暗雲
「遅かったな、何かあったのかの」
「いえまぁ少しだけ。まだ子供だからと中身を誤魔化すためにミーリャにお化けが入っていると言ったら『おじいちゃんをそれで殺すのか』と涙ながらに問われて必