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こんな文化祭ってないですっ!

 --拝啓 佐伯達也様、本田千夜様


 以前は大変お世話になりました。

 もうすぐ高校の文化祭と本田さんから聞きました。私達も来日する予定ですので是非立ち寄らせてください。

 その際はお礼もさせて頂きます。


 --ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世


 ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんから私と達也の下にこんなお便りが来たのはつい1週間前。


 ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんは世界中を渡り歩いてた傭兵さんで、以前彼女の娘さん、ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちゃんを内戦国、ハヨデテッテクンネーカ共和国まで送り届けて、同国の内戦を終わらせた関係で知り合いました。

 現在は引退したようで、最愛の娘と安息の地を求めてまた世界中を渡り歩いてるとか……


 そんな懐かしいお二人が来日するとの事で、私、本田千夜は今日という日を楽しみにしてました!


 --今日は文化祭。

 例年とは異なり今年の文化祭は天変地異により愛染高校との合同という事で、なんと達也と一緒に文化祭に参加出来ることになりました。


 文化祭なんて高校生の一大イベント……

 そんな日を達也と過ごせるなんて…頭につけた鈴がリンリンと嬉しげに鳴ります。


 さてさて。

 文化祭開始のアナウンスと共に広大な校内に活気が雪崩込みます。賑やかな喧騒と楽しげに響くBGMやらバンドの演奏やら…あと謎の迷子アナウンスやら……


 お祭りの雰囲気に浸りながら私はクラスの屋台で当番です。


 ちなみに私達の屋台はバッタ天丼屋さんです……凄く気持ち悪いです。


「お客さんいっぱい来るといいね」「売上1位目指すぞー」「おー」


 張り切りながら油でバッタを揚げてるクラスの女子達……この学校、どいつもこいつもクレイジーです。


「ひとつもらおう」

「わー!早速お客さん!いらっしゃい!!」


 お客さんもクレイジーだと思ったらうちの制服を着てます。やっぱりこの学校はクレイジーです。

 恐らく世界初の文化祭バッタ天丼屋のお客さん第1号はサービスでてんこ盛りにされたバッタをこぼさないように慎重に歩き去って行きました。変な人もいるものです。

 ちなみに1杯5800円です。ほんとに神経のぶっ飛んだ方も居られます……


 さて、一応達也やジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんにはうちの屋台の場所は教えているんですが…果たして来るでしょうか?


 見てるだけで気持ち悪い冷凍バッタを解凍する作業を任された私は吐き気と戦いながら仕事をこなします。その間にも向かいのパンケーキ屋は大盛況なようで、閑古鳥が鳴いてるうちとは正反対でした。


 と、その時です。


「……お嬢ちゃん、ちょっと訊きたいんだがね…」


 アフロ頭がやかましいハート型のサングラスをかけたおじさんがやって来ました。

 彼はメニュー表(バッタ天丼のみ)には目もくれず一直線に私のことを見て……るような気がしましたがサングラスだから分からないんです。

 ところでこのおじさん…森のようなアフロからなにか長い棒のような物が何本も突き出してますが……これが原宿の最先端ファッション?


「いらっしゃいませ!」「何にしますか!?」


 そして食いついたお客さんは離しません。会計係の女子がアフロさんに詰め寄ります。ここまで必死に食らいつくあたり、自分達の売り出してるもののヤバさは自覚があるんでしょうか?お客さんを逃がさないようにと必死です。

 ちなみに私は無視しました。知らない人とは話すなとお母さんにしつこく言い聞かせられてます。


「いや…そこの子と話させてくれ」

「うちはバッタ天丼がオススメですよ?」「お安くなってます!!」

「そこの…頭に鈴をつけた君!君…あの、外人の知り合いが……メニュー邪魔!!」

「どれになさいます?」「素敵なアフロですね」

「やかましいっ!!どれもこれもバッタしかないじゃないか!!私は要らん!!ねぇ!ちょっと聞いてるかね?」

「バッタの種類選べまーす」「どれも大きいですよ?」


 なんだか凄い剣幕です。無視無視…


「ああ鬱陶しい!!じゃあこのショウリョウバッタの天丼でいい!!」


 余程鬱陶しかったんでしょう…財布ごと叩きつけ適当に注文すると、アフロさんは会計のテーブルを乗り越えて私に直に話しかけてきます。

 なんだかアフロの中が臭いです…無視無視…


「なぜ無視をする?君、今日外人の知り合いが尋ねてくる予定があるだろ?」

「……」

「図星だな?」

「…………」

「…ええいっ!!無視してんじゃ--」


 なんと!突然声を荒らげたアフロさんが私の腕に手を伸ばしてきます!身の危険を感じた私が身を捩ろうとするより早く、毛むくじゃらの手が私の腕を捕まえて--


「--おい」


 その時、背後から浴びせられたとっても低い声にアフロさんが目を見開いた気がしました。気がしただけです。グラサン越しで分かりません。


「なっ--」

「千夜に触るなぁぁっ!!」


 --バチコーーーンッ!!!!


