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何回やらかすねん!!

「……うっ?」


 あれ…?ここ、どこやねん…

 電気の消えた薄暗い部屋で目を覚ましたウチ。いつから眠っとったんかも分からんけど…なんや知らん間にウチはここに居った。

 ちゅーても自分で来たわけやなさそうや…


「……なんやこれ?」


 それは後ろに回された手が椅子の背もたれの向こうでガチガチに縛られとったから。

 ついでに脚も椅子の前脚に縄で縛り付けられとる。要するに拘束されとった。


 またか……

 銀行強盗やらハイジャックやらでこういう状況は慣れっこやが今回は少し様子が違う。

 暗闇に慣れてきた目が捉える視界がぼんやり部屋の中を浮かび上がらせる。

 それは教室の風景やった。


「ここ…どっかの使ってへん多目的教室か…?」


 このウチを拘束しとる椅子も学校のや。

 つまりウチは学校内で拘束されたっちゅうことや……

 …………

 なんで?

 誰に?


「……目が覚めたようね」「ふふ、この寝ぼちんめ」

「……あ?」


 と、困惑するウチの耳に聞き慣れたぶん殴りたくなる声が2つ。

 …と同時に、ウチの目の前にぼやっと白いなんかが現れた。


「うわっ!?」

「メェー」

「……山羊」

「ふふ、そうよ。山羊のジョゼフ…」「今宵のショーを盛り上げてくれるゲスト……」

「いやなんの真似やねん、長篠、田畑…速水まで」


 こんなふざけた状況を作り出したであろう本人達、三馬鹿にウチは抗議の視線を向ける。

 が、暗室の中でノリノリな馬鹿二人とその後ろで複雑な顔をしとる速水はそれには答えることなく長篠の進行で事態は展開していく。


「さて、今宵の主役がお目覚めなところで、今から行われるショーについての説明といきましょうか?」

「なんやねんその喋り方。長篠、おどれはどっちかと言うとまだ正気寄りやと思っとったのにとうとうイカれてしもたんか?」

「シャラップ!!おだまりんす!!」


 進行を妨げたウチの野次にイカれた方がキレ散らかす。

 同時に田畑にケツを叩かれた山羊のジョゼフがのっそのっそと身動き取れへんウチに寄ってきた。


「メェーー」


 ほんでベロっとウチの膝を舐めた。

 これが痛い。痛かった。山羊の舌ってザラザラしとる。


「ちょっ……これ解け!てか何するつもりやねん!!おい速水!!お前なら話分かるやろ!?な?」

「…ごめん。これも香菜の為なの」


 なにがやねん。


「さぁさぁ、みなさん。今宵のショーはこの強情なお嬢さんに素直になってもらう。そのためにいくつかの質問を投げかけ、正しい答えが帰ってくるまでジョゼフに皮膚を削られ続けるという最高のエンターテインメントでございますっ!!」

「おいこら長篠。何言うた?今なんて?」

「へいへい脱糞女!!あんたに自由な発言権なんてないんだよ!?聞かれたこと以外喋んじゃないわよ!!天国に行きたい?」


 田畑が指先に乗っけたクロドクシボグモを突きつけて脅してくる。

 こいつらとうとうイカれてしもた……


「分かった……落ち着こうや……知ってることはなんでも話すけん…あれか?金か?もしくはウチの自転車?何が欲しいねん」

「へいへい。言葉の意味が分からないのかい?次許可なく喋ったらコモドドラゴンの胃の中よ?」


 ……アカン。取り付く島もない。

 これに今から付き合わされるん?ウチ……


「…香菜、今日の昼休みの事覚えてる?」

「…え?昼休み?」

「そう、4人でご飯食べたよね?その時の話……」


 速水がそう問いかけてきて、ウチは記憶を巡らせる。そしたら徐々に今より前の記憶が戻ってきた。

 どうやらウチは放課後拉致られたみたいやな…

 でー……昼休み……

 教室で4人で飯食っとって……


 …………話て。


「…こ、小比類巻の話」

「それだよ香菜…私達訊いたよね?その後彼とはどうって?」

「せやな……」

「そしたらてめぇなんて言ったかその足りねぇ脳みそ絞ってよく思い出してみな!!ふぁっきゅー!!」


 なんやねんコイツ……指先の蜘蛛に噛まれて死ね。


 ここまで来てウチの口からは同級生に拉致られるという緊迫した事態にも関わらずごっつ重たいため息が溢れ出た。

 分かっとったことやがコイツらは美玲と同じ…人の色恋をいじくり回すんが基礎代謝みたいな連中なんや。


「……文化祭でフッたって言った」

「あぁ!?」「舐めとんのか、ワレェ!!」


 指を鳴らした長篠の合図にジョゼフが「メェー」鳴きながらウチの膝を舐め始める。ヤスリみたいな舌が膝を削って痛い!


