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お前なんなん?最終回!!

 --走る私達の後ろに続く地鳴りのような足音は、背中に張り付く死神となって強烈なプレッシャーを浴びせてくる。

 少しでも脚を緩めようものならその瞬間、地獄に堕ちる……私達はそう確信していた。


 燃え盛る街中を疾走する私達の後ろで、一緒に走っていた1人が転んだ。


「……っ!?おじさん!!」

「阿部さんっ!!」


 助けを求めるおじさんは疲れからか立ち上がる事もままならず、そのまま高波のように押し寄せてくる死神の群れに呑まれていく…


「おじさぁぁんっ!!」

「阿部さんっ!!ダメだ!もう助からないっ!!」

「そんな……っ!そんな……っ!!」

「凪っ!!」


 目の前で繰り広げられる『死』のリアルに私の脚がガタガタ震えた。

 そんな私を叱咤するのは、長谷部さんと日比谷さんだった。


「逃げるよっ!死にたいの!?」

「…日比谷さん」

「生きるんだっ!絶対に……っ!!」


 日比谷さんの声に私も再び脚を前に投げ出す。

 背後の群れはたった1人の肉では満足せず、次なる獲物である私達に向かって雪崩のように迫ってくる…


「2人とも!!こっちだっ!!」


 先導していた長谷部さんが逃げ込める場所を指し示す。

 白い壁は煤にまみれ、窓ガラスも所々割れているその建物に私達は滑り込んだ。


 玄関の下駄箱に散乱するゴルフのパターやら金属バットやらで頼りない扉を閉じて塞ぐと、直後に弾丸のように“それ”が押し寄せた。


『アーーーッ』『ウゥゥーーーッ』『ワーーーッ』


 ドンドンとガラス戸を叩く血まみれの手がガラス戸に真っ赤な手形を付けていく。その物量と勢いにガラス戸が悲鳴を上げだす……


「……ヤバい」

「阿部さん!!日比谷さんっ!!早く奥にっ!!」


 長谷部さんの誘導で私達は建物の奥へ……


 逃げ込む私達の背中をガラス戸に阻まれた白濁した目が見つめる。

 既に人でなくなった彼らの視線はいつまでも背中にへばりついた……



 --どうしてこんなことに……


 階段を駆け登りながら私は思う。

 窓から見下ろす建物の敷地内--赤黒く染まったグラウンドにはさらなる生きる屍が集まってくる。

 生者である私達に引き寄せられるそれは……そう、ゾンビである。


 あと、何人生存者が居るだろう……

 私達はあと、いつまで生存者でいられるだろう……


 逃げ込んだ学校の校舎の中、息を殺して身を潜める私達の胸中を、重たい不安が包んでいた。絡みついたそれは心臓に重くへばりついて離さない……



 --私、阿部凪は世界を駆ける。

 生き残る為にこの荒廃した世界を……


 世界を埋め尽くす『死』に、必死に抗いながら……


 *******************


 --その日は突然訪れた。


 ある日、登校前にテレビのニュースをぼんやり眺めていたら市内で暴徒が暴れてるってニュースを観た。

 映し出された見知った街中はまるで戦火に焼かれた街で、レポーターの後ろでパニックに陥る人々が逃げ回っていた。


「やだ。なにこれ…」

「どうなってんだ…凪、今日は学校を休みなさい」


 トーストを頬張りながら私の身を案じる両親もこの時まではどこか他人事だったろう……


 しかし、事態は突然変わった。


 --パリンッ!!


