うん。
「……すまんな、集まってもらって」
放課後の教室に集いし我が友達を前にウチは深刻な胸の内を吐き出す準備を整えとった。
傍から見たらくだらんことやけど、ウチからしたら大変な問題なんよ。ウチには他に頼れる奴が居らんのよ。
「どうしたの?香菜…私これから部活だからあんまり時間取れないけど…」
陸上部、速水。
「楠畑、この後警察署襲撃するんだけど来る?」「レン…ほんとにやるんだね?」
元生徒会、田畑、長篠。
すっかりおなじみになってしまったお馬鹿四人衆…いやウチはカウントには入らん。放課後、皆が出払った教室で卓を囲む。議題は、ウチの最近の悩み--
我ながら恥ずかしい話…楠畑香菜、悩んでいる。
「……なんで警察署襲うのよ…」
「速水っ!あんたも来るでしょ!?トモダチだよね?」
「トモダチだよね?はトモダチに使う文句じゃないんよ。レン」
「実はね…私達の家族が警察に没収されて……」「カラカルのぽよぽよを助けに行くんだよっ!!」
こいつらでええんやろか……
「ぽよぽよは今ええんよ…それよりウチの話を聞いてくれ」
「何さ」「楠畑が相談なんて…悩む頭があったんだね?」
「側頭部に引っ付いとる毛毟るぞ?長篠…実は友人と少し揉めてしもてや…仲直りの仕方が分からんのよ」
「……香菜、私達以外に友達とかいたんだ……」
「頭の後ろに引っ付いとる毛引っこ抜くぞ?速水」
「どうせアレでしょ?家の前にかまされた菅原〇太のウ〇コとかでしょ?ギャハハっ!!」
「顔の前に垂れとる前髪燃やすぞ?田畑…」
……あぁ、コイツら全員まともな奴との交友がない。こんな奴らに繊細な問題相談してもしゃーないかもしれへん…
しかしウチは困っとんのよ…他に相談できるの花子だけやもん。
他人のウ〇コ顔面で受けることに快感を覚える幽霊よりはコイツらの方がまだマシやろ……
「実はこの前その友達がフラれたんよ…」
「ほう…」「ふむ……」ブッ!!「あ、オナラ出ちゃった☆ 」
「そいつを慰めたろ思てな?慰めたら殴られたんよ……」
「……?」「ほほうっ!」「楽しそうな話だな!!詳しくっ!!」
長篠と田畑がすごく興味津々な様子で概要の説明を求める。人の悩みを飯のおかずぐらいにしか捉えとらん態度になんか腹立ってくる…
てかオナラ臭……
--あれはあの美玲とウ〇コタレ野郎がデートした翌日の話…
ウチはてっきりウ〇コタレは美玲が好きなもんと思っとたんやけど…港中央タワーで盛大にフラれた美玲の姿には驚愕した。
そっとしとことも思たんやけど、翌日シフト入れとるのに美玲がバイト休んだけ家まで様子見に行った。
「……香菜ぁっ!」
玄関先で泣きながらウチを出迎える美玲は見るに耐えんくらい荒れとった。
失恋直後の友人の姿には流石に堪えた。しかし、こんな時こそ友人として支えてやらなアカン……
「今あんたの顔見たくない……」
と思ったらそんなこと言われた。
「……なんでやねん、心配して様子見に来たんやで?」
「……ごめん。今は無理だから……」
「なんやねん、そんな面倒臭い彼女みたいな事言わんでもええやんけ……」
「今『彼女』とか言うなっ!!」
「落ち着けや…フラれたくらいのことで…恋愛は切り替えが大事やで?」
「なんで私がフラれたの知ってるの?」
……あ、ヤバい。
まさかつけてましたとは言えへん…答えに窮しとったら美玲が泣き腫らした赤い目でウチを睨んだ。
「まさかあの時あそこに居た!?」
帰ってく時思いっきりウチの隣走っていったけどな…
「まぁ……うん……たまたま見てしもて…」
「だったら分かってるじゃん…今自分が私のとこ来るのどれだけ残酷で嫌味か……」
いやいや…どゆこと?
