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この日比谷真紀奈が?

「ちっ……ちちっ、千夜ぁぁぁぁっ!?!!」

「ちょ……うるさ…」


 俺が部活から帰宅すると同時に向かいの家に千夜が帰って来ていた。


 --本田千夜。何を隠そう俺、佐伯達也の彼女だ。


 しかし俺は今世紀最大の衝撃を受ける。

 対面した千夜の頬が……少し赤くなっているではないかっ!!しかも紅葉マーク!?

 紅葉模様を頬に添える、そんな千夜も愛らしい……が、そんなことを言っている場合では無いのだ。

 これはつまり……千夜が何者かによって暴行を受けたということを意味しているっ!!



 俺は彼女に駆け寄り膝から崩れ落ちた。


「す、すまない……今世も来世も護ると決めたのに…俺とした事が……」

「ちょっと……ご近所さん見てるから…やめてって」

「くそっ!!俺のこの手はっ!!愛する女ひとり護れないっ!!」

「やめて」

「俺は……っ!弱いっっ!!」

「やめろ」


 絶望に打ちひしがれる俺の頭上に降ってくる冷たい声に俺は「あ、はい」と頭を上げなんとか平静を取り戻す。

 しかしこの事態を見過ごすことは出来ない。


「教えてくれ千夜……何があったんだ?」

「え…やだ。達也暴走しそうだもん」


 なんだか満更でもなさそうに、されど井戸端会議をしているおばさん達の視線が気になるのか恥ずかしそうにしながら千夜は首を横に振る。

 可愛い。が、それは彼氏としての責務を無視する理由にはならない。

 俺は逃げられないように千夜の肩を掴んで再度問いただす。


「そのほっぺ……何があったんだ?俺は……お前をぶつような輩を許す訳にはいかないんだ…」

「……うー」


 千夜、今周りのことは言い。俺を見るんだ。

 凄く恥ずかしそうにしながらも、千夜は俺の熱意に押されて口を開いてくれた。

 しかしその内容はあまりにも非道で--


「……友達とパン屋行ったらぶたれた」

「……っ!」

「達也…?達也!?耳から血が噴き出てるよ!?」


 俺は上昇する血圧を抑えることが出来なかった。


 *******************


 翌日、俺はその馬鹿野郎の元へ向かう…


「ねぇ達也やめよ?喧嘩は良くないよ…」


 許すことはできない…よくも俺の千夜を。

 女に手を挙げる輩などろくでもないやつに決まっている…その面二度と見れないくらいに叩き潰してやる。


「達也…」

「たくあんベーカリーか…店の名前からしてふざけてる」

「私の為に争うのはやめてっ!」


 ……千夜、自分をぶった男に対してまでなんて優しいんだ……聖母も霞む聖人っぷり。


「えへへ……1回言ってみたかったんだこれ…」

「ところでアレはなんだ?」


 俺の視線の先、敵の根城の横の地面から生えた十字架に謎の男が磔にされているではないか……


「……おっす。アタシ、沢庵米之助。アタシワクワクすっぞ!」

「なんだあいつは……」

「あぁ……昨日私達にわいせつ物見せつけてチ〇コもぎ取られた人」


 ……っ!?

 千夜……そんな可愛い唇から「チ〇コ」なんて単語を……っ。

 いやそれより今なんて?

 千夜にわいせつ物を見つけて?


 千夜の一言に腰巻一枚のキリストのパチモンへの怒りが沸き上がる。沸点を超えた俺の血潮を止めることは誰にもできない。


「貴様ァっ!!」

「達也!?その人は十分すぎるくらい打ちのめされたのよ!?」


 十字架の柱を蹴り倒し、磔のまま俺の方へ倒れてくる変態野郎の顔面に渾身の右アッパー。


「うげぼぁあっ!?」

「死ねぇぇっ!!」「達也ーっ!!」


 背負った十字架ごと飛んでいけっ!!


「おぉっ!お前強ぇな!アタシワクワクすっ--…」


 俺の渾身の一撃を受けながら割と余裕そうになにか喋りながらやつは空に吸い込まれて行った……


「……なんだったんだ?アイツは…」

「達也、私暴力は嫌だよ」

「千夜…心配するな。君は外で待っているんだ」


 心配そうに俺の背中を見送る千夜の視線を受けながら俺は勢いよく店の扉を蹴破った。

 吹っ飛ぶ扉の先に、ボケーッとした面をした男がカウンターの向こうにカカシみたいに立っている。


 あの男だ……


 千夜と意識レベルでの絆に繋がれている俺には分かる。

 この男が千夜を……っ!!


「貴様ァァっ!!このドグサレ親父がァっ!!」

「いらっしゃ--え?」


 ポケーっとした面の親父の脂ぎった顔面に俺の渾身の右フックが炸裂する。

 腕に伝わる確かな衝撃と爆発する破壊力!!核爆弾クラスの1発がやつの頭を引っこ抜いた!!


