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修学旅行楽しかったね…じゃねぇよ!!

 楽しかった修学旅行はあっという間に終わって、私達は帰路に着く。


「知ってるか?田畑が山で人撃ったって」「聞いたぜ…しかも撃たれた奴も鍾乳洞爆破して逃げた奴だって?」「しかしイカれてるぜ……」


 月曜日、朝--空港で飛行機への搭乗を待つ同級生達は旅行の余韻に浸りながら思い出を語らう。あんなに楽しかった修学旅行がもう終わるなんて信じられないって風に名残惜しさを口にしながら……


 --そして私は可愛い。

 この修学旅行で声をかけられた回数は100は下らない。当たり前の事だけどこの日比谷真紀奈、その美貌は世界で通用する。

 ついこの前だって、水族館に来てた石油王から婚約の申し込みされたくらいだし…


 ……そう、私の美しさはまさに世界に轟く落雷の如く、その場の全てに電撃のようなショックを与えるのだ。私が街を歩いただけで警官が出てくる程の野次馬が群がったのがいい証拠。

 日比谷真紀奈…間違いなく世界最高の美貌を持つ、世界最高峰の女--


 なわけあるかぁっ!!!!


 日比谷真紀奈、激昂。

 その理由はあまりにも筆舌に尽くし難い内容だった。


「…かかかか、カノジョ?」

「うん」

「かかかかかかかかか、かかかかか、カノジョがデキタ?むっちゃんに?」

「んだ」

「この日比谷真紀奈ではなく?」

「なく」

「………………………………誰?」

「脱糞女」


 むっちゃんこと、小比類巻睦月の放つその一言に後ろでメガネがひっくり返ってたが、私はただその場で放心状態になる他なかった……


 脱糞女…だっぷんおんな?

 脱糞女と言えば世界広しと言えどあの女しか居ないだろう……


「……楠畑さん?」

「んだ」


 空港で買った(支払い橋本)弁当を一心不乱に食べながらむっちゃんはあっけからんと告げる。その一心不乱ぶりはこの日比谷を歯牙にもかけない程…


 胸の中に大きな穴が空いた気がした。


 …分かってる。

 私にこんなことを思う資格はない。だってむっちゃんはずっと脱糞女が好きだって言ってたし、私はそれでフラれたんだから…


 …………大丈夫。

 私がフラれたのは私が脱糞女より劣ってるからじゃない…むっちゃんの純粋な気持ちに負けたの…

 だから大丈夫……


「……そっか。おめでとうむっちゃん。恋が叶って良かったね」


 私は大好きな人を困らせたりしない。

 だから私はとびっきりの笑顔をむっちゃんに贈った。ようやく私を見たむっちゃんは豚バラを咥えながらぽかんとした。


 そうよ。日比谷真紀奈の最高スマイル。可愛いでしょ?せいぜい後悔するといいよ…この日比谷を選ばなかったその選択を--


「……泣かないで、日比谷さん」

「え?なに……ばかっ。泣いて……ないもん……っ」

「……ごめんね」

「…っ!うっ…うるさいもん…この…っ、うっ…びぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!!」

「…よしよし」

「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!うわぁぁぁぁあああああんっ!!!!」


「莉子せんせー!小比類巻君が日比谷さんを泣かしたーっ!!」


 *******************


「日比谷さん、まだ飛行機時間あるからお土産でも買お?」

「……そーだね」


 ああ凪、あなたがこんなに鬱陶しく感じたのは初めて会話したレンタルビデオショップ以来よ……


「キミ、カワイーネ。ニホンジン?」「ベリーキュート♡イッショニ、アソビマセンカ?」

「遊びませんわ」


 --ぐしゃっ!!


「日比谷さん!?どうしたの!?」


 絡んできた海外パリピ。なんだその顔は?そのレベルの面でこの日比谷に声をかけようなんて…

 いや、いいか…だって私は所詮ウ○コ漏らす女に負けるような女だし。この程度がお似合いか?

