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生パンティください

 ……私は足立美玲。

 市内の高校に通う17歳。高校3年生。

 私は今学校や友達には内緒でメイド喫茶でバイトしてる。可愛いメイド服が着れて、時給がいいから。

 ちなみにお客さんの小倉さんとは交際関係。お店には内緒だけど、親友がお客さんと恋人関係になったのが速攻バレてもお咎めなしだし、隠さなくてもいいのかな…?


 …なんて、私の話はこの辺にしておいて。


 今日はそんな私のバイトに密着していこうと思うから、みんな、萌え死ぬんじゃないわよ♡


 *******************


 17時半。放課後から私のバイトは始まる。今日のシフトは20時まで。


 裏口から出勤してタイムカードを押したら更衣室へ……


「お疲れ様でーす」

「むっふっふっ、あーらお疲れ様」


 ワンピースのキャラみたいな笑い方をしてるのは店長。休憩中かな?


「出ていってください」


 着替えんだから。


「あらあら……うふふっ、頑張ってね美玲ちゃん。圭子ちゃんもう来てるわよ」


 おかま店長は早速ブレブレな笑い方でウインクしながら奥のカーテンで仕切られた一角を指し示し出ていった。


「あ、お疲れ様です」


 と、カーテンから顔だけ覗かせたのはメガネをかけた男子……

 ……繰り返す。メガネをかけた『男子』。


 彼は橋本圭介。

 なんかアイドル志望の男子らしく、理想のアイドル=メイドというトンチキな発想の元この店でバイトを始めた新人メイド。

 繰り返す、新人メイドである。

 この店は男でもメイドさんになれるのである。

 ちなみに彼はここらじゃ気が狂ってるって評判の香奈んとこの高校に通ってる。道理で……


 恐ろしいことにこの子の教育係が私なのだ。


「お疲れ様圭子。何度も言うけど、ここ女子更衣室だから」

「メイドはここで着替えろって男子更衣室使わせてくれないんです……」


 ……お前、マジでなんでメイドで来たんだよ。


「おはよ」

「あ、香奈、お疲れ様、こんばんは」

「楠畑さんこんばんは」


 後から入ってきたこの女は楠畑香奈。私の親友にして関西人気取りの埼玉県民。ドSメイドとしてうちでもトップを争う人気メイドさんだ。

 ちなみにこの泥棒猫、キョーミありませんとか言いつつちゃっかり私が好きだった男をさらっていきやがった。


「……メガネくん。毎度なんで女子更衣室使うねん…」

「いや…メイドが男子更衣室使うなって追い出されるんですって……」

「はよカーテン閉めろや。着替えんのやから」


 シャッとカーテンを閉めた紳士くんをよそにロッカーを開ける私に香奈が声をかけてくる。


「なぁ?聞いたか?今日あのシナモンロール嬢が来店するらしいで?」

「え!?あの噂のシナモンロール嬢が!?」

「シナモンロール嬢って誰ですか?」


 驚愕する私とカーテンの向こうから疑問を投げかける圭子。


「シナモンロール嬢はここらじゃ伝説的なコンカフェ通い趣味の大富豪やねん。あの人が来店した日の売上は一日でうん千万て行くらしいで?」

「そんな……ホストクラブじゃないんだから…本当ですか足立先輩」

「さぁ……私も実物を見たことないから…」


 そういう噂。そんな夜の街の上客みたいな奴がたまーにうちにもふらっと来店するんだとか…


「どない人も客は客やで!さ、張り切って行こか!」


 *******************


「ひっ!ひひっ!!ぶひっ…サービスしてよォ……美玲ちゃん♡」


 研修ということで私は圭子に付きっきりになる。隣に常にメイド服来た男子が立ってるというのも中々恐ろしい光景ではあるが…


「サービスするわよォでございますにゃんこ♡お手手ぺろぺろはいかがかにゃんこ?」

「おっ……お前じゃねぇよォ…」


 悪いことばかりではない。

 メイド達からは「美玲にだけ用心棒が付いてる」なんて評判だ。羨ましがられるくらい。

