沢山呪うのも大変なんスよ!?
「え?呪いの動画?」
あんな大事件が起こった後だと言うのに標高3000メートルの活火山への歓迎遠足が敢行されはや1週間…
いつものように始業を待つ私--阿部凪へついこの前死にかけた親友、日比谷さんがそんなそこらに掃いて捨てるほどありそうな怪談話を持ちかけてきた。
「なんかSNSで話題なんだと…この動画が回ってきたら観ないと呪い殺されるんだって。んでそれを1週間以内に誰かに観せないとやっぱり殺されるんだって。んで、再生回数が1億回いかないと観た人みんな殺されるんだって」
「y○utuberの企画かなにか?」
「凪霊感強いじゃん?ちょっと本物かどうか観てみてよ」
「え…やだよ。死にたくないもん…」
「観ろ」
さては回ってきたんだね。日比谷さん…
「日比谷さんがそれ観たのいつ?」
「先週の火曜」
「今日も火曜だね…」
「はよ観て」
「嫌だよ」
「次に回したら死なないから」
「1億再生いかなかったら死ぬじゃん。やだ」
「だから沢山拡散して」
やっぱりyoutuberの企画だろこれ。
あんまりしつこいので日比谷さんのスマホからその動画を覗くことにした。SNSのダイレクトメッセージでファンから送られてきたリンクに飛ぶとやはりというか某有名動画サイトへ…
日比谷さん…ろくなファンいないな。モデル辞めちゃえ…
動画は1分もないくらいの短い動画だった。
サムネイルになってる暗い森をただ映しただけの、無音で音もない動画…確かに不気味だ、変な噂が出てくるのも納得…
静止画と見紛うほど変化のない動画をしばらくぼーっと眺めてると…
「ん?」
最後の1秒、森の奥の暗がりから薄ぼんやりと、本当に目を凝らさないと見えないくらい薄ら、女の人の白い顔みたいなものが…
見えた気がした…
--その瞬間。
「……っ!」
私の背筋を悪寒が走る。
ピリピリと肌を突き刺すような緊張感。もう春だというのに妙な寒さが込み上げてつま先から震えがあがってきた。
この感じ…
3階の女子トイレの1番奥の個室に入った時のあの感じに……似てる…
「あっ…ひ、日比谷さん」
「ん?」
「これ…」
「なに?」
「…………いや、なんでもない」
幽霊旅館に毎年泊まってる私だから、たまに霊界と交信できる私だから、分かる。
これ…ホントのやつ。
分からない。観ただけではこの動画に人を呪い殺すだけの力があるかは分からない。
ただ直感で、この動画に『良くないもの』が映りこんでるのは分かった。
分かったから、日比谷さんには言えなかった。
--動画を観ないと死ぬ。1週間以内に次の人に回さないと死ぬ。
……1億再生いかなかったら死ぬ。
…動画の再生回数は1万回だった。
*******************
「あ、ああ…阿部さん」
放課後、ケーキバイキングにて私の体重増加を狙う日比谷さんを1人で帰してその日比谷さんが持ってきた面倒臭い動画を自分で調べようと人の居ない教室で1人残っていたら…
誰も居ないはずの教室から私を呼ぶ声が!!
「わぁっ!?」
「うひやぁあああああっ!?」
「ああびっくりした…あ、古城さんか…」
私を呼んだのは修学旅行の時同じ班になった古城幸恵さん。新しい健康法なのか今日も元気に小刻みに震えてる。
「あああ…あの、急にごめんなさい…」
「脂肪燃焼してる?」
「は?」
「いやこっちの話…どうしたの?」
要件を尋ねる私になにもしてないのにお化けでも見たみたいにみるみる顔を青くしていく古城さんがおもむろにスマホを取り出した。
スマホケースのガラが西城秀樹だった。
「一緒に…動画…観ません?」
「……」
「……あの、観てください……」
「…………」
「あ……」
「………………」
「…………阿部さん。死にたくありません?今……」
「……え?なんで?」
「だって…その…かか、影薄いし…普段空気だし……ひ、日比谷さん居ないとびっくりするほど、喋らないし…………なんか…生きてて、た、楽しいのかなって……」
「あー、今すごく死にたいな」
「……っ!で、でででで、でしたらとっておきの動画が…あるんですよっ!!」
「…………1億再生いかなかったら死ぬ動画?」
「やひっ!?」
雑な悪口で人に悪霊擦り付けて来ようとした古城さんが図星を突かれて全身でビクって跳ねた。
どうやら古城さんのところにも回ってきたみたいだ…どうしてどいつもこいつも私に押し付けようとする?
