ホームルームにて担任の先生が皆様の前に立ちまして、放課の号令を待っておらっしゃる皆様へこんなことを申します。
「みんなに話がある……」
その一言にて皆様、長い話が始まると予感されたようで、一様にお顔を顰められます。
が、先生が次に切り出す話とは、私達の予想を大きく超える内容でございました。
「昨日、職員室から明日の期末考査のテスト問題が盗まれた」
ざわつかれる教室内……無論私も驚きを隠せません。
「テスト問題に関しては別のものに差し替えたので明日のテストは問題なく行われる…が、学校側としてはこの事態を重く受け止めている…これを見ろ」
担任の先生が黒板に何かを叩きつけられました。皆様の視線がそこへ集中されます。
黒板に張り付かれたのは1枚のメッセージカードでございます。が、その内容の突拍子のなさには私、お目目をひん剥かさせて頂きました。
--問題は頂いた
怪盗1年特進コース仮面
……ここは特進コースでございます。
担任の先生が「無念……」と口の中で呟かれ、カッと目を見開かれます。赤く充血なされたお目目。その表情には言葉通りの無念が刻まれておりました……
「犯人はこの中に居るっ!!」
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「……今なら先生怒らない。怒らないから犯人だって人は正直に挙手なさい」
スパーーンッ!!
教壇の上、鞭で床を叩かれる先生が慈愛に満ちた言葉をかけてくださいます。
どうやら犯人の方はこの教室内に居らっしゃるご様子……
ですが、鞭でスタンバられた先生を前に名乗り出る気配はございません。そうでしょうね、ええ…
痺れを切らされる先生がお顔を赤くしてプルプルお震えになられます。
「……もういい。知らんぞ?後から犯人だと分かった時、お前はこの世の地獄を味わうことになる…その覚悟はできているんだろうな……?」
とても教師とは思えない脅し文句にございます。
「本当にいいんだな?素直に出てくればみんなが苦しむ必要は無い。が、自らの過ちを隠し続けるというのなら……貴様その時は全員にも同じ苦しみを背負わせることになるからな?」
……っ!?
先生、一体なにをお考えで…?まさか、拷問--
「犯人が見つかるまで、帰しません」
その言葉には皆様を腹の底から絶望させる特別な響きがございました。それはまさに教師と生徒という立場を利用された暴力。
始まってしまわれました。終わりなきホームルームが…………
「そんな……」「いやぁぁぁっ!!帰りたいのにっ!!」「おいっ!!まじで誰がやったんだよっ!!出てこいよっ!!」「…こ、こうしてる間にも刻一刻と時が進んでいくわ……」
パニック状態でございます。まるで、教室内にゾンビでも紛れ込んでいるかのような……
「みんなっ!落ち着け!!」
その時御一方の勇敢なお声が教室のパニックを多い被されました。
私含め全員がそちらを向かれますと、教室の1番後ろのお席でち○まる子ちゃんの花輪君みたいな髪型の男子生徒さんが髪をサラ〜っとされております。
この方は平井山様と申されます。
「先生、この平井山がこの事件、解決してみせましょう……」
「…ほぅ。平井山か。この特進コースでも随一の頭脳を有してそうだと評判の……いいだろう。解決してみろ。見事犯人を見つけた暁には真っ先に帰してやろう」
「…ふっ」
凄まじい余裕でございます。先生からのプレッシャーをものともせずファッサ〜されてます。波のように横に流れられる前髪…重力を無視してらっしゃいます。
「先生、まずは現場となった職員室を見せてもらいましょうか……そうですね。いくつか確かめたい事があるのでみんなで…」
「クラス全員でか?…ふん、いいだろう。全員職員室に移動するぞっ!!」
--スパーーーッン!!
