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モンゴリアン・デス・ワームはいます

 --私は可愛い。

 しかしそんなことは今はどうでもいい。


「ほら日比谷さん、食べなよ」

「…………むっちゃん」


 私は今人生最大の試練にぶち当たってるんだから……




 --謎の迷子にグラサンがズレて瀕死になった謎の男に姿を消したたこ焼き屋に……

 私と凪は激動の文化祭を堪能してた。


 今日の私の目的はむっちゃんと不良に絡まれる事でドキドキさせる『吊り橋効果大作戦』を実行すること……


 その為にむっちゃんを探してるんだけど……


「おーい!日比谷さーん!」


 やはり国宝級の美貌が歩いてたらほっとくはずもなくて、私達はうちのクラスのダンス部に呼び留められた。

 既にダンスを披露した後なのか汗を滲ませたダンス部部長。私は忙しいのにって思いながら応対する。


「今からね、軽音部のバイトのバックダンサーやるんだけど、日比谷さん今年もどう?」


 ……あー…

 去年もやったっけ……


 まぁ気持ちは分かる。私が入るだけでそのダンスは無形文化財レベルになるだろう…

 でも私忙しいんだよなぁ……


「いや、何踊るか知らないけど今から振り付け覚えるのは……」

「ね、日比谷さん運動音痴だしね」


 だし汁にするぞ?


「大丈夫だよ。適当に合わせてくれれば。日比谷さんがステージに居たら目立つからさ。客寄せパン…じゃなくていい宣伝になると思うんだ」

「いや、でも私忙し--」

「みんな日比谷さんのダンス見たいと思うんだー」


 なんですって?

 まぁそりゃそうよね?日比谷真紀奈だもの。あなた分かってるじゃない。

 そう、世界中が私を呼んでいる……


「ステージで目立ってたら小比類巻君も見に来てくれるかもよ?」

「世界に発信しなきゃ…凪、テレビ呼んで」

「黙って?」


 こそっと耳打ちする凪の助言も聞き入れ私はバックダンサーやることになった。



 ……さて、ステージまで案内されれば軽音部の皆さんがライブの準備に勤しんでる隣でダンス部が華やかな衣装に身を包んでやる気満々……


 へその出る丈の短いピンクのシャツに破けまくりホットパンツというとっても華やかな衣装です。


「よーし…」

「え?これ着るの?」


 気合いを入れながら髪の毛をひとつに纏める私の隣で踊るわけでもない凪が難色を示してる。露出が気になるんだって。


「可愛いじゃん」

「私ほどではないけどね?」


 流石はダンス部。いいセンスだと思うよ?引き締まった私のボディの魅力をこれでもかと引き出す衣装じゃない。KーPOPアイドルにでもなった気分。


「おへそは隠そう?雷様に取られちゃうよ?」なんて田舎のばあちゃんみたいな事を言ってくる凪に私は指を差した。


「見てなさい凪。私、日比谷真紀奈の至高の美貌を特等席で見せてあげるっ!!」

「…………風邪ひかないでね?」


 *******************


「先輩!これが縁日ッスか!!」

「文化祭だ」


 俺の名前?知れたこと……小比類巻睦月様だ。みんな、そろそろ名前を覚えてくれたか?


 空から降ってきた特大の石ころに我が校が吹き飛ばされて久しい……

 とても祭りなどに興じてる場合ではないがそんな中、今年の文化祭は『一体いつから鏡花水月を遣ってないと錯覚していた?』みたいな名前の高校を借りて行われることになった。