ちょうど動画サイトでその動画を見つけていた私があえて古城さんに画面を見せつける。
「これだよね?」
「あっ…そんな観せないで…ぴぎぃぃぃっ!!こわ…こ、こ、ここここ、あ、こわ…」
腰抜かしてガタガタ震える古城さんのビビり方が尋常じゃない。
動画自体は不気味だけれどそこまで怖いものでもないし、最後の女の顔もよく見ないと見落とすくらいのもの……
動画の評判を鵜呑みにして震えるほどビビる女子高生…どうもおかしい。
「大丈夫だよ古城さん、こんなの噂だもん。観ても回さなくても1億再生いかなくても死にゃしないよ」
「ち、ちちちちちちち、違うんですぅ……」
「え?」
「その動画には…ほ、本物の呪いが込められ…て、ててて……ひぃぃぃぃ……声が聞こえるぅぅぅ……」
…………え?
え?
ビスケット・オリバのパックマンみたいに球体状に変形していく古城さんを無理矢理解き私は問い詰める。
自分でもそれを予感した。でも、第三者から同様の言葉を聞くと背筋を走った悪寒が恐怖になって再びやってくる。
「ほんとに…?分かるの?この動画、凄く嫌な感じがするけど…古城さんも感じたの?」
て言うと、古城さんは潤みすぎてふやけそうな目で私を見つめる。
「……も、ももも、もしかして、阿部さんも……?」
「古城さん、霊感あるの?」
「………………私には常に見えてますぅ……」
「え?マジ……?」
「あなたには菅原道真の怨霊が憑いてますぅ…ひぃぃ……」
…………マジ?
その一言で一気に信ぴょう性低下したけど…この人本物なら--
「--その話、詳しく聞かせて貰おうか?」
「うわぁぁ!?びっくりした!!」「ぎゃぴんっ!?」
「……良き」
*******************
私達の前に現れたのはオカルト同好会のおふたりでした。
代表の宮島君、何故か座ったまま移動する武君に連れられてやって来た同好会室では2年生の阿久津さんが待ち構えていた。
ちなみになぜ連れてこられたのかは知らない。古城さんは武君に異常にビビってた。なんなら動画よりビビってる。
「ぶくぶくぶくぶく…」
泡吹いてたもん。
「まぁかけたまえ」
「あ、ありがとう…」「きゅーん」
--バターンッ。倒れる古城さん。
「えっと?話を聞きたいって言ってたけど…さっき話してた動画の話?」
正直この同好会の人達とは関わりたくないなー、てか、この学校の同好会変なのしかないから関わりたくないなーって思いつつ、この手の連中は拒絶するとしつこいのを知ってるので最短最速にて終わらせる為本題を切り出す。
私の対面に座る宮島君が「うむ」と頷く。同時に阿久津さんが説明し始めた。
「私達は今巷で話題の呪いの動画を調べてるんです」
メガネクイッ。
「やめた方がいいと思うけど……」
「それはその動画の呪いが本物だと確信しているからか?」
……この人達はただオカルト好きなだけだよね。
喜びそうだし、事実(?)なので私が頷くと宮島君の顔が明らかに輝いた。
「やはり…我々の予想は間違えてなかったな……」
「……良き」
「阿部先輩、こちらをご覧下さい」
阿久津さんが私の前にノートパソコンの画面を向けてきた。そこには画像編集アプリが立ち上がっていて、例の動画のラストのシーンの1部が拡大されていた。
そう、あの女の顔のシーン。
見間違いではなく、そこには確かにこちらに向けて大きく口を開いた、目が真っ黒な白い顔が映ってる。
「っ!?ひぃっ!!な、なな……なんて恐ろしい事を…ひぃぃぃぃっ!!!!」
「あ、この人霊が見えるんだって」
飛び起きた古城さんのことを説明すると同好会一同、なんだかこれから冒険にでも繰り出すモンキー・D・ルフィみたいにわくわくしてる。
「……その怯え様……尋常ではないな」
「ひぃ…ひぃ…ひぃ…なんかこの部屋…変な霊がいる……う、宇宙人……?」
「阿部君、君はどう見る?この映像…我々はこの女の顔を見つけた瞬間、この動画には何かあると確信した」
暇なんだね。
「この場のみんなお祓いが必要だと思う」
「なるほど…」
「貴重なご意見ですね」
「……良き」
また寒気が出てきた。その顔の画像閉じてくれないかな?って思ってたら宮島君が衝撃の提案をする。