「え?」「なんだ?」


 2階から響くガラスの割れる音に両親と私が反応する。テレビから絶えず聞こえてくる悲鳴が恐怖心を焚きつける中、お父さんが2階に登っていく……


 不安に駆られたお母さんがフライパン(さっきまで使用してて熱々)握ったまま私の肩を抱く。火傷した。


「--逃げろっ!!」

「え?あなた!?」「お父さん……?」


 2階で大きな物音と共にそんなお父さんの悲鳴が聞こえてきた。

 私とお母さんは思わずリビングから飛び出して2階へ続く階段へ……


 そこで目にしたのは上から階段を落ちてくるお父さん。

 その後を追いかけてくる血まみれの人々……


「きゃああああああっ!?」「なに…!?この人達!!お父さん!?」

「……っ!!逃げろぉぉぉ!!」


 その叫びを最後に、お父さんは上から降りてきた人達に囲まれて貪られた……

 人が食われる……それも父親が。目の前のあまりにも現実離れした光景に私は息が上手く吸えなかった。


「凪!!」


 こんな時に役に立たない私に代わり私を引っ張ったのはフライパンを持ったお母さん。


「逃げるのよっ!!」

「でも……っ!お父さんがっ!!」

「いいからっ!!」


 エプロン姿のお母さんと共に飛び出した外は、地獄と化していた。


 逃げ回る人々とそれを追いかける狂人達…その光景はまさに現世に具現した地獄……

 あまりの光景に絶句し立ち尽くす私達にも、迫り来るゾンビの凶牙は容赦なかった。


「……っ!?凪っ!!」


 襲い来るゾンビに私より早く反応したのはお母さんだった……

 私を突き飛ばしたお母さんは私の視界から一瞬にして消えた。


「ぎゃあああああああっ!!!!」


 その時聞こえてきたのは、いつもは元気で気丈に振る舞うお母さんの、聞いたこともないような絶叫…

 お母さんは私の立ってた場所で複数のゾンビに囲まれ、生きたまま貪られていた……


「……っ」

「…っ!!なぎぃぃぃ!!」


 お母さんの、文字通り血を吐く声が私を叩く。その声に肩を揺らされ、私はお母さんが何かを言う前に勝手に走り出した……


「何があっても……生きるのよっ!!」


 母親を置いて逃げ出した娘に、お母さんは最後の力を振り絞ってそう叫んでた……

 私の目からポロポロと雫が溢れ出す……


「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……っ!」


 何度も何度も繰り返す私の言葉に引きずられるように、私の駆ける道をゾンビ達が追いかけた……


 振り返ることは、出来なかった……


 *******************


 --こうして、世界は滅亡した……


 世界中で発生した未知のウイルスによるパンデミック……

 人々を生きる屍と化し凶暴化させるこの恐怖のウイルスは風に乗り、動物に乗り、瞬く間に世界中を覆い尽くし、この星で最も発展した生命を絶滅寸前に追い込んでいる……


 このゾンビ化ウイルス。感染者に噛まれるとそこから感染し、即発症…その後は意思のない生きる屍と化してしまう……


 グラウンドから続々と校舎に集まってくるゾンビ達を見下ろし私達はとりあえず難を逃れた安堵と、逃げ場を無くした不安感に包まれる……


「……ここ、私らの学校だ。必死で逃げてきたから気づかなかったよ」


 と、漏らす日比谷さんの言葉に私も改めて気づく。


「……確か、ゾンビが増殖してすぐ、自衛隊がここらの学校とかを活動拠点にしてたね。ここなら何か使えるものが手に入るかも……」


 こんな状況でも冷静さを失わない私達の司令塔が長谷部さん。私のサバゲー仲間。


 この2人と合流できたのは本当に良かった。特に長谷部さんがいなかったら私達はとっくに死んでたかもしれない……


「……タナカのおじさん…死んじゃった。あの人の福神漬けは生命線だったのに…」

「うん……とうとう私達3人だけになっちゃった……」

「阿部さん、日比谷さん、今は嘆いても仕方ない。ここら辺のゾンビが学校に集まってる……いつ侵入してきてもおかしくない。早々に準備を固めて脱出しないと……」


 キビキビ動き出す長谷部さんの無尽蔵の体力。対して日比谷さんは限界が近い……


「ここを活動拠点にしてたなら、自衛隊の装備が残ってるかもしれない…」


 教室を手当り次第に開けて確認する長谷部さん。私達が今手にしてるのは金属バットやバールという心もとない武器。


「……長谷部さん、気をつけて……この中にゾンビが居るかも……」


 ビビりまくりの日比谷さんが地味に私を盾にして進んでいくのは……気の所為だよね?