「待て待て待て!!なんでウチがこないな目に遭わないかんの!?何に怒っとんねん!!」

「何に?夏休み中私らがお膳立てしてデートまでしといて……」

「デートって激臭嗅がされただけやねんけど!!」

「黙れ!!これだけ私達が献身的に尽くしてやって?向こうから告白してきて?」

「しとらんて。実質告白やけど返事は要らんて言うとったし、その日その話持ち出したんもウチ--」

「それをフるってどーゆーこと!?」


 ……なぁ、なんでこいつらはこないな事でキレられるんや?教えてくれる?


 山羊が膝の肉をすり減らしていく痛みの中、理不尽にキレられて拷問まで受ける自分の境遇に涙が出てきたわ。


「…楠畑、分かってるとは思うけど、これはあなたの為なんだよ?」

「いやなんも分からん」

「どうして好きなのに告白を蹴ったりするの?」


 長篠の問いかけ、田畑の視線、速水の何かを憐れむような表情……全てがムカつく。殺したい。今すぐ毒蜘蛛に全員噛まれてしまえ。

 なんで?なんでなん?ウチとウ〇コタレとの事コイツらになんか関係あるん?ないやん、なんでこないキレられなアカンの?

 世の中考えても答えの出らん問題もあるんやと知った…コイツらの思考は人間には理解不能。


「あのさ、何回目の天丼なん?この問答何回するん?ウチは、別に好きやないんよ!!せやからフッたんやん!?」

「こっちの台詞よ。楠畑、何回やるのこのやり取り……」「そうよ。好きじゃないやつのデート尾けたり…」「好きなんだろ?とか自分で訊いたりするか?」


 長篠と田畑がキレ散らかしながらウチの靴と靴下脱がしてくる。


「な、なんや……何するつもりやねん」

「楠畑ぁ……私らお前の友達なんよ」「だからさ?幸せになって欲しいって願うのは至極当然の事でしょ?」


 この状況のどこに幸せがあると?


「香菜……あんたは勘違いしてるよ」


 両足裸足になったとこで速水が真剣な顔でそんなこと言ってくる。


「恋愛なんて誰でもできるわけじゃないんだ…それも、告白されるなんて…それが自分、相手にとってどれだけ大切なことなのか分かる?」

「……」

「それをさ?意固地になって本心でもなく断ったりしたら、小比類巻もそうだし、香菜、あんたも可哀想だよ」


 ……1番可哀想なんは気持ちを決めつけられてこんな目に遭っとるウチやない?


「好きなんだろ?」「素直になれ。意地張ってごめんなさい、本当は愛してます。小比類巻なしでは生きていけませんって言え」

「別に……好きやないもん」


 ウチの頑なな態度に長篠と田畑は盛大なため息を吐いてジョゼフを呼び寄せる。

 呼び寄せられたジョゼフはそのザラザラの舌で今度はウチの足の裏を舐め始めた……


「痛ただただただっ!?痛いっ!!なんか別種の痛みがある!!堪えがたい痛みがある!!ちょ……やめろ!!やめぇ!!歩けんくなったらどないすんねんっ!!」

「楠畑……この拷問に耐えながらそれでも尚小比類巻への好意を否定するなら、あんたの気持ちとして認めよう……」「でも、もし痛みに屈して真実を吐き出したなら、その時は即刻小比類巻に告りに行け」


 なんやねんっ!!ウチはなんでこないな目に遭っとるんやっ!!

 なんでコイツらこないウチと奴を引っつけたいんや!なんでコイツらこないウチの色恋に必死なんやっ!!

 コイツらなんやねんっ!!


