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突撃!おかしなお祭り大集合

「テレビの前の皆様ー、地域密着ローカル番組、『突撃!おかしなお祭り大集合』のお時間でございまーす!さて、本日お邪魔するのはこちら!愛染高校の文化祭となっておりまーす。こちらの文化祭はですね、なんと今年、世界一おかしな高校とギネスにも検定された高校と合同での文化祭ということで、間違いなく我が番組の追い求める奇祭の神秘を体験出来るだろうということで、私達も参加させていただきます!!」


 --テレビが来ました。

 なんと、私達の文化祭にテレビ中継が来たのです!

 番組は『突撃!おかしなお祭り大集合』とのこと。全く聞いた事のないローカル番組です。


「さぁ本日この文化祭を案内してくださるのは…頭のおかしな高校の頭のおかしな同好会、『校内保守警備同好会』の浅野姉妹です!よろしくお願いしまーす!!」


 レポーターの女性の紹介にカメラがこっちにレンズを向けた。

 私はガチガチに緊張した顔をお茶の間の向こうに配信する羽目に……いきなり向けられるもんだからびっくり。


「あっ…えと……よ、よろしくお願いします……」「……」


 私の隣でぶすくれたままの美夜。美夜の顔が地上波に乗るのはどうかなって思ったけど……

 こんな機会滅多にないし…ね?


 レポーターさんがプロ根性を剥き出しに満面の笑みを浮かべながら私達を交互に見た。


「わー、とっても素敵な姉妹さんですねー…手錠で繋がった手首から固い絆が伝わってきますねー。これは今回の奇祭も期待できそうです……」

「ちっ!」


 私達の手錠をレポートするレポーターさんに美夜が大きな舌打ち。ひぃっ!怖い……どうしたの?美夜……


「えー、こちらの校内保守警備同好会の皆様……まず校内保守警備同好会とはどういった活動をされてるのかをまずお伺いしましょうか」


 ずいっと向けられたマイクに対して詰められた距離分美夜が下がる。そのせいで引っ張られる手錠が手首にくい込んで痛い!


「えっと…えっと、私達は、校内の治安維持を目的に活動してまして……今回は文化祭の警備を担当させて頂いてます……」


 ……文化祭の警備ってなんだろ?内閣総理大臣でも来るのかな?自分で何言ってんのか分かんなくなってきたけど、ありのままの事実だからなぁ……


「なるほど!」

「なるほど!じゃねーよ。分かったのかよホントに……」「しっ!美夜!!」

「それでは今回文化祭の警備のお仕事に就く校内保守警備同好会のおふたりに密着するかたちでこの奇祭を堪能していきたいと思いまーす!」


 *******************


 カメラを引き連れて歩く私達は流石に目立つ……道行く生徒達がカメラに映りこもうと寄ってきてとってもやりにくい……

 ただ、これも仕事だと思って割り切り、美夜と2人不審者が居ないか監視の目を光らせつつ練り歩く。


「……なんでたかが文化祭でテレビなんか…」

「学校の宣伝になるからじゃないかな?」

「自分んとこの文化祭が奇祭扱いだよ?なにが宣伝なの?」


 もっともだ……だけど、そう称されても仕方ないのがうちの文化祭だ。

 例えば--


「はちみついかがですかー?」

「皆さん!早速普通の文化祭ではお目にかかれないお店を発見しました!浅野さん!あれはなんでしょう?」

「……はちみつ売ってるみたいですね」

「すごーい。是非頂きたいです!」

「あそこから直接お客さんが取っていくシステムですね」


 と、私がカメラに向かって説明する先で出店のテントの軒先に巨大な蜂の巣がいくつもぶら下がってる。

 はちみつを味わおうと奮起するお客さんは蜂にぶち刺されながらはちみつ狩りに興じてる。


「……お客さんが自分で…」

「食べ物を得るのは簡単じゃない…お金さえ払えば苦労なく食事にありつける…そんな現代の食への在り方に一石を投じるお店ですね」


 流石美夜!見事な解説でドン引きのレポーターさんを納得させてしまった!