 それにしても……


 薄暗い校内。あちこちに付いた血、銃撃の跡……

 ここがかつて私達の通ったあの思い出の詰まった学び舎だと思うと胸が締め付けられる思いだ……


 そう、目の前の教室は私達の教室……

 ここで私達は毎日……


 長谷部さんが扉を開けた瞬間。


『うわぁぁぁっ!』

「っ!?」「長谷部さんっ!!」「うわぎゃぁっ!?」


 突然!丸メガネのゾンビが飛び出して来た!!

 咄嗟に反撃しようとする長谷部さんに掴みかかるゾンビ……バールで頭を粉砕しようとする長谷部さんより早く、掴んだ腕に歯が突き立った。


「うぐぅ!?」

「「長谷部さーーーんっ!!」」


 しがみつくゾンビが蹴り飛ばされる。長谷部さんに突き放されたゾンビが床を転がる。

 私は倒れる緩慢な動きのゾンビに容赦なく金属バットを振り下ろした。


「死ねぇ!!このイモ野郎っ!!」

『ぐげぇー』


 グチャっとトマトみたいに潰れる頭……

 あれ?よく見たら……橋本君?


「っ!!長谷部さんっ!!」


 とか言ってる場合じゃないっ!


 うずくまる長谷部さんに私達は駆け寄る。長谷部さんの腕には真っ赤な歯型が付いてた。


 --噛まれた……


 その事実は私達を戦慄させた。

 噛まれたらゾンビになる。つまり……


「……は、長谷部さん」

「……っ、まだ、手はあるわ……」


 傷が脳に近くないからだろうか?長谷部さんは即ゾンビ化することなくまだ自我を保ってる。

 でも、顔からは血の気が引いて足元もふらついてる。


「急いで患部を切り落とせば……間に合うかも……ドラマとかでやってるし……」

「確かに、ドラマとかでやってます」

「ねぇ、凪?そんなふわふわした治療で大丈夫なの!?」


 とりあえず、患部から上をキツく縛る。血流を止めればウイルスの進行も遅らせられる……気がする。

 こういうのドラマでやってるし、多分間違いない。Netflixで観た。


「日比谷さん!時間が無い!!腕を落とせるもの探して!!」

「いやそんな物騒なもの学校にないよ!?……あ、でも家庭科室なら包丁くらいあるかも……」

「なら、急ごう!」


 私は具合の悪そうな長谷部さんに肩を貸して歩き出す。


「阿部さん、日比谷さん……」

「しゃべらないでください!こういう時しゃべると早死しますよ!ドラマとかだと……」

「私が……ダメだったら、すぐに頭を叩き割るのよ」

「何言ってるんですか!!」

「あと……もしどこかで……私の弟に会ったら……」

「え?弟が居るんですか?」

「……私の、生首を届けてください」

「届けられるかっ!ゴッドファーザーか!」

「あと……私のゼリー勝手に食べたな……末代まで呪ってやるって……伝えて……」

「ゼリー1個でどんだけ恨み抱いてるんですか!てか、自分の一族末代まで呪ってどうするんですか!?」


 あぁ大変だ……こんな時にまでこの街の住人はオッペケペー…………


「凪っ!家庭科室よっ!!」


 長谷部さんに寄り添う私より先行してた日比谷さんが家庭科室を見つけた。

 ……でも、どうしよう。

 腕を切っちゃったら大量に出血するよね?

 そもそも、腕を切ったら感染を止められる?ほんと?


