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浅野姉妹の事件簿①

 謎の巨大隕石がグラウンドに激突してはや1週間…

 校舎復旧中の降って湧いた休みが明けてなんとか通常通り授業が受けられるようになって学校が再開しました。


 ……とはいえ。


「……旧校舎は半壊…部活棟はまともに使えず我ら校内保守警備同好会は絶賛青空教室か……」


 まだ蒸す日中の空の下、クレーターの出来たグラウンドにブルーシートだけ敷いた我らが校内保守警備同好会は今日も校内の安全を守るべく活動を始める。


 私--新入りの浅野詩音とその妹美夜。

 今日も固く手錠で繋がれて、2人並んで他のメンバーと共に柴又さんの話に耳を傾ける。

 今日は柴又さんが活動内容を1つ決めていた。


「姉さん!!熱い!!直射日光で熱を帯びた手錠が私の手を焼いてるんだけど!?」

「美夜、これは太陽光じゃなくてお姉ちゃんの愛情だよ?」

「お姉ちゃんの愛情は分かったからその愛情で焼き殺される前にこれ外して!?」


 美夜は今日も元気です。


「諸君、聞いてくれ」


 乳くり合う姉妹に釘を刺すように柴又代表が改まって口を開く。


「まず、先日の体育祭はおつかれ。みんなのおかげで体育祭は無事に終わった」

「無事か?」「学校半分吹っ飛んだけどな?」「校長の頭のカラス、まだ抜けてないらしいぞ」

「みんなの活躍のおかげで体育祭の平穏は守られた」

「俺らなにかしたっけ?」「余計な釘を刺すなよ。代表がいい気分で話してんだ…」

「特に同好会リレー、あれは盛り上がった。惜しくも現代カルチャー研究同好会に1位を奪われたけどね」

「すみませんねぇ。アンカーが私で」「美夜」


 相変わらず卑屈な美夜にも柴又さんは親戚のお兄ちゃんのような鷹揚さで「ははは」と笑ってくれた。相変わらず徹底的にマイナス思考な妹にいい加減うんざりしてもおかしくないのに…

 柴又さんには感謝しかない。こんな校内の厄介者を引き取ってくれて……


「美夜ちゃんの走りは素晴らしかったよ?みんな褒めてたじゃないか?あの歓声が聞こえたろ?」

「…………」


 まだ『学校』へのトラウマ拭えぬ美夜もこの同好会での活動を通して少しずつ変わってきた。

 柴又さんや仲間達の暖かい視線に照れくさそうにする美夜を見てそんな気がした。


「まぁそれはいいとして……」と柴又さんはホンワカする場の空気をしめるようにオホンと咳払い。


「11月に行われる文化祭だが、我が校がこんな有様故、出店スペースの確保が難しいとのことで、桜区の愛染高校の敷地内で合同ということになった」


 へー、知らなかったよ。


「ということで今年の文化祭は規模が大きくなる。ので、トラブルが起こらぬ様我が同好会はこの文化祭、全力で校内警備にあたることになった。他校ではあるが、特別任務ということでみなそのつもりで……」


 特別任務……仰々しい響きになんだか緊張感が高まっていく。まだ先の話だっていうのに…

 というか、たかが文化祭に警備…?

 いや、この学校の場合何が起こるか分からないし……


 と、ここまでは連絡事項の様です。

 本題ですと柴又さんは厳しい顔つきで話し始める。その内容は少々深刻だった。

 それにしても手錠が熱い……


「実は最近我が校に新しい同好会、『頼ろう会』なるものが出来た。もう知っている者もいるとは思うがこの同好会、同好会とは名ばかりの新興宗教だ」

「し、新興宗教ですか?」


 学校と新興宗教というワードの繋がりが見えなくて目が点になる。でも他のメンバー達は深刻そうに柴又さんの話に耳を傾けているあたり、この一件無視できるような話では無さそうだ。


「『頼ろう会』は神様に頼れば大体なんとかなるを教えに今校内でどんどん会員を増やしている。活動内容は不明。しかし、代表は教祖を名乗り会員からお布施を集めているという話だ」


 それはちょっと悪質……てかなんでそんな意味不明な同好会が活動を許されてるんですか?