 *******************


 私からバッタ天丼を受け取った達也に吹っ飛ばされたアフロさんはアフロの中身を撒き散らしながら信じられないくらい飛んでいきました。

 シフトから外れた私はこの世のものとは思えない天丼を片手に歩く達也と文化祭を回ることにしました。


「そういえば千夜聞いたか?さっきの放送…」

「放送?迷子の?」


 よく聞いてませんでした。


「あの名前…ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちゃんじゃなかったか?」

「え?ほんと?ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちゃん?」


 あの子またお母さんとはぐれたの?


 こんな事聞いたら気になって仕方ないです。またジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちゃんが泣いてるんじゃないかと思うと自然と私達の足は校舎に向かってました。


 それにしてもこの学校広いです。校舎も新しいくて綺麗だし、敷地もとっても広いです。羨ましいです。うちの学校も復旧が終わったらこれくらい綺麗になってるでしょうか?



 全く天丼に手をつけない達也と一緒に校舎に向かうと、ちょうど玄関から女の子の手を引くスラリと背の高い女性が出てきました。校舎に向かう私達と鉢合わせるかたちでその人影と目が合いました。


「あっ!ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さん」


 その人は間違いなくジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんでした。

 数ヶ月ぶりの再会…

 私達のことを覚えててくれたジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちゃんは顔を輝かせてトテトテと私達に駆け寄ります。


「千夜お姉ちゃん!たつひこ兄ちゃん!」

「わー、ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちゃん久しぶり!!」「達也だよ……」


 懐かしい匂いの抱擁を受ける私達にジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんが愛想良く挨拶してくれます。


「お久しぶりです。いつかは大変お世話になりました」

「お久しぶりです…お元気でした。」「会いに来てくれて嬉しいですっ!」


 過酷な戦場を共に戦い抜いた戦友に向けるような親しみを込めた視線をくれるジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さん。わざわざ日本まで来てくれた彼女は私達との再会を喜ぶのもほどほどに、すぐに達也の手に持ってる天丼に視線を向けて「まぁ!」と声を上げた。


「美味しそうですね」

「「え?」」


 自分達で売っといてあんまりな話だけど…これを…バッタの天丼を見て美味しそう?


「懐かしいです……日本でこんなご馳走をお目にかかれるなんて……」


 懐かしい?

 流石は戦場を渡り歩いた元傭兵さん……戦場では泥を啜ってバッタでも食べたんでしょう……戦慄です。


「…………良かったら、食べますか?」

「いいんですか?」


 引き気味の達也から天丼を受け取ったジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんは幸せそうに米とバッタを頬張ってました。ドン引きです。


「すみません……お礼をしに来たのにご馳走になって…」

「いや……助かりました」


 バッタを頬張りながら歩くジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんとジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちゃんと文化祭を回ることにしました。

 こうして歩いてるとあの国での過酷な日々が蘇ってきます。


「あ、お二人とも、ホンオフェが売ってますよ?」


 うちの学校のクラスがホンオフェを出してました。ホンオフェとはエイの刺身でものすごく臭い。アンモニア臭が凄い。


 文化祭で生物を出すなんてどうかしてる……


「ママ…」

「はいはい……お二人もどうぞ、お金は私が--」「「結構です」」


 バッタに加え小便臭の刺身もパーティに加わり私達の食欲は急下降です。


「……遠慮せずにどうぞ。沢山買いました」

「いや、いいです!!」「やめてください」


 ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんから離れながら歩いてたら今度はクング・ケーキが売られてました。

 …またうちの学校の出店です……


 クング・ケーキとはアフリカの料理で大量の蚊で作った料理です。何を言ってるのか分からないと思いますが私にも分かりません。出店のメニュー表にそう書いてます……


「まぁ!ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世、蚊を食べられるわよ」

「わーいっ!」

「懐かしいです…戦場むこうでは貴重なタンパク質ですから……昔は寄ってきた蚊を捕まえて食べたものです…お二人も--」

「 「勘弁してください」」


 真っ黒な焦げ焦げハンバーグみたいな見た目の蚊の塊を美味しそうに頬張る親子……食べてるものの正体を知ってると吐きそうになる……


「あら、あれはケバブ……?」


 次なる獲物にロックオンしたジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんの視線の先には串に刺さったケバブがくるくる回ってました。

