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浅野姉妹の事件簿②

 私達校内保守警備同好会は謎の行方不明者を出す『頼ろう会』への潜入を敢行した。

 そこで目の当たりにしたのはまさに神様の御加護だった。



 --私達の望みを不思議な力で叶えて見せた同好会代表兼教祖の骨原さんは見せつけたその神秘に愕然とする私、浅野詩音と美夜を前に改めて私達を歓迎した。


 神様とやらに恋を叶えてもらって鼻の下が地面に着くくらい伸びてる宮原君、今だに疑ってかかってる美夜に挟まれ、私は完全に神様を信じていた。


「それでは3人とも、晴れて『頼ろう会』へ入信するにあたってまずお布施を頂きます」


 もう入信とか言ってるあたり同好会じゃなくて教団だって言ってるようなものだ。

 そんな怪しすぎる教祖様がロン毛をファサァッてしながらよこせと手のひらをこちらに向けてきた。

 そういえば信者からお布施を集めてるって柴又さん言ってた。


「…なんで同好会に入るのにお金取られるの?」


 手錠から解放された美夜がごもっともな意見をぶつける。いかに教団の体を取っていても学校で活動する同好会だ、美夜の不満もごもっとも。


「奇跡とはそんなに安くないのですよ。お布施は活動費として有効に使いますので御安心なさい」

「活動費は学校から出るでしょ?てか、活動費ってここでお祈りするだけなのになんでお金が必要なのさ」


 と美夜が噛み付く隣で宮原君が財布ごと教祖様に手渡してた。その目は完全に宗教にのめり込んだ信者…

 この人……ダメかもしれない。


 とは思いつつ私は美夜を止める。


「美夜……お布施しないと入会できないよ。私達には目的があるんだから」

「は?払うの?」

「後で取り戻せばいいから……」


 なんとか説得して渋々美夜は財布を取り出す。


「いくら?」

「神様は寛容です。多くは取りません。今持っている分で結構ですよ」


 もう危ない宗教そのものなんですが……

 私に諭されて「ちっ!」と分かりやすく財布から全財産を放る美夜。

 その額わずか30円。


「あれ!?美夜これだけ!?」

「これだけだけど!?(怒)」

「美夜、お母さんからお小遣い貰ってる?それだけしか持たないで大丈夫なの?やだ、お姉ちゃん心配……私のお小遣い分けてあげるよ……」

「うるさい!!早く姉さんも出しなよ!!」


 ……これはお母さんに話さなきゃいけない。高校生の全財産が30円ってどうなのよ。

 とりあえずそれは置いといて私もお布施として450円を渡す。私達からお布施を受け取った骨原さんはなんとも言えない表情を浮かべながら手のひらを見つめてた。


 *******************


 こうして晴れて『頼ろう会』に入信した私達3人は支給された真っ白な服に着替えて気分は完全にカルト教団にのめり込んだ信者。

 さて、ここで私達の目的を確認しておこう。


 私達はこの同好会で相次ぐ行方不明者の捜索と、この同好会の調査の為に潜入した…


「あぁ神様…次は期末テストで満点を…」


 目的をすっかり忘れて洗脳状態の宮原君はさておき……

 この同好会が信者からお布施と称してお金を巻き上げてるのはまず確定。


 問題は行方不明になった人達だ。

 この同好会が絡んでいるのか……まずはそこを探らないといけない。


「それに、神様の正体も…」

「姉さん、信じ込んだらそれこそ思うつぼでしょ?絶対なにかタネがあるはず……」


 と、頼もしく警戒を怠らない美夜。

 正直完全に神様の奇跡を信じ込んでいる私は宮原君の如くさらなる欲が顔を覗かせだしてるけど…


「さぁ皆さん、今日も神様へのお祈りを怠らず、神様の御業に頼りましょう!」


 これから神様にお祈りをするんだって。

 私達は他の信者達と並んで教壇の上で珍妙なダンスを披露する骨原さんを眺める。


「あの……あれはなんですか?」

「神様に捧げる神楽です」


 腰を激しく振る教祖の奇行に信者がそう説明を補足してくれた。

 とんでもない事にあれを私達にもやれという…


「さぁ祈りますよ!!神様お願いします!!」

『お願いします!!』

「なんでもかんでも、何とかしてください!!」

