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アイドルっていいものですね

 --冬休みってなんでこんなに短いんでしょうか?

 こんにちわ、『現代カルチャー研究同好会』橋本圭介です。


 お正月も終わり4日から始まった三学期。2年生も後3ヶ月で終わり僕らは最上級生になるんだ。しかも今年の2月にはまたアイドルオーディションだ。


 ただ……

 僕にはひとつ懸念があった。


 それはこの寂しい同好会室である。

 ……僕らももうすぐ3年生。現在、現代カルチャー研究同好会のメンバーは僕を筆頭に同じ2年の小比類巻君と1年の香曽我部さん。

 僕らが引退したら香曽我部さん1人になるわけでそうなると同好会としての継続が難しくなる。

 ので、僕らの最後にして最大の役目とは今年、新1年生を大量に獲得すること…

 去年の新人獲得の結果がこのザマであるわけで、去年と同じ事しても無駄だと……


 考えなければならない……


 考える前に……


「ちわー。おっす」

「香曽我部さん、こんにちわ」

「小比類巻先輩連れてきました」

「くそっ……帰ってねるねるねるね作んだよ。邪魔すんなよ」


 これだ……


 去年からなんか……年末にかけて全く活動してない。

 仮にも代表であるこの人がねるねるねるねに夢中である。同好会費120万も横領している。

 いいのか?こんなので……


 新人獲得以前に活動が滞ってしまってはまた学校から解体通告が来かねないぞ?


 という訳で、いつも何となくで活動してるけど今日は僕から招集をかけての同好会。

 小比類巻君を引っ張ってきた手をアルコールで消毒する香曽我部さんを悲しそうに見つめる小比類巻君。そんな2人を前に僕は立ち上がる。


「みんな、このままでは同好会が無くなってしまう」

「え?いいんじゃない?」

「離れててもウチらの心は一緒っス」


 …………


「小比類巻君、どうして年末は全く活動しなかったんだい?」

「は?やることないだろ別に…」

「何言ってるんだい。この前まで同好会だって言って学校の金でメイド喫茶に入り浸ってたじゃないか……」

「うっ!!」

「……そういえば先輩、最近メイド喫茶行ってないっしょ?アタシちょくちょく行ってるけど来てないって言ってたし…」

「なんでお前が行ってんだよ」


 ん?

 我が同好会の活動と言えばメイド喫茶だけど…そういえばメイド喫茶に行かなくなってから同好会活動が停止してる……というかメイド喫茶に行かないなら同好会やらなくていいや別にみたいな雰囲気を感じる……


「小比類巻君どうしたんだい?あんなに好きだったじゃないか」

「それはお前だろ?お前こそどうした?あんなに常連だったのに最近は全く顔を出さないじゃないか」

「なんかあったんスか?」

「……いや、彼女が…」

「雷鳴八卦!!」


 ぐはぁぁっ!?


 小比類巻君の雷鳴八卦を食らってしまった……痛い。

 何故か急に不機嫌な小比類巻君。僕を見下ろしながら「同好会はしばらく休みだ。分かったか?」と吐き捨てる。

 いやいや…


「どうしてだい小比類巻君」

「えー!橋本先輩彼女さん居るんスか?」

「あれぇ?言ってなかったっけ?」


 これは説明しなきゃいけませんな〜。


「そうなんだよ写真見--」

「聞いたかもしれないっスけどどうでもいいんで忘れました」

「…………」


 僕のカノジョ怖いんだぞ。ホントだぞ。


「んな事より〜」と香曽我部さん、ニヤニヤしながら小比類巻君に寄っていく。挑発するような距離感でニヤニヤと粘着。しかし決して体は触れない。

 そしてイラつく小比類巻君。


「先輩どれくらいメイド喫茶行ってないんすか?」

「黙れ」

「なんなら今から行きます?どうせやることないっしょ?」

「いや、香曽我部さん、やることは決めてあるんだよ……」


 一応言っておくけど僕はメイド喫茶で遊ぶがこの同好会の活動だとは認めてないからな!?


「しかし小比類巻君。どうしたんだい?あんなにメイド喫茶に通ってたのに…楠畑さんをいじるのが生きがいかのように……」

「死ね」

「ぐはぁっ!?」


 腹パンされた。腹がパンになった。メロンパンだ。あれ?腹筋みたいだ。

 ?