 実際圭子はこういう変態客にもサービス精神満点で接客しようとする。この前なんかメイド生パンティの注文でホントにその場で脱ごうとした。あれは建前だっつーの。


「香奈ちゃん……口移しで食べさせて…♡」

「口移しでタバスコ流し込んであげましょーかにゃん♡」


「今日も美しいね、りんちゃん…僕と結婚してくれないか?」

「東大受かったら考えてあげるにゃん♡」

「……」


 まぁみんなそれぞれ変な客のいなし方は心得てる。


 パンティ被って走り回ったり、ストッキングくれと泣いて懇願したり……今日もカオスな客で賑わう店内のベルが鳴る。


「行くわよ圭子」

「はい!いらっしゃいませだにゃん♡ご主人様……」


 私達が揃ってお出迎えに向かうと…


「……え?」

「……え?橋本軍曹?」


 私の彼氏だった。

 見つめあって固まる2人。それはいいけどちょっと困るってば!


「小倉君!お店には来ないでって頼んだじゃん!もー!」

「……っ、ああ、ごめんね。どうしても美玲に会いたくなっちゃって……ところで…彼は?」

「え?ああ、新人の橋本圭子。私が教育係なの」

「……」

「……」


 熱い視線を交わし合う圭子と小倉君。

 しばらく入口で無言の時が流れ--


「先輩!」

「軍曹!!」


 唐突に2人は抱き合った。彼女の目の前で…

 メイド服着た男と抱き合う長身イケメン。しかも目尻に涙まで浮かべる始末…

 え?何見せられてんの?私…


「……会いたかったぞっ!同士よ…」

「おっ……お久しぶりです!先輩っ!!」

「……は?デキてんのか?」




 突然彼氏が男と抱き合う光景を目の当たりにした彼女の心境といったら……

 が、美玲ちゃんは他人より大人と言われる女。昼ドラのヒロインみたいにすぐに勘ぐって怒り狂ったりしない。昼ドラ観たことないけど。

 てか、私の彼氏にそっちの気があるなんて思いたくない…


「あぁ……小倉君圭子の高校のOBなんだ…」


 ほらね。ちゃんと話を聞けばなにも怒ることなんてないんだって分かる。愛する人とのすれ違いなんてこんなものよ。結局、冷静に考えれば何事もなく解決するんだから……


「……え?てことはまさか元現代カルチャー研究同好会……?」

「の前身、アイドル研究同好会からのメンバーさ」


 ……アイドル研究同好会?


「元々は僕と小倉先輩とで立ち上げた同好会なんだにゃん。しかし驚いた…足立先輩と付き合ってたなんて……てか、いつの間に帰ってきたにゃん?」

「驚いたのは俺の方さ……まさか君がメイドに転身していたなんて…」

「これもアイドルになるためだにゃん」

「アイドルとメイドって関係ある?」


 なんか知りたくなかった彼氏の一面を見せられてる気がする…


「同好会も今は賑やかになりましたにゃん。女の子が2人も入りましたにゃん」

「……っ!な、なんだと……!?我が同好会に女の子が2人も!?」

「そうだにゃん」

「そんな……俺が居た頃なんか日陰者連合なんて呼ばれてたのに……そんな同好会に女子が2人……!?くそっ!!留年すれば良かった!!」


 …………


「ところで、小倉先輩は今何やってるにゃん?アイドルは……もう諦めたんですよねにゃん」

「……ああ、今はフリーターさ…」

「え?大学生って言ってなかった?」

「美玲……大学生とフリーターは同じ意味だよ」

「同じじゃねーよ」


 またしても、知りたくなかった彼氏のホントの顔が……



 --チリンチリン


「あ?また来たん?」

「おう、今日は顔見せにな…」


 と、若干彼氏への熱が冷めてきたタイミングでまたベルが鳴る。それと共に香菜の柔らかい声と聞きなれた常連の声に私と圭子が反応した。


「小倉先輩…小比類巻君が来たようですにゃん」

「こひるいまき……?」

「空閑君のことですにゃん」

「なんと…結婚でもしたのか?」

「逆ですにゃん」


 言うが早いか圭子、店の中まで案内する香菜に合流。小比類巻君は今日も1人じゃないようで後ろに女の子2人も連れてた。1人は初めて見る顔だった。

 今となってはどうでもいいけど…メイド喫茶、しかも彼女の働いてる店に女の子連れて来る?