--やって参りました職員室。
ゾロゾロと生徒をお連れになられる先生に職員室の皆様方、何事かと驚かれてます。
「すみません、現場検証です」
「……?」「……はい」「……はぁ」
なんのこっちゃって感じをしてらっしゃいます。実際なんのこっちゃでございます。
「平井山、ここが職員室だ」
見れば分かられます。
クラスメイトの皆様の最後尾でしきりにキョロキョロなさっておられる平井山さん。持参された通学鞄から虫眼鏡を取り出して「ふむふむ……」と天井ら辺を見てらっしゃいます。
「先生、問題用紙は普段どこへ?」
「奥の金庫だ。着いてこい」
先生の引率で続々と奥へ続かれるクラスメイト達…まるで社会科見学でございます。
問題の問題用紙を保管されていた金庫は職員室の最奥にて、恐らく事件当時のままなのでしょう…空っぽの中身を晒されてぱっくり口を開けておられます。
当時のままなら犯人に繋がる痕跡も残っているかもしれません。先生はじめ皆様が1番後ろの平井山さんへ期待の眼差しを向けられました。
……が。
「おい平井山……あれ?平井山は?」
「居ませーん」「あれ?おかしいな…さっきまでここに…」「おい、お前背中になんかついてんぞ?」
後列の男子生徒様が自分の背中に張り付けられた紙をご覧になって声をあげられました。
「平井山帰りますって書いてますっ!!」
流石の妻百合も仰天でございます。
*******************
なんと平井山さん、現場検証のどさくさに帰宅……これには先生も顔面をプルプルされてキレ散らかしておいでです。
「ふざけやがって……あの野郎……っ!!」
「いつの間に……」「犯人を見つけるって言って職員室まで来たのは、自分が帰るためのチャンスを狙っての事だったのか…」「てか、置き手紙の手口からして盗んだのアイツじゃね?」
ムキーッ!!される先生とポカンとされるクラスメイト達。そんな光景に御一方の先生がフラフラっと寄って参ります。
「一体何事ですかな?」
「あ、葛城先生、お食事どうですか?」
「結構です」
保健室の葛城先生でございます。何やらワクワクした面持ちで担任の先生に事情を求められます。
そして事件の概要と、先程の大逃亡劇の一部始終をお聞きになられてプルプルと震え出されます。口元がにやけておいでです。
「それは大変ですな……」
「葛城先生、どうか犯人捜索に協力し、私と美味しいフレンチに行きませんか?」
「行きませんし、生徒を疑うような事はしたくありませんな…そのメッセージカード以外にこのクラスに犯人が居るという確証が?」
「このメッセージカードが全てでしょ?」
「…はぁ」
「このクラスを見てきた私には分かるんですよ…こんなぶっ飛んだ真似をするのはうちのクラスしか居ない……」
そんな事は無いかと思いますが……
「…しかし、成績優秀者の揃う特進コースですよね?わざわざリスクを背負ってまで問題を盗むようなことをする必要が?どちらかと言えば成績が芳しくない者の方が……」
「やたら生徒を庇いますね……まさかっ!?」
「やめてください私に動機ないでしょ?それで言うならやたら疑いますけどまさか……」
「いやっ!?は、はぁ!?…や、やだなぁ莉子せんせー!!ぼ、僕が盗ったって言うんスか!?じょ……ジョーダンじゃない、ぼくは先生ですよ!?」
………………………………
「金庫のセキュリティ解除キーは昨日、あなたが持っていたはず……」
「やだなぁ!!それがなんだってんですか!?」
……セキュリティ?
「莉子せんせー!セキュリティってなんですか〜?」
「securityだ」
「だから、なんスかセキュリティって」
「ふむ……職員室の金庫には防犯の為常に鍵の他にセキュリティがかけられている。この赤外線ゴーグルをつけなさい」
葛城先生が最前列に居た私に重たいゴーグルを手渡されます。言われるがまま私はそのゴーグルをつけます。つけさせて頂きます。
視界が赤色に一変された時、私には見えました。金庫の前に無数に張り巡らされた赤い線が……
「見えたかね?赤外線センサーだ。解除前にそれに人が触れるとアメリカ合衆国シークレットサービスがアメリカから飛んでくる」
「…間に合うのでしょうか?それは……」
「が、昨日セキュリティが作動した記録は無い」
皆様が映画の中のようなセキュリティシステムを見るが為にゴーグルを必死に取り合っておられます。
まぁ確かに…このセキュリティに見つからずに金庫まで行かれるのは至難の業かに思われます。
しかし……そのセキュリティを解除できたであろうお方が…………
「そうか分かったぞ!!」
その張本人と思われたお方が手をポンッと叩かれました。何がお分かりになられたのでしょうか?
