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総合戦闘力はいくつですか?

 莉子先生はお腹を刺された。

 先日校内に侵入してきた不審者から突然刺され入院していた私だが、少し前には退院し日常生活に復帰していた。

 あの事件が遺した爪痕は大きく、最悪な事に生徒にも1人怪我人が出た。

 幸い死者は出なかったが、これを機に学校側は生徒と学校の安全をもっと考慮して欲しい。


 ちなみに入院中日比谷君がお見舞いに来てくれた。

 その不審者の動機がモデルをしている日比谷君の変質的なファンだったから…ということで彼女はいくらか責任を感じていたようだ。

 その時に持ってきたいがぐり君ストラップはスマホケースにぶら下げている。



 --さて、そんな事があった私だが、今日は仕事がお休み。今日は葛城莉子の休日に密着してみようか。


 さて、今日は特に予定という予定はないんだが…服でも買いに来ようかと街に出た。

 ちょうど昼時なので適当なお店に入ろう。


「いらっしゃいませ」


 商業施設の並ぶ中心街にオシャレそうなパスタ屋さんがあるではないか。しかも結構並んでいる。

 私は店に並ぶのが別に苦ではない女。


「申し訳ありませんが……」

「おい嘘だろ?」

「お客様も……」

「なによ!」

「お引取りを……」

「くそっ!これでもダメだと言うのか……」


 ……?

 列に並んでいる5人程の客は店の前に立つ店員により次々と入店拒否されている。客の尽くを追い払う珍妙な光景に何事かと首を傾げつつ、私も追い払われるのではと不安を抱えていたら私の番だ。


「あの…予約とかしないとダメでしたか?」

「お客様の総合戦闘力をご提示ください」

「は?」

「総合戦闘力でございます」


 総合戦闘力?


「当店では総合戦闘力300万以下のお客様のご来店は御遠慮させていただいておりますので」

「…………」

「お客様?……失礼ですがご職業は?」

「……高校の…………養護教諭を……」

「は?」

「は?」


 は?はこっちなんだが……

 なんで仕事訊かれて養護教諭ですって言ったらは?って言われるんだい。

 大体総合戦闘力とはなんだ。


「……お客様、お引き取りください」

「………………」



 --納得がいかない。


 よく分からない理由で弾かれた私はしばらく店の前で観察してみる。

 その後訪れる客達はみんなスマホを見せていた。

 そして1人入店拒否された客がこっちに来たので捕まえて説明を求めた。


「すみません。総合戦闘力ってなんですか?」

「……?基礎戦闘力に武具や使い魔の戦闘力をプラスした総合力のことに決まってるだろ?」

「…………?」

「は?」

「あの……すみませんがそれはゲームか何かの話で……?」

「あんたこそ何言ってんだ。『退魔伝説』に決まってるだろ」

「……ゲームですよね?」

「ちなみに俺の総合戦闘力は290万だ。魔道剣士のLv123だぞ」


 見せられたのは燃え盛る炎を纏った鎧を着た魔道剣士Lv123がクルクル回ってる画面…自慢げではあるが300万に満たない為パスタも食えないレベルである。

 ご職業ってこれの事か……魔道剣士って言えば良かったのか……


「あの、あの店ってそのゲームとコラボイベントしてたり……」

「してないよ。入店条件が総合戦闘力300万以上なだけ」

「……なぜ?」

「総合戦闘力300万以下の人間に人権なんてないからさ」


 当然だろ?とでも言いたげな彼には人権がないらしい。


「やってない人はどうなるんですか?」

「やってない?」

「その…『退魔伝説』を……」

「は、はぁ!?そんな人間居るわけないじゃん!!あんた、日本人だよな?」

「……はい」

「日本人で『退魔伝説』やらないなんてそんな奴居ないよ。あんた、戸籍持ってるだろ?」

「はい」

「そういうことだよ」


 どういうことだ?


 *******************


「……『退魔伝説』、ダウンロードっと…」


 お昼ご飯は牛丼食べた。退魔伝説してなくても入店させてくれた。入店する時「退魔伝説してないですけど大丈夫ですか?」って訊いたら「は?」って言われた。


 戸籍を当たり前に持っているように、退魔伝説を嗜むのは当たり前のことらしいので、私は今後二度とこのようなことにならないように退魔伝説を始めることにした。そして総合戦闘力300万の魔道剣士を育てる。


「……退魔伝説は放置系のゲームなのか」


 なんか新職業で魔道砲士なる職業が強いらしい。ネットに書いてた。

 魔道剣士はやめて魔道砲士になることにした。


 さて、洋服だ。

 私はデパートにやって来ていた。こんな所に来るのはいつぶりだろう。

 今日はオシャレしようと思って来たんじゃなくて結婚式用のスーツを買いに来た。私だって、結婚式にくらい呼ばれますよ。ええ。

 この前従兄弟の結婚式にジャージで行ったらぶん殴られたからな……


 今日おじゃまするのはよぉ〜ふく〜の夏山♪である。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなお洋服を?」


 服屋ってなんで店内歩いてるだけで話しかけられるんだろ。ビーチサンダル履いてスーツ買いに来た私なんかにも凄く爽やかな笑顔で接してくれるお姉さん……

 きっとこの人は仕事も完璧にこなすし、私生活でも恋人がいて、部屋は整理整頓されていて、休日はジムとか行って体を鍛えてるに違いない。


「あ〜……結婚式に着ていくスーツを…」

「なるほどでございます〜。ちなみに…総合戦闘力はどれ程……」


 え?ここでも?