 この学校、変な同好会しかないじゃない。


 しかもこれだけでは終わらなかった。柴又さんは「しかも」と続ける。


「どうやら同好会に参加したメンバーの何人かが忽然と姿を消しているようだ。調査の為に潜入させたうちのメンバーも1人、消えている」

「消えた!?消えたってどういうことですか?」

「うむ……学校に姿を現さない上に家にも帰ってないらしい」

「完全に行方不明じゃないですか……」


 戦慄する私の横で「この学校治安悪すぎでしょ」とどの口が言うって感じで美夜が呟く。

 しかし直後、「あっ…」と何か気がついたように小さく声を上げた。


「どうした?美夜ちゃん」

「いや…別に……手錠が熱いだけです」


 誤魔化すような美夜の反応にジリジリと焼け爛れてきた手首に眉根を寄せながら私は胸に引っ掛かりを覚える。

 しかし柴又さんはそれ以上追求することなく今日の活動を発表する。


「というわけで、我ら校内保守警備同好会は『頼ろう会』の調査に向かう!!」


 *******************


 --ミッション:『頼ろう会』を調査せよ!!


『頼ろう会』は現在、本校舎に拠点を構えて信者を増やしている。

 代表者兼教祖は3年骨原こつはら。会員数は現在48人。数が多いので部活動に昇格しようと画策中とか。

 そして問題の行方不明者は同好会入会者の1年から3年で、既に6人にも及んでいる。


 さて、このきな臭い同好会が何故放置状態なのかは謎だけど、今回この同好会を調べる為にスパイを送り込むんだとか。


「今回は浅野姉妹に宮原に頼みたい」


 柴又さんに指名されたのは私達と同じ2年の宮原みやはら君。亀の子たわしみたいな頭の細い少年だ。

「なんで私なんですか?」って文句を言うんじゃないかと心配したけど美夜は大人しく従う姿勢を見せる。柴又さん曰く女子の方が警戒心を解きやすいだろうとの事。宮原君は私達の護衛役。


 さて、こうして危険極まりないミッションに選抜された私達3人は気合いを入れて『頼ろう会』の教室に向かう。

 怖い仕事だけど…何人も行方不明になってる生徒が居るなんて見過ごせない。私と美夜はこの学校のみんなの為に役に立たなきゃいけないんだから……


「安心しなよ浅野君、俺がついてるから」


 と、手錠で繋がれた私達に宮原君があんまり頼りにならないガタイで笑いかけてくる。愛想笑いを返しつつ私は美夜に尋ねてみた。


「美夜…大丈夫?私てっきり美夜の事だから嫌がるかと思ったんだけど…」

「そうだね。みんな嫌がったから俺らにおハチが回ってきたわけだし…文句のひとつも垂れないなんてね」


 宮原君からとんでもない一言が。

 あんな頼もしそうな人達が嫌がる仕事を女子に押し付けたんですか?

