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 村長の締めくくりの言葉が終わると同時に集まった者達は一斉に南と東に2手に別れて歩きだした。


 村長もその波に乗りこの場所には必然的に俺だけが取り残される形になる。


 とその波を掻き分けるようにして見覚えのあるピョコッと立った銀色の耳が蛇行しながらこちらに来ている。


 なんのこともない俺の元に来たのはレティシアだった。


「リュウノスケも残ったのだな。本来なら客人、いや私の命の恩人であるリュウノスケをこんな危ない目にあわせるのは私にとっての不名誉と言えるのだが……すまない、私には……この村全体でもそう言うことを言える余裕は無いんだ」

 そう言うとレティシアは深々と頭を下げる。


「別にレティシアが謝る必要はないよ、好きでここに残るんだ。俺自身がここに残って戦おうと決めたんだから。それに村長も言ってただろ、カヌレ1匹でも加勢してくれる味方がほしいって。微力ながら俺も参加するよ。それに報酬がいくらか貰えるようだし、俺に必ずしも損なわけではないはずだしね」


 俺は手を振って否定しレティシアに頭を上げるよう頼む。


 俺が個人的に残ってるのにわざわざ頭を下げられたりしたらたまったものじゃない。そうまでして頭を下げる時は他にある。


とは言いきれない俺は心の内に留めておいた。


「……確かにそうだな。ところでリュウノスケ、武器はあの音と光の出る筒……じゅう?と言ったか、で良いが防具はあるのか?具体的にはメイルやヘルムなんだが……」

 突拍子もないも無い、これから命を賭けた戦いが始まると言う時には聞いておくであろう質問に俺はあっと言葉を詰まらせた。


 能力のお陰で銃火器は出せるが防具という防具は出せそうにない。


 盾やヘルメットなら召還出来そうだがレティシアの言う防具は体を覆うもののはず、防弾チョッキでどうにかできないか……


「ごめん……そういうのは持ってない」

 

普通に考えれば残ると決めた時点で何らかの対策を取るべきだったと俺は申し訳無さに包まれた。


「そうか……なら私のを貸そう」


「!?レティシアの?」


 虚をつかれて俺は思わず聞き返す。


もしレティシアの物を借りれば当然レティシア自身が危険さらされる。予備のものがあるのかもしれないが自分が死ぬかもしれないとき予備は渡すものでは無いだろう。


そう思い口を開く前にレティシアは重ねて補足した。


「ああ……すまん語弊があった。私の父のものをだ。森で動くには少し不便かも知れないが簡易的ながらも全鋼鉄製の鎧一式だ。耐久性や固さは革鎧よりも良いからリュウノスケを守ってくれるはずだ。どうだろうか?」


 出鼻をくじかれた事はともかくそんな補足を聞いた俺はさらに驚いたと同時に俺がそれを着て良いのかと思った。


 レティシアにとって 憧れの存在だった亡き父の形見とも言える物を俺が気安く着てしまって良いのだろうか……


「えっと……レティシア……良いの?レティシアにとってものすごく大事な形見だと思うんだけど……」


「なに、それなら何の心配もいらない。確かにこれは父の形見だが私は既に父から直接この剣を貰っている。私にはこれだけでも十分、父を思い出すことが出来る。それに父も村のために加勢してくれる人をみすみす殺すようなことは避けてほしいはずだ。だからリュウノスケ、遠慮なく使ってやってほしい。」


 首を横に振り辞退しようとする俺の手を掴み止めレティシアは言う。


「……わかった。なら有り難く使わせて貰うよ。ただ俺には少し重すぎる気がするから鎧と……それから腕甲だけ借りても良いかな?」


 森での戦闘になる可能性も考えればあまり重たくしたくないのも事実だがなにより俺の戦い方が軽装俊敏を見上としてやってきたのが今回の判断の根幹だ。前世からずっと自分の身以外で重量が大幅に上がってしまうものをあまり着けたくないのだそれは前世では防弾チョッキやヘルメットがあげられる。まぁヘルメットなんてソ連が作った溶接用ヘルメットを軍用化したようなやつ以外気休めにしかならないと思っているしな。


「鎧と腕甲だな。少し待っていてくれすぐ取ってくる」


 そう言うとレティシアは走りだし俺の視界から消えたと思ったらものの2分で戻ってきた。


「ほら、これとこれが鎧と腕甲だ」


 見た所ただの革製の一般的なベスト状の鎧と前腕を守る前世ではヴァンブレイスと呼ばれている腕甲で大部分は革、外面だけは1枚の薄い金属板がリベット打ちされていた。


 鎧は他の村人が付けているレザーアーマーと変わりがないように見えるが僅かに金属の擦れる音が鎧から聞こえる。


 ここからレティシアの家は俺の感覚で400mはありいくら軽量で使われている金属も最低限ではあるだろうが鋼鉄製の防具を持った状態で走ってきているはずなのにレティシアは一切息を切らしていない。筋力もさることながら持久力も相当あるみたいだな。


「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」


 レティシアから防具を受け取り早速腕甲を付けはじめる。鎧の方は革をベスト状に縫い合わせたもので裏地に金属板が縫い込まれていた。これは12世紀から17世紀まで製造されていたブリガディーンと呼ばれるものとほぼ同じだ。前世で使っていたただ曲がった金属板をベルトで締めたものとは違い裏にまで革がしっかり回っていた。ベストで留めることは変わりなく手首をグルグル回しても何処も干渉しなかった。


「どうだ?父とリュウノスケは体格も背も、私が見た限りでは同じように見えたのだが……体に合ってるか?何処かキツい所とかはあるか?」


 肩を回したり腕を捻ってみたりしている時、レティシアが少し心配そうにやや耳を伏せながら聞いてきた。


「うん、特におかしな所も小さかったりがたつく様な所もないよ、特に腕甲はピッタリだ」


「そうか、それは良かった。リュウノスケに死んでもらっては私が悲しいからな。加勢はこの村にとって有難いことではあるし僅かではあるがリュウノケの戦いを見てきた私としてもこれ程まで心強い味方はいないと思っている。だが無理は絶対にしないでくれ。命の危機に瀕したと思ったら脇目も振らずに逃げろ。私の父のような死を迎えてくれるな。じゃあ、リュウノスケ私は長老の館を護衛する役目を負っているからこれで行かせてもらう。父の鎧……この闘いが終わったら必ず返してくれ。頼むぞ」


 ジッと俺を見るレティシアはそれだけ言うと俺の肩をポンと1つ叩き村長の家がある緩やかな丘を登っていく。


「……頼まれたからには返さないとな。ふぅ……さて俺は遊撃になってる事だしどこに向かった方が良いか……家から近いのは……東かな。だが南の防御が甘くなる……いや待てよ……上手くやれば数人……むしろ俺1人だけでもいけるんじゃないのか?南、東共に村人が柵の補強、増設を行っているから丁度良いはずだな」


 誰に言うわけでもなくボソボソと独り言を呟きながら俺は己の戦場となるであろう東側に向かってあるきだした。


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