「やってみます?」

「いえ…いいです」


 やっぱり引き気味のレポーターさんが次に目をつけたのが……


「ご覧下さい!流石日本屈指の奇祭!!謎の鳥の焼き鳥が売ってます!!」

「へいらっしゃい!ズグロモリモズの焼き鳥だよ!」

「浅野さん、ズグロモリモズとはなんですか?」

「知りません」


 突っぱねる美夜をよそに「折角なので頂きましょう!」とよく分からない焼き鳥をレポーターさんが頬張る。


「すっごく固いです。パサパサです!!」


 しかも地上波でディスる。


 それにしても、訳わかんない肉食べて大丈夫かな…?ただでさえ危ないのにしかもうちの学校が売り出してる訳わかんない肉なんてもう……


 と、レポーターさんを心配してたその時!


「詩音君!美夜君!!昨日から被害報告の出てるオカマバーを発見したっ!!」


 ドタドタとカメラを押しのけて私達に走りよってくる柴又さん。

 そしてそれに食いつくレポーターさん。


「なんと!オカマバーのある文化祭ですっ!これは是非--」

「いやいや、ここから先は御遠慮頂きたい」


 と、食いつくレポーターさんを柴又さんが制して私達に来るように促す。

 ……オカマバーか。やだな。行きたくないな……ものすごく嫌な予感がするんだ……


「少し待っていてください。すぐ戻ります」


 まぁ、顔をしかめても仕方ない。これが私達の仕事……

 レポーターさんに断りを入れて現場に向かう私達をカメラが映す横でレポーターさんが興奮気味に「これが校内保守警備同好会!オカマバーに文化祭の警備員にミツバチ!日本最高の奇祭は伊達ではありませんでしたっ!!」とレポートしてた……


 *******************


「大変だっ!毒鳥ズグロモリモズの焼き鳥を売ってる店があるぞ!」


 --掘られかけたグラサンを助け出したかと思えば泡を吹いて倒れる緊急事態。

 その時入ってきた報せは猛毒を持つ鳥を焼き鳥にして売っているというテロまがいの大量殺人未遂犯の凶行……


 ズグロモリモズと言うのは羽根や筋肉に毒を待つ鳥で、羽一枚分で人を殺せるというとんでもない鳥だ。


 猛毒タコの次は猛毒鳥か……なんて嫌気が差しながらも現場へ向かおうとした時--


「「あっ!!」」


 私と美夜が同時に声をあげた。


 ……たしかあのレポーターさんが食べてた焼き鳥……


「みみみ!美夜!!」「ああヤバい……死んでるかも……」


 私達は顔を青くしながらレポーターさんと別れた場所へ走る!!

 頼む!間に合って……地上波で人が死ぬとこなんて流れたら……


「ぐげげ……」


 遅かった。


 現場に到着した時にはレポーターさんはカメラの前で青い顔して泡吹いて倒れてた。終わった……


「レ、レポーターさん!!大丈夫ですか!?」

「大丈夫な訳あるか。救急車--」

「み、皆さん…全身が痺れてきました……これが日本の誇る奇祭の本領でしょうか…」


 ビクビク痙攣しながらもレポートを辞めようとしないレポーターさんと淡々とカメラを回し続けるカメラマンさん。なんというか…テレビ業界の根性みたいなものを垣間見た。


「おや…ガイドさんが戻って来ました。それでは奇祭巡りを再開致します……」

「え?」「いやいや…病院行け」


 膝カックカクでも仕事を続けようとするレポーターさんと、『続けて!』と指示を出してくるディレクターさん……


 なんというか……テレビ業界の闇を見た気がする……



 --さて根性だけで瀕死の体を押すレポーターさんを連れてまたブラブラと散策…もとい警備を再開。チラチラと遅れながら着いてくるレポーターさんを気遣う美夜の優しさが目にしみます。


 と!その時!!


