強くなりたいっ!!
「大変だっ!桐谷兄弟が暴れてるぞ!!」
桐谷兄弟とは我が校のブラックリスト、『めんどくせぇ奴リスト』に名を連ねる2年生だ。
あ、めんどくせぇ奴リストっていうのは私ら校内保守警備同好会が勝手に作ったリストだ。最高ランクには野球部の剛田や珍獣コンビ田畑、長篠と錚々たるメンツが名を連ねてる。
そして勝手なリストを作って勝手に校内の治安維持を取り仕切る校内保守警備同好会の代表の1人…それが私、浅野美夜。
最近私らの出番が多すぎる…ろくなことないからやめて欲しい。
そして今日もまた2年生屈指の武闘派が問題を起こしたとかで私の昼休みが潰れる。
私はお弁当を平らげ寝こける姉を置いて…置いて…くそっ!手錠が外れない!!鍵は姉さんしか持ってないんだっ!!
「姉さん!また桐谷のやつだ!潰しに行くよ!!」
「むにゃむにゃ…もう胸がいっぱい…希望もいっぱい……」
「くそったれ!起きろよ!!」
「むにゃ……はっ!?妹が私を呼んでいる!!」
「急に起きるな--がはっ!!」
跳ね上がる頭が顎を突き上げて舌を噛む。段々殺意を覚えてくるこの人を引っ張って立たせ『新戦力』と共に同好会室を飛び出した。
「桐谷兄弟は強敵だ…勝てるか?」
「お願い。あなたが頼りです」
「……お任せください」
私ら姉妹の要請に嫌な顔ひとつせず応じるのは新1年生、彼岸神楽。
以前校内に侵入した不審者から姉さんに守られた1年だ。姉さん曰くうちの高校の武闘派にも引けを取らない戦闘力を持っているらしい。
「--桐谷兄弟!校内保守警備同好会だっ!!そこまでにしてもらおうかっ!!」
先陣を切る新戦力が体育館に飛び込むと昼練をしてたバレー部を相手に無双していた桐谷兄弟がこちらを向く。
一体どういうことなのか…刀剣を手にした兄弟が海賊みたいな顔で私らを迎え撃つ。
「現れたな校内保守警備同好会…」
「憎き浅野姉妹…今日こそその首を頂く…ん?兄さん、見知らぬ女が……」
「気をつけろ弟よ、手強いぞ」
憎きって…私らが何をしたって言うのよ。
「神楽さん…お願い」
「お任せを……」
姉さんから竹刀を受け取る彼岸神楽が凶暴な三白眼を向ける。
構えた竹刀が真剣に見えるほどの剣気…彼岸神楽の放つオーラに当てられた桐谷兄弟が弾かれたように前に出た。
「死ぬがいい!!」
「フォアチョォォッ!!」
「--遅い」
どこぞの漫画みたいに、兄弟と彼岸神楽がすれ違う。その次の瞬間には兄弟の体が天井まで吹き飛んでいた…
そのまま天井と照明の隙間に引っかかる兄弟を確認し、刀身の血飛沫を払うように竹刀を振ってから下ろす彼岸神楽がなんでもないように告げる。
「…強敵でしたが、何とか勝てました」
…体育館の天井に挟まって取れなくなったボールってよくあるよな。
*******************
「校内保守警備同好会だっ!」「また校内保守警備同好会がやってくれた!!」「あの桐谷兄弟を倒したってよ!!」「流石だぜ…ここ最近の活躍には目を見張るものがある…」「浅野様〜っ!キャーッ!!」
桐谷兄弟は退学処分になるそうだ。まぁ、刀剣振り回してたら当然である。それで言うならもっと退学処分になりそうな奴いっぱい居るけどそれはいい。
私ら校内保守警備同好会--浅野姉妹は先日の不審者撃退の際の功績から随分株が上がった。
今では校内の皆から一目置かれる存在となった。
そしてそれには、我が同好会に加入した新戦力の力も当然一因を担っている。
例えば今日の桐谷兄弟なんかも、今までの私らでは戦力的に太刀打ち出来なかった。
そこでこの新戦力、彼岸神楽の力である。
ここ数日、次々に無法者を力で制圧する校内保守警備同好会はもはや、この学校の平和の要と言っていいほどの成長を遂げていた…
「それでは浅野先輩、私はこれで…」
「うん。また」
「彼岸は今日放課後は同好会は休みだっけか?新人のくせに早速サボりですか?」
「こら美夜!」
「……申し訳ありません、先輩。どうしても外せない用事がありまして……」
「冗談よ、アンタには助けられてるし…ありがとう」
私の口から素直に礼の言葉が出てきたことに隣で姉さんが目をうるうるさせてるのが腹が立つ。
学生相手にだってたまには素直に礼も言う。
