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これっていじめだよな?

「宇佐川先輩、相談があるんです…」


 番長を10秒でのした私が有吉を引き連れて廊下を歩いてたら後輩から呼び止められた。

 名前も知らない後輩からの呼び出しに快く応じた私はトイレでその子からの話を聞くことにした。

 この学校を制覇してまだ日も浅いが私はこの学校の治安維持の為の抑止力としての役目を果たしていた。なにより、いじめだけは見逃さない。


 丸メガネに三つ編みの後輩はビクビクしながらも私に要件を切り出した。こいつのことはたまちゃんと呼ぶ。


「実は……私のクラスでパシリが横行してて……」

「いじめかっ!?」

「結愛!?話を最後まで聞こうっ!!」


 この前早とちりで不良を病院送りにしたばかりだから有吉が慌てて止めに入る。しかし私のフィルターではパシリはいじめである。すなわち殺す。


「私の友達がクラスの女子から宿題押し付けられたり掃除当番押し付けられたりしてて……」

「いじめだな?殺す」

「結愛!?」

「違うんですっ!!いや…違うくはないんですけど……」


 どう違う?


「実はその友達がその子のこと好きで…その好意につけ込んで……」

「だからいじめだろ?」

「結愛、結愛。ダメだよ。ちゃんと話し合った方がいい。短慮な行動はお互いを傷つけることになる」


 鬱陶しいなさっきから。なんでそんなに必死なんだ?

 有吉の鼻にフックをかましてたらたまちゃんがとんでもない事を口にする。


「この前テストの答案盗んでこいって言われてて…これ以上は……」

「あ?」


 それはシャレにならないだろ?その友達とやらこのままいくと取り返しのつかないことになる。

 やはり殺す。


「つまりそのパシリ女を殺せばいいんだね?分かった」

「いや違います。殺さないでください…なるべく穏便に解決して頂けないかと……」

「先生に相談した方が良くない?」


 鼻血を垂らしながら有吉が正論を口にする。たしかに生徒間で解決するより先生が介入した方がいい。テストの答案盗んでこいなんて問題は先生も無視できまい…


「でも…先生に相談したら答案盗んだ友達が……」

「しょうがなくない?いくら友達だからってそこまで庇ってやる必要ある?」


 有吉の質問にたまちゃんはモジモジしながら視線を泳がせ言いにくそうに吐きやがった。


「……私、その友達が好きなんです…」


 あ、なんか今イラッとした。

 反射的に手が出かけたのを私はぐっと堪えて疑問をぶつける。


「好きならなんでこんな相談を?あんたはその友達がパシリ女に首ったけって知ってるわけじゃん?あんたの恋は実らない」

「結愛、そんなはっきり……」

「あんたの心境としてはそのパシリ女をぶっ殺した方が良くない?」


 恋敵だ。しかも自分より圧倒的優位。その上自分の好きな相手の好意につけ込んで利用するクソ女。

 ぶちのめしてやりたいだろうという私の疑問にたまちゃんは健気な答えを返す。


「……好きな人が悲しむのは嫌なので。私が勝てないのは分かってますけど…それでも好きな人がボコボコにされて悲しむ顔は見たくないから…」


 そんな甘っちょろい答えに色々言いたいことはあったけど、この儚い恋心を無下には出来ない。


「分かったよ。ちょっと話してみるわ」

「なんでお前が乗り気なわけ?頼まれたの私なんだけど?」


 有吉が勝手に引き受けて、たまちゃんも顔を輝かせ「よろしくお願いします」と行儀よく頭を下げた。


 こうして私はまた面倒臭い頼まれ事を引き受けることになったんだけど--




「え?そんなことしてませんけど?」


 やはりそう簡単にはいかなかった。


 たまちゃんの言うパシリ女は1年の村田という奴だったんだけど、私達が正面から問い詰めても案の定すっとぼけるばかり。

 しかし分かる……

 取り巻きを数人引き連れたこの女は間違いなく性格の悪い女。取り巻きを抱えた女にはろくな奴が居ない。


 性格の悪さが滲み出たクソ女はこの宇佐川結愛を前にしても一切怯むことなくパシリの件を否定した。


「でもね、そういう話を聞いたんだよ私達は。君はその子の好意を踏みにじってるんだよ?そういうことして恥ずかしくないの?」


 あくまで穏便に済ませようと務める有吉。お前が言うな発言を矢継ぎ早に打ち出すけれど、堂々とシラを切るこの女がそんな良心に訴えかける作戦に揺さぶられるわけもない。


「言いがかりはやめてください。てか、先輩達となんの関係があるんですか?」

「……おい、ホントのこと言ってその男子から手を引かないとお前親でも分からないくらい顔面歪めんぞ?」

「結愛!?脅し文句が最悪なんだよ!?」

「やだ、脅された?先生ーっ!!」


 ちっ!このクソ女ぁっ!!


