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部活動、同好会会議

「ではこれより、部活動、同好会会議を始めます」


 皆様、ごきげんよう。いかがお過ごしでございますか?

 私、妻百合花蓮は放課後の格式溢れる厳格な雰囲気に早速圧倒されています。


 私、妻百合はいずれ妻百合流総本山の家元になる運命……

 故に、門下1万人全てをいずれ背負って立たなければございません。いずれ来るその時までのほんの息抜き、そして、社会勉強として実家から出てきました私はこの学び舎で毎日、学びの日々でございます。


 さて、本日もそんな世間知らずな箱入り娘に我が同好会『現代カルチャー研究同好会』代表、小比類巻先輩が勉強の機会を与えてくださりました。


 今日は部活動、同好会会議。


 毎月定例で行われる全部活動、同好会の代表がこの会議室に揃われ、1ヶ月の活動内容、今後の方針、大会などに出場された活動はその結果報告…その他要望等あればそれについて議論するという、とても大切な会議だも伺っております。


 本来なら各部活、同好会の部長、代表格のみが出席を許される円卓でございます。その場になぜ入学してまだ1ヶ月少々しか経っていない私のようなひよっこが呼ばれたのか……全て、小比類巻先輩の愛情故にございます。


「……まぁ、そんなにかしこまるな。つーちん」

「小比類巻先輩……」

「みんな偉そうな顔してるけど頭の中は今日の晩御飯でいっぱいだから……お前はいずれ我が同好会の代表になる器…今のうちからこういう場にも慣れてもらおうと思ってな」

「はい、本日は勉強させていただきます」


 そう……小比類巻先輩と橋本先輩は来年には卒業でございます。来年からの同好会活動を引っ張っていく新しい代表が必要でございます。

 しかしよろしいのでしょうか?香曽我部先輩を差し置いてまだ1年の私などが……


「緊張するなよ。みんな気楽に構えてるだろ?堅苦しいことは何もないからな?」

「はい」


 小比類巻先輩はこの若輩者を気にかけてくださいます。優しいです。先輩の言葉に習って私も一旦緊張の糸を……


「国歌斉唱、全員起立!」


 っ!?


 大企業の円卓のような会議室の天井から日本国旗がゆっくりと降りてこられます。ザッと一斉に起立する部長、代表方。さっきまで椅子の上でだらしなくされていた小比類巻先輩まで遅れることなく起立されました。

 慌てて立ち上がったものですから、膝を机に打ちました。


『君が代はぁ〜♪』


 ああ、皆さん歌われてます。どうしましょう、国家など去年政府高官の皆様を我が別邸に招いて舞を披露した時以来でございます。

 それにしても、ただの部活動と同好会の会議ですのに、国歌斉唱だなんて……

 いえっ!ただのとは失礼な!!それだけ厳格な会議ということでございます!私も気を引き締め直さなければ……

 この緊張感、まるで鷹村氏とブライアン・ホーク氏の世界戦の時のようですわ…………


 *******************


「それじゃ始めるぞー」


 国歌斉唱が終わりましたら全員着席されて、生徒指導の先生が会議の音頭を取られます。

 以前は生徒会が主体となってやっておられたそうですが、例の有名な事件に関わる1連の騒動でこの学校には生徒会がないと聞き及んでおります。


「んじゃ、まず活動報告。部活動から。野球部」

「いやぁん♡」


 あれは……返事なのでしょうか?


「野球部部長、剛田よ。今晩空いてるわ。以上♡」

「黙れ。活動報告をしろ」

「提出したレポートにある通りよ。今月は8人もトンネルを掘ったわ♡」


 ……トンネル?


「異議ありっ!!」「痛ててっ!?手錠かけた方の手を挙げるな!!」

「はい、校内保守警備同好会」

「代表浅野詩音です!その……っ!このレポートにある内容は野球部活動と一切関係ないものと感じられます!しかも……ほっ……ホルだなんて……これは校内の風紀を著しく乱しています!!」

「浅野さぁん?なんて言ってるのか聞こえないわぁ?なんですって?しかも?」

「……っ!だから……」

「アタシはトンネルを開通しただけよ?」


「……先輩、校内にトンネルが開通するのでございますか?」「…今は黙ってろつーちん」


「だからっ!!その行為が問題だと言ってるんです!!それ!合意の上で行われてますか!?いや!仮に合意があったとしても、学校内で行われていいものではありませんっ!!」