「なんでやねん!!好きやないっちゅうとるやんけ……っ!」

「嘘をつくな!!」「お前はいっっつも小比類巻の事考えてるだろうがっ!!分かってんだぞ!?」

「香菜……私達はただ香菜に幸せになってほしいだけなの!」

「これのどこが幸せやねん……っ!!アカンっ!!ケツの穴が痛みでキュッてしてきたっ!!アカンてこれ!なんか……こう……耐えられん痛みがあるて!!」

「山羊の足舐め刑は地獄だろぅ?」「さぁ認めろ!!見てるこっちがイライラすんだよ!!はよくっつけ!!はよ!!」

「おどれら……覚えとれよ……?絶対タダじゃ済まさへんぞ?クソ顔に投げてやるっ!!」


 延々呪詛を吐き散らしてどれくらい経ったやろか……

 いつまでこの責め苦が続くんかと思っとったら速水がこんな問いかけをする。


「もしかしたら…自分の本当の気持ちに自分で気づいてないだけかも……」


 なんで?なんでウチのホントの気持ちをおどれらが決めようとしとるん?


「彼との思い出、もう1回振り返ってみて?湧き上がってくる気持ちがあるはずよ」


 ……せやから、アイツとの思い出なんぞ茶色にまみれたクソ色の思い出だけやって……


「ないわ。憎しみだけや」

「あんた達の間に何があったのよ…」「これは相当こじれた恋愛してるわね」

「ついでにおどれらにも憎しみが湧いてきよるよ?今すぐやめんとおどれらの家の蛇口からウ〇コ出る呪いかけんぞ」

「楠畑ぁっ!!」


 痛っ!?ビンタされた!?


「田畑…お前いい加減せえよ?山羊どっかやれ。分かった、話し合お?お互い冷静になって話そか?この行いにお互いなんのメリットがあるかよく考え?ウチは脚の肉が削げてっておどれらは顔にウ〇コ塗りたくられるんやぞ?」

「こうなったら告白すると言わない限り解放しない」

「なぁ?アンタらウチの為にこれしよるんよな?勝手な勘違い強制するんは友達の為とは言えへんよ?」

「香菜、素直になろう?」

「早く楽になれ。」

「やかましいねん、おい速水、このままやとおどれもこの馬鹿2人と同じ区分になるぞ?ええんか?」

「逆にさぁ?あんた小比類巻の何がそんなに嫌いなの?」

「だからっ!!アイツのせいで2度も漏らしとるからやろがいっ!!アイツに糞漏らさせる事だけが望みやねんっ!!」

「それが勘違いなんだよ。気になってしょうがないんだろ?好きな人にちょっかいかけたい小学生の心理なんだよ」「愛情と憎悪は紙一重」


 ホンマどないしたらええねん…

 なんでこんなに連日連夜ストレスで胃をキリキリさせなアカンねん。ウチが前世で何したっちゅうねん。


「あー、脚痛てぇしイライラするし…ストレスで腹痛くなってきたわ」

「メェー」

「めぇぇやない、お前後で覚えとけよくそ畜生が、頭カチ割ったるからな?」

「香菜っ!!」

「速水!!ええ加減にせぇよ!?ホンマに糞食らわすぞ!?最後やで?これ外せ。おどれウチとそこの馬鹿二人どっちが大事やねん?」

「香菜、自分の本当の気持ちに耳を傾けて…自分を偽り続けるあなたを見てるのは辛いのよ…」


 それより自分達のしてることに良心痛めんかい。

 かっこよさげでその実なんもかっこよくない台詞を吐く速水に追従して長篠と田畑も最後の攻めに来る。


「好きじゃないならなんでデートした?」

「おどれらが勝手にセッティングしたんやろ」

「好きじゃないならなんで他人のデート尾けた?」

「美玲が…心配やから…」


 そんでこの前のはウチにフラれてすぐ他の女と絡んどったんがなんかムカついたから…それ以上でも以下でもない…


「なんで好きじゃないなら向こうが好きって分かってすぐに断らなかった?」

「それは…アイツが返事要らん言うたのにウチから断ったらおかしいやん」

「でも断ったんだろ?」

「それは美玲が…あーーっ!腹痛くなってきたわっ!!」


 --プスッ!!