「さっきからなんやねん。こっちは心配しとんのやで?大体、あんな奴と引っ付かんでむしろよかった--」
「そんな酷いこと言わないでよっ!」
……っ、確かに今のは失言。
玄関先にも関わらず声を張り上げる美玲のすごい剣幕に怯んでしまう。
美玲は下からウチのこと睨みつけながら意味のわからん因縁付けてくる。
「…そもそも、空閑君と私を引き合わせたのあんただし…」
「いやそれは…関係ない……」
「空閑君はあんたのことが好きなんだ…分かってるでしょ?」
???????!??!!!?!?
「ない」
「あるっ!じゃなきゃなんであんなにうちの店通うの?」
「いや…それは…メイド喫茶が好きやから?やないん?ウチは…アンタのこと好きやから思ったんやけど…まぁ、でも…女にハンバーガー奢らせるくらい金ないのによう来るなとは思うけど……」
「…なんで私がハンバーガー奢ったの知ってるの?」
あ、やべぇ。
「あんたまさか私達の後つけてたの!?」
「いやっ!違う…たまたま……全ての行き先が被っただけやねんっ!!」
「嘘っ!!そんなことあるもんかっ!!自分でも分かってるんじゃんっ!!」
「いや!?なにがっ!?」
「勝ち目のない私を影で笑ってたんだっ!!今日も私を馬鹿にしに来たんだっ!!」
「いやいやいや、ちょい待ち。いくらなんでも被害妄想過ぎるで!いい加減に--」
「サイテーっ!!」
--バチィィンッ!!
「…ちゅうわけやねん」
「……」「……」「……」
「名前は伏せるけどそのウ〇コ君のせいでウチに要らん誤解が生まれてしもてんねん。恋愛経験豊富なアンタらの意見が聞きたいねん」
「それって空閑君?」
!?!?!!!?!?☆Σ(゜д゜;)!?
馬鹿なぁっ!!なんでやっ!!ウチは奴の名前は出さんかったのになんでバレとんのやっ!?コイツらエスパーかっ!?
「へー、楠畑って空閑君が好きなんだ…」
「っ!?な、何言うとんねんっ!ちゃうわっ!!それが誤解で困っとんねんって話したんやんけっ!いてまうぞこら!!」
「やっぱり空閑君なんだ…」「えー、でもさ、空閑君って日比谷さんが狙ってんじゃなかった?」
「話聞け長篠、田畑。てか、なんで分かった…」
「だって…彼の同好会のポスターに香菜の写真貼り付けてあるし…」
なぁぁぁぁぁぁっ!!
一体いつまでウチを苦しめるんやウチのチェキはっ!!