「きゃーーーーっ!!誰かーーっ!!」


 絹をさくような悲鳴がっ!!私と美夜が駆け出すのに「皆さん!事件です!!」と瀕死とは思えない健脚を披露するレポーターさん。


 何事かと現場に駆けつけたら……


 なんと1組の男女と2人の女子が向かい合うように対峙し、女の子の1人が危険物を手にしてるではないかっ!!

 ちなみに持ってるのは30センチ定規……

 でも私は知ってる…あれは凶器だ。

 というかこの光景デジャブ……


「な、なんなんですか!!先輩!!」「千夜には指1本触れさせないっ!!」


 怯える女子と、勇敢にも女子を守るように立ち塞がる男子……


「ていうか達也なんでここに?私今日は友達と回るって言ったのに……」「尾けてた」


 全然勇敢でもなんでも……いや、勇敢です。

 さて対する女子は……


「レン!!こんなことはやめて!!」「黙れ風香!!人面犬の仇……っ!!」


 敵意満々に訳の分からないことを叫びながら定規を構えてた。


「ご覧下さい皆さんっ!!まさにカオス!!これは自警組織も必要でしょう!これがこの学校の真実なのですっ!!」

「おい映すな」


 カメラマンが美夜に引っぱたかれるのを横目に眺めていたその時!


「うわぁぁぁぁぁっ!!」「レンーーーっ!!」

「千夜は俺が守るぅっ!!」「狙われてるの達也だよ!?」


 いけないっ!!


 咄嗟に私は2人の間に割って入るように飛び込んだ。またデジャブ……

 来るお尻へのダメージに歯を食いしばり耐える体制を整えて……自らを盾に間に飛び込む私をカメラが捉えていたっ!!


 その時!!


 ヒュンッ!と空を裂き飛んできた1本の矢が私のケツに襲いかかる女子の頭を貫いていたっ!


「ぐげっ!!」「レンーーーっ!!」


 定規を手に崩れ落ちる女子……何事かとぽかんとする観衆……そして私……

 一体何が?と視線を巡らせたその先--


「……潮田先輩?」


 そこには勇ましく弓を構えた元生徒会長、潮田先輩が居たではありませんかっ!!


