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魔王降臨

 けたたましく鳴り響く排気音が俺の心を熱くする。今日も俺の街に俺達の交奏曲を奏でてやるぜ!

 俺達北桜路ファイターズ。ここら辺は全部俺達の街。

 そして俺が総長!巌流島健吾がんりゅうじまけんご!!夜露死苦!!


 今日も白の特服に身を包み、俺の仲間達と共にアジト(公民館前)でバイクを吹かす。


「総長!おはようございます!!」

『おはようございます!!』


 副総長武蔵むさし、俺の頼れる右腕だ。武蔵に続いて18人の俺の仲間達が頭を下げる。

 今日も朝から元気でかっ飛ばすぜ!!


「うるさいわよあんた達!!毎回毎回ここで集まるんじゃないわよ!!」

「……」


 公民館の清掃のおばちゃんからの怒号を受けながら、今日の集会は始まるぜ。いつもの事さ。俺らはカッコイイ暴走族だから、おばちゃんに何度怒鳴られようがやり返したりしねー。


「おぅ!聞けてめぇら!!」

『うすっ!!』

「俺らの目標はなんだ!?」

『うすっ!!全国制覇ッス!!』

「そうだ!!俺らなら出来る!!だが!俺らのナワバリに俺らより強ぇ奴がいる!!そいつを無視して全国制覇したって、それで全国制覇って言えるか!?」

『うすっ!!言えないッス!!』

「そうだろう!!俺達は今日、因縁の戦いに終止符を打つぞ!!」

『うすっ!!』

「うるさいって言ってんでしょ!?」


 ……


「場所を移すぞ!!」

『うすっ!!』



 --某公園。公民館前から追い出された俺らの第2のアジトだ。


「いいかてめぇらよーく聞け!!」

『うすっ!!』

「やぁねぇ。また来てるわよ」「あんなのが居たんじゃ子供を遊ばせられないわ」「見て?あのトサカ頭……時代遅れもいいとこよ」「ねぇ?」


 ……


 けっ。言ってろよ主婦共。暴走族もすっかり肩身が狭くなっちまった。

 しかしいつまでも周りを気にしてばかりも居られねぇ。


「俺らは全国制覇の前に!この北桜路市最強の奴をぶっ飛ばす!!全国取るのはその後だ!!」

『うすっ!!』

「総長!誰スかその俺らを差し置いて最強を名乗るやろうは!!」

「いい質問だ武蔵!!それは……」


 俺は特服から1枚の写真を取り出してみんなに見せた。写真に映ってるのは三つ編みでセーラー服姿の一見清楚な女……

 しかしそれは、ここら辺では魔王と呼ばれる怪物だ。


「この女--宇佐川結愛だっ!!」

「女?」「なんスかこいつは!!」「総長!女相手に喧嘩しろって言うんですか!?」


 ……ふん、この世界で生きる奴がこの女を知らないなんてモグリもいいとこだぜ。仕方ねぇ、教えてやる。


「舐めんな!こいつはな、たった1人でヤクザをぶっ潰して、日本の裏社会じゃ一目置かれてるモンスターだぜ!!」

「え?マジすか?」「そんなやつには見えねぇッス!」「そんなバケモン……俺らで勝てんスか?」

「馬鹿野郎!!」


 最後腑抜けた事を言った隊員を俺の愛の拳が襲う!!


「こいつを倒さずして日本一のチームを名乗れるかぁ!!」

「す……すんません!!」「総長!この女、何者なんですか!?」

「ふむ……いい質問だ、武蔵。こいつは愛染高校に通ってる高二の女だ……噂じゃ学校をシメて市長の娘を取り込んでその影響力はこの街全体にも及ぶとか及ばないとか……が、1番恐ろしいのはその戦闘力だ。ここら辺のチーム、ここ最近減ったと思わねーか?」

「うすっ!もうここらで活動してんのはうちだけです!」

「全て宇佐川に潰された。たった1人でだ。こいつは暴走族チームを見つけたら手当り次第に潰していった。間違いなく俺ら同様全国制覇を狙っている。俺らの覇道に立ち塞がる最大の障害だ」