「幽霊とはどうやって捕まえるんだろうか?」
「っ!?」
「古城君、君は霊が見えるらしいが……触れる事はできるのかね?」
「あっあっあっ……あなたの背後の霊達が……お、怒ってますぅぅ……」
「ほう、コミュニケーションが取れるのか?興味深い。やはり幽霊は実在したか。研究対象をUMAから幽霊に移して正解だったな」
自分の後ろで幽霊がキレてると言われてなんでか凄く嬉しそうな宮島君。
興奮してるのか彼はとんでもない事をさらに提案する。
「この動画の霊はなにか恨みでもあるのだろうか?古城君、ちょいと訊いてみてくれないか?」
「っ!?」
この、泡吹いてぶっ倒れてた人にそんなこと頼む?
「頼む。幽霊とコミュニケーションを取りたいんだ」
白目を剥いて震える古城さんに拡大された女の顔面を押し付けてくる光景はもはやいじめ。
耐えかねたのか古城さんは首を超高速で回転させこれを拒否。この首の回転による旋風が後々この街を襲う最大の災害に発展するのはまだ先のお話…
「わた、わわわわわ、わた…私は一方的に声が……聞こえるだけで…すぅぅ……」
「君の方から語りかける事はできないのか?」
「ガクガクガク…そもそも、見えてても気づかないフリをするのが…じょ、常識ですぅぅ…自分から、は、話しかけるなんて…馬鹿なんですか?」
「もう呪われてるんだしいいじゃないか」
「あ、阿部さんこの人オカシイ……」
おかしいね。
「そうか…君達ならこの霊と対話できると思ったんだが…他の仲介人を探す必要があるな……」
本気で思案する宮島君に古城さん、もはや震えすぎて筋組織が千切れるんじゃと思うほど怯えている。
……しかし、こんなに怯えている古城さんを見てたらなんだか可哀想になってきた。それに、まじのまじでこれが本物だとしたら…
私達、殺されちゃう。
だって、こんな動画1億再生いくわけないし……
「…宮島君、私知ってるよ」
「ん?」「何をでしょう?先輩」「…良き」
なので私は1つ提案した。
「霊と対話できる人」
「あ、阿部さん!?ひいっ!!ひぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!」
*******************
「私は可愛い」
「とうとう口に出して言い出したか…日比谷さん。いや、ナルシズムの究極よ」
「突然お祓いってどういうこと?私、あの動画凪に観せたんだからもういいじゃん」
「1億再生いかなかったら死ぬんだよ?」
「…てか凪、何このメンツ」
場面は変わりまして街のハズレにある小さなお寺。私が昔からお世話になってるお寺です。
以前日比谷さんに取り憑いたストーカーの霊をお祓いしたお寺です。
そしてメンバー。
「ここに霊と対話できる人が居るのか!」「なんだか幽霊が出そうなお寺です」「…良き」
オカルト同好会の皆さん。
「……はぁわわわ…ここには良くないものが居ません…私に憑いてるやつは消えないけど……」
バイブレーションが止まってる古城さん。
と、私と日比谷さんのメンバーでお送りします。
「こんばんわー、阿部です!」
容赦なく離れの戸を叩く。既に話は通してあるし、‘’あの人”も呼んでもらってる。
するとすぐに顔なじみの若いお坊さんが私達を出迎えてくれる。
「阿部ちゃん。こんばんわ。日比谷さんもお久しぶりです。また面倒事に巻き込まれたようだね」
「あ、お久しぶりです。世界一可愛い日比谷です」
「あの……“あの人”は……」
「心配ないよ阿部ちゃん、既に本堂でお待ちだよ」
……またあの人に会えるなんてという興奮と、あの人なら何とかしてくれるという安堵感を胸に私達は本堂の一室に通される。
襖を開けてすぐに私は奥に座る3人へ頭を下げた。
「お久しぶりです、ジョナサン・小西先生」
「出た!ジョナサン・小西!!凪、またこの人なの!!」
「…どうも、ジョナサン・小西です」
小さなお弟子さん2人に挟まれて座るその人--原色カラーのダサい半袖シャツと短パンにサングラス、金のネックレスというチンピラ風のこの男こそ、世界的に有名な霊媒師、ジョナサン・小西先生なのだっ!!