『なんでもかんでも、何とかしてください!!』


 骨原さんに続いて腰を振りながら適当なお祈りを捧げる信者。


「美夜……私達もやらないと…」

「くっ!なんでこんな辱めを…」


 私達も周りに習って腰を落としてフリフリ。これ、結構きついです。


「むっ!……神様からのお告げが……」


 ノリノリで腰を振りまくってた教祖が突然中腰で動きを止めた。それに合わせてピタリと静止するみんなの姿は軍隊を彷彿とさせるほど息があってる。

 乱れたロン毛を整えながら何やら天井ら辺を見つめて耳を澄ませる教祖を舞の途中の格好のままみんなが見つめる。


 ……え、中腰きつい…


「ふむふむ……聞こえます。神様の声」


 ホントですか?私達には聞こえません。

 完全に取り込まれた信者達は神の声とやらに耳を傾ける骨原さんを固唾を呑んで見守る。

 隣で美夜が苦しそうだ。

 私もきつい……腰の骨が砕けそう…


 じっくりたっぷり勿体つけた教祖は「整いました!」と何が整ったのか突然大声を上げる。


「神様が申しておられる…今日は3人だと」


 3人?

 突然意味不明な事を言い出す骨原さん。その声に信者達は「3人…」「3人か…誰が行く?」と口々に呟き出す。


「くっ……いつまでこの体勢?」


 そしてその間も中腰のまま。

 全員を中腰待機させておきながらちゃっかり自分だけちゃんと立ってる教祖様がポロポロと涙を流しながら「おぉ、神よ……」と感嘆の声を漏らす。

 神様が本当に居るならこの人も本当に声が聞こえてるんだろうか……突然泣き出した骨原さんの姿に軽く引きながら続く言葉を待つ。


「なんとお優しい……1人につき1人で、願いを叶えてくださるのですね?あぁ……まるで天の恵のような慈悲深さ……深い海のような慈愛……果てのない空のような寛大さよ……」


 おいおいと泣き出す骨原さん。涙で顔をぐしゃぐしゃにしてる。いよいよヤバいこの人……

 一体どんなありがたい言葉を賜ったんだろ……


 そろそろ太ももがパンパンになってきた。プルプル震え出す信者達に混じり教祖の奇行を見守っていると、みんなに向けて骨原さんが話し出す。


「今日はめでたい日です…3人の同士が新たに加わり、3つの悩みを何とかしてもらいました。やはり神の力は偉大です。神様に頼れば何とかなります」


 神様も安く見られたものだ。それにしても本当にいつまでこのまま…?


「しかし神の御業もタダというわけにはいきません。皆さん、分かってますね?」

「……は?お布施まで払ってその上まだ駄賃を取る気?」


 滝のような涙を流す骨原さんのなんだか不穏な言葉に美夜が警戒を顕にする。プルプル震える脚で中腰のまま私の前にさりげなく移動した。

 私を守ってるつもりだろうか…?なんて健気な妹。好き。


「皆さん、選別の時間です。今日は3人です」


 骨原さんがそう言うと信者達も教祖に釣られるようにおいおいと泣き出す。

 皆が一斉に泣きじゃくる様はまさにイカれた宗教団体で薄ら寒いものが背筋を走る。

 彼らは事態を呑み込んでいるみたいだけど、なんのこっちゃ分からない私は隣でビービー泣く信者さんに小声で尋ねる。


「3人ってなんですか?」

「うぉぉぉ……ぉぉ……うっうっ…神様に何とかしてもらう代償は生贄なのです」

「……え?」

「ぐすっ…生贄を捧げることで神様は我らの願いを聞き入れてくださいます…おぉ、なんと慈悲深い」


 い、生贄!?


「生贄ってなんですか!?」

「誉高いことであります…その身を神様に献上するのです……おぉぉ…あぁ、なんと慈悲深いことか……何とかしてもらってその上この身をそのお側に行かせて頂けるとは……」


 嫌な予感が確信に変わる。同時にとんでもないところに来てしまったと悟った。


「……あの、生贄って、選ばれた人はどうなるんですか?」

「神様にその身を捧げるのです。うぅぅ……」

「だから、具体的に……」

「捧げるのです……うぉぉぉぉぉんっ!!」


 だ、ダメだ。興奮して話にならない……

 私と美夜は顔を見合わせる。

 まずほんとにいつまで中腰で待たされるのかと、こんな恐ろしい事が学校の中で行われてるなんて……


 この同好会で行方不明になった人達はその生贄に選ばれた……?