「くばぁぁっ!?」

「店長ー、レジ代わり…店長ぉぉっ!?」


 奥から出てきた少年の方へ吹っ飛ぶ男。それを入口で見ていた千夜が戦慄。


「達也っ!?違うけど!?その人じゃないけどっ!?」


 なに?違うのか?


「てめぇっ!?店長に何しとんじゃあっ!!」


 千夜の声に意識を引っ張られた俺の横っ面に突き刺さるつま先。バイトと思われる少年の重すぎる1発に俺の奥歯が軒並み殉職…


「ぐはぁ!?」「達也ぁ!?」

「てめー!このおっさんが死んだら俺が食いっぱぐれるだろーがっ!!この虫の居所が悪い時に何してくれとんじゃっ!!」

「いや…すまない……勘違い--げはっ!?」


 半狂乱になる男には俺の弁明を聞く余裕もなく倒れ伏す俺に容赦のない蹴りを叩きつけてくる。千夜の悲鳴があがる。


「達也ぁぁっ!」

「こらぁっ!!!吐け!誰の差し金だこら!!」

「ぐふっ…俺の女に手を挙げた男を粛清に……」

「あ?」


 なんてことだ。あまりの事態に呆気に取られているうちに瀕死だ。この男…ただものでは無い。まさか千夜を殴った男の雇った用心棒……


「私をぶったのその人……」


 息も絶え絶えの俺の耳に千夜のそんな声がか細く届いた。


 --その時、俺は理屈や限界を超越した爆発力に押され勢いよく立ち上がっていた。

 瀕死の体から放たれるとは思えない圧倒的パワー!!それは空気との摩擦で炎を纏いながら燃える拳となり一直線に男の鼻先へ突っ込んだ。


「死ねコラァァァァァっ!!!!」

「なにっ!?ぐげはぁぁらぁぁっ!?」


 パコーンッと飛んでいく男。

 顔を焦がしながら地面に叩きつけられた男は「な…え?は?ルフィ…?」と驚きの声を隠せない。

 しかし今ので意識があるとは……


「達也もういいよ!」

「トドメを刺す……」

「達也!?」


 燃え上がる炎とハート。迷いない俺の足取りに男はビビっている。


「いやあの……え?あの、すみません…あ、ヤバい死ぬ……やだ助けて……」

「ダメだ外道。死ね」

「達也待って!!」


 馬乗りになり顔面に的を絞る。男の顔は真っ青…いや焦げて真っ黒だ。


「こんにちわっ!!ここにむっちゃんが居ると聞いて来--」

「だめぇ達也!私が悪いの!!メイドさんにフラれたばっかりのこの人を私が無神経に傷つけたからっ!!」


 俺が拳を振り上げたその時、ふたつの声が重なった。

 が、千夜の声がブレーキになるには遅すぎた……


 --ドカァァァァンッ!!!!


「むっ!?むっちゃぁんっ!?!?」


 *******************


 --私は可愛い。

 私がそこに現れること。それは神の御業、奇跡に近い。

 この広い地球でこの日比谷真紀奈とたまたま出会えるんだから……

 誰かとじゃない。この日比谷真紀奈と……

 そんな普通なら一生分の運を賭けても足りないような幸運に巡り会うことを許された、神からのギフテッドを与えられし男ひと……


 さああなたのエンジェルが来ましたよっ!と、風の噂で耳にした彼のバイト先に飛び込んだら……


 むっちゃんが燃えてた。



「……てめー何してんだこら」

「なんだお前は…っ!て、天使?」


 むっちゃんへ狼藉を働いた不届き者を睨みつけると早速この美貌に目を奪われてた。


「……達也?」

「な……なんてことだ……なんて美--ぶはっ!?」


 --パチィンッ!!と気持ちよくなる張り手!

 この日比谷真紀奈からビンタを食らうなんてもはやご褒美では?


 怒り冷めやらぬ私に起き上がったむっちゃんが「あ、いらっしゃい。頭痛い。今日はもう店じまい」って言ってた。

 流石むっちゃん。韻を踏ませても世界一……


 いや……ちょっと待って?


「……達也。あの人があなたの天使なんだ?」

「いや…違うんだ千夜。天使ではなく源氏の間違--ぐはっ!?」


 何やら醜い喧嘩を始めてた2人の男の方を踏みつけて私は鈴を頭に付けた女の子(45点くらい)に詰め寄る。

 ところでこの日比谷真紀奈の御御足に踏まれるなんてご褒美では?


「ねぇ、あなたさっきメイドにフラれてどうたらこうたらって言ってなかった?」

「え?え?」

「詳しく聞かせてもらおうか?」




 私、むっちゃん、鈴女を含めた三者面談…店の店主とふざけた男を虎の毛皮みたいに地面に敷いて……


「……そっか、むっちゃん好きな人が居たんだ……この日比谷真紀奈では無い誰かが……」

「はい、メイド喫茶のメイドさんに恋してフラれたみたいなんです」

「おい、いい加減にしてくれ」


 …………え?ありえなく無い?