「いや……たった今始めたばかりなので…実は…………あ、まだ全然育ってない。190です」

「なるほどぉ〜……」


 公私共に完璧なはずのお姉さんが今一瞬私に蔑むような視線を…………


「それでしたら……総合戦闘力190のお客様にはこちらのスーツをおすすめさせていただいております」


 総合戦闘力で決まるの?


「こちらの白いのジャッケットとパンツなどお似合いですよ。靴とパールのネックレス、Lv700の使い魔魔龍ヒドラもまとめてのセットになります」

「え?Lv700の魔龍ヒドラ?それって戦闘力なんぼです?」

「800万になります」

「これにします」

「ありがとうございます〜。ご試着は……」

「しません。買います。今すぐ」

「サイズの方と裾上げ……」

「なんでもいいです。おまかせで」

「ジャッケットの裏地にお名前…」

「おまかせで」

「パンツの方は折り目加工や着崩れ防止--」

「おまかせで」

「靴はヒールと草履と下駄と……」

「おまかせで」

「パールのネックレスは天然物……」

「おまかせで」

「肩パットは……」

「おまかせで」

「魔龍ヒドラは装飾が不死鳥のネックレスか退魔の衣かお選びに……」

「退魔の衣でお願いします。」

「かしこまりました。古いスーツなど買い取り……」

「おまかせで」

「ありがとうございます。それではお会計が1,000,000円になります」

「え?」


 *******************


 ア○ム行ってきた。

 ただ、折角貰った使い魔、魔龍ヒドラはLv制限でまだ装備出来なかった……

 1,000,000円……


 今度はなんて言って親からお金を借りようかと考える○○歳…春。


 重すぎる紙袋を提げてデパート内の休憩エリアに腰を下ろしてぼーっとしてた。


「びぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」

「…さて、私の魔道砲士は育ったかな……?あれ?負けてる?」

「びぇぇぇぇえぇぇん!!びぇぇぇぇえええええええんっ!!」

「いい加減泣きやめよ」

「びぇぇぇええええええんっ!!」

「……お、総合戦闘力が300になってる」

「びぇぇぇええええええんっ!!!!」


 ……隣で女の子が泣いている。

 寄り添うのは小学生位の男の子…同じ服を着てるあたり兄妹だろう。まだ幼稚園くらいの女の子は人目も憚らずに大声で泣きじゃくっていた。


「そんなに泣いたって、ないものはしょうがないだろ?」

「いやだぁぁ!!お兄ちゃん探してきてぇ!!」

「もう散々探したよ。ないの。大体落としたお前が悪いんじゃないか」

「びぇぇぇええええええんっ!!!!!!」


 なにか落としたらしい。

 しっかり者のお兄ちゃんが必死で宥めるが妹ちゃんはどうしてもそれを諦める事が出来ない様子。終いには椅子から転げ落ちて床を転がりだした。


「駄々こねるな!!もう電車の時間だから帰るぞ!」

「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「置いて行っちゃうぞ!」

「いやだぁぁ!!私のいがぐり君!!」

「ただのストラップじゃないか」

「宝物なのにぃぃ!!見つかるまで帰らないぃぃ!!」

「…もう!いい加減にしろ!ほんとに置いてくぞ!!」

「いがぐり君んんん!!」


 …………

 いがぐり君ストラップ…


「…君達」

「ほら!怪しいお姉さんが話しかけてきたぞ!兄ちゃんは逃げるからな!!」

「びぃぃぃえぇぇぇぇぇぇえんっ!!!!」


 …………


「私は怪しいものでは無いよ。君達、いがぐり君を落としたのかい?」

「いがぐり君!!」

「これ、そこで拾ったんだけど…もしかして君達のかな?」


 私は自分のスマホに付けていたいがぐり君ストラップを妹ちゃんの前に差し出した。

 トマトみたいに真っ赤になって泣いていた妹ちゃんの顔が途端に輝く。

 私の腕ごと引きちぎらん勢いで「いがぐり君!!」と私からいがぐり君ストラップをひったくる妹ちゃんが床で丸くなりながら小さないがぐり君を抱きしめていた。


 ……すまない、日比谷君。


「…あ、ありがとうございます。怪しいお姉さん」

「私は怪しいお姉さんでは無いよ。良かったね」


 ぷにぷにほっぺでいがぐり君に頬ずりする妹ちゃんの頭を撫でてやる…

 と、妹ちゃんがべしっ!と私の手を叩いた。


「この人がいがぐり君盗った!!」

「こら!拾ってくれたんだぞ!!」

「ドロボー!!」


 ……………………


「お前なんか!!ア○ムで借金して親に金を無心して勘当されればいいんだっ!!」


 ……………………………………


「いい加減にしないと怒るぞ!!」

「…いいんだよ。それじゃ、お姉さんは行くよ」


 お兄ちゃんを宥めて深い傷を負った私は2人に手を振り歩き出す。これ以上ここに居たらメンタルがガラスのように割れる気がした…


「ありがとう!怪しいお姉さん!!」


 最後の最後まで悪意のない子供の言葉が胸を抉ってくる……




「…もしもし?お母さん?」

『莉子?なんだい急に電話してくるなんて。珍しい』

「うん、ごめんけどちょっと相談があるんだよ」

『なんだい?』

「……実は借金したんだけど、1,000,000円貸してくれない?来年には返すから……」

『……あんたはうちの娘じゃないよ』

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