 ははっ。


 私の蹴りでキ○タマを失ったパリピが逃げてく。


「…ひ、日比谷さん…あれだけ自分の容姿に絶対のプライドを持ってて言い寄る男の誘いに応じずとも決して塩対応しないあの日比谷さんが…どうしちゃったの?」

「…なにが日比谷真紀奈よ」

「日比谷さん……」

「なにが日比谷真紀奈=美の権化よ」

「……」

「なにが日比谷真紀奈は世界の宝よ。美しいで広辞苑引いて日比谷真紀奈が出てくるわけないじゃん」

「…っ、日比谷さん……りりり、莉子せんせー!!日比谷さんがぁ!日比谷さんが壊れたァ!!」


 ドン引きで叫ぶ凪に呼ばれて飛び出てやってきた莉子先生。なんだその顔面偏差値は。ふざけんな。


「どうした?どこが壊れた?頭かい?」

「それは元々…日比谷さんが、自分の美しさを自分で否定し始めたんです!!」

「……」


 莉子先生、なんとも言えない顔でフリーズ。


「…ああ、そうか。それは…大変だが…ある意味壊れた頭が正常に戻ってきたのでは?」

「……うるせー乳だけの女が」

「っ!?」「!?」


 なんだその乳は。ああそうか私が脱糞女に負けてるところは乳か。

 今までこの慎ましいバストこそ真の色気だと信じてたけど、やっぱり男はみんなホルスタインがいいのね……


「…ひ、日比谷さん…」

「何かあったのか?君はそんな暴言を吐く子ではないだろう?心做しか顔色も良くないぞ?」

「ホルスタイン…」

「ホ……っ、あ、ありがとう?」

「ぶよぶよ肉つけやがって…そうやって何人も男を引っ掛けてるんでしょ?ヤダヤダ。卑猥な保健室、保健室のひと夏の思い出」

「…日比谷さん。AVの観すぎだよ。贔屓目に見ても莉子先生がそんなにモテるとは思えない…」

「!?」


 そんなことは分かってるのよ。どうせ『保健室の先生』っていう卑猥なワードだけで男子生徒を手篭めにしてるんでしょ?いやらしい。


「…あのな、阿部君、私だってそれなりにモテるんだぞ?お見合いの話だって少し前までは沢山来てたし…君らくらいの頃には甘酸っぱい恋も--」

「はっ!ヤダヤダ!!いやらしい!!初体験は高校の先輩ですか!?保健室ですか!?体育倉庫ですかぁ!?」

「!?」「ひ、日比谷さぁん!!」

「うわぁぁぁぁっ!!なにが恋愛だ!!なにが青春だっ!!こんなことになるなら初めから好きになんてならなきゃ良かったんだ!!いっつもそうだ!私は可愛いはずなのに…いつも周りがそれを否定する!!死ねばいいんだっ!!こんな日比谷真紀奈!!可愛くない日比谷真紀奈に存在価値なんてないんだぁぁぁぁっ!!!!!!」

「……」「……」

「………………ひっ、ひひっ」

「っ!?」「!?」

「あひひひひひひひっ、ひひっ。あはははははははははっ!!」

「……これは」「日比谷さん……」

「ねぇ……莉子先生。風邪薬の致死量って何粒?」

「!?」「日比谷さぁぁん!!!!」

「……トリカブト……そうだトリカブト。トリカブトってどこで採れる?ひひっ」

「……落ち着きなさい。日比谷君、何があったのか先生に話してみなさい」

「じゃあ莉子先生…硫酸ってどこで買えます?」

「何をするつもりだい?」

「この顔を溶かすんですよぉぉ!!こんな…っ!可愛くない日比谷真紀奈なんているもんかァァァ!!」


 ゴンッ!ゴンッ!