「この厳重な警備システムに触れずに金庫まで向かうのは常人には不可能!!が、このクラスには1人、常人離れした身体能力の持ち主が居るっ!!」
先生が指を指される前に皆様そのお方と思われる方を見られます。
その先にはおひとりの女生徒……
「彼岸っ!!お前だァっ!!」
犯人だと名指しされたのは人の皮を被ったスーパーウーマンと噂されておられる校内保守警備同好会最高戦力、彼岸神楽様……
確かに彼岸さんのライオンをも捻り潰される戦闘力がおありならこの程度のセキュリティは……
「…はい?」
直後疑いをかけられました彼岸さんから溶岩のような怒気を感じました。その場の皆様方全員、噴き出される不快感と怒りが目に見えるようで……
最近この方、なんだかピリピリしてらっしゃって怖いでございます。
「私がやった証拠でも?」
「ぁ……すみません…………ひぃ……」
「私は校内保守警備同好会ですよ?」
「あ、はい……スミマセン…………」
先生の萎み様といったらまるで空気の抜けた風船でございました。
*******************
--こうして、どれくらいのお時間が経たれたでしょうか?
日は暮れまして暗い空にお星様が見えだし、時刻は良い子は寝る時間でございます。次々退勤されていく先生方を横目にいつまでも拘束された私達と葛城先生。
「…もういいじゃないですか。犯人なんて……」
「いーや!!許さないっ!!」
というか僭越ながら、犯人として最有力なのはあなたでは?
「--校内保守警備同好会ですっ!!窃盗事件の調査に来ましたっ!!」
時間が経過されるごとに、やがて校内保守警備同好会様が現場に駆けつけたり……
「県警です」
警察の方がやって来られたり……
「シークレットサービスデス」
シークレットサービス様がやって来られたり……
「FBIです」
FBI様がやって来られたり……
「ICPOの銭形だっ」
ICPOの銭形様がやって来られました。
端的に申し上げてそこから先は混沌を極めた現場となりまして、纏まりのない権力のぶつかり合い…捜査の主導権を握ろうとされる皆様方のプライドのぶつかり合いによって捜査どころではございません。
とっくに日付も変わりました…ですが私のクラスメイト様は逞しいものでして……
「妻百合さーん、テント張ったから寝よー」「ちょっと男子!あんたらはあっち!!」
「あ、はい」
「おーい、コーンスープ温めたぞー」「美味いぞー」「ほっとするぞー」
「あ、はい」
--テントもいうものは室内で使われるものでしたか。
騒がしい職員室に大きなテントを張られまして…私達は男女に別れて床に就かれます。仰向けで照明の透けた黄色い天井を眺めていますと不思議と明るさも騒がしさも気にならなくなって参りまして、眠気がやって来られました。
隣で話しかけてくださるクラスメイトの皆様…恋バナ?や部活動のお話など普段触れない話題に沢山混ざらせて頂きました。
うとうとしながら拝聴するそれらのお話はとても有意義でして……
……ですが疲れからでしょうか?
次第に楽しい話し声も収まって参りまして、やがてテントの中は静寂に包まれて参りました。
……なんだか、とても不思議な放課後でございました。
「……ん、ふぁ……」
--妻百合の朝は早くございます。
実家に居た時と同じく4時には起床。そこからお稽古……という流れなのでございますが、私は1晩跨いだ記憶を思い返しましてテントから外を覗かれます。
電気がつきっぱなしの職員室--そこは静寂と無人の空気に包まれておられました。
あんなに夜中まで騒がしかったのに、皆様方とっくにお帰りです。
……さて、今日から期末考査。妻百合、全力で取り組む所存でございます。
……………………で、犯人はどなたですか?