 とはいえ私達の言えたことではありません。私はただひとつ心配な美夜の方を伺う。


「……別に。ちょっと気になることあるから」

「気になること?家の鍵は閉めたしガスの元栓も閉めましたよ?」

「主婦か。なんでこの場で家のこと心配するのさ。違う。野球部から相談されてんだ」

「何をだい?俺に話してご覧?」

「みつなんとかって奴が最近部活にも顔を出さないで家にも帰ってないんだって。何とかしてくれって無茶振りされた」


 美夜は宮原君なんて初めから居ないみたいに私にだけ話しかけてくる。可哀想。宮原君なんだかしゅんとしてるよ……


「でもそれってさ…なんか今回の件と似てると思わない?姉さん」

「確かに……宮原君、みつなんとかって人も行方不明者の中に居るのかな?」

「みつなんとかじゃ分からないよ」

「美夜、その人の名前覚えてないの?」

「野球部のみつなんとかだよ」


 覚えてないみたい。

 でも美夜……相談事を持ちかけられるくらいには周りの人達に信頼されてきたんだね…まだ入学したばかりで、私達への風当たりは強いものかと思ってたけど……

 それに美夜も真剣にその相談を解決しようとするなんて……


「……お姉ちゃん嬉しいよ」

「?」

「ベイビー達、見えてきたよ」


 ベイビーさん達に呼びかける宮原君の視線の先には怪しげな看板を掲げた教室があった。

 看板には間違いなく『頼ろう会』って書いてある。

 緊張と不安に鳴り響く心臓を抱いて、同好会入会希望の書類を手に私達は引き戸を開ける。


「--さぁ、神に祈りましょう!!助けてください!!」

『助けてください!!』

「何とかしてください!!」

『なんとかしてください!!』

「全部やってください!!」

『全部やってください!!』


 扉を開けた瞬間鼓膜を叩くのは壇上でロン毛を振り乱して頭を上げたり下げたりしながら叫ぶ男子生徒とそれに習う大勢の生徒達。

 みな壇上の男子に続いて床に膝をつき頭を上げたり下げたりしながら神様とやらにお祈りを捧げてた。


 もう入りたくない空気がビンビンだ。

 教室は薄暗くてなんの意味があるのか照明もつけず蝋燭の明かりだけが点ってる。教室のカーテンはとっ払われて紫色のカーテンが仰々しくかけられてた。

 ……危ないよ。蝋燭の火がカーテンに引火したらどうするの。


 怪しすぎる気迫に押されぽかんとしてる私達に気づいた壇上の男子が立ち上がって怪訝そうに入口の私達を見てる。対抗するように美夜が猫みたいに体を膨らませた。


「何用かね?」


 なんだか芝居かかった口調でロン毛をかき分けながら私達の前に歩みでる男子……多分この人が教祖の骨原さんだろう。


「あの、入会希望で……」


 さっきまでの威勢はどこへやら、異様な空気にすっかり縮こまった宮原君が恐る恐る入会希望の届けを差し出す。

 その書類に目を落とした骨原さんは険しい顔を一転させて私達に笑顔を向けた。「うさんくせぇ」と隣で美夜がポツリ……


「そうかそうか。よく来てくれた。君達も救いを求めて我が同好会の門を叩いたのだね。歓迎するよ同士よ」

『バンザーイ!!バンザーイ!!』


 骨原さんが私達に歓迎の意を表すると後ろの信者達が一斉にバンザイし始めた。とても正気とは思えない光景はまさにイメージするカルト教団そのもので不気味さに背筋に嫌な汗が伝う。ここで何人も生徒が消えているという背景を知っていれば尚更。


「おかけなさい」


 信者の用意した椅子に並んで腰掛ける私達に骨原さんは「オホン」と咳払い。


「神は全ての人に平等です。救い求める同士の手を振り払うことなどしないでしょう…とはいえ、同好会である以上入会希望の動機をお尋ねしたい」


 面接!?


「君達も神に縋る他ない哀れな子羊…そうだろ?何に悩み、苦しんでいるのか、お答えなさい」


 ……まさか入会動機が必要なんて…困った。

 私と宮原君が顔を見合わせてると、隣で美夜が怯みもせずにキッパリと--


「この手錠の鍵がなくなって外れなくて困ってます」

「っ!?」


 なんで?どうしてそんなこと言うの?いくら潜入する為の方便だって……仮に外れなくても困ることなんてないじゃない!!