 腹に力入れて叫んだらそれがトドメになったか、急に来た…

 ヤバい…


「臭いぞ楠畑、今屁こいたな?」

「おい長篠、そない悠長に構えとる場合やない!!アカンこれ。アカンやつ!!今すぐこれ外せ!!」


 緊迫したウチの訴えに3人の顔色が変わる。屁1発で脅しやないって察する3人がものすごいムカつく。


 いやそないな場合やないわ。


「痛たたたっ!キリキリしとる!!横腹ら辺がキリキリしとる!!これは短時間でごっつ出るタイプのやつやて!!助けて!!」

「くっ…」「ハッタリよ風香!」

「ハッタリちゃうて。教室で漏らせんぞマジで…」

「そういえば香菜…昼休みヨーグルト食べてた…」

「くそっ!いいや!私達はあんたの幸せを優先する!!」「素直になりなさい!!」

「今1番望む幸せはトイレに駆け込むことやて!!」


 ブスススッ!ブブッ!!


 なんでやねん!!なんでこないしょっちゅう催さなアカンねん!!


「この臭い…っ!」

「レン!縄を解いて…っ!」

「……っ!楠畑!!思い出せ!小比類巻との思い出を!!幸せな気持ちになるだろ!?なんだかんだ馬鹿やってた時の思い出が暖かい気持ちになって腹の底から湧き上がってくるだろ!?」

「便意しか来んわ!!」

「認めろ!!カレシの1人も作らないで高校生活終える気か!?」

「おどれらが作ってから言え!!」

「レン…なんか座高が上がってきたような…」

「黙れ速水、まだ出とらんわ」

「認めろよっ!!」

「嫌や!!」

「認めろ!!」

「嫌!!」


 --プスススッ


 あぁ…ホンマになんなんやろこれ。この時間、この問答…人類史始まって最大級に無意味なやり取りやで…こないなことがあってええんか?ウチはこんなかたちで漏らすために産まれてきたとでも言うんか?


 --ブッ!!


「アカーーンっ!!先っぽ出てきた!!おどれらパンツ弁償せえよ!?」

「出すな!!そして認めろ!!小比類巻の話をする時のお前はメスの顔なんだよ!!」「このチャンス逃したらあんた、糞漏らす女なんか誰が相手にしてくれるの!?嫁の買い手居ないよ!?」

「大きなお世話じゃっ!!」


 --メリメリメリッ


 アーーカーーンっ!!今日は限界までが早いっ!?もうケツ持ち上げとかんと付いてまうっ!!


 …もう認めてしまおうか?

 いや、これ以上奴らを調子こかせる訳にはいかん…


 …そもそもなんでコイツらこんな必死なん?ホンマに訳分からん。遊びにしてもここで糞漏らすリスクより優先する普通?


 ……コイツらの目には本当にウチがウ〇コタレ男に惚れててひねくれて否定しとるように見えるんか…?


 …別にどうでもええねんあんな奴。アイツに糞漏らさせたら終わりやねん…


 ……どうでもいい奴のデートなんで尾けたんやろ?

 どうでもいい奴が他の女とホテル入ったからなんやねん…


 ……っ!?誘導されとるぞ!!

 気をしっかり持て!!ウチはウチを信じる!!


 メリ…ムリムリ…


 …ケツが、生暖かい。

 もうこれ半分アウト。でもまだ奥から出てきそう…

 まずい…まずいまずいまずいっ!!


「いや……ホンマに勘弁して?」


 こんなことになったんもあの馬鹿たれがウチに好意なんぞ持つからや。

 大体なんでアイツ…ウチの事なんか…

 くそっ!!


「認めろ!!」「好きだと言え!!」「香菜!!」

「メェー」


 そうや、初めからムキになって絡まんかったらこんな事態にはならんかったのに…


 なんでウチは、アイツにいちいち付き合って…


 --ギュルルルルルッ!!!!


「香菜ーーーっ!!」

「……………………あ」


 アイツが絡むと糞ばっかやな…

 最低や。

 アイツ…絶対許さへん……


 --ブチッ!!


「っ!?」「っ!!!!」「ひっ!!」


 だから……

 去年の文化祭といい日比谷のデートといい……

 なんでウチから絡もうとすんねん…


 --ブリリリリッ!!ブチッ!!

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