教室に戻っていく彼岸神楽を見送って無情にも鳴り響く昼休み終了のチャイムに私らも教室へ帰る。
「……アイツなんであんなに強いのかな?姉さん。てか、この学校はなんでこんなに物騒な奴ばかりなの?」
「ちょっと前までその筆頭が美夜だったじゃない」
「か、過去の事はいいんだよ……」
「それより美夜、彼岸三途君って知ってる?」
「……知らない方がおかしい」
私の生徒会復讐計画を潰した要因の1人だ。無論記憶してる。私の率いた『せいし會』は指折りの実力者を揃えていたのに……
彼岸三途……
今は休学中の2年生。剣道部所属。去年のインターハイで我が校を優勝まで導いた怪物だと聞いている。
その強さはまさに天災なんだとか……
なんでも今は武者修行に出てるとかいう究極に訳の分からない男…
「確認したことはないんだけど…神楽さんの苗字にあの強さ……」
「確認するまでもないけどね。彼岸なんて苗字そうないでしょ…あの彼岸三途の妹なら化け物じみた戦闘力も納得ではあるけど……」
それにしても人間が当たり前に吹き飛ぶ学校…そんな無法地帯を力で制する彼女の実力は並じゃない。彼岸家は何食ったらあんなふうになるんだ?
「じゃあ美夜、また放課後。今日は同好会の活動会議だからサボらないように!」
「はいはい後でね」
「うん、また放課後……」
「……うん」
ガチャガチャ。
「またね姉さん!」
「うん!」
「うん!じゃねぇ!!手錠!!外せ!私と、姉さんは教室が逆だろーがっ!!」
*******************
「--学校付近での治安が悪化してます」
放課後集った同好会メンバーを前に姉さんが会議の議題を提示する。
内容は学校付近での治安の悪化に伴う生徒の安全……私らが話し合う必要があるのかって内容だった。
「原因は最近この街に進出してきた暴力団ですね、代表」
「そうです。ご存知の通り最近大きな暴力団事務所がここら辺にできて地元の暴力団と揉め事を起こしてます」
ご存知なわけねーだろそんなん。
「昨日も通学路に被る場所で発砲事件があったと聞いています。そこで、このままでは事件にうちの生徒が巻き込まれる危険がありますので、放課後のパトロール活動をしたいと思います」
やめてくれ。
そもそも私らも生徒なんだぞ?姉さん、どうしてそういう物騒な話題にすぐ食いつくんだよ……
「確かに…」「生徒の安全を守るのが我々の役目」「流石代表だ」
そしてどうもうちの学校の生徒というのは認めた人間に対しては思考停止するようで、先の活躍ですっかりリーダーとして認められた姉さんの意見に異を唱える者は現れない。
みんな貴重な放課後を命の危機に瀕するかもしれない仕事に費やすというのだ。
やはり学生なんてろくなものじゃなかった。
「--パトロール区域は最寄り駅の港中央駅から学校まで。放課後から18時までとします」
「代表、先生に活動許可は取ってあるんですか?」
「取ってません」
取ってないんかい。
「恐らく反対されるでしょう…しかし!私達がやらずして誰がやるのか!!生徒の安全な学校生活を守るのが私達の使命!!」
「間違いない」「然り」「代表、かっこいいです!」
こうして無能による独裁的統制が成り立っていくんだろうか…
「皆さんの安全も考慮し、パトロール活動中は武装として消火器を常備してもらいます」
「消火器…素晴らしい」「心強いです」
こうして、放課後消火器を担いで駅から学校までを徘徊する不審な高校生集団が設立されてしまった……
「--姉さんやめよう。まだ間に合う。私らが首を突っ込むヤマじゃない」
放課後自転車を駆る姉さんの後ろで落ちそうになりながらも説得を続ける私に姉さんは耳を貸さない。
「美夜……これはお姉ちゃんが決めたことなんだ」
風でファサァ〜する姉さんの髪の毛をくんかくんかしつつも、私は心にかかる暗雲に面倒事の臭いしか感じない。
これはアレだ。私らが干渉しない内は何も無いのにこういうことをするって決めた瞬間今この場にでもうちの生徒がヤクザの抗争に巻き込まれる奴……
間違いない。
「姉さん、関わらない事で守れる命もあると思う。もう充分贖罪は済んだんだし……」
「美夜、私はこの学校が好きなの」
それと妹の命をヤクザの抗争にぶち込む事との関係は?
