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浅野姉妹の事件簿④

『頼ろう会』による連続行方不明事件の全容は明らかになった。でも、肝心の消えた人達の行方についてははっきりしてないまま。

 彼らを見つけ出すまでが仕事。


 私達はツルピカこと骨原さんを引きずって事件についてを柴又さんに報告した。

 にわかには信じられない様子の柴又さん。当然だけど、超常的な現象を体感した私達の言葉に柴又さんは半信半疑ながら納得した。


「……一応聞くが君達、彼の宗教に洗脳されてるなんて事ないよな?」


 違う。可哀想な目をしてた。


「とにかく行方不明者が屋上で消えた事は間違いないです」

「ああ……神よ……髪よ……」


 とにかく、『頼ろう会』の所業については学校に報告するとして、柴又さんがそうであるように学校にありのままを報告しても信じられない可能性は高い。

 ので、消えた人達は私達で連れ戻す。


「こうなったら神様とやらに直接話を聞く必要があるね」

「何を言うんだホクロ女!そんな恐れ多いことを--」

「黙れ」


 美夜、暴力はダメよ。


「でも神様は選ばれた人しか会えないんでしょ?私達が会えるのかな?」

「その為にこいつを連れてきたんでしょ?」


 私の疑問に美夜がニヤリと悪そうに笑いながら骨原さんの頭を掴もう…としたけどつるっパゲだから手が滑ってた。

 イラつきながら美夜が骨原さんを脅す。


「神様の所に連れて行け」


 *******************


「嫌だ嫌だ!!私は神様から嫌われたくない!!嫌だ!!」

「黙れ。その神様から髪の毛毟られてるでしょうが。観念しなよ。あんたにもう神様は微笑まないから」


 駄々をこねる骨原さんを引きずる美夜と私は前を行く柴又さんに続いてある場所に向かう。

 神様に会う前に話を聞きたい人達が居るんだとか……


「柴又さん、誰なんですか?その人達って……」

「うん。この学校の不思議現象について調べている同好会だよ」

「同好会……」

「以前女子トイレに押し入ろうとして止めたことがあるんだが……『オカルト同好会』と言ってね」


 女子トイレ……?もう変な同好会ばっかりだよほんとに。


 旧校舎に活動拠点を構えてたというその同好会は例によってグラウンドにブルーシートを敷いた青空教室に居を構えていた。

 彼らはブルーシートの上で何やらファイルを広げて難しそうな顔をしながら美顔ローラーを地面に転がしてた。見たところ真面目に活動してるようには見えない。


「宮島」


 柴又さんが声掛けたらブルーシートの上で美顔ローラーと戯れてた男子と、メガネの女子、坐禅を組んだまま回転テーブルみたいにこちらを向く天パーの男子が揃ってこちらを見た。その表情から私達が歓迎されてないのが分かる。うちの同好会となにか確執でも抱えてるんだろうか?


「……君達は校内保守警戒同好会……一体何の用だい?俺らはまだ何もしてないが…?」


 まだ?


「活動の邪魔をして悪い。少し聞きたいことがあって寄らせてもらった…ああ、彼女らは新しく入った浅野君達だ。よろしく」

「私は無実だ!!私は裏切ってませんよ神様!!」


 紹介されてぺこりと頭を下げる私と、隣でそっぽ向く美夜と、髪の毛もないのに神様に弁明をしまくる骨原さん。恐ろしい絵面だ。

 学校を騒がせた問題児2名が気の狂ったハゲを引きづってやって来たら誰だってあんな顔になると思う。


「我々は忙しい。美顔ローラーでローラースケート靴を作るんだ。帰ってくれ。なぁ?武」

「……良き」


 代表、宮島さんが私達を突き返す横で仏様みたいな穏やかな表情を浮かべるおデブさんは私達を歓迎してくれてる。

 あと美顔ローラーでローラースケートは強度不足なのでやめて頂きたい。


「それで?ご用とは?」


 と、メガネをくいっと持ち上げる女子。名前を阿久津と言うらしい。何故分かったかと言うとデコに書いてるから。あれもなにかのまじないかなんかだろうか…?