速水のそれしかないじゃん?みたいなムカつく言い方に頭の血管がはち切れそうや…アイツホンマに1回殺す…
「そっかァ…香菜は空閑君のどこが好きなん?」
「…あのな?アイツもう空閑ちゃうねん。小比類巻やねん…じゃないっ!!長篠っ!!それが誤解で揉めてんねんって言うとるやん耳付いとんのかっ!!」
「誤解じゃないじゃん」「好きなんだろ?」
--(´・ω・`)?(#^ω^)??(」゜ヘ゜)」
「…長篠、田畑…それ以上言うな。腹痛くなってきた」
「おいおい漏らすなよ?」
「なんで?なんでそう思うん?ウチがこんなに否定してんのになんでそう思うん?なぁ?教えてくれや。どこに好きになる要素がある?ウチを2度も脱糞させる男やぞ?ウチとアイツの間に何があるん?なぁ?は?おいコラ。あ?」
「デートつけたんでしょ?」「好きじゃなきゃしなくない?」
--(゜д゜)
「…香菜」
「速水……」
「フラれた相手の好きな人がさ、「あんな奴と引っ付かなくて良かったね」なんて慰めに来たらキレるでしょ」
諭すように速水がウチの肩を叩く。その速水の肩に田畑がさらに手を置く。
「フラれた相手の好きな人って速水よ…楠畑の恋が実るような発言だな?ウ〇コ漏らす女に惚れる男は居ないよ」
さらに田畑の肩に長篠の手が……
「そうだね…残念だけど……それに日比谷さんが小比類巻君のこと好きな以上、誰なら勝ち目があるんって話だよ?」
ちょい待ち。勝手に盛り上がんな。色々言わせろ。長篠の肩にウチが手を置く。ちょうど1周したで。
ウチ
「何回言わせるん?ちゃう言うとんやんけ」
速水
「じゃあなんでデートつけたりしたの?」
田畑
「気になってんだよ。無意識の内にさ…」
長篠
「お友達に関しては楠畑が100悪い」
ウチ
「いや、つけたんは気になったからや…ウチの店客との恋愛禁止やし?それに…なんでウチの店に通いよんのかなーってずっと気になっとったし…」
速水
「ほら、気になってんじゃん」
田畑
「普通つけないよ。好きでも引くわ」
長篠
「そんなことが気になる時点で好きなんだよ。興味津々なんだよ」
ウチ
「ちゃう、気になるんは日比谷のやつが余計なことを言うから…ああっ!もうっ!!なんでウチがあんなのに惚れるんっ!!」
速水
「その反応が答えを物語ってる」
ウチ
「だからちゃうて言う--」
田畑
「おいっ!割り込むなっ!次は私の番だろーがっ!!」
なんなんこれ?なんのリレーなん?
「……っ、もうええ。おどれらが面白がっとるだけなんは分かった…ウチがどーのとかの話は置いといてや!!どうやって仲直りしたらええと思う?」
話を逸らさなアカン…てかそもそもウチの恋バナがメインやないし。
リレーを断ち切ってさっさと結論を出そうとするウチにハイエナ共の牙は尚突き刺さる。
「それは楠畑が謝るしかない」「しかしそこで重要になってくるのは楠畑の小比類巻への気持ちだよ」
「だまれ、長篠、田畑。その話はもうええ--」
「いや良くない。ただ謝ったって、何に対して謝ってるのかいい加減じゃ誠意がないよ。香菜に悪気があった訳じゃないってことと、自分の気持ちを正直に伝えるのが誠意だよ」
速水……すごく真剣に答えてくれとるけど、どうしてもウチを色恋の話に巻き込みたいみたいやな。
…けど分かった。
「……つまり、ウチは本気でただ美玲を心配しただけなんやで、誤解させて悪かったなって伝えて、ウチとアイツの間にはなんもないんやでってことを説明するっちゅうこっちゃな?」
「馬鹿野郎っ!!」
田畑が突然張り手かましてきよった!!しかも手の中になんかサソリがっ!!
「危ねーっ!!!!なんやねんコイツはっ!!サソリ仕込んだ張り手て…殺意の塊かっ!!」
「デザートへアリースコーピオンのマシュマロだ。そんなことはいいとして…楠畑っ!まだそんなこと言って自分の気持ちから逃げるつもりかっ!?」
「いや逃げとらんけど?だってホンマに好きやないもん」
「刺すぞ?」
「やめぇや。お前さ、ホント学校に危険生物持ってくんの勘弁して?」
「……楠畑はまだ自分の気持ちに気づいてないんだよね?」
そうなんでしょ?みたいな優しさと分かってますよ感滲ませた長篠がウチにくそむかつく笑顔を向けてきやがる。もう決めつけにかかっとるやん。なんも分かってないやん。
「……香菜、冷静に考えよう」
「考えんでええ。ウチの話はどうでも--」
「だからっ!!そんな気持ちでさ!?謝ったって意味ないじゃん!?楠畑のそういうところが美玲ちゃんを傷つけたんだよっ!!」
「分かった分かった…田畑…サソリを退けてくれ。頼む」
……コイツら。茶化しとるだけかと思ったけどサソリで脅してくるくらい真剣にウチに訴えかけとる…
本気でそう思ってるん?今のウチに必要なのは、あのウ〇コタレへの気持ちと向き合うことだと?