 またうちの学校の店でした……


 ただその店は生徒さん1人しかいなくて他の生徒さんや先生の姿も見られません。文化祭でケバブが焼かれてることに関してはもうツッコまないです。普通です。むしろこれくらいない方が異常と言えるでしょう……


「へいらっしゃい」


 愛想良く私達を迎えてくれた彼--ツルツル頭が異常に大きな、パーティーグッズみたいなふざけたサングラスをかけた生徒さん。端的に表現するならグレイ型宇宙人……

 はてこんな人居ましたかね?


「なんのケバブなんだ?」

「猿の仲間さ」


 達也の返答に返ってきたのは中々にパンチのある返答です。達也、ドン引きです。


「千夜!お前のとこの学校は普通のものは出てないのか!?」

「そんなこと……ないよ?うちのクラスは……フツウだヨ?」


 普通?なんですかそれ?美味しいんですか?


「え……ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さん、まさかこれ食べ……」

「え?猿?気持ち悪」


 バッタや激臭エイや蚊は食べるのに猿はNG?この人の感覚はよく分かりません…


「お猿……気持ち悪い」


 ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちゃんも同じく拒否。絵面的にはただのケバブなので1番まともなのに……


「まあそう言わず…食って見てくださいよ。絶品ですぜ?」

「……達也、食べる?」

「いや……俺はいい」


 誰も食べたがらないので店を去ろうとすると、店からわざわざ出てきて私達を引き留めるグレイ型宇宙人さん。


「食べてくださいよぉ」

「いいって…」

「ねぇー」

「要らんて」

「死ぬほど美味いよ?」

「要らん」

「お願い」

「お金ない」

「タダでいいから」


 達也と押し問答を続けるグレイ型宇宙人さんの懇願は異常でした。タダで食べさせる意味があるんでしょうか?


 変な人だなぁ……って思いながらもうちの生徒だからと思い直す私の横で違和感を感じ取ったのはジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんでした。

 ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちゃんを自分の後ろに退らせながらしつこく食い下がるグレイ型宇宙人さんに睨みを効かせます。


「しつこいですよあなた。その人は私の恩人です。離してください」

「あんたに食べて欲しいんですよォ」


 ……なんだか気味が悪くなってきました。


 言いようのない不気味さに私はジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちゃんを遠さげようと彼女の手を握って離れようとします。

 その私の腕が伸びてきた手に掴まれました!


「逃げないでくださいよぉ」

「千夜に触るなぁ貴様っ!!」


 --バチコーンッ!!


 ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんが制するより先に達也の剛腕がグレイさんの横っ面を吹き飛ばしました。

 達也のあまりの手の早さに仰天と幼馴染として問題視する私の目の前で恐ろしい光景が……


 弾けたグレイさんの頭が飛んでいきました。

 生首が…スポーンって。


「うわぁぁぁぁっ!?達也ぁっ!!」「きゃーー!」


 絶叫する私と、わけも分からず私の真似をするジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちゃん。


 しかし人ひとり殺めたというのに達也は冷静でした。


「落ち着いて、千夜さん。よく見て。あれは被り物…」

「……え?」


 ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんの言葉に冷静さを取り戻す私が改めてグレイさんを見ると、さっきまでの大きな頭ではなく、黒々とした森のようなアフロが立派に頭に乗っていました。

 どうやらグレイ型宇宙人みたいな頭は巨大なアルロを隠すための変装だったようです……


 アフロから棒を突き出したその人はハート型のサングラスをかけたスペインかブラジルに居そうな暑苦しい人でした。


「あなたは…っ、さっき達也に吹っ飛ばされた人!?」

「……貴様、またしても……千夜のストーカーかてめぇ……脳みそかち割ってストローで吸うぞ?」


 達也、物騒過ぎます。


「……お前には無理だ。頭髪は頭を守る為のもの…そして極限までそれを突き詰めた俺のアフロを破り頭蓋骨を割ることは神にも不可能……」


 ちょっと何言ってるのか分かりません……


 突然本性を剥き出しにしたアフロさんはアフロから伸びた棒の1本を引っ張り出します。

 中から出てくる棒は信じられないくらい長いです。先端には鋭い刃が付いてます。槍です。


「なっ…お前、何が目的!?」


 私とジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ三世ちやんを守るように立ち塞がるジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんにアフロさんはニヤリと笑い穂先を向けます。


「目的はお前だよ……我々と来てもらう」

「……っ!?」


 とんでもない状況です。

 しかし普段からとんでもない状況に慣れっこな生徒達はこんな修羅場すら日常の一部として受け入れて通り過ぎていきます。殺陣ショーかなんかだと思ってます多分。

 やっぱりこの学校変です!!