このまま無事に家に辿り着くわけが無い……絶対何か面倒事が起こる……間違いない。絶対だ。今日が命日になるかもしれな--
「きゃーーーっ!!」
その時!タイミングを計ったかのように絹をさくような乙女の悲鳴がっ!
「あの声は……っ!うちの生徒!!」
「違うと思うよ姉さん。姉さん!!」
姉さんは全校生徒の声覚えてんのか。
急ブレーキからのUターンで全力で自転車を漕ぐ姉さんを止める術はなく、弱っちいクセに正義感だけは強いただの無鉄砲が現場へ急行する。
いや、希望を捨てるな……まだウ〇コ踏んだだけとかかもしれない……
「な、なんだテメェはっ!!」
「きゃーっ!!」
「……北斗組ノ組長サンデスネ?」
しかし、駆けつけた奥まった路地では太ったおじちゃんと連れ添う女子高生に黒いコートを着た何者かが立ち塞がっていた。
非常に残念なことにその女子高生はうちの制服を着ていた。
「あれは……3年の恋愛マイスターの滝川さん!?」
「姉さん帰ろう」
ヤバい雰囲気しかしない。
「貴様……っ!関西煉獄會の刺客かっ!!」
「あたし関係ないし!パパ活してただけだし!!」
「……組長、娘サン、オ命頂戴シマス」
「なんであたしまで!?」
「……っ!貴様、最近煉獄會に入ったっていうバイトの殺し屋かっ!!その金髪碧眼……間違いねぇ!!」
何やら喚いていた組長さんが懐から拳銃を抜いた!もう帰ろう!私達は何も見なかった!!
「……」
「貴様……武器も使わずに……?」
「私ノ八極拳ノ前ニ飛沫ト散ッテモライマス」
「ほざけ小娘がぁっ!!」
「マジであたし関係ないしー!?」
組長さんが吠えて引き金に指をかけた瞬間、姉さんが自転車を乗り捨てて駆け出した。
これが1人で突っ込むならまだ「姉さーーんっ!!」とでも叫んだが生憎手首を繋ぐ手錠が私まで地獄へ引っ張りやがる。
「待て待て待て!!姉さん相手拳銃持って--」
「そこまでです!校内保守警備同好--」
姉さんがいつもの口上を口にするより早く……
路地を挟むビルの上から何かが私らの前に降ってきた。
轟音と共にアスファルトを砕き着地するそれにその場の誰もがド肝を抜かれた。
そして巻き上がった粉塵が晴れて私はさらにド肝を抜かれた。
「……そこまでだ。八極拳のノア・アヴリーヌ」
それは竹刀を担いだ彼岸神楽だったから。
「なっ、なんだお前は一体……」
新たな敵かと組長さんが彼岸神楽に銃口を向け……ようとした瞬間、組長さんの銃が粉々に粉砕された。
は、速い……!
「……何者デスカ?」
「お前、強いんだって?流浪のバイト暗殺者。私は強者と戦うのが目的だ」
「……喧嘩ガシタイノデスカ?私ハ私情デ拳ハ振ルイマセン」
「ほぅ……」
もはやついていけずポカンとするしかない私ら姉妹。
てかよく見たらこの暗殺者、いつか橋本圭介を襲った殺し屋じゃないか。
「ならばこれはどうかな?」
剣客気取りの彼岸神楽が突然組長さんの首を叩く。鷹の目並の手刀で気絶させられた組長さんを抱え彼岸神楽が背を向けた。私らは完全に蚊帳の外である。帰っていいかな?
「お前のターゲットは貰っていく。任務を果たしたいなら私を倒して取り戻すことだな」
「……ドウシテモ私ト戦イタイト言ウノデスネ」
バイトの殺し屋の空気が変わった。
そのまま去ろうとする彼岸神楽の背中目掛け独特の構えのまま一気に踏み込む!
それに応じる彼岸神楽の動きは速い。組長さんを放り出して竹刀で迫る拳を受け止めた。
直後襲うのは台風のような暴風……そして私らは完全に蚊帳の外である。
「私ト戦ッテドウシマス!?コノ戦イニナンノ大義ガアルンデスカ!?私ハ……アナタト戦ウ理由ガナイ!」
「人殺しが偉そうなこと言うな……私はただ自分の力を試したいだけだ……」
壮絶な乱打戦になった。あのバイトの殺し屋…やはり只者ではない。
あと、這いずって戦いの渦中から逃げてきた滝川が泣いてた。
もう帰っていい?