 俺らのクラスはモンゴリアン・デス・ワームの串焼きを出店するらしい。なんでもゴビ砂漠の郷土料理なんだとか……

 まぁ俺には関係ない。


「小比類巻先輩、橋本先輩はどこ行ったんスか?」


 隣でやかましいこいつは香曽我部妙子。我が現代カルチャー研究同好会のメンバーだ。

 可哀想なことにこいつには友達が居ないのか同好会の先輩とブラブラ暇を潰す選択をしたようだ……


 ……さて、可愛い後輩を連れて歩く俺にはある目的があったんだが……


「……居ないな」

「ん?誰か探してんスか?」

「いや……」


 ……まぁ、別に用がある訳でもないし。

 何故か見当たらない探し人を諦めて俺は香曽我部と散策を続ける。腹はクラスの串焼きの試食を死ぬ程させられたからさほど減ってないが……


「ところで橋本先輩は?」

「お前腹減ってないか?」

「減ってます」

「なんか奢ってやろう……」

「マジすか!?」


 最近は懐が暖かい……なぜならバイトをしているからな。

 それでも俺が人に飯を奢るなんて滅多にないが、文化祭の屋台かつ後輩が相手ということで特別だ。

 あとナチュラルに2連発無視かましたが突っ込まないあたり橋本のことは割とどうでもいいんだろう……


「先輩最高ッス!今日は離れないっス!!」

「あれにするか……」

「なんスか?たこ焼き?ラーメン?焼きそ……」


 潔癖症故離れないと言いつつソーシャルディスタンスな香曽我部を連れてやって来た屋台からは独特の青臭さとメニュー表の強烈な写真からとてつもないプレッシャーを感じる。

 素晴らしいじゃないか……


「学校の出店の屋台の飯食いたいなんてお前の潔癖症も少し改善したんじゃないか?お祝いに飛びっきりのくれてやるよ、バッタ天丼だとよ」

「……」


 なんと1杯5800円。

 しかし後輩の前で恥はかけない。財布の中身半分を吐き出して熱々の天丼を持って振り返ると……


 そこには香曽我部は居なかった……


「………………」




 ひとりぼっちになってしまった俺はとぼとぼと校内を歩く。箸をぶっ刺した天丼を手に歩いてると込み合った道もスイスイ進めるなぁ……

 ひとりぼっちは慣れてるがこうもすげなくされると傷つくものだ……


「お兄さん…お兄さん…」

「ん?」


 なんてしょんぼりしてると俺を呼び止める声がした。

 そちらを見ると即席のテントからブレスレット感覚でハナナガムチヘビを巻いた手首がこちらに手招きしてた。


「お兄さん…その顔、悩みがあるね……」「寄っていきな…安くしとくよ……」


 重なる声に誘われフラフラ歩くとそのテントには『占いの館』と手書きで書かれてる。その上には『私立愛染高等学園』と書かれてるから多分学校のテントだった。


 学校のテントに張られた暗幕を潜るとそこは占い屋さんらしく薄暗く、正面のテーブルに置かれたやたら小さい水晶の前に2人組の女子が座っていた。


「ひひひ…いらっしゃい」「悩みがあるだろう…?」

「いや…ないけど」


 こいつらは……確か田畑と長篠。脱糞女の友達だったか?


「お座んなさい……」


 わざと声をガラガラにする田畑に促されて座る。ちなみに椅子はない。コンクリの地面に直だ。隣でセイブダイヤガラガラヘビがとぐろを巻いてる。中々スリリングだ。


「悩みがあるね?」

「ないね」

「任せな…ふむふむ……」「……見える……見える……」


 何が見えるんだろうか?水晶玉に手をかざす田畑と長篠がむむむっと唸っている。

 いや……よく見たら水晶じゃないなこれ。ガチャガチャのカプセルだ……


「……ふふ、あんたは探しものをしてる」「そう……それだ」

「……っ」


 まぁ……そうかもしれない。ただもうやめた。別に占ってもらってまで探してるわけではないが……


「あんたはその探しものを恐れてる…」「そう、それだ」

「……?」

「同時に欲してる……」「そう、それだ」


 隣にいる長篠の居る意味を教えてくれ。

 とその時、前を向いて目をくわっと見開いた田畑と俺の目が合う!そして、俺の視界に入っていたものに背筋に悪寒が走った!


