咲いても散っても桜は桜
「花見に行こうぜ?」
ゴールデンウィーク前日に田畑がまためんどくさい事言い出しおった。
どうも、窓から散った寂しい桜の木を眺める楠畑香菜や。
田畑、長篠、速水との昼食。このアンポンタンが突拍子のない事言い出すのはいつもの事やけど、桜の散ったタイミングでこないな事言い出すんはまた迷惑な話や。
なんで桜の咲いてないタイミングで言い出すねん…
「レン、桜もう散ったよ」
「そうよ。ついこの前まで咲いてたじゃない、あと私、アイツとの決着つけるまでは遊んでる場合じゃないんだ」
正論をかます花菱と武人みたいなこと言い出す速水。2人を前に前髪に視力を奪われ続ける田畑がギャン泣き。
「いやだぁぁぁ!!」
「うわっ…」「香菜…泣き出したよ、何とかして」「嫌や」
「今年春らしい事なんにもしてないじゃないっ!!冗談じゃないわよ!!私だって春らしい事したい!!私に春をちょうだい!何とかしなさいよこのポンコツども!!」
「どっちがポンコツやねん!!なんで桜が散ってからそないな事言い出した!?」
「だってだって!!香菜のせいよ!!」
は?
「香菜が彼氏なんて作るからよ!!お前どうせ花見行ったんだろ!?花見しながら脱糞したんだ!!うわーん!このチョコレートソフトクリームがぁぁ!!」
--パチィィン!!
ぶたれた。殴ってええ?
「ふざけんなや?行ってへんし行っても脱糞せんしそもそも付き合え付き合えって言いよったのおどれらやろ?なぁ、耳ペンチで引きちぎってええ?」
何故か床に転がっとるペンチを構え、田畑も威嚇のポーズを取る。またいつもみたいにめちゃくちゃになり始めた時に長篠が「まぁまぁ脱糞さん」と間に入った。
頭にペンチ突き刺すぞ?こら。
「花より団子と言うじゃない」
「確かに…」
これだけで長篠の言いたいことが分かる速水も着実にイカれの泥に脚を沈めつつあるようやな。
「香菜、花見なんて誰も花見ない。公園でブルーシート広げて、お弁当食べてれば花見」
「やだ。私は花を見たい」
折角の速水のフォローを粉々にする田畑。
「どうよ?桜の散った後の花見をやるというのは?このままじゃレンがグラウンドにチーター放しかねないし…」
「やかましいぞ、速水。花見は花が咲いとる時にやることや」
「もしかして香菜、ゴールデンウィーク忙しい?あぁ…彼氏が居るもんね」
「「あぁ…香菜は友達よりオトコか……」」
この女友達特有のノリ…嫌い。
「へんだっ!!いいもん!!じゃあ香菜抜きで花見するし!風香と莉央でするし!お前は連休彼氏とトイレでしっぽりやってろ!!」
「せん。連休予定ないし」
「へーんだっ!牛乳飲んでやるかんな!?お前の居ないとこで、牛乳飲んで、腹壊してやるからな!!」
「……」
「へーんっだっ!!」
「…………」
「あっかんべーーっだ!!!!!!」
*******************
ゴールデンウィーク初日。
学校最寄り駅からしばらく歩いた公園。
床は色褪せたピンクの絨毯に包まれとって、踏まれて土の混じった桜の花びらを見るとやるせない気持ちになってくる。
ついこの前まであない咲き誇っとったのに、ひとたび枯れれば落花流水…
「盛者必衰の理やな…」
「香菜、何言ってんの?」
「花見だァァ!!ノッてるかぁぁ!?」
「レン見て!誰も居ないよ!!」
ウチらは花見に来た。
花無いけど…
この街は桜の名所…桜の開花シーズンには全国から花見客がぎょーさん押し寄せるけど、見るべき桜の枯れた今公園に居るのは犬の散歩しとるじーさんばーさんか手を繋いで春の陽気にやられたカップル。
すっかりハゲ散らかした桜の枝に止まったスズメがちゅんちゅん鳴いとった。そんな様もなんか虚しい…
「さぁ…宴の始まりだ!」
田畑がノリノリでブルーシートを広げる。考え無しの馬鹿は遊歩道と芝生の間の傾斜にブルーシートを広げた。
「芻霊呪法!智成!!」
「レン、多分そのともなりじゃないでしょ」
その上智成さんの名前叫びながら一息の間にペグを四隅に打ち込みおった。
これでこの傾斜が気になるしかも桜の木が遠い場所での花見が決定。
「さぁ…莉央よ、飯を出せ」
「え?私お弁当は用意してないけど?レン昨日「あたしの手料理に震えて眠れ!」とか言ってたじゃん」
「……風香」
「ないよ。レン昨日の夜「明日は重箱3つパンパンにするんだーっ!」って4時半に目覚ましセットしてたじゃん。起きたの8時だったけど…」
「…香菜」
「ないわ。アンタ昨日「あたしのお弁当ミシュラン五ツ星だから食べログ登録しとけよ!!」て意味わからんこと言うとったやんけ。ウチお菓子しか持ってきとらん」
「私も」
「右に同じ」
ウチと、速水とその左に居る長篠の発言に田畑の頬が風船みたいに膨れた。けど、誰がどう考えてもおどれのせい。
「…お前らそんなんだからモテないんだ。」
「モテなくていいし」
「私は動物ファミリーに愛されてる」
「ウチ彼氏居るし」
「お前ら…呪ってやる…っ!!お前らの枕の中身...弾丸アリにしてやる!!」
「まぁええやん、お菓子食お」
「馬鹿っ!花も無ければ団子も無い!!これでどうやって花見するんだ!!だからアンタは脱糞女なのよっ!!」
「飯忘れたんアンタやん」
ちゅうわけで。お菓子ばかりの花見がスタートや。
…が。
「なんでみんな同じチョイスやねん」