「では、あなたも同じお悩みかな?」


 不満しかない。私と美夜はいつも一緒なの、手錠が外れなくても問題ないの。てか鍵持ってるし……

 でも隣の美夜から無言の圧をかけられたせいで「はい」としか言えませんでした。


 私達の悩みを聞き入れた骨原さんは「よろしい」と頷いてから壇上に駆け上がった。


「皆さん!!この同士の為に祈るのです!!神よ!哀れな子羊を救いたまえ!!助けてください!!」

『助けてください!!』


 骨原さんに合わせて信者達がさっきみたいに神様に祈りだした。ギョッとして振り返る私達を無視して祈りは続く。


「鍵をなくしました。手錠を外してください!!」

『外してください!!』

「助けて神様!!アーメン!!」

『アーメン!!』


 ……なんか適当だな…

 なんて半眼で呆れてたその時!!

 カチャッと金属音がしたかと思えば、私達の手首を繋いでた銀の輪っかがなんの前触れもなく口を開いてするりと腕を這うように床に滑り落ちた。

 もちろん私は鍵を外してない。鍵はブレザーの内ポケットの中。


 誰も手を触れてない手錠がひとりでに外れる怪奇現象に私達3人はゾッとした。そして、目の前の神秘体験にちょっとだけワクワクしてしまった。


 みんなのめり込むわけだ…

 面接はこの為なんだ……目の前でこうやって悩みや問題を解決してもらって、神様の存在を信じ込ませるんだ……


「ふぅ……祈りが届きました。神様にお願いすれば大体なんとかなるのです」


 トリックを疑う美夜がまじまじ手錠を観察してるけど、手錠には誰も触れてない。

 目を皿にして手錠を弄る美夜にどうだ?と言わんばかりの視線をぶつける骨原さん。


 ……え?神様ってほんとにいるの?

 いたとしてこんなしょうもないお願い簡単に叶えてくれるの?

 そんな私の心の中で呟く疑問に返すように骨原さんはこの同好会の教義?的なものを語り出す。


「元々この土地は神聖な土地神様のもの…そこに宿る神様がこの学校を守られておられるのです。そして、神様とは人々の信仰の元にその力を維持する存在……心から神を信じ、祀れば神様は応えてくれます。あとは困った事は全部神様に任せればいいのです。それが神様です」


 へぇ……ここって神宿る土地なのか。

 後半の教義はろくなもんじゃなかったけど、こうして神様とやらの力を見せつけられたらぐうの音も出ない。

 それにしても安っぽい神様だ。あんないい加減なお祈りで願いを叶えてくれるなんて…


「さて、お次は?あなたの悩みを言ってみなさい」


 さっきから尊大かつ胡散臭い骨原さんに促され、宮原君は「あっ!はいっ」となんだかワクワクした顔で応じる。

 この人すっかりのめり込みかけてない?私達の目的忘れてない?


「……あの、好きな人と付き合いたいです」


 忘れてるね。完全にお願い叶えて貰う気満々だよ。


「誰かね?申してみなさい」

「同じクラスの……馬場さん」

「よろしい!さぁみなさん!!同士の為に祈るのです!!」


 骨原さんの怪しすぎるお祈りが始まった。まだ半信半疑の美夜は教室や信者達の様子をジロジロと観察してる。

 でも、私の見る限りこの人達本当に床に頭擦りつけてお祈り(?)してるだけ……


「--宮原君!!」


 と、その時!お祈りの途中で同好会室の扉が蹴破られた!!

 ヤクザのカチコミかってくらいの勢いで部屋に飛び込んできたのは黒髪ロングの可憐な女生徒。突然乱入してくる生徒に何事かと私達が目を丸くする。


「馬場さん……」


 直後名前を呟く宮原君の声にギョッとした。教祖骨原は満足気な顔でウンウンと頷いる。

 まさかと戦慄する私達の目の前で馬場さんは遠距離恋愛中の彼女かって勢いで宮原君の体に抱きついて--


「愛してる!!」

「「っ!?」」

「付き合って!!結婚して!!抱いて!!」

「「っ!!!?」」


 だらしない顔でデレデレする宮原君と飛躍しすぎな愛の告白現場を目の当たりに、私はいよいよこの同好会の言う『神様』の存在を信じ始めてた。


「……どうです?これが神の力です」

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