 いつか必ずその鼻をへし折る事を誓いながら撤退。

 手を出せない以上は向こうから心を改めてもらうしかないというのに…


「どうする?結愛」

「……そもそも、男が女に言い様に扱われるのがおかしいんだ…いくらあっちが改心したって、男の方がそんなんじゃ根本の解決にはならない…」


 そう判断した私達はたまちゃんの友達の方の性根を叩き直すことにした。




 そいつのクラスはたまちゃんと同じですぐに見つけることができた。

 ……が。


「え?サッカー部の飯嶋君ですか?はい…呼んできます。」


 なんとそいつはサッカー部のエースだと言うのだ。ってきり気の小さいカマ野郎だと思ってたんだけど……


 クラスメイトに呼ばれて出てきたのは明るい髪色のイケメン。クラスの人気者って感じのチャラチャラした1年生はその端正な顔立ちを困り顔で染めていた。


「えっと…裏番長の宇佐川先輩がなんの用ですか?」

「誰が裏番長だ。君、村田って女子からパシリされてるって?」


 私がそう確認したら飯嶋はバツが悪そうに顔を逸らした。


「パシリじゃないっス、俺はあいつが好きだから……」


 口ではそう言ったけど表情は優れない。薄っぺらなプライドか彼女への愛ゆえか…


「おい、答案用紙盗んだんだって?君いいように使われてるって分からない?あんな女の言うこともう聞くな。君が良くても君のそんな姿に心を痛めてる人も居るんだよ」

「結愛……そんな胸ぐら掴んで脅さなくても…」

「俺はあいつを愛してるんですよ。それは本当です」

「本当か?」

「はい」


 ほぅ…私が本気で凄んでも主張を翻さないか。こいつの恋は本物だな。

 となると厄介だ……

 しかし、内心面白くはないはず。だって浮かない顔をしてるもの。その理由を問い詰める。

 するとイケメンもやし君は「実は……」と口を開いた。


「実は……次は極道の代紋取って来いって言われてて…」

「……は?」

「これが最後だからって言われたんだけど…流石に……困ってんスよ。あいつの期待を裏切ることは出来ないし……」

「…………は?」


 *******************


 やっぱりイジメじゃねーか。


 とにかくイケメン君から言質は取れたのでパシリ女とたまちゃんを呼び出して全員で話し合いの場を設ける。場合によってはパシリ女はしばく。


 私が呼び出した皆が集まった当事者達は凄く空気が重たい。

 体育館裏で私と向き合って足下を見つめる様子は傍から見たら私がカツアゲでもしてるみたいだな。


「いじめだよな?」

「違うっ!!ちょっとお願い聞いて貰ってただけじゃんっ!!」

「いや、ヤクザの代紋なんてどうやって取ってくるん?無理難題を押し付けるのはいじめだよな?」


 有吉から木刀を受け取り目の前で振り回す。鋭く空を切る木刀の素振りにパシリ女、林は顔から血の気が引いていく。


「あんたもあんただ。なんでそんなの引き受けたの?」

「愛してるからだ」


 真っ青になっていくパシリ女に反してサッカー部のエース君は気丈にキッパリと言い切る。その様にたまちゃんが流石にショックそうな顔をした。


「だ、そうだよ」

「あ、はい…知ってます……」

「なんでこいつがここに居るんだ?」


 イケメン君がたまちゃんに怪訝そうな顔を向けるあたりこの男は本当に罪づくりな男だ。

 まぁそれはこいつらの問題……私が対応すべきはこの女。


「で?理由ってなん?つまらない理由だったら前歯全部折るからよく考えて発言しろよ?」

「結愛、穏便にって話忘れてるよね?」


 顔面蒼白なパシリ女は私に詰められてポツポツと事情を語り出す。


「……実は私、彼氏がいて……」

「えっ!?」


 いきなりのカミングアウトにイケメン君が玉砕。まさか既に男が居るとは…なにこの誰も救われない話。


「その彼氏がヤクザなんです……」

「えっ!?」


 ほんとかよ。


「それで……彼氏の組が近くの組と抗争してて、彼氏が鉄砲玉に……それで彼氏が「俺死にたくないから」って私に組と喧嘩して来いって……」


 ……は?