 圭子に何やら説明を受けてる小比類巻君がこっちのデーブルに細目を向ける。ピンときてない彼とは反対に小倉君は顔を輝かせた。まるで百年の知己に出会ったように…


「空閑一等兵ではないかっ!!おぉっ!懐かしいなぁ!!」

「……」

「どうして卒業式来てくれなかったんだい!!寂しかったぞ!!」

「…………」

「同好会はまだ続けてくれていたのか…流石プロデューサー……なんか言ってくれ気まずいじゃないか」

「小倉君、店の中で大声出さんでよ」


 テンションの差が激しい……

 なんだこいつは?みたいな顔で小倉君を見つめてる小比類巻君。ここまで思い出さないのも薄情な気が……


「……とりあえず同席でええか?ご主人様」

「なんでだよ」



 --おひとり様が4人様になった。

 小倉君と小比類巻君と褐色ギャルと清楚系美少女が卓を囲む。絵面だけならみんなレベル高いのに場所がメイド喫茶だからなぁ…


「…………お前さん、ほんとに小倉か?」

「仮にも先輩だぞ、一等兵」


 今だに信じられない様子の小比類巻君に圭子が笑いながらスマホを出した。

 どうでもいいけどいつまでも席にたむろしてないで仕事しろ私達。


「まぁ無理もないよね…元がこれだから…」


 と、カメラロールから昔の写真を引っ張り出す圭子。そこには圭子と小比類巻君とブタが映って…

 ……え?誰これ?


「橋本軍曹!昔の写真はやめてくれ!!俺は生まれ変わったんだから…」


 …………え?このブタ……


「え?これ……小倉君?」


 嘘だ……人間がこんなに変わるわけない。

 こんなに…………


「……いや、まぁ…この時にも何度か店には来てたんだよ?美玲」

「……………………」

「美玲?」

「そないな事より、今日はなんやねん。毎回突然来んのやめてぇや」


 空いた口が塞がらない私の隣で香菜が急に部屋に来た彼氏に愚痴るみたいに言う。それに小比類巻君が「そうそう」と隣の清楚系美少女を指さす。


「今度うちの同好会に入った新入りだ。紹介しておこうと思ってな」

「いや…せんでええやん」

「バカ、ここは我が同好会の活動拠点だぞ?顔見せは必須だろ。学校のみんなそう認知している」

「おどれが同好会のポスターからウチのチェキを取り下げてくれたらそないな事にはならへんのよ」

「ほれ、つーちん、ここが我が同好会の活動拠点だ、挨拶しなさい」

「つー…私のことでございますか?」


 いまいち釈然としない様子で促されるまま清楚系美少女が起立した。


「はじめまして、きゃっと♡らぶの皆様…現代カルチャー研究同好会に入会致しました、妻百合花蓮と申します。今後ともよろしくお願い致します。

「あ、どうもご丁寧に…足立です」

「どっ!どういうことだ!?本当にこんな美少女が我が同好会に…!?どんな手を使ったと言うんだ空閑一等兵!!」

「小比類巻だ」

「うぎゃぁぁあああああっ!!!!唾飛んだぁぁぁぁっ!!!!!!」

「…なぁアンタ、アンタみたいなまともそーなのがなんでこないな連中とつるんどんねん。なんか弱みでも握られとんの?ウチで良かったら相談乗るけど?」


 カオス…


「いえ…癒しを求めて……」


 癒し……?この状況のどこに癒しが……?