「自分から向かうのです…待っていてもそれは手に入らない」「そう、それだ…」「探しものはここを出てすぐ、見つけられるでしょう……」「そう、それだ…ってあれ?」


 なんか言ってたけど知らん。

 俺は弾かれるようにテントから飛び出した。

 なぜなら2人の後ろに貼り付けられた紙を見たから……


 --占いメニュー--

 おまかせ--¥100000

 恋占い--¥50000

 人間関係--¥30000

 開運アドバイス--¥1000000


 *******************


 ぼったくり占い屋から飛び出した俺はその前を横切るチーターのような人影とぶつかった。

 あまりの衝撃に20メートル吹っ飛ぶ俺の先に先回りして「大丈夫?ごめん」と声をかけてくるこの女……


 たしか陸上部の速水…こいつも脱糞女の友達だった……気がする。


「なんであんなとこから飛び出してきたのよ?」

「お前のツレからぼったくりにあった」


 正確にはあう直前だった。

 なんだかよく分からないと首を傾げる速水は「とにかくごめんね」と平謝りしつつ再び急加速。

 爆速で消えていく背中に俺はふとさっきの占いを思い出す。


 --自分から向かうのです。


「ふふ…今日の私も最高の走り……この走りに全校が魅力--」

「ちょっとすまない」

「っ!?」


 法定速度違反の速水と並走しながら俺は仰天する速水に尋ねることにした。


「今日楠畑は一緒じゃないのか?」

「ば、馬鹿な……この私が……並ばれている!?」

「聞けよ」

「……っ、香菜は体調不良で休みよ。なんか公園で食べた唐揚げに当たったとか言ってたけど……」


 ……唐揚げに当たった?

 やっぱり面白い奴だなぁ……


「そんなことより!あなた私と並んでくるなんてまさかこの速水より速いつもり--」

「分かったありがとう」

「ちょっ!?無視!?」




 --時速110キロで走っても米粒ひとつこぼれなかった脅威のバッタ丼を手に再び散策に戻ることにする。

 隣にお馬鹿な相方でも居れば暇もしないんだろうが1人では欠伸が出てしまう。

 溢れ出す暇を潰す術を求めてフラフラ歩いていると面白そうな店を見つけた。


「いらっしゃい」

「射的ッスか」


 射的屋らしい。

 店には1人で、どうやら先生がやってる店みたいだ。俺は知らないから鏡花水月のとこの先生だろう。教師も店を出して生徒から金を毟ろうとは酷い話だ。


 アロハシャツにグラサンの所ジ〇ージリスペクト先生の営む射的屋は射的用と思われる対物ライフル以外何も置いてない。

 射的を謳う以上景品のひとつも置いてないわけがないが……


「面白そうだな。遊ばせて下さいよ。いくらです?」

「ははっ、子供がそんなこと気にするな。生徒はタダでいいよ」


 なんと。


「それで?何を撃つんですか?」

「うちの射的屋はね、趣向を変えて的は決めてないんだ。そこら辺にあるものを撃つ」


 無差別殺人で草。


 おじさんは巨大なPGMへカートIIを投げ渡してきて気分はシノアです。

 ここから狙ってね!と書いてある線ギリギリまで前に出て腹這いになりスコープを覗いた。隣に置いたバッタが臭い。


「中々に様になってるぜ…あんちゃんなら撃てるだろう」

「本物じゃないっスよね?」

「まずは……そうだな。本命の前に練習だ。あそこを見ろ」


 どこ?


 隣でよく分からん専門用語で指示を出してくるおっさんに従い銃口を巡らせれば、そこでは軽音部のライブが行われていた。

 まず肉眼では見えない距離…凄い倍率だ。


「あそこで1番目立ってるダンサーの女…分かるか?」

「どれすか?」

「ほらあの……茶髪の……泣きぼくろがあるだろ?」


 ……おや、あれは日比谷さんではないか。

 なんか去年もダンスしてたけど今年もやってるのか。懐かしいな、小倉先輩は今何してるんだろう?


「あいつの眉間をぶち抜いてみな。コツは息を止めて一気に引き金を引くことさ」

「本物じゃないですよね?」

「やれ」


 ……これ当てたら景品で日比谷さんくれるんだろうか?


 なんて思いながら他にやることもないので照準を合わせて満点のスマイルを弾けさせる日比谷さんの眉間に--


 --バァァンッ!!


 ……ものすごい衝撃が体を揺さぶり、ブレた視界が照準を取り戻す頃、ステージ上でまるで水中を舞うマーメイドのように日比谷さんが吹っ飛んでた。


 ………………


「……本物スか?」

「気にするな」

「気にしません」

「中々に筋がいい。よし、お前ならやれるだろう……俺が狙えば一流の殺気が出ちまうが、お前は素人だからな。流石のジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世も素人から狙われるとは……え?」


 なんか隣でブツブツうるさいんで、本物じゃないらしいから気にせずグラサンに銃口を向けてみた。

 スコープ越しにドアップになっていたグラサンには死相が浮かんでいたが…気にしないことにした。


 --ドパァァァンッ!!