 …………は?


 話についていけない。どゆこと?

 とりあえずその彼氏はとんでもないクズだし、それを了承するこの女もとんでもないトンチンカンだし、その女から押し付けられて引き受けるこのイケメンもあんぽんたんだし、たまちゃんは報われなさすぎる。


「やらないと別れるって彼氏が……もう、私どうしたらいいか分からなくて……えーーんっ!!」


 泣くな。


「別れろ」

「いやだ。愛してるもん」

「……なんか全身が痒くなってきた…イライラする。殺していい?みんな殺していい?」

「「「なんで!?」」」


 もう……なんて言うか……


「とりあえず分かった。まずたまちゃん」

「た、たま…?私ですか?」

「君は新しい恋を見つけろ。こいつはダメだ。でサッカー部のもやし」

「は、はい……」

「お前はフラれた」


 崩れ落ちるもやし君。こんな女の言いなり男と一緒になってもたまちゃんは幸せにはなれないだろ…


「で、パシリ女」

「パ…パシリ……」

「お前はそんなクズとは別れろ、いつか身を滅ぼすよ?」


 有無を言わさぬ圧をかけて全員に了承させる。まぁ、当人達が後でどうするかは当人達次第。好きにすればいい。これは私からのアドバイスだ。


 ……さて。


「……問題はそのヤクザの彼氏だな。有吉」

「え?」

「これっていじめだよな?」

「……え?」

「いじめだよな?」


 *******************


 そのクソやろーとやらは『覇世返三會はよかえさんかい』という暴力団の組員なんだそうで……


「……ここだな」

「ちょい待て」


 有吉に漕がせた自転車の後ろで街角にひっそり佇むビルを確認して気合を入れる。

 ここがいじめっ子のヤサだ。間違いない。


 彼女に敵組織の代紋取って来いなんて言うのはどう考えても非常識だし意味分からん。とち狂ってるとしか思えない。

 何より学生が暴力団組員となんてつるんでいいわけが無いし暴力団なんて街に居たっていいことない。


 いじめっ子は排除せねばならない……


「待て待て結愛!?ダメだからね!?何しに行くの!?ほんとに待って!!ここヤクザの事務所だよ!?」

「違う、いじめっ子のアジトだ」

「違くない。ねぇ帰ろう?ロクなことならないから帰ろ?あの子らの為にそこまでする義理ある?」

「なんで庇うの?さてはお前もいじめっ子の手下だな?」

「あぁ…もうダメだ。殺戮モードに入ってる……」


 殺戮とは穏やかじゃない。ちょっと首を拗らせてもらうだけじゃない。


 赤いオーラを立ち上らせながら有吉を待たせて自転車から離れる。

 事務所の前には黒塗りの外車が停まってて周りに若い組員と思われる男が数人。

 いじめっ子の仲間だな?


「ちょっと」


 車が邪魔なので蹴っ飛ばす。遥か天空に蹴り飛ばされていく車が空に吸い込まれて見えなくなるのをポカーンとして見送るいじめっ子達の1人の胸ぐらを掴んだ。


「ここに女子高生をいじめる組員が居るよね?出せ」

「……っ!?なんだてめぇはっ!!」


 出せって言ったのに吠えてきた。唾が飛んだ。いじめだ。

 会話の通じない奴に用はないので車の後を追ってもらう。若衆が天空に飛び立ったのを見てから男達が懐から短刀を持ち出した。


「なんじゃあてめぇっ!!」「舐めとんのかっ!!」「いくらガキでも許さん「うるさい」


 --パコーンッ!!