 ひと目でわかるのはこの人達もやっぱり普通の人じゃないんだろうなってこと……


「阿久津君よしたまえ。俺達は忙しい。早く制作に戻らねば…なぁ?武」

「……良き」

「我々は歩かずに廊下を移動する謎の生徒の目撃情報を得た。その謎の解明の為にスケート靴による検証が必要なんだ。なぁ?武」

「……良き」


 まずこの人会話が通じてないし……


「話というのは彼の事なんだ」


 と、これまた話を聞かない我が代表も勝手に本題に入りながら喚き散らす骨原さんを指さす。


「彼が屋上で神様に会ったと言うんだ。この学校には神様が居るのか?」

「何を言ってるんだあんたは?正気か?」


 オカルトを追求する人達から正気を疑われた……?

 目の前で薬物中毒者みたいに狂乱する骨原に「うわぁ……」って視線を向ける宮島さんの隣でデコに名前を刻んだ阿久津さんが「学校の神様……?」と興味を示す。

 その頭の名前はどんな意味があるんですか?


「よすんだ阿久津君。こいつらは俺達の調査を邪魔きた奴らだぞ?取り合う必要はない。なぁ?武?」

「……良き」


 良いそうなので阿久津さんが詳しく話を聞く。私達はそれに応じて『頼ろう会』や屋上の鳥居について説明した。


 阿久津さんが説明を聞いてる間「やめるんだ」「俺達は忙しい」と余程私達の同好会を疎んでるらしい宮島さんと坐禅のままするする動き回る武さん。

 私分かりました。歩かずに廊下を移動してるの武さんです。


 阿久津さんは話を聞き終えて、広げられたファイルをめくる。

 ページをめくる阿久津さんの手を「待つんだ!」と宮島さんが止めた。


「情報が欲しいなら条件があるぞ?我々の情報は足を使って手に入れた安くはないものだ」

「なにが望みなんだい?」


 彼の反応に何らかの手がかりを持ってると踏んだ柴又さんは彼らに歩み寄る。

 宮島さんはそれに対して条件を提示。


「以前君らが邪魔をしたトイレの花子さんの調査をさせてもらう。具体的に言うと女子トイレを調べる。カメラも仕掛ける」


 ド変態だった。

 いつか盗撮騒ぎがあったばかりだと言うのにカメラなんて……女子トイレにカメラ?


「仕方ないな…1日だけだぞ?」


 柴又さん!?


 信じられない事に要求を呑んだ柴又さんに美夜がグラウンドに唾を吐いて嫌悪感を顕にする。てかそんなこと私達の一存で決めていいの?てかどんな理由があってもトイレにカメラはダメでしょ?


 とにかく交渉が成立した。

 この人達は後で先生にチクるとして、ファイルをこちらに見せる阿久津さんが私達の欲しい情報--正確にはその真実について話し出す。


「神様は知りませんが…屋上に謎の鳥居が現れる怪奇現象は、複数の報告があります」


 美夜が「マジで?」って呟いた。でもオカルト同好会の事をまだ信用してない様子。

 阿久津さんから引き継ぎ、宮島さんがこの土地の伝承について説明する。


「そこのハゲの言う通り、この土地には昔から神が宿ると言われていた…この学校の建っている場所はその昔、この土地の人々が土地神を祀っていた神社があったんだ……」

「……本当に神様が居たんですね?」

「さぁね。地元の古い資料によると、この土地で祀られていた土地神とは、神聖なものというより邪神のようなものなんだよ」

「……邪神」


 骨原さんが見たという女の子はこの土地に昔から居着いた邪神だって言うの?


「伝承によるとこの神は土地に疫病をばら撒く邪悪な存在で、疫病に罹った人達はみな腰を悪くして農作業が出来なくなり、村は瞬く間に飢饉に陥ったという」


 腰!?

 あの同好会の人達が中腰でぎっくり腰になったの、邪神の祟り!?てか腰にくる疫病って何!?