「おいこら……訳分からんこと言ってるんじゃない」


 やめて達也……殺されちゃう……


「……お前らに用はない。消えれば助け--」

「適当なこと言って、本当は千夜が目的なんだろ?この変態ヤロー」

「は?」

「いくら千夜が可愛いからってふざけやがって…許さんぞ貴様」

「いや違う……」

「千夜は俺が守る。一生賭けて守る。お前は許さんストーカーヤロー」


 ふぁぁぁぁぁっ!?!?

 何言ってんの達也!?

 大変です!?達也があまりの事態にとち狂いました!!

 こんな衆人観衆の中告白紛いの--


 …………え?コクハク?


「おぉ!カッケー」「よく言った!!」「男前だね君!!」「やっつけちまえっ!!」「応えてやれ!千夜ちゃんっ!!」


 こんな時だけ現金な野次馬が集まってきてヒューヒュー言い出します。顔から火が出ました。

 いや照れてる場合ではありません!


 歓声に乗った達也が臨戦態勢に入るのをジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんが制止しようとします。


「やめてください!!狙いは私です!!この男……素人じゃない!!危険です!!」

「おのれ……ストーカーめ……」


 ダメです。聞いてません…


「ちっ……なんだか知らんが因縁つけてきやがってめんどくせぇ……めんどくせぇから全員ケバブにしてや--」


「見つけた」



 槍をフォンフォン揺らし達也を幻惑しようとする殺気増し増しのアフロさんの背後に音もなく何者かが現れます。

 地獄の鬼のような声と怒気を孕んだ視線で顔が引っ付くくらいの至近距離からアフロさんを睨みつけるその人はパッと見は三つ編みの可愛いらしい女生徒です。


 ……ただ、ものすごい形相と頭から生やした槍だけが異彩を放ちます。


「あ、やべ…」「宇佐川さんだ……」「逃げろ…」


 見物人が蜘蛛の子を散らすように逃げていきます。ここまで空気のピリピリ感が伝わってきます。

 圧倒的存在感を放つ三つ編みさんに達也が「師匠!?」と声をあげました。この人が達也の師匠さんです?


「…まさかこの俺が背後を取られるとはな……お嬢ちゃん、何者だ?」

「お前だろ?私の頭にこれ刺したの」

「知らねぇなぁ…」

「嘘つけ、テメーの頭から生えてるそれと同じだろーが。お揃いじゃねーか。どうしてくれんだ?あ?」

「…………確かにそれは俺の槍だが、あんたに刺した覚えはマジでないぞ?多分さっき吹っ飛ばされた時に飛んでったんだわ。事故だ。見逃してくれ……」

「駄目だ--」


 か、体が石になったみたいに動きません。

 達也も、ジャン・アンピエール・ルイホッコ・マッカンシー・モルケッチャロフ・ハルハルタン・ルイセルフ・L・アンジェリーナ・タナカ二世さんすら、この女性の気迫に呑まれて身動きが取れません。


 超至近距離からアフロさんの後ろ姿に殺気を飛ばす師匠さんの拳がゆっくりと握られていきます。


 --静止の時は一瞬にして、西部劇の決闘のように破られました!


 アフロさんが突然身を低くしながら振り返り、手の槍を後ろに薙いだのですっ!!

 その動きは普段達也の剣を見てる私でも辛うじて視認できるか否かの--


 --メリッ!!



 猛烈な攻撃に対して、決着は実に静かでした。


 師匠さんの放った拳がアフロさんの顔を見事に陥没させてめり込んでました。ジャイアンパンチです。

 凝縮されたパンチは派手にアフロさんを吹き飛ばすことはせず、洗練された一撃は静かにアフロさんをその場に倒したのです……


「……流石、師匠……」

「馬鹿な……本当に女子高生か?何者…?」「ママー、かっこいいね!」


 仕事を終えた師匠さんは私達や離れた野次馬に一瞥もくれることなく去っていきます。潰れたアフロを残して……



 ……皆さん。

 これが高校の文化祭で起きている出来事です。

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