「…阿部君、この人が我々と霊を繋げてくれる人かね?」
「そうだよ。全部この人に任せれば大丈夫だから。ね?日比谷さん」
「…そうだね。またこの男が登場するとは思ってなかったわ」
「はわぁあああああああああ…この人から…神聖なるオーラを感じますぅぅぅ……」
「……良き」
--私達は早速件の動画とその動画の概要をジョナサン・小西先生にお伝えする。
動画を凝視するジョナサン・小西先生は画面と私達を交互に見つめてから、全ての事情を把握してため息を吐く。
「…これは難しい仕事になる」
「先生!我々はその霊と対話したいんですが!!」
「…お祓いは霊との対話が基本です」
「なんと…っ!」「…良き」
「霊を弟子の体に移してから除霊します。ただ、この霊は強力です。最悪の事態は覚悟してもらいたい」
……さ、最悪の事態?
「始めます。目を閉じて……」
ジョナサン・小西先生に促されて私達は目を閉じる。
しばらくしてまず独特の匂いのする煙が漂ってくる。
「この前と同じなのね……てことは、またストレートに霊にお願いするのかな…」
「なんと、日比谷君は除霊を直に見たことがあるのか!?」
うるさい。
「あんたらうんたらぽんぴきぴー」
「!?なんだ!?阿久津君!何が始まったんだ!?」
「分かりません」
「もう!静かに!神聖なるジョナサン・小西先生の降霊の舞だよ!」
真剣に受けなさいよ。この人呼ぶのに私がどれだけのコネを使ったと思ってるの?
「やーれんそーらんそーらん、ぺーぺれぺー……あじゃらかもくれんっ!!!!」
『……何すんのよ』
突然、部屋の中の誰でもない声が鼓膜を叩いた。私は薄らと、恐る恐る目を開いていく…
室内には紫色のお香が充満してる。
そのお香の煙が、まるで人の顔--あの動画の恐ろしい女の顔の形を浮かび上がらせ、こちらを生気のない瞳で睨んでいた。
「うぉぉぉっ!?阿久津君!!武ぇぇ!!」
「幽霊ですか!?幽霊ですか!!」
「……良き」
「出た!私のご尊顔に近寄るな!!」
「バタンキュー」
『せっかく1万回再生いってんのに邪魔してんじゃないわよ』
なんか悪態を吐いてるこの霊は私達から出てきたのかな?やっぱり呪われてたんだ。
さて、ここからが除霊。10歳くらいの女の子のお弟子さんの1人が大口を開けてダイソンばりの吸引で煙を吸い込んでいく。
為す術なく私達を睨みつけながら吸い込まれていく煙が消えたら…
『……なにすんのよ』
お弟子さんの目が真っ黒になった。日比谷さんの時と同じ。
「……っ!我々はついに心霊オカルトの極地にたどり着いたぞ!おい!俺の声が聞こえるかっ!!」
「ちょっと、勝手に話しかけるな。私はチュウされそうになったからね!」
興奮抑えきれない宮島君、冷静になってきたのか目の前の光景に懐疑的な阿久津さん、よく分からない武さん、過去のトラウマが蘇る日比谷さん、気絶した古城さん…
様々な反応に見守られる中で除霊が開始する。
もう1人のお弟子さんが霊を取り込んだお弟子さんを羽交い締めにして抑え、ジョナサン・小西先生が向かい合う。
「動画観た人呪うのやめてもらっていいですか?」
『何すんのよ』
「動画で呪いばら撒くのやめてもらっていいですか?」
『企画なのよ』
企画?
「迷惑な企画やめてもらっていいですか?」
『視聴者プレゼントなのよ』
プレゼント?
やはり相手が霊だからか会話が噛み合わない…と思ってたら……
『なんで誰もあたしの動画観ないのよ!!』
鬼の形相のお弟子さんもとい霊がキレだした。
『こんなに面白いのに!冗談じゃないわよ!!』
「……あなたは何者ですか?」
『y○utuberよ!!』
ほんとにy○utuberの企画だった!!
『呪いとか失礼なこと言ってんじゃないわよ!!』
「呪ってるじゃないですか。動画を観ないと死ぬ、1週間以内に他の人に観せないと死ぬ、1億再生いかなかったら死ぬ…呪いではないですか。やめてください」
『視聴者プレゼントよ!!』
「……?」
『観てくれた視聴者にはあたしとのあの世での永住権、拡散してくれたら来世でのあたしとの交際権、1億再生達成したら未来永劫あたしがつきまといますよ権プレゼント』
??????
「……殺す意味ありますか?」
『死ななきゃあたしに会えないじゃない。あたし、死んでんだから』
迷惑系y○utuberだっ!!
『視聴者ってのはゲンキンなのよ…なにか旨みがなきゃ観てくれない…いっつも配信者の足下を見る…T○itterのフォローはするくせにチャンネル登録はしないっ!!』
「……」
『動画よりあたしのちょっとエッチな画像があればいのよ!!アイツらは!!だからT○itterとかイ○スタグラムしか増えないのよ!!』
「…………」
『あたしだって1万人呪うの大変なのよ!?』
呪いって言ってんじゃん。
このy○utuberからは再生数が伸びないことへの視聴者への並々ならぬ憎悪を感じる。この人はあれだ。再生数が伸びれば何してもいいと思ってる。
なるほど、厄介な相手には違いない……
「こんなことしても視聴者は増えない。やめてください」
『増えてんのよ!1万回も観られたことないもん!!』
「いえ、増えません」
『増えるわよ!』
「折角増えた視聴者も死んだら動画観れません。あの世にY○utubeありますか?」
『……っ!』
「あなたは現世に留まっているが、死んだものは本来死後の世界に行くんです。あなたのファンもです。もうあなたの動画観れません」
『…………だったら、視聴者も現世に貼り付け--』
「そもそも、あなたの動画は面白くないです」
『……っ!!!!!!!!』
「暗い森を映しただけの動画、観てて楽しいですか?」
『……っ、ス、スマブラとかも……やってるし……』
スマブラする幽霊……
「……そもそもプレイが下手ですし、音楽やテロップも入ってない、プレイ中無言……つまらないです」
視聴者だった。
「プレゼントに釣られた再生回数に意味がありますか?このままではあなたはいつまで経っても、高みにはいけない……」
『……そんなこと、言われなくても……』
「あなたには自分の実力で数字を勝ち取って欲しいんだ……僕は、君のファンだから」
『……え?』
「ずっと観てます。エリザベス・ロゼリーヌさん」
『……っ』
ファンだった。てか何その名前……
「これを……」
ジョナサン・小西先生が1枚のチラシを取り出して幽霊に渡す。
そこには『y○utuber教室』と書かれてた。裏目には『豆腐、豚肉、セロリ、ナズナ』って書かれてた。完全に買い物のメモ書きだった。
「あなたのファンとして、あなたの活躍を祈ってる」
『……っ』
ファンからの暖かい声援に、幽霊は表情を崩して、笑った。感動的シーンかもしれないけど顔が怖すぎてホラーだったけど……
お弟子さんが天井に顔を向けて口を開いたらそこから煙のようなものが飛び出した。
それはそのまま天井に吸い込まれるように昇っていってやがて見えなくなる。
瞬間、周りの空気の淀みが消えて空気が軽くなるような感覚があった。同時に古城さんがパッと目を覚ます。
「…除霊完了です」
ぐたっとするお弟子さんを抱えたジョナサン・小西先生がそう告げる。
一連の流れを見ていた私達はなんて言えばいいのか分からなくてしばらくぽかんとした後、胸に去来する助かったという安堵感にホッと息を吐いた。
…終わったんだ。
こうして、呪いの動画による一連の騒動は幕を閉じるのであった……
「……凪、あの人ファンとか言ってたけど、成仏したならもう動画観れなくなるね」