「この土地では昔から疫病を抑える為にその神を祀り、生贄を捧げていたんだと言う…」

「…その邪神様がうちの学校の屋上に住み着いてるってこと?」


 美夜がそうまとめるけど、宮島さんは確証がないと首を振る。


「確かにこの学校の屋上には時々鳥居が現れるそうだが、我々も確認できてはいないしその伝承との因果関係もはっきりとはしない。今話したのはこの学校の怪奇現象と君達の話を合わせて考えた可能性だと思ってくれ」


 宮島さんはそう言った。

 でも…『腰』に『生贄』に『神様を祀る神社』…

 全てのパーツがパズルみたいにピタリとハマっている気がする。

 もちろん、それはそんな信じ難い迷信が現実ならの話…


 でも、綺麗にハマるそれぞれのキーワードと、目の前で見せられた超常現象が自然な程私達の頭の中で噛み合った。


『頼ろう会』が信奉してたのはこの土地に古くから伝わる邪神。

 その邪神が生贄を求めて『頼ろう会』を設立するように仕向けたのではないかと…


 *******************


 --ガチャンッ


 さて相手の正体は分かった。

 ただの神様じゃなくて邪神とは……もし本当にその伝承通りの存在が居たのなら私達も相応の覚悟が必要……


「姉さん…なぜ手錠をはめた?」


 私と美夜、柴又さんは唯一神様と話せる骨原さんを連れて屋上へ向かう…

 目的は事件の解決と究明。消えた人達を取り戻す。


 が、しかし…


「なんだこりゃ…」


 屋上へ続く階段を登った先の光景に柴又さんが呆気に取られる。私達もだ。

 屋上へ出る為の扉が木材と釘で頑丈に封をされていたから…

 美夜が骨原さんを問い詰める。照明の少ない屋上への階段では彼の頭の輝きも格落ちだ。そのせいか彼は酷く狼狽えた様子。


「おい、なんで閉まってんだ?」

「あぁ……きっと神様がお怒りになられたんだ……くわばらくわばら……」

「神様がトンカチと釘で板貼り付けたって?」

「あああもう知らないぞ……私は知らない…」


 神様の声でも聴こえてるのか、骨原さんは大層怯えてらっしゃる。邪神の怒りだ、相当だろう。


「屋上は立ち入り禁止だからな。多分先生か誰かが塞いだんだろ……」


 と、現実的見解を示す柴又さんは頭を抱える。

 確かにこれでは屋上に入れない。神様に会えない。

 頭を抱えた柴又さんは「仕方ない」とスマホを取り出した。


「誰かに連絡するんですか?」

「『鍵開け同好会』を頼ろう……専門外かも知れないけど…」


 鍵開け同好会?それなんの為の同好会ですか?



 --柴又さんが連絡してからわずか数分で、工具箱を手にした暗い雰囲気の男子生徒が駆けつけた。いかにもアングラな業界の人みたいな危なげな風貌。鍵開けなんて事をしてる事前情報から不穏な空気が漂う。


「すまない。これなんだ」

「難しくはないですが旦那、少し時間をもらいますよ?」


 柴又さんを旦那と呼ぶ彼はもう高校生には見えないんだ。彼らは長い付き合いなのかな?


『鍵開け同好会』の生徒は工具箱から釘抜きやら電動ノコギリやらを持ち出して作業に取り掛かる。申し訳ないけど完全に金庫破りの風体…


 厳重に封印された扉は鍵開けの人の活躍でものの数分で封をしてた木材を取り外され、鍵のかかった扉はわずか3秒で開いた。早すぎる。ちょっと怖い。


「え?鍵ってこんな簡単に開くの……?」

「ここの鍵は熟知してるからね。何度も開けたさ…それじゃ旦那、また」


 仕事を終えた鍵開けの人はそのまま足早に現場から逃走……じゃなくて立ち去った。見送る美夜が「あいつも取り締まった方がいいんじゃない……?」と警戒を顕にする。

 確かにあんな人居たら更衣室とかの鍵無意味…


 それはともかく!!


 私がドアノブに手をかけたらあっさりと扉は開き、細く開けられた扉の向こうから外の明るさが薄暗い階段に差す。

 手錠で引っ張られた美夜が「痛いっ!!」って悲鳴を上げる。


 そんなこんなで…

 私達はいよいよ最後の戦いに踏み出した--

 校内の治安を守る為に……

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