 この日比谷真紀奈というものがありながら他に好きな人?他に好きな人ってそもそもどういうこと?意味わかんない。

 だってこの私が好きなんだよ?

 じゃあ他に選択肢なくない?

 日比谷真紀奈ですよ?

 大前提として世界中の人達は私に恋してる……


 それとっ!!


「……えっと、むっちゃん。そのメイドさんってもしかして楠畑さん…?」

「ねぇ、ほんとにやめてくれよ。てかこれなんなん?」


 ……っ!?

 こ、この反応…間違いないっ!!

 いつぞや世界一可愛いとかなんとかほざいてたメイド喫茶…あそこで働いてるあの女……っ!!

 なんかむっちゃんにやたら構ってもらってたあの女!?


「……あ、あんな脱糞女のどこが…?」

「え?そこがいいんじゃない」

「あ、お知り合いだったんですか?もしかして…ごめんなさい私てっきりただの客の分際で勘違いしてフラれたのかと……」

「君はもういいよ?消えて?」

「!?」


 鈴女を返して私とむっちゃんは深刻な顔で向かい合う。

 これは深刻ですよ?えぇ。

 なぜならこの日比谷真紀奈、恋で負けたって言うことなんだから。

 しかも、なんか遠足でウ〇コ漏らす女に……


 しまった……もっとむっちゃんの性癖を理解していれば……くっ!!


 ……え?この日比谷真紀奈が負けた?

 容姿という部分が重要になってくる恋愛という勝負で?

 私が顔で負けた……?


「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!?!?!!」

「っ!?」


 やってらんねー。これ以上ない美貌を持つこの日比谷真紀奈が……クソ漏らしの性癖の前では神の美貌も敵わないって言うの?

 てかあのウ〇コ女……っ!!そうだアイツだっ!!


「ぬぅぅ…ウ〇コ女が…あれだけ釘を刺してなお私の邪魔を……」

「知り合いなんだね、二人。脱糞女元気?」

「知らないよっ!!」


 あっ!…ごめんなさいむっちゃん……怒鳴っちゃった……


 落ち着くのよ真紀奈……いくら気が立ってるからって好きな人に八つ当たるのは最低……

 てか待って?

 本当に落ち着くのよ私……


 ……フラれたんだよね?むっちゃんは。


 あのウ〇コ女はむっちゃんから告白されて?それを蹴ったわけだ……

 それはそれでなんかムカつくけど、あの時のメイド喫茶でのやり取り、忘れてはいないわけだ。あの時の言葉に嘘はないと……


 ……許そう。

 そして命拾いしたね。私からむっちゃんを横取りするような真似をしなくて…女の恨みは怖くて陰湿だよ?


 焦らないの真紀奈……まだチャンスはあるじゃない。

 だってむっちゃん、フラれたんだもの。

 フリーでしょ?


「そうだよ……むっちゃんはフラれたんだもんね?」

「……いや、フラれたってか。告白もしてないわけだし?する気もなかったし?別に付き合おうとかそんな気なかったし?」

「でもフラれたんでしょ?」

「友達のままでいよーね?くらいの感じだから」

「フラれたんだね」

「チ〇コもいでいい?」


 錯乱したむっちゃんが変なこと言い出した。ごめんなさい。

 しかし私は顔から吹き出すニヤケを抑えられない。

 逆によかったよ……


 だって今むっちゃんはフリーだもの。

 そして傷心だもの。

 男はね、傷ついた時に優しくされるとコロッといくんだよ?男なんてちょっと優しくしただけで勘違いするじゃん?

 まして空いてはこの日比谷真紀奈ですよ?


 大丈夫…大丈夫だよ?分かってるから。

 私が雲の上の存在過ぎて、あのウ〇コ女で妥協してたんだよね?そうでしょ?

 つまりむっちゃんに私の気持ち、伝わりきってなかったんだよね?


 ……ごめんねむっちゃん。そして待ってて。


「くくく…むっちゃん……くくっ!くくくくくくくっ!!」

「…………そんなに笑う?」


 もう目に見えてズーンってしてるむっちゃん、捨てられた子犬みたいでかわいいよぉ!!

 小指で押せば倒れそうなむっちゃんに対して私は勝負の一手をかけるのだ……


「ごめんね?傷つくよね。辛いよね…でもさ、いつまでも引きずってたらずっと暗い気持ちのままだよ?」

「いや?引きずってないけど?ほとんど気にしてませんけど?」

「気分転換に遊びにでも行った方がいいと思うんだ」

「転換する必要ないですけど?」


 今だっ!喰らえむっちゃん!!120点スマイルっ!!


「……そうだ、今度のお休み、暇?」

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