「総長!」

「なんだ、武蔵」

「正直言ってその話がホントなら、ヤクザを潰した奴を俺らが潰せるとは思えません!!」

「馬鹿野郎!!」


 再び襲う俺の愛の拳。が、武蔵は涼しい顔して受けやがる。そう…こいつは俺よりタフなのだ。コイツのタフさはアフリカ旅行の時ゾウに踏みつけられても平気な面して立ち上がった程だからな……

 そんな武蔵が弱気になってしまう怪物……


「まぁ、気持ちは分かる。俺らはいずれ日本一のチームになる。が、今はそれほどの力を持ち合わせてはいない!だから今回、対宇佐川用に特別な助っ人を用意したぜ!!」

『うすっ!!』

「先生、お願いします!」


 俺の呼び掛けにジャングルジムの裏から金髪のガタイのいい男が出てくる。赤いジャージを身につけたその姿は時代遅れのチンピラのようだが、その佇まいからは古の剣豪のような威圧感がビリビリと伝わってきた。

 その威圧感を証明するように、男の手には竹刀袋が握られている。


 この男こそが今回の助っ人。泣く子も黙る超高校級剣術家である。


「京都、新撰館しんせんかん高校からお越しくださった!剣術家の五流儀大河ごりゅうぎたいが先生だっ!!」

「おうおう。気合い入った面してんなコノヤロー」

「総長!なんスかその男は!」「こんな余所者に俺らの覇道への道、手伝われたくないっす!」「俺ら天下無双の北桜路ファイターズ、他人の手を借りて--」

「へいへいへいっ!!」


 口々に余所者を非難する隊員達が、五流儀先生が消えるような踏み込みを見せたと同時に吹き飛んだ。

 人間が飛んだのなんて初めて見たぜ……人間って殴ったら飛ぶのか…?俺が喧嘩の時殴っても俺の拳が割れるだけなのに……


「口を慎めぇ!!このお方はこの国でも有数の剣術家である!かつて図書館で特殊工作員を一撃で倒したなんて眉唾な噂もあるお方だ!!実力は今見た通り!!」

「あんまり持ち上げんなよ総長さんよ……俺なんて大したもんじゃねーよ。あの男に比べればな……まぁ今回は化け物退治。強ぇ奴と喧嘩できるって聞いてはるばる京都からやってきたぜ」