 *******************


「ごげぶっ!!…ふぅ……いやぁ…とても味わい尽くせないくらい珍事に出くわす…皆さん、これが奇祭です……」


 いよいよ吐血とゲロを吐き出しながら潮田先輩を連行する私達に着いてくるレポーターさん。


「ねぇ信じて……?私は詩音さんが危ないと思ったから……」

「黙れ。弓矢持ち歩いてる奴の方が定規持ってる奴より危ない」


 手錠で拘束された潮田先輩。私を助けようとしてくれたみたいだ……隣で毒を吐く美夜を咎めようにもこれも仕事……

 ちなみに定規持って暴れてた人はそのまま歩いて帰った。矢を刺したまま。


「潮田先輩すみません…規則なので罰を受けてもらいます」

「2人とも校内保守警備同好会に入ったんだ…」

「話題を逸らそうとするな」

「皆さん…これから校則を破った生徒がどういう末路を辿るのか……げふっ!!それをお見せします……」

「撮るな」


 私達に着いてくるレポーターさん、もはや番組の趣旨と違う……

 あと別に校則って訳でもない……同好会基準で罰則があるだけというもはや私刑にも等しい理不尽ではある……

 でも、弓矢で人を射ったらダメだよね?校則とか以前に……


 さて、ある程度歩いた場所で私達は潮田先輩の拘束を解いてあるものを渡す。

 あるものとはチラシである。


「罰則とはビラ配りです」

「え……ビラ配り……?」

「うちの同好会の新入会員募集のビラを100枚配ってください」

「これは……皆さん!これが腐敗した権力というものでしょうか…ごはっ!!げぶっ!?…はぁ…はぁ……自らの勢力拡大の為に無関係の生徒を利用--」

「おい、いい加減にしろ。これ以上撮ると生きて帰れないぞ?」

「美夜!?」


 なんだろ……どんどん我が校のイメージが下落していってる気が……


 さて、それはそうと潮田先輩は釈然としないながらも言いつけ通りにビラを配り始めた。

 1番人通りの多い広間で「お願いします…」とか細い声でビラを配りまくる。けど、誰も受け取る様子はない……


「これが奇祭……もはや意味不明です」

「お前ら帰る時カメラの中身チェックするからな?」


 配りまくる潮田先輩……もはや生徒じゃない人達にも配りまくる。けど、誰も受け取らない。100枚どころか1枚も減らない。

 そりゃそうだ。意味が分からない。私でも受け取らない……


 恥ずかしそうに遠慮がちにビラを配る潮田先輩に美夜が業を煮やす。


「そんなんで受け取ってくれるわけないでしょーがっ!!いい?こうやって体ごと割り込んで無理矢理渡すんだよ!!」


 ビラを奪い取って手本を見せる美夜。その姿もバッチリカメラに収まってる。


「おげぇぇぇぇぇぇっ!!」


 その横でレポーターさんは滝のようにゲロを吐いてる。

 近寄りたくない……ビラが受け取られないのはこのせいでは?


「やれ」

「恥ずかし……」

「何乙女みたいなこと言ってんの?」

「美夜…その辺に……」

「元生徒会長のくせに人望ないなお前」


 --パチィィン!!


「痛い!?姉さん!!痛い!!」

「言っていいことと悪いことがあるよ?」


 お姉ちゃん、怒る時はしっかり怒りますからね?


 そんなやり取りを見ていた潮田先輩は、美夜の一言が癇に障ったのか、「絶対配りきってやる」と謎の意気込み。

 と同時に弓矢を取り出した。


「矢文だ」


 この人は何をし出したんだろう?なぜこんなことをさせられてるのか、理解してないんだろうか…?

「おいバカ!やめろ!!」と制止する美夜の声も無視してチラシを巻き付けた矢を番える潮田先輩が弦を引き絞る。


「馬鹿っ!!人に当たったら--」


 慌てて止めに入った美夜が掴みかかるのと、絞った弦が手を離れるのは同時だった。

 美夜のせいで狙いが狂った矢はそのまま放たれて一直線に私の頬を掠めていく。

 ……だけなら良かったんだけど……


 --ブスッ!!


 私の後ろで地面に這いつくばってゲロ吐いてたレポーターさんのケツに……


「あ」「あ」「あ」


 私達が同時に声を発した…

 それを合図にするように…鋭い1本の矢が突き刺さったケツからそれまで堪えていたモノが堰を切ったように噴き出したっ!!


 --ブリリリリリリッ!!ビチビチビチッ!!


 具体的に言うと、血の混じった排泄物が……


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「うわぁぁっ!!」「ひぃぃぃっ!?」「わぁぁぁっ!!」


 *******************


「……こ、今回の奇祭は私ではとても…た、耐えられない洗礼を与えてくれました…ありがとうございます……」


 紙オムツを履いたレポーターさんが学校を去っていくのを見送りながら、赤く染っていく空を眺める私と美夜は秋の冷たい風に目を細めていた……

 秋の哀愁を味わっているのであって風に乗ってくる便の異臭に目をやられている訳では無い。断じて……


『これをもちまして、文化祭の全スケジュールを終了します。生徒の皆さんは体育館に集合してください』


 校内アナウンスと共に1箇所に向かっていく足音を聞きながら、私と美夜は顔を見合わせる。互いの顔には楽しい学校行事が終わった後とは思えない疲労の色が浮き出てた。


「……私達、今日何しに来たんだっけ…?」

「美夜……」


 今日、私達は学校の平和を守った……

 それだけは間違いない。そしてそれには確かに意味があった。


 ……そう言い聞かせよう。


「戻ろうか?」

「……ん」


 手錠の鎖を鳴らしながら私達も体育館へ向かう生徒達の雑踏に混ざっていく……怒涛の2日間はこれで終わった……


「文化祭楽しかったね?」

「は?」

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