「ひひひ、日比谷さぁぁん!!床に顔を打ち付けないで!!モズグス様になっちゃうよぉぉ!?」


 *******************


「…そうか。失恋したのかい」

「そっか…まぁ……そんな予感は薄々してたよ」

「はぁ!?薄々してただぁ!?凪てめぇっ!!私がフラれた時けしかけたの誰だよ!!」


 日比谷、ブチ切れ。必殺凪の首雑巾絞り。


「ぐげげ…ひびやはん…」

「まぁ落ち着きたまえ…日比谷君。若いうちは恋も失恋もするものだ。そうやって積み重なっていくものが将来君を支えるんだ。これもいい経験だよ」

「なにがっ!!いいっ!!経験なんですかっ!?」

「いやすまない…悪かったから頭を床に打ち付けるのをやめなさい」

「莉子せんせぇぇ…私は…好きだったんですぅ…自信があったんですぅ…」

「ああ、分かるよ」

「嘘だ。先生レベルの顔面に私クラスの美少女の気持ちが分かるもんか。この美しさへの自負は私クラスでないと理解出来ない…」

「……」

「大変…莉子先生のメガネがストレスで割れた」


 この日比谷真紀奈…1度ならず2度も同じ人への恋に破れるなんて…こんな屈辱……

 絶対振り向かせるって決めたのに……


「…可愛いだけなんですよ。私」

「聞きたまえ、私も学生の頃悲しい失恋…え?なんだい?」

「私は人より運動できるわけでも特段頭が良い訳でもない…私の唯一無二で絶対の存在価値かつ日比谷真紀奈が至高たる理由は全て可愛いってことだったんです……」

「……」「……」

「でも…容姿が大きなファクターを占める恋愛で…あろうことか!ウ○コ漏らすような女に……っ!!」


 ……そうだ。

 大体なんで楠畑さんは1度フッたむっちゃんと付き合うことになったわけ?は?

 だってフッてんじゃん。

 私だってフラれたよ?でも、結局失恋したよ?なのになんでむっちゃんの恋だけ実るの?

 むっちゃん、私を置いて1人で幸せになるの?


「り、莉子先生!日比谷さんの目がどんどん虚ろに…」

「おーい、日比谷ー」


 大体なんで楠畑さんは…アイツ結局むっちゃんの事好きだったってこと?


 …嘘つき。


 そもそもそうならアイツが最初からむっちゃんと付き合ってれば…私は2度も失恋せずに済んだのに…

 どうして?どうして私だけ2度もこんな目に遭わないといけないの?


 …嘘つき。


「嘘つき。どうして?嘘つき。どうして?嘘つき。どうして?嘘つき。どうして?嘘つき。どうして?嘘つき。どうして?……」

「こら、日比谷」

「そうだ。最初からそうだったんだ…楠畑さんを消せばむっちゃんは私に振り向いてくれる。だって私は……世界一可愛いはずなんだ。私にはそれしかないんだもの……そうだ。やろう。楠畑さんの顔を溶かせばいいん--……」

「こら!」


 パチンッ!!


 痛い!?莉子先生が殴った!?酷い!!なんでこんな仕打ちを!?


「日比谷君」

「痛い…よくも私のご尊顔を…末代までトイレのキレが悪くなる呪いかけてやる……」

「…………もっと他の呪いにしなさい。日比谷君、君は自分の容姿ばかり鼻にかけてるようだが、先生から見たら君はとても醜い」

「莉子先生!?なんで……そんな……」


 凪が思わず動揺の声を上げる。

 が、私は莉子先生の一言に頭の中がすぐさまカッとなった。

 それだけは許せない…この日比谷真紀奈、納豆にネギが入ってないのは許せても、おでんにこんにゃくが無いのは許せても、私に面と向かって『醜い』なんて言う事は許せない。


「--先生っ!!」

「喝ッ!!」

「っ!?」「え…?なんですか今の喝ッは…」

「日比谷君、美しさとは見た目だけのことか?君はいつか約束したのではないか?ここに居る阿部君と…見た目だけでなく内面も美しくなると…容姿だけでない自分の価値を見つけると…」

「……っ、莉子先生……あの時の保健室でのやり取りを…」


 …?

 なんだっけ?


「覚えてません!」

「っ!?あれ!?日比谷さん!?」

「私のどこが醜いっていうんですか!!」

「そういうところだ、自分の容姿に驕り、いざ負ければ他人を妬み、好きな人の幸せも純粋に喜べず、すぐにへそを曲げるそういうところだ」


 ……っ。


 莉子先生がドンと自分の胸を指さす。


「女とは!真のレディとは!男にフラれたくらいで自分を否定しない!!他人も否定しない!!自分を選ばなかった相手の心まで深く包み込み愛す!!それが本物のレディの恋愛だっ!!」

「……っ!!」

「ねぇ日比谷さん。本当にあの感動のエピソードを忘れたの?」


 ……そうだ。

 私、忘れてた。

 私、ちゃんとむっちゃんに笑えてたじゃん。なのに……


 私は日比谷真紀奈…

 究極の美的生命体。美の権化。女の完成形…

 私は心身共に完璧でなければならない…


「……先生」

「前を向きたまえ。君にも、これから君の道が続いてる。君がその見た目に負けないくらい素敵なレディになった時、君に最も相応しい男が現れるだろう」


 私に最も相応しい……


「むっちゃんが…」

「いや、それは知らんが……」


 つまり、私がもっともっと女として磨きをかければ、むっちゃんが私のモノになってくれる……?


「……分かりました!莉子先生!!私、頑張ります!!」

「……うむ」

「あの時さ!日比谷さん!!エロ本持ってきた時だって!!」

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