「じゃあ、どこならいいの?」

「えっ!?いや……だから……その……ホ、ホテル…?とか……」

「ホテルでなにするの?」

「だから……」

「遠回しな表現はやめましょう?議論の争点がはっきりしないわぁ」

「だから……」

「校内でナニをしたのが問題なの?」

「だから、つまり……っ!このレポートにあるように……」

「あるように?」

「……っ!だ、男子生徒の……こ、こ、肛門に……っ!だ、だ……男性器をっ!!」「姉さん!!もういいだろ!?」


「……男性の肛門に男性器をどうするとトンネル開通なのでございますか?先輩」「自分で調べなさい」



 指名された部活動や同好会がレポートにもある活動報告を順番にされていきます。どの活動も意欲的で評価されるべき結果を残しておられます。大変素晴らしい活動報告でございます。


「次、現代カルチャー研究同好会」

「はい。同好会代表、小比類巻です」


 さっきまで脱力しきって座られていた先輩がその面影を脱ぎさって、一同好会の代表として凛々しい面持ちで起立されます。

 先輩、かっこいいでございます。


「今月の同好会活動に関しましては、橋本圭介アイドル育成プログラムの第2段階としまして、詳しい概要につきましては活動レポートにある通りでございます。メイド喫茶での初アルバイト代としましては15万と3691円となっておりまして……」


 …………なるほど。


「まぁ、まずまずかなという感じです。問題の育成プログラムの進捗に関しましては、現在目立った成果は出ておらず、今後の橋本の努力に期待する、という感じです」


 …………なるほどっ!!


「以上です」

「……小比類巻君」

「はい、先生」

「……毎回これを訊いてるんだが…君達は何をする同好会なんだい?」

「現代カルチャーを研究してます」

「……具体的には?」

「具体的な活動に関してはたった今述べた通りですが……」

「活動の意図が分からないと言っている」


 ……何故でしょう?

 私達はちゃんと同好会活動をしてますのに、宇宙人の解体研究やら幽霊調査やらしてるオカルト同好会の時より白い目を向けられております……

 みっともなく1人あわあわする私の隣で小比類巻先輩が口を開かれました。


「現代カルチャー……すなわちネコミミとメイド、アイドル、そして男の娘。それを複合する試みをしております」

「……と、言うと?」

「つまり、男がネコミミメイド喫茶でアイドルを目指し、男の娘になる、ということです」

「………………なるほど」


 流石でございます。

 正直、勉強不足故に小比類巻先輩の仰られてる事がひとつも理解出来ておりませんが、よどみなく説明される先輩の姿に憧れました。

 私もいつかこんなふうになれるのでしょうか?


 先生も感心して首を傾げておられます。


「…………………………分からん」


 *******************


「じゃあ次は〜……各部活、同好会の要望等あればぁ〜」


 その後も会議は続き、白熱した弁論が繰り広げられました。

 具体的にはバナナは果たしてオヤツと呼べるのか……栄養学と現代人の食生活とを照らし合わせての白熱した討論……

 なぜ部活動や同好会の活動報告でこんな討論になるのかは、やはり世間知らずの私には分かりませんでしたが……


 とにかく、3時間にもおよぶ激しい討論は時計の針を着実に先に進めまして、外が燃えるような赤から深い藍色に染まってきた頃…


 最初国歌斉唱をしてらした時とは打って変わって、疲れ果てた皆様は椅子に深くだらしなくもたれておいでです。

 それだけあの討論に体力を使われたということなのでしょう。全く会話に入れず1人座っていただけの私は普通に座っている自分が恥ずかしいでございます。


 ちなみにバナナは主食にもオヤツにもなりうるそうでございます。


 さて、生徒指導の先生が会議を次に進められます。

 この時間では学校や他の部活動、同好会に対して要望があればそれを述べられるという場でございます。


 早速挙手がありました。手を挙げたのは剣道部の部長様でございます。


「剣道部部長、斎藤。校内保守警備同好会に意見があります」

「受けましょう」「なんだよ?」


 ……この学校の部活動や同好会は仲が悪いんでしょうか?剣道部と校内保守警備同好会との間に険悪な空気が漂っておられます。


「そちらの同好会に彼岸神楽という1年生が入会したな?」

「はい」

「彼女を剣道部に入部させたい。彼岸神楽の校内保守警備同好会からの退会を願い入れる」

「おい、勝手なこと言ってんじゃないよ?」「美夜、落ち着いて、私が話すから…」


 ところで校内保守警備同好会のおふたりはなぜ手錠を……?


「えー、ご意見承りました。しかし、彼岸神楽さんはご自身の意思で我が同好会に入会したものであり、本人の意向を無視して退会させることはありません。以上です」


 なるほど、この場で優秀な生徒のヘッドハンティングも行われておられるのですね……


「彼女程の秀才を同好会で腐らせていては学校の……いや、ひいては日本剣道界の損失だと言っています。それに、そちらの同好会は会員に非常に危険な業務を与えているとか?」

「……安全には配慮してます」

「浅野代表、あなたこの前刺されましたよね?」

「……それは」

「私はかねてより校内保守警備同好会の存在に懐疑的です。この際、同同好会の廃止も検討して頂きたい」

「なっ!」「おい、勝手なこと言ってんじゃねーぞ?消火器で頭潰されたいのか?」


 ああ、大変です。どんどん険悪な空気になってまいりました。ですが、取りまとめ役の先生は我関せずで鼻くそをほじられておいでです。

 これが生徒の自主性を尊重する教育……


「お忘れかな?あんたら校内保守警備同好会はかつてみかじめ料を各部活動、同好会から徴収していた!この同好会の存在意義は無いに等しいっ!!」

「それは…っ!前の代表の時の話です!そもそも!うちの会員が欲しいという理由で同好会まで否定しないでくださいっ!!」「そーだぞ。あんま調子乗ってるとお前らの部活動休止にするぞ?」

「聞いたかみんなっ!!今の発言をっ!」

「異議あり!!」


 その時割って入られたのはダンス部の部長様でした。


「校内保守警備同好会は放課後の通学路の巡回警備など、学校の治安維持の為に活動してます!!この前の不審者侵入の時だって…校内保守警備同好会は我が校に絶対必要です!!」


 ダンス部部長様の声に他の代表者様も続々と続かれます。


 …凄いですね。校内保守警備同好会は。皆様から認められているんですね。私も勧誘されましたが、入っておけば良かったのかも…


「それで言うなら、もっと存在意義の薄い同好会あるだろ?」「現代カルチャー研究同好会」


 その時!!突然場の視線が私と小比類巻先輩に向かいます!!いきなり矢面に引っ張りだされた私達に議題が移ってしまわれました。


「なんだよ橋本圭介アイドル育成プログラムって…」「あんたら、毎回毎回活動費の値上げ請求してっけど、まともな活動してないよな?」「そうよ!メイド喫茶行ってるだけじゃない!!」


 ……………………

 一体何が起こって…?私達は普通に活動しているだけだと申しますのに…


 白い視線を向けられた私の心がプレッシャーに押しつぶされていきます。情けない……こんなことで妻百合流を背負うなどと…


「……ふん」


 隣で脂汗を滲ませる私の横で、小比類巻先輩はそれでも不遜に鼻を鳴らされました。

 先輩はゆっくり立ち上がってから抗議の目を向けられる皆様にキッパリ仰られました。


「……現代カルチャー研究同好会はあんたらの希望だ。この無味乾燥な時代に潤いを与えることこそ、我が同好会の存在意義。そしてそれは、あんたらも十分に恩恵を受けている」

「は?」「なにを……」

「見たまえ。今このテーブルに並べられた活動レポートを…男子生徒が代表の部活動や同好会…彼らのレポートのページは我が同好会のページのまま開きっぱなしでは無いか」


 …っ!本当です。

 私達を非難する部活動や同好会の中で、男子生徒が代表を務める所では、彼らの活動レポートは私達の同好会のページがずっと開かれております!

 そして……っ。


「我が同好会のレポートを見ろぉ!!」


 現代カルチャー研究同好会の活動レポートのページにはでかでかとメイドさんが掲載されておられます。

 しかも、下から撮影されたのか結構際どいアングルの……


「くっ…」「この写真……プロの仕事だ……」「これが、現代カルチャー…なるほど。ストレスだらけの俺らの人生に潤いを与える……それこそがこの同好会の意義だと。」「ならばメイド喫茶も致し方ない」「脱糞女……可愛い……」


「「「「……サイテー」」」」


 ……っ、女性陣からの冷たい声がまるで氷の刃の如しでございます。

 が、小比類巻先輩はそのただ中で堂々と我が同好会の存在意義を証明してみせました。


 これが……組織のリーダー……


 あと、この同好会、毎回活動内容や活動目的がコロコロ変わります。これも、現代的な組織の在り方なのでしょうか?


「…来月から現代カルチャー研究同好会の活動費を10万プラスにする。代わりに、さらに際どい写真の提供を求める」

「「「「「先生!?」」」」」


 ……っ!

 これが…現代カルチャー……っ!!

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