 確信に近いものを得ながら同時にとんでもない身の危険を感じる。

 ほんとに神様がそんなことを言ってるのか定かではないけど、骨原の言葉に疑いを持たない信者達。生贄に選ばれる事が栄養ある事だと咽び泣く彼らの異常な様はすぐにでも逃げ出したくなるものだった。


 生贄にされた人達はどうなったんだろ…

 まさか……最悪の想像が頭を過ぎる。


「さぁ…今宵その身を捧げる信者は--」


 全員に視線を送り選別を始める骨原さん。

 どうするべきか…?

 わざと選ばれてみる?そうすれば行方不明になった人達の所在も分かるかもしれないけど…そんなの危険すぎる。


 その時、ドテッ!!と床に落ちる重い音に骨原さんの視線がそちらをロックオン。

 何かと思えば宮原君。

 中腰姿勢に耐えきれなくなった宮原君がその場に尻もち着いて倒れてた。


 そんな間抜けな…いや無理もない仲間に教団の魔手が迫る。


「おお、嘆かわしい…神への祈りの姿勢を保てないとは…神様に何とかしてもらっておきながら…情けない」

「え?」

「その忍耐の足りない部分も、神様に何とかしてもらいましょう。生贄は君で決まりだ」


 私と美夜の顔がさぁっと青くなる。

 この頓痴気っ!と美夜が口の中で毒を吐く。

 私達がアワアワしながら見守る中骨原の言葉に従った信者達がぞろぞろと中腰のまま宮原君に迫ってくる。

 感情のない顔で涙を垂れ流し、中腰で迫ってくる信者達に彼の顔が青くなる。


 助けを呼ぶべきか…?でも今動いたら……

 逡巡する私の隣で突然、中腰だった美夜がスっと立ち上がった。


「あんた達いい加減にしろっ!!意味の分からないこと言って弱者を食い物にする気かっ!!」

「み、美夜!?」


 見かねた美夜が毅然と言い放ち、ポケットから同好会の腕章を取り出して見せつけた。


「私達は校内保守警備同好会だっ!!こんなふざけた同好会、見過ごすわけにはいかない!!学校に報告するっ!!」


 美夜の啖呵をじっと見守っていた信者達と骨原は美夜が一気に言い終わると同時にポロリと一筋の涙を流す。

 激昂して襲いかかって来るのかと思ってただけにその反応は一層不気味だった。もはや私の中にさっきまであった奇跡の感動も神様の信憑性も消えてた。


「……君達、いつかのあのふざけた人の仲間ですか。彼は生贄としてその身を神様に捧げましたが…そうですか、そういうことなら君達もその穢れた身を浄化して頂く必要がありますね」

「美夜!」


 一斉にこちらを向く信者達の視線から美夜を守るように私が前に出る。

 フラフラと生気のない目をした信者達が中腰のままゆっくりにじり寄ってくる。


「生贄が決まりました…哀れな同士を神様に捧げましょう」


 骨原さんの声に信者達が中腰背筋ピーンのまま襲いかかってくる。

 真っ先に集られた宮原君が悲鳴をあげる中、美夜が私の手を引いて出口に走り出す。


「美夜!!宮原君を……」

「言ってる場合かっ!!このまま職員室に--」


 しかしそう簡単にはいかない。出口を塞ぐように立ち塞がる中腰の信者達。大きな体の男子達が圧倒的物量で迫ってくる。その目からは濁流の如く濁った涙を流し無表情のまま手を伸ばす。


 この人達やっぱりおかしい…っ!


 洗脳なのか神様とやらの力なのか……じりじり後退するしかない私達は追い詰められ互いに手を握り合う。


「さぁっ!!この愚か者達を救って差し上げるのですっ!!」


 教壇で教祖骨原が恍惚とした表情で叫ぶ。

 追い詰めるようにじりじり迫っていた信者達がその声に弾かれて中腰のまま飛びかかる!!

 私は咄嗟に美夜の前に出た。

 私の腕を掴み取る信者の1人に引っ張られ「姉さん!!」と後ろで声があがる。


 何があっても……美夜だけはっ!!


「この……っ!離してっ!!」


 捕まったまま私を捕まえた信者を支柱に私は脚を放り出した。

 不格好に投げ出された脚は信者のピーンと伸びた腰にぶつかって…


 --ゴキッ!!


「あひんっ!?」

「?」


 女子1人の頼りない蹴りをもらった信者が悲鳴を上げてガクリと崩れ落ちる。

 腰を押さえてもんどり打つその人を皮切りにまるでダメージが連動したみたいに次々に信者が同じように倒れ込む。

 みんな腰を押さえて……


「……え?」

「……え?」

「…………え?」

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