 *******************


「むっちゃんなの!?え?私むっちゃんに撃たれたの!?」


 日比谷さんの頭蓋骨は戦車より硬かった。


 対物ライフルで狙撃という人生で恐らく1回もないような珍事に見舞われた可哀想な日比谷さんはライブの後安否を確かめに来た俺の前でおでこからちょっと血を出してた。

 おかしいな……あのグラサンは頭が吹っ飛んだのに。距離か?距離なのか?


「ごめんね日比谷さん、まさか本物とは思わなかったんだ。日比谷さんが射的の的になってたからつい」

「ついじゃないでしょ!?死んじゃったらどーすんの!?てか、日比谷さん何したら射的の的にされるの!?」


 親友への狼藉に我が事のように目をひん剥いてキレるブロッサムさん。そしてそんな彼女を宥める日比谷さん。


「いいんだよ凪…とても良かった。この額の痛みが私をエクシスタシーに連れてってくれる……はぁ…はぁ…」

「……日比谷さん、もう手遅れなのね」


 日比谷さんは変態だった。

 しかし、なにも知らなかったとはいえこのまま不細工を晒したままという訳にもいくまい……

 日比谷さん気にしてないみたいだし別にいいかなぁ…なんて考えを噛み砕いて呑み込み、俺は惜しみながら渋々お詫びの印を差し出した。


「ほんとにごめんな?これ…お詫びに食べて」


 そう、5800円のバッタの天丼を……


 その瞬間引つる日比谷さんとマジョリーヌさんの顔。この世の地獄を体現した1杯に「ひっ!」と喉の奥でかすれた悲鳴をあげた。


「これ、うちの学校の屋台で買ったんだ………………5800円で」

「ご、5800円……」

「日比谷さん、これあげるから許して」


 俺には分かる。もはやお詫びというかさらなる無礼……いや、それこそバッタに対する愚弄だろう。

 さぁ食え。ぶっちゃけ持て余してたんだ。


 震える手で受け取ろうとする日比谷さんをボンジョールノさんが慌てて止めた。


「え?食べるの日比谷さん!?嘘だよね!?」

「だって…………」

「いやいやいや!バッタだよ!?」

「こうなればバッタだって食べ物ですよ凪……米に乗ってればなんでも食べ物」

「食べ物かも知らんけどバッタだよ!?」

「落ち着け凪」

「落ち着いてるけど!?」


 日比谷さんがマドリレーヌさんを引っ張って少し離れる。


「よく考えて?これはむっちゃんからの初めてのプレゼントだよ?」


 小声で喋ってるが丸聞こえである。この時間、天丼を手に俺はどんな顔をしながら過ごせばいいんだ…?


「でもバッタだよ!?」

「5800円だよ?」

「バッタですよ!?」

「凪!!なにを貰うかじゃないの!!貰うのは物じゃない!!気持ちだっ!!これはむっちゃんから私への熱い気持ち--」

「熱々のバッタだよ!?」


 すまない……もう冷めてるんだ……


 数分問答を続けた末、日比谷さんは必死で止めるオジマンディアスさんを押しのけて俺の元に戻ってきた。

 そして半ば奪い取るように俺からバッタ天丼を受け取った。


 その顔は青ざめて引きつってたけど、そんな隠しきれない内心を表に出さないようにと必死に口角を釣り上げていた。


「…むっちゃん、ありがとう……嬉しいよ……」


 ……いじめてるみたいだ。


 震える手で箸を持ち、「食べていい?」と聞いてくる。俺には頷くことしかできなかった。

 ほんとに食べる気か…?バッタだぞ?


「い、いただ「ダメよ!!美の女神の口からバッタが飛び出してるなんてありえないでしょ!?考え直して!!」きます……」


 ボルシチさんの悲鳴を無視して、日比谷さんが衣を纏ったブリブリのバッタを箸でつまみ上げて……


「ダメーーーーーーっ!!!!」


 俺は目の前の光景に戦慄し、同時に彼女が『学園の女神』と呼ばれるその所以を垣間見た気がした……

 日本人がこれを口に運ぶのにどれだけの気合と勇気が必要なのか……

 何が彼女をそこまで突き動かしたのか……

 俺は日比谷真紀奈という女性に対して、心の底から敬意を評した--


 …………アーメン。


「うぶぅぇぇぇっ!?おえっ!?」

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