みんな持ってきたんがポテェイトチップスティプシーケーキ味やった。しかも1人3袋も…
「わぁ、私ら気が合うね!」
「風香、そんなこと言ってる場合じゃないわ。こんなに大量のポテェイトチップスを食べたらこの近辺のポテェイトチップスのエンゲル係数が……」
速水が訳分からん事言いだした。コイツも立派な狂人や。ウチは悲しい。この一角にまともな奴はウチしか居らんのかい。
「じゃあ、ドリンクは?」
速水がそう言うたら一斉に2リットルのペットボトルがブルーシートの上に並んだんやけど・・・
またしても被った。パンタのグラブジャブン味。舌が焼け焼けそーなラインナップや。ポテェトチップスもごっつ甘そーやし・・・
てか、ティプシーケーキってなんやねん。
「わぁ、飲み物まで同じなんて私らホントに気が合うね!」
「速水、そんなこと言ってる場合じゃないわ。こんなに大量のパンタを飲んだらこの辺のパンタのエンゲル係数が・・・」
「速水、アンタエンゲル係数ってなんか知っとんの?」
「そんなことより!!」
突然ポテェトチップスの袋を破裂させる田畑のバカ。おかげで貴重な食糧が四散してもうた。
「何よこれ!!これが花の女子高生のお花見だって言うの!?」
いや・・・せやからこないなことになっとんの全部おどれのせいやろて・・・
「花のない公園でポテチ食ってパンタ飲むって・・・私らはくたびれたおっさんかっ!!」
・・・いや、せやから花ないんも、飯ないんもおどれが言い出したことのせいやろ?
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桜-・・・やのうて野糞垂らす犬見ながらの花見。
空を仰げば真っ青な空をのびのび雲が泳いどる・・・あぁ、ええ天気やなぁ・・・
・・・・・・桜はありゃせんけど・・・
「香菜、どこ見てるの?」
甘ったるいスナック齧る速水がやたら低い視線でウチに呼びかける。
田畑も長篠も下見っとた。
「・・・アンタらこそどこ見とん?」
「「「花」」」
…
バカトリオの視線追っかけてウチも下に視線を這わせる。確かにそこには花がある…
ブルーシートとウチらのケツに潰されとるけど…
「やっぱり花見だから花見ないとね。どうよ?レン、念願の春らしいイベントは?」
「……散って踏まれた花を見てると・・・なんか、私達の未来を見せられているような…あぁ、私達もいずれこの桜のように散って踏みつけにされるんだなって…」
長篠からの声に返ってきた田畑のセリフはお花見ん時に出てきたらアカン…いや、イベントの主催者から出てきたらアカンセリフ。
都会の荒波に疲れたOLみたいな面でそないなOLが絶対飲まへんパンタ呷る。
「例えるなら今の私らは満開の桜…若く美しく…エネルギーと可能性に満ち満ちてる…脱糞女除く」
「なんでやねん」
「でもね!!」
田畑のバカがドンッ!て地面叩くけパンタが倒れて長篠のスカートを濡らしおった。
「ぎぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!ピエール・ガンバルマンのスカートがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
…ピエール・ガンバルマンって実在するブランドなんか…クレヨンしんちゃんの世界だけやないんか…最高にマヌケなブランド名やけど長篠が履いとるくらいやけんそら値打ちモンなんやろなぁ…
「忘れないでよねっ!今の万能感溢れるこの感覚は全部まやかしなのよっ!!聞いてる!?梨央っ!?」
「聞いてない。今風香のピエール・ガンバルマン拭いてるから…」
「私達なんて社会に出たらちり紙も同然なのよ!?この桜を見なさい!!」
「それはレンと香菜だけよ」
なんでや。おどれらウチになんか恨みでもあるんか?
てか、田畑おどれ何しに来た?
「…社会かぁ…私らもあと1年で卒業なのね…」
乗らんでええのに長篠が乗ってくる…
「そうよ!あと1年で鼻かんだちり紙よ!!」
ただのちり紙から鼻かみティッシュになっとるやないか…
「そしたらこんな風に集まれないね…」
偉そうに青春の1ページみたいなこと言う速水にちょっとしんみりしてまうやないか…
くそ。エンゲル係数とかテキトーこいとる奴にしんみりさせられるなんて…
「みんな進路とか決めた?私はオリンピック選手」
「それ、進路なん?」
「私らの人生はちり紙って言ってるでしょ!?」
「はいはい…それはレンと香菜だけ。」
「ええ加減にせんとピエール・ガンバルマンで鼻かむぞ?長篠」
なんかこないな話ウ〇コタレともしたな…
みんなそんだけ将来んこと意識し始めたっちゅうことやな…
…頭トンチンカンのくせに。
「まぁ、自分の将来なんて分かんないよねー」
と、1番喚いとった田畑が気楽〜に言う。ポテェイトチップスを齧りながらうんうんと頷く2人も呑気な事や…
ウチはこいつらの将来が心配でならんでホンマに…
なんて。
談笑しながら地面を見下ろす花見。
ウチの頭ん上にひらり落ちてきた桜の花びらの生き残りを手のひらに乗せたらあっという間に風にさらわれた…
青空に吸い込まれて見えんくなる桜の花びらを見送りながら思うんや……
……次は咲いとる時に行こう。飯ちゃんと持って。