暴風が路地を吹き抜ける戦場……両者超人的な戦闘力で互いの首を噛み合う。
拳が、脚が、竹刀が……
それぞれが必殺の一撃を伴って互いの命に突き進む。
しかし、互いに1歩も退かない攻防は血飛沫をあげ、やがてお互いの骨身を削る……
「……っ」
「あれ?浅野さんじゃん。こんなとこでなにしてんの?」
「それはこっちのセリフだろ。ヤクザの組長相手にパパ活するな。学校に言いつけるぞ」
「それだけはマジ勘弁」
まずい……
なにがまずいって姉さんの顔が辛そうだ。これはあと数秒後にはこの戦闘に割って入るつもりでいる。間違いない。そして私らがこのイカれポンチの争いに入って行ったらそれ即ちDie。
が、限界だった。
均衡が崩れる……バイトの殺し屋の殴打が彼岸神楽を捉えだした。その度彼女の体が後ろに弾け血の飛沫が舞う。
私の手首に繋がれた手錠の鎖が突っ張る感覚に私が脚に力を込めて踏みとどまる構えを見せたその時……
「……ココマデデス」
突然、優勢だったバイトの殺し屋が手を引いた。
突然止む猛打に彼岸神楽が目を丸くする中、彼女はその紺碧の瞳を細めて踵を返す……
よく見ると殺し屋の体もボロボロだった。地面に血が滴るくらいに……
「……モウ勝負ハ着キマシタ。コレ以上戦ウ気ハアリマセン。組長ノ首ハイツデモ取レマス」
「なっ……」
「今日ハアナタノ戯レニ付キ合ッタダケ…騒ギガ大キクナルト困ルノデコレデ……」
そう言うと同時にコートの裾を翻し風のように駆けていく殺し屋の突然の逃走に彼岸神楽ブチ切れ。
「ふざけるなお前!!まだ勝負は--」と怒号を飛ばすがその歩みは疾風の如き走りに食らいつく事叶わずその場に膝から崩れ落ちてしまった。
ダメージ的に、彼岸神楽はそれほど劣勢だった。
正直、あのまま続いていたら……
化け物のような強さの彼岸神楽を追い詰めたバイトの殺し屋、それをかつて撃退した北京原人……
この街には化け物ばかりだ。もう引っ越そう。
「--神楽さん!」
「……っ、浅野先輩!?」
殺し屋が去った後で駆け寄る姉さんとそれに強制的に引っ張られる私にようやく気づいた彼岸神楽がすっとぼけたような反応をする。
もんだから私は膝を着いた彼岸神楽を思いっきり蹴飛ばした。
「死ね」
「ぎゃっ!?」
「美夜……っ!?えぇぇ!?なにしてんのぉ!?馬鹿ァ!!」
勢いに任せて平手をかます姉さんだが、これだけは姉さんに突っ込んでる場合では無い。
後輩…しかも校内保守警備同好会のメンバーが校外で喧嘩してたんだから。
「……同好会サボる程大事な用事ってのは喧嘩か?彼岸」
「……」
「ちょっと美夜……神楽さんは滝川さんを守ろうと……」
「それは結果論だろう姉さん。コイツの目的はハナからあの殺し屋だった」
そういえば滝川どこ行った?
当事者がトンズラこいてるのに気づいた私の前で彼岸神楽は両膝を折って深々と頭を地面に擦り付けた。つまり、土下座。
コイツ土下座好きな……
「……ちょっと、神楽さん。やめてくださいこんな所で--」
「いえ、浅野先輩。妹さんの言う通りです。私は大義のない喧嘩をして、同好会の名に泥を塗りました……しかも、今回が初めてではない」
「え?」
「……説明しなさいよ。なにが目的でこんなバカバカしいことを--」
「美夜先輩」
説明を求める私のセリフに対して彼岸神楽は頭を持ち上げて鋭い視線を向けてくる。
敵意や怒りの籠った目ではない…けれど、見るものを威圧する迫力があった。
余程の理由があるのか……
「人様から見ればバカバカしいことなのです。ですが、私にとっては何よりも……人生を掛けるべきことなんです」
……やはり、ただ事ではない。
「私は--強くなりたいんです!!」
いや、やはりくだらない理由だった。
1人で山篭りでもしてろ。孫悟空だって修行で人は巻き込まないぞ。宇宙船で重力100倍にでもして腕立てしてろ。
何事かと思った私らに向かって飛び出した漫画の主人公みたいな理由にもう1発蹴りをかまそうかと考えていると--
「私は……兄を超えなければならないっ!!」
--またしても1人だけ生きてる世界が違う発言に私はやっぱり帰りたいなって思ったのだった。