--きっかけは日比谷が変なこと言い出したからや。
でも、確かにそれからアイツのことをしょっちゅう考えとる…気がする。
アイツが気になるこの気持ちは、恋なんか?
「どうよ楠畑っ!!自分の恋心に気づいたか!?刺すぞ!!」「思い返してみて…彼との思い出……」
思い出……?
銀行強盗に巻き込まれて腹蹴られてクソ漏らさせられて、復讐で歓迎遠足の時下剤盛ったら逆に盛られて漏らさせられて…
文化祭での策略も通用せんで…
しょっちゅうメイド喫茶にやってきてウチの神経逆撫でして、挙句バイトのこと学校中にバラして……
いや、やっぱりない。
恨みこそあれど好きってなんやねん?どこに好きになる要素があるん?
ちゃう。
よう考えろ。そもそも気になりだしたんは『アイツがウチのこと好きなんちゃう?』ってところからやろ?
だからその真偽が気になってデートつけて…
……だからなんやねん?
考えてみたら、よー考えてみたら、アイツがウチのこと好きやったとして、だからなんやねん。
寒気はするがそれがどないしたん?ええやん別に……放っとけば。
なぁ?
「……そういうことやったんや。ウチはなんをそんな深刻に考えとったんや」
「楠畑っ!」「とうとう自分の気持ちに気づいたのね」「香菜……」
「気づいたで…みんなありがとう。ウチは--」
「好きなんだろ?」「好きなんでしょ?」「好きなのかっ!」
「--アイツのことやらどうでもええねんっ!!」
そうや……
アイツにあるとすれば恨みだけ…ウチがやるべきことはひとつやん。
アイツが誰を好きやろうと、アイツを脱糞させて復讐する…ウチはまだ忘れてへんのやから--
--ブスッ
「え?痛っ、はっ!?田畑っ!?おどれのサソリがウチの手を刺しとんのやけど!?」
「……どこまで強情なのさ。1回死んでやり直してこい」「大丈夫だよ楠畑、その子は毒そんなに強くないから……」
「いやお前らホンマにどんだけイカれとるんっ!?友達サソリで刺すなやっ!!」
*******************
そうよっ!!
「アイツがウチに気があったらどないしょー」とか乙女みたいなこと考えとったけん思考が変な方向に暴走しとったんよっ!!
相手を考えろ!!あの男やぞ?
「楠畑ー、どこ行くのっ!?」「手にサソリ刺さったままだよ!?」「…私そろそろ部活行っていい?」
ウチのことが好きやったらなんやねんつ!!
「なんやねーーーんっ!!」
「うわぁびっくりした」
フラフラと覇気のない歩き方で校門に向かうやつをとっ捕まえるっ!見つけたでこの野郎。
「散々ウチを振り回しおって……」
「…?脱糞女?どうした……」
「楠畑!?アイツ何をする気だっ!?」「レンっ!静かにっ!!」「…部活……走りたい……」
やかましいっ!おどれらはそこで見とれっ!!
…有り得へんとは思う……けど、ホンマにこいつがウチのこと好きやったら……
いやっ!ええやんけっ!!ズバッとフッてやるっ!フッてやるっ!!
おどれも男なら逃げずにかかってこんかーいっ!!
ウチはいつぞやは恥ずかしくて口に出せんかった言葉を奴にぶつけとったっ!
「お前っ!ウチのこと好きなんやろっ!!」
「うん」
ほら見--……
……………………………………え?
…お、おう……そか……そやったんか。ウチの予感は的外れではなかった……と……
……?(´・Д・)Σ( ´・ω・`)(^ω^#)??
「……くきゅう」
--バターンっ!!
「楠畑ぁっ!?楠畑が倒れたァっ!!」「サソリの毒にやられたァっ!!」