「あの…つかぬ事を聞きますが橋本先輩はここでなにを……?あと、そのお召し物は……」

「妻百合さん。ここでは語尾ににゃん♡をつけなきゃダメだにゃん」

「………………にゃん」

「にゃん」

「おぉそうだつーちん」

「つーちん……?」

「つーちん、ここでは猫耳を頭に装着するのがマナーだぞ。付けなさい」


 マナーと言われてハッとした妻百合さんが「失礼いたしました!!」と慌ててテーブルの上の猫耳カチューシャを装着。


「やべー!!パイセン!可愛いッスよ!!」

「…………次から同好会のポスターは君で行こうか」

「お似合いだにゃん」


 妻百合さんの頭に大量の?が……

 てかいい加減オーダー取れ、と私が職務を思い出したと思ったら、店内がざわつきだす。


「……来たようやで」

「……っ!まさか……シナモンロール嬢」


 3人のメイドさんに付き添われて入店してくリカちゃん人形かってくらいフリフリのドレスを着たお嬢様。

 香菜の反応からしてこの人こそ当店一の上客、シナモンロール嬢……


「ちょっと!いつまでもテーブルに着いてないで、シナモンロール嬢のオーダー取って!!」


 と、すれ違い様に小声で指示を飛ばす先輩達が慌ただしく駆けていく。

 それに真っ先に応じたのはよりにもよって圭子。


「おかえりなさいませだにゃん♡お嬢様♡」


 絵本から飛び出してきたようなお嬢様に相対する猫耳メイドのメガネ男子……美女と野獣をすっ飛ばして美女と伊集院隼人のウ○コである。


 シナモンロール嬢は一日でうん千万という金を使う大上客…当然粗相は許されない……っ!


「……ただいまだにゃん♡」


 しかしシナモンロール嬢のノリは良かった。


「…………あの、橋本先輩のあれは一体なにをなされておられるのでしょうか……?」

「ん?仕事っしょ。フツーに」


 こちらのテーブルで戦慄する妻百合さん。


「脱糞女、俺こってり豚骨太麺野菜マシマシニンニク抜きで」

「あるか!」


 そしてメイド喫茶で二郎系ラーメンを食べようとする小比類巻君…


 オーダーを取りに行くタイミングを完全に逃した先輩達が奥で固唾を呑んで見守っている。まさか圭子が行くとは誰も思わなかったから……

 そして……


「ご注文はお決まりかにゃん♡」

「……こってり豚骨太麺野菜マシマシニンニク抜きをお願いするにゃん♡」


 こちらの会話が筒抜けだった。


「ないにゃん♡」

「……萌え萌えにゃんにゃんオムライス、メイドさん生パンティ付きを頼むにゃ♡」


 シナモンロール嬢、生パンティをご所望だった。


「かしこまりましたにゃん♡」


 するととんでもないことが起こる!

 なんと圭子、おもむろにスカートの中に自分の手を突っ込み始めた!!

 スカートがモゾモゾと蠢き、先輩達が止めに入るのも虚しく……


「お先に生パンティにゃん」


 ホカホカのブリーフがテーブルに置かれた…よりによってブリーフだった。


 凍りつく店内。妻百合さん、何が起きているのか分からない様子で顎が外れている。小倉君「ほぉ……」と何故かしたり顔で頷く。小比類巻君、持参した牛乳を開栓。

 あの馬鹿…この前やらかしたというのに学習能力ないのか!!


「……」

「……にゃん」


 にゃんじゃねぇよ圭子、てめぇはクビだ。

 流石のシナモンロール嬢もこれには凍りつき無表情。

 店内の誰もがこの時、当店の大損失を予感しただろう……

 メイド喫茶に来て野郎のパンツなんぞ誰が欲しがるんだよ。


 ……全てが終わった。


 膝から崩れ落ちる先輩達。何故か注射器でタバスコを牛乳に入れようとする香菜と抵抗する小比類巻君のみを除き轟くシナモンロール嬢の怒号に身構えていた--


 その時。


「……こんなに純白なブリーフは初めて見たにゃん」


 シナモンロール嬢、頭にホカホカのブリーフを被る。

 この珍事にその場の全員がまたしても絶句。妻百合さん、気絶。小比類巻君、抵抗虚しく眼球にタバスコ注射。


 …え?

 え?

 今脱いだばかりの男のパンツを…頭に……


「にゃん」

「にゃんにゃん」

「にゃんにゃんにゃんにゃん」

「にゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃん」


 だってそれ……たった今まで圭子のイチモツに直に…………

 …………は?

 ……………………え?


「……橋本軍曹、強くなったでござる」


 は?なにが?

 ……………………は?

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