「橋本先輩〜、実はですね〜。アタシ知ってるんスよ。小比類巻先輩がメイド喫茶行かない理由」

「え?」

「てめぇ福神漬けにされてぇか?」

「小比類巻先輩は〜……」


 こ、香曽我部さん!近い!?未だかつてここまで接近されたことは無いぞ!?まさか香曽我部さんが僕に耳打ちを仕掛けて来るなんて--


「ぶっ殺しちゃうぞ♥」

「ぶっ!?」


 が、後輩イタズラ叶わず…小比類巻君の襲撃にあい頭から掃除機を叩きつけられた。ボロボロ掃除機の本体が香曽我部さんの頭に貫かれる。香曽我部さんの頭がそのまま掃除機になった。

 ?


「ぶっ!?はっ!?あっ!!へっ!?ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!!!!!?!!!?!!」


 ……中にゴミでも溜まってたんだろうなぁ…

 潔癖症Lv99を発動。香曽我部さんの禁断症状は体から掃除機を生やしたまま室内を転げ回るという珍妙な光景を作り出した。


「……小比類巻君、なにか理由があるのかい?」

「……」

「話してご覧よ」

「いや……別に理由と言うほどのものでは…」

「小比類巻君、僕ら親友だろ?」

「調子に乗んなよ?契約だからな?」

「なんでも話せよ…小比類巻」

「……『小比類巻』?」

「…………君」

「ぎょわァァァァァァぁぁぁア"ア"ア"ア"ア"ぁぁ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼っ!!!!!!!!」


 *******************


「えぇ!?楠畑さんにフラれたの!?」


 橋本に衝撃走る!!

 小比類巻君…どうしてこんな大事なことを今まで黙ってたんだい……


「うぅぅぬぅぅぅぅぅうっ!?!!ぎゃああああああああああああああああぁぁぁっ!!!!」

「うるせぇぞ福神漬け」

「え……やっぱり楠畑さんの事好きだったんだ……えーそっかぁ…」

「なにニヤニヤしてんだよ」

「いやいや…辛いね。告白したんだね…」

「してない」

「え?」

「してないけどフラれた」


 ?


「俺はね?橋本君よ。別にアイツとどうなりたいとかじゃないのよ。ね?分かる?ただ今の関係が続いてくれればそれで良かったんだよ。なにのね?」

「は?」

「ぎゅああだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

「小比類巻君……それはどうなんだい?」

「なにが?」

「そんなふわふわした気持ちで向き合ったってそりゃ楠畑さんにも突き放されるに決まってるじゃないか」

「あ?(怒)」

「君のこと好きだけど別に付き合いたい訳じゃないんだよ〜ってなんだよ」

「……くっ」

「何様?誠意がないよ誠意が。どこの王子様だい君は」


 そうだろう?小比類巻君。


「ちゃんと謝るんだ」

「……おい橋本。カノジョ持ちマウントか?カノジョに男にしてもらいましたってか?急に偉そうになりやがって死ね」


 右ストレートが飛んできた!!痛いっ!?


「うわぁぁぁっ!?殴られたぁぁぁっ!!」

「ぐはぶっ!!べぇぇぇぇっ!?あああああああああああああああっ!!きゃぁぁぁぁぁあああああっ!!」

「うるせぇぞ!!大体なんの用で呼び出しんだ!!」


 ……そうだ。我が同好会の存続の危機なのだ……えっと、なんだっけ?


「では2人とも…この同好会はもっと活発に活動しなきゃみんなから忘れられてしまう」

「ゲホッ!!ゴホッ!!」

「どうせ誰もこの同好会のことなんて認知してないわ」

「2人とも、今日の活動についてなんだけど……」

「くぷぷっ……けはっ。ぐはっ……あっあっあっ…」


 そうだ。今日は僕が活動のネタを持ってきたんだ。現代カルチャー研究に相応しい活動内容を…

 怒り狂う小比類巻君と掃除機と合体して悶え苦しむ香曽我部さんの前に僕は1枚のポスターと3枚のチケットを差し出した。


「…ライブ?」

「そう、ご当地アイドル桜まちX。今日この後近くのライブハウスでライブが……」

「てめーで行ってこい」


 問答無用でチケットを破ろうとする小比類巻君から間一髪チケットを奪還し吠える。


「なにさ!」

「なにさって…なんだよ」

「ろくに活動もしないで同好会をなんだと思ってるんだい君達はっ!!折角活動内容として相応しいものを用意してきたのにその態度はないだろう!?」

「…相応しい?」

「アイドルこそ現代カルチャーだろ?」

「……は?」

「元々この同好会はアイドルを目指す同好会だろ?いい勉強会じゃないか。今日は勉強会。いいね?」

「…………頭湧いてんのかてめー」

「メイド喫茶に行くのが活動内容だと言い張ってた君に言われたくない」

「別に言い張ってねーよ」

「折角3人分僕の金でチケット取ったんだから……」

「だから1人で行けよ。アイドル目指してんのはおめーだろ?」

「参加しないと言うなら千年原人返してよ」

「………………………………」

「ポリス行くよ?ポリス」

「……………………………………くっ」

「どうせメイド喫茶にはもう行けないんだろ?小比類巻君。フラれたのにノコノコどの面下げて行けばいいか分からないもんね?小比類巻君」

「……………………………………(怒)」

「なんなら僕が女心というものを教えて--」


 --メキャッ!!