 事務所の入口を塞ぐ邪魔男の1人を顔面パンチで吹っ飛ばす。ビルを貫通して消えていくチンピラに男達は固まった。ようやく自分の死期を悟ったようだ。


「なっ…なんだコイツはっ!!」「化け物っ!!」


 もうめんどくさいや。ヤクザってことはみんないじめっ子だし殺すね?


 表にいた若造達は半紙かってくらい歯ごたえのない連中だ。一発お見舞いしてやったらまとめて飛んでいった。

 さて、邪魔者も消えたことだし組を潰すかと事務所に乗り込もうとしたら、中からぞろぞろと強面の男達が出てきた。


「なんだ!?カチコミかっ!?」「一体何が起こったんだっ!!」「あっ!あいつは……っ!」


 外に出てきた1人が私の顔を見るなり引きつった声をあげた。私を知っているようだ。私のような平々凡々な女子高生を知っているとはさてはお前いじめっ子だな?


「こいつ…宇佐川っ!!ここら辺の暴走族やらチンピラやらを粛清しまくってる化け物ですっ!!『阿修羅の宇佐川』と言えばここらのワルはみんな震え上がりますっ!!」


 勝手な異名をつけるな。


「このガキが?」「ただのチンピラやないかいっ!!」

「違うんです…こいつはたった1人でもう12のチームを潰してるんですっ!!ウチが面倒見てる族のチームもこいつが……」

「なに?斗魔斗とまと潰したんはこいつかっ!?」「そういえば俺も聞いたことがある…三つ編みにセーラー服の怪物が暴れてるって……」


 ……なんか勝手に盛り上がってるなぁ。

 うるさいしめんどくさいのでそこら辺に停めてあったバイクを持ち上げてぶん投げた。

 どうせ全員叩き潰すし、別に話をしに来た訳でもないし……


 盛大にいじめっ子達を叩き潰したバイクの投擲に奴らは身構える。拳銃やらドスやらを持ち出して多勢に無勢、つまりいじめ。


「こいつっ!!ほんとにバケモンやっ!!」「何が目的じゃあっ!!『苦味組くみくみ』の鉄砲玉かぁ!!」


 話すこともないし……話を聞くつもりもない。いじめっ子は即、粛清。全員殺ればパシリ女の彼氏もやったことになるだろ。


 というわけで。


「粛清」「ぎゃあっ!?」

「粛清」「ぐはぁっ!?」

「こっ…こんガキャっ!!」「殺せっ!!」「こいつっ!うちに喧嘩売りやがって堅気だからってタダじゃ「粛清」「くばぁっ!?」


 紙飛行機みたいに飛んでくるすっとろい弾丸を避けながら、新聞紙丸めて作ったみたいなドスをへし折りながら--

 ただ正義の為、平和の為、いじめを撲滅する為--


「粛清」「ぐぎゃっ!!」

「粛清」「バケモ--うわぁっ!」

「粛清」「げはっ!!ごばっ!?」

「粛清」「がかっ!!」


 気づいたら地面と倒れてるいじめっ子の区別がつかないくらいに場が凄惨を極めだした頃にようやく勝てないと悟ったのか慌てた組員が「おいっ!先生呼んでこいっ!!」と叫ぶ。


 学校の先生が出てきたとしてもここは譲らない。いじめっ子は粛清しなければならない。いじめっ子には人権はない。いじめっ子には明日はない。いじめっ子即粛清。



 --どれくらい経っただろう……

 もう外に立っている奴は居ない。粛清完了だろうか?

 結局パシリ女の彼氏は誰なのさ……


 まだ事務所の中に人の気配がする。面倒くさいからビルを崩すかと拳をビルの外壁に突き立てた。


 その時、私の背中を異様な気配が指でなぞるようにぞわわっと這い上がった。


「……?」

「--ソコマデデスッ!!」


 獣のような気配と威圧感。しかしそれに反して飛んできた声は実に可愛らしくかつ、カタコトだった。


 ……あれ?この声どっかで…


 声の方に振り返ると数人の組員に連れられた1人の外国人の少女がこちらに拳を突き出して立っていた。

 驚いたことに--そして、とても残念なことに、私はこいつを知っている。


「お前は死んだぞっ!!北桜路の宇佐川っ!!」「この人は八極拳の達人っ、ノア・アヴリーヌさんだっ!!」


 ……………………

 もしかして…先生ってこいつ?


「弱イモノイジメハ、許シマセンッ!!」

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