「聞け野郎ども!!このお方の力なくして宇佐川の首は取れねぇ!!」

「総長!納得いかないっスよ!!」「他人に手伝って貰って俺らの全国制覇ですか!?」


 流石は北桜路ファイターズの隊員だぜ。圧倒的実力差を見せつけられながら不良としての矜持は折れねぇ…俺はこの人と初めて対面しただけで小便チビったってのに……


 どうしたものかと不満を叫ぶメンバーを見ていると先生がポキポキとだるそうに拳を鳴らしながら提案する。


「ならいっちょ、納得してもらおうか?男同士、拳で語らった方が早いだろ?」


 火に油を注ぐ五流儀先生の言葉にメンバー達が殺気立つ。流石北桜路ファイターズ。総長の俺でもビビっちまう気迫だぜ。


「やろうってのか!?」「舐めんじゃねぇぜ!!」「俺らを誰だと思ってんだ!?」「ぶっ殺してやる!!」

「……三下相手じゃウォーミングアップにもならねぇが、いいぜ?遊んでやるよ」


 *******************


 --日曜日。午前11時。

 予定より6時間早く到着してた私は待ち合わせ場所の駅前で鳩の止まり木になりながら圭介が来るのを今や遅しと待っていた。


「結愛さん」

「っ」


 声がするより5分ほど前から気配を察知していた私が身構えていたら遅れてメガネの馬鹿が私の所にやってきた。


「……ま、待った?」

「いや。別に?」

「いや……待ったでしょ?鳩凄いよ?大丈夫?啄まれてるけど?」

「待ってねーつってんだろ?」

「はい」


 紙袋を両手いっぱいに提げた私の彼氏…橋本圭介。相変わらずいつ見ても大学芋みたいな顔してやがる。

 だがそれがいい……私は大学芋は嫌いじゃない。

 おっと、そんなことよりまず言わなきゃいけないことがあったな。


「おかえり。修学旅行楽しかったか?」

「うん、ただいま。楽しかったよ。お土産沢山買ってきたからね」

「……多くね?それ全部?」

「なんせ僕も初めての海外だったからね」

「……ん。じゃあ、とりあえず行くか」


 私が放り出すように出した手を圭介が取る。ぎこちないながらも私をエスコートする圭介に引かれて私も何回目かのデートに胸を踊らせた。


 宇佐川結愛の休日……始動。



「--宇佐川ぁぁっ!!コラァァァっ!!!!」


 ……しなかった。


 駅から離れたいつもの公園で、まずは圭介の土産話でも聞こうかと腰を下ろそうとした途端だ。


「調子に乗りくさりやがって…今日がてめぇの命日じゃぁあっ!!!!」


 休日の穏やかな公園に突然乱入してきたバイク集団の先頭で、頭に黄色いクロワッサン乗っけた馬鹿が突然因縁をつけてきたじゃない。


 額に青筋が浮かぶのを圭介を前に必死に抑えつつ、私は穏便に事を済ませることにした。

 今日は折角デートなんだ。流血沙汰は御免こうむる。


「誰ですか?宇佐川は私ですが、なにか?」

「てめぇ、この街シメてるらしいじゃねぇか、ああ?」

「勘違いでしょ?」「結愛さん……またなにかしたのかい?」

「しらばっくれてんじゃねぇぞ!?ここらのチーム全部てめぇが潰したんだろ!?」


 彼氏の前でなんて事言ってくれんだ。


「なんのことか分かりません」

「立て!ここは俺ら北桜路ファイターズのナワバリだっ!!ここでチョーシこくガキを見逃すわけにはいかねぇぜ!!タイマン張れや!!」

「総長!」「ヤバいって総長!!俺らも……」

「てめぇらは引っ込んでろ!!まずは俺がやる!!」

「……結愛さん、凄く好戦的だよ向こう…20人いるよ?」

「……まず断っておくけど知り合いでもなんでもない」

「あ、うん……信じる……えっと、全員倒すのに30秒くらい?」


 このメガネ……自分のカノジョなんだと思ってんの?確かに30秒…いや、そんなにかからんけど。

 立ち上がる私を横目にこの男、カレシの癖に立ち上がろうともしない。私の力を完全に信じきってる目だこれ。

 凄く複雑だ……


「構えな!まず一発撃ってみろ!てめぇどんだけ強いんじゃい!!」


 リーダーと思しきヤンキーが両拳を構える。隙だらけだ。啖呵を切る前に1356回は殺せた。


「あんたから来なさいよ。女相手に拳を握るクソ野郎が……」


 これいじめ?私いじめられてる?いや、だとしてももういじめっ子粛清からは足を洗ったんだ。

 そのはずなのに……


「なら三味線引いたまま死にやがれ!!見てろや野郎ども!!これがタイマンの張り方じゃ--」


 ビービー喚きながら突進してくるヤンキーのパンチが私の顔面を叩く。

 ……まるでそよ風のようなパンチだ。心地良さすら感じる。達也やノアのパンチに比べたらまるで赤子の戯れ……


「……っ!」

「終いか?」


 次の瞬間、敵の間合いで呑気に息を飲むトサカ野郎の横っ面に張り手をかます。死なない程度に苦心して加減したけど、トサカは空中を回転しながら仲間の方へぶっ飛んでいった。


『総長ーーーーっ!!!!!!』


 これで総長か。笑わせてくれる。

 かつての私だったら『暴走族即ちいじめっ子、即ち死』ってなってただろうけど、私は変わったんだ。

 顔を凹ませながらも立ち上がろうとするトサカを見て、勝負あったとその場を去ろうと--


「待ちな」


 今度はなんだ?


 声の方に視線を滑らせる私の目に映りこんだのは公園の木の上に佇む竹刀袋を携えた金髪のヤンキー。

 新手か?