 *******************


 この街には色んな施設がある。ちょっと歩けば、電車で2、3駅行けば娯楽がいくらでもあるんだ。


 この地下にあるライブハウスもそのひとつ。


 僕が目指すのはエル☆サレムだからこういうライブハウスのステージに上がることは無いかもしれないけど、こういうアイドル達の戦場も見ておかないとね……


「すごい人ッスね」

「そうだろう?」

「橋本先輩顔が曲がってるッス」

「君こそいつまで掃除機を生やしてるつもりだい?」


 狭いライブハウスの中にひしめくファン達の熱気に当てられながら僕らは桜まちXのライブ開始を待っていた。


「橋本、桜まちXってのはどんなアイドルグループだ?」

「え……よく知らない。ごめん」

「ぶっ飛ばすぞ?」

「えっとね…6人組のアイドルユニットで桜の名所のこの街を盛り上げよー…的な?」

「この場に集ったファンに謝れ。大体てめぇが目指してんのはこういうアイドルなのか?」

「え?まぁ……アイドルはアイドルだから……」

「どうせなら男性アイドルのライブにすれば良かったのに……」

「え?男が歌って踊ってるの見て楽しい?まぁ……香曽我部さんは楽しいかもしれないけど、僕は女の子見たい」

「……」「……無駄だ、コイツは女にモテたいだけでアイドルになりたいとかほざいてる男だ」


 と、ここでステージ上にピンク色のネオンが迸り、アップテンポの音楽と共に観客が湧く。興奮したファンに横っ面殴られた。


 いよいよライブが始まるようでステージ上にそれぞれ桜をモチーフにした可愛い衣装に身を包んだ6人の美少女が現れた。


『みんなーーーっ!!お待たせーーっ!!』

「「「「「「いえーーいっ!!」」」」」」

「なんスか?掃除機のせいで何も見えないッス」

「おい橋本!さっきから横の奴が俺の足を踏んでるぞ!!」

「いえーーい!!」

「いえーーいじゃねぇよ!!」


 ……これがライブハウスか。ファンの熱気。ライブの臨場感……

 今まで漠然としてた『アイドル』というものがどういうものかを肌で感じた気がした。

 この大勢のファンの声援と期待を背負うのがアイドルなんだ……城ヶ崎さんの言葉の一つひとつに重みを感じる。


『今日は来てくれてありがとーっ!思いっきり楽しんじゃお♡』

「「「「「うぉぉぉぉっ!!」」」」」

『まずは1曲!アゲてこー!』


 --ズンズンズンズン♪


 軽快な音楽。リズムに乗るアイドル達。自然と僕らの体もリズムを刻む……


 ……アイドルって、いいなぁ……


 テテテテン♪テテテテン♪


『ノッていこーっ!!』

「「「「「いえぇぇいっ!!」」」」」


 テ〜テテテテ〜♪


『夜の〜〜雪降る街♪濡れた♪君の♪背中はぁ〜〜♪切なくて♪俺は♪目を♪離せずにいた♪』

「いえーーいっ!!」

「演歌!?いやノリ方が分かんねぇ!!」


 *******************


「いやぁ……今日のアイ活も盛り上がったね。2人とも」


 アイドル……素晴らしい。

 ちゃっかり物販で買いまくった僕。掃除機を生やした香曽我部さん。


「やべっす…めっちゃ楽しかったッス」

「でしょ?」

「でしょ?じゃねー。初めてライブ来ましたってやつがなに得意げなんだ」

「アイドル可愛いッス。感動したッス」

「そうだろう?」

「嘘つくんじゃねー福神漬け。お前掃除機で前見えないだろ」


 しかし小比類巻君もこれには認めざるを得ないだろう……やはりこの同好会はアイドルを研究する同好会……


 アイドルっていいですね。


「良かったッスね、小比類巻先輩。同好会活動のレパートリー増えて。これでメイド喫茶行かなくて済みましたね」

「黙れ。これ活動レポートなんて書くんだよ」

「今更じゃないか、小比類巻君」

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