「凪!今更そんなこと言ってんじゃないわよ!!ドラマを信じなさい!!Netflixは今や小学校の授業にも取り入れられてるのよ!?」

「言ってないけど……日比谷さんは私の心が読めるの?」


 信じられない日比谷さんの特技を知った次の瞬間。


『うーーーっ』


 特徴的な唸り声と共に家庭科室の前の廊下の曲がり角からぬっと姿を現す。


「日比谷さんっ!ゾンビだっ!!」

「むっ!?私が倒すわっ!!」


 いつにも増して勇ましい日比谷さん。私は長谷部さんを支えてるから日比谷さんに任せる。

 幸い奴らはそんなに機敏に動かない。金属バットを持った日比谷さんなら充分……


「……っ!うそ……」


 そんな私の甘い考えは一瞬で砕かれることになる。

 バットを構えた日比谷さんがゾンビを前に硬直する。この局面で怖気付くなんて、食べてくださいと言ってるようなもんだ。


 声を張り上げて日比谷さんを無理矢理動かそうとした。

 でも、ゾンビの姿を見たら日比谷さんの動揺の理由が分かった。


『うーーーーっ』

「むっ……むっちゃん……」


 ゾンビは小比類巻君の成れの果てだったから。


 変わり果てた好きな人の姿を前に完全に攻撃の手が震える日比谷さん。もはやマネキンにも等しかった……


「日比谷さんっ!!小比類巻君はもう助からないのっ!!大体、あなたもうフラれたでしょ!?さぁ!!早く倒して!!」

「でも……むっちゃん……」

『あうーーー』

「バカ!!ゾンビになったって脈無いものは無いんだよ!!」

「酷い!!なんでそんなこと言うの凪!!そのすぐに毒を吐く癖治さないとあんた友達でき--」

『あうーーーっ』


 ガブッ


「ぎゃあああああっ!!」

「日比谷さーーーんっ!!」「ああっ!そんな……」


 小比類巻君に思いっきり首を噛まれたら日比谷さんがそのままガタガタと痙攣する……

 ウイルス関係なく噛まれた場所が致命的だった。


「あっ……あっ♡あはぁぁぁっ♡むっちゃん、なんてジョーネツ的……」


 あと日比谷さんのバカさ加減も致命的だった。


「うわぁぁぁっ!!死ねぇぇ!!」

「え?凪--ごべっ!?」

『うわーーーっ』


 涙とともに決意を固め、躊躇いを飲み干した私はフルスイングで金属バットを日比谷さんと小比類巻君の頭に叩きつけた。

 グチャっと飛び散り壁のシミになる2人の頭だったものを前に私は力なくその場に崩れ落ちる。血溜まりに膝を着くことも気にせず嗚咽を吐き出した。


「うわぁぁっ!!日比谷さんごめんなさいぃぃ!!うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「うぅ……泣く割には……ノリノリで殺しに行ってたような……そ、それより……」

「あっ!そうだった忘れてたっ!!包丁!!待ってて長谷部さんっ!すぐにその腕、すっぱり切り落としてあげるか--」

『--ダメよ』


 乾いた声にゾッとした。

 振り返った私の視線が結ぶ像は、青白い肌になって這いずってくる長谷部さんの姿……


 あぁ……そんなっ。


 目の前の絶望に私は逃げ出すことも、さっきみたいにスッキリスカッとトドメを刺すことも忘れて長谷部さんに押し倒しされた。


 床に広がる血溜まりが生暖かい。ねっとりとした感触に沈む私の体にかかる体重と体温は生者のものじゃなかった。


『うわぁぁぁっ』

「ああ……そんな……こんなのってないよ……」

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

「…………っ!こんなのって……」

『がぶーっ』

「うわぁぁっ!!こんなのあんまりだよぉぉぉ!!」


 *******************


「--はっ!」


 ……目が覚めたら家の天井だった。


 ジリリリリッと目覚ましがけたたましく鳴り響き、爽快な朝の日差しは青空のてっぺんで鎮座して今日も眩しく目覚めを照らす……

 血溜まりではない体温で温まった布団の上で私は身を起こしていた……


「凪ー、いつまで寝てるの!今日から学校よ!?」

「……お母さん」


 ………………あれ?

 夢?


「なーーーーぎーーーーっ!」

「……っ」

「なーーーーぎーーーーっ!!学校行くよぉぉぉぉぉっ!!」

「ほら凪、日比谷さんが迎えに来てるわよ?遠いのに毎朝関心ねぇ。さっさと朝ごはん食べちゃいなさい!」


 ………………日比谷さん。


「なぁぁぁぁぎぃぃぃぃぃっ!!!!まぁぁぁぁぁだぁぁぁぁぁ!?」


 日比谷さんっ。

 ごめんなさい……


 日比谷さんの頭が弾ける姿……ちょっと滑稽でした。


「まだ寝てるのぉ?なぁぁぁぁぁぁぎぃぃぃぃぃぃ!?」

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