「ごふっ……!男として情けねぇが……先生……後は……頼みます……」

「総長!」「もう喋らんで下さい!!」


 先生と呼ばれた男はスタッと木から降りてきて私の前に立つ。後ろのベンチで「嫌な気配がする……」と相当な修羅場に巻き込まれてきた橋本のネズミのような生存本能が震えている。


 ……確かに。

 そこに居る雑魚とは明らかに違う。我が弟子達也に匹敵するこのオーラ。


「……なにさ。こっちはデート中なのよ。私には喧嘩する理由、ないからね?」

「……俺の名前は五流儀大河。この街に怪物が居ると聞いて遥々京都から馳せ参じた……俺と手合わせ願おうか」

「やだ」


 勝手に名乗って勝手に喧嘩の段取りを組み立てる金髪ヤンキーが竹刀袋から竹刀を抜いて構えてくる…が、生憎時代錯誤の剣豪気取りと遊んでる程暇でもない。


「お断りします。圭介行くよ」

「ほぅ……この俺を前に背を向けんのか…戦うのに理由が必要だってんなら……」


 ヤンキーの赤地に金の龍が刺繍された安っぽいジャージのポケットから黒光りする刃物が飛び出した。

 私が咄嗟に反応したけど遅かった。


 飛んできたクナイは私を通過して、後ろの圭介のメガネを見事に叩き割った。


「……っ、圭介!?」

「ぎゃあああああっ!?メガネがぁぁぁっ!!」

「へっ。大事なカレシが瀕死だぜ?どうした?魔王。これでも戦わねぇか?」

「結愛さんっ!メガネがっ!!僕のメガネが!!将来が!!未来が!!我が行く道がぁあ!!」


 ……………………


「腰抜けが、まだ動かねぇか…生憎俺はお前の都合なんざ知ったこっちゃねぇんだよ!!抵抗しないなら、そのまま死--っ!?」



 ……なにを喚いてる?このウスノロが。


 一息に懐に滑り込んだ私が拳を握る。

 圭介のメガネを破壊した貴様は絶対生きて帰さん。決意を込めた私の拳がダークマターを纏いながら男の鳩尾に迫る。


「……っ!?な、なんだこの……暗黒のオーラはっ!?」


 ……流石に私に喧嘩を売るだけはある。奴は咄嗟に竹刀を拳と自分の間に挟んで攻撃を受けた。

 が、破裂するダークマターの質量が拡散し暗黒の破壊エネルギーがヤンキーの体を吹っ飛ばした。

 当然竹刀如きで受けきれる訳もなく、奴は激しく吐血しクルクル回りながら落ちてくる……


「先生ーっ!!」


 叫ぶトサカ。

 空中で落ちながら徒手空拳の構えを取るが……


「--踏ん張る地面もない場所で構えたって意味ないだろ?」


 落ちてきながらも攻撃の構えを取るヤンキーに対して私は地面に手をついた。

 迸る青白い稲妻。手から地面に伝わる私の不思議パワー……

 それは強制的に地形を変化させる程であり、私を起点として天に向かって地面が棘状に突き出した。


「……なっ、なんだこりゃ……こいつマジで……魔王っ--くばあああぁっ!!」

「先生ーーーっ!!」


 見事に地面に刺し貫かれたヤンキーはそのまま絶命……したかは知らんけど、奴の断末魔にスっと胸を覆う黒い炎が消えていくのを感じた。


「……終わった。別のとこ行こうか、圭介」

「あ、はい……」


 メガネが無いと前も明日も見えない。仕方ないなぁ……

 私は圭介の手を取って前を歩く。どっちがエスコートしてるのか分かったもんじゃないね。


「この公園、もうダンスレッスンに使えないわ。圭介、他の場所探すか…」

「え?なんで?何も見えないから分からない……」

「地形変えちゃった。てか、今日は予定変更でメガネ買いに行こう」

「そうだね……あ、お土産を--」

「それはあーとーで♡」


 *******************


 --魔王、宇佐川結愛。

 その力はまさに人智を超えた、怪物に相応しい暴力--否、天災。

 それは人が自然や神に挑むかのような……


 目の前で串刺しにされ「ぐはっ!」とか言ってる五流儀先生を眺めながら、俺はそう思った……


 世の中には、暴力に勝る暴力がある。

 世の中には、力に勝る力がある。

 ……世の中には、男の夢を簡単にへし折る圧倒的な存在がある。


「……総長」

「武蔵……」


 ははっ、おいおい武蔵、なんて面だ。顔がきゅうりみたいに凹んでるぞ?

 あ、凹んでるのは俺の視界だった。ははは。


「……俺、暴走族辞めるわ……」

『……っ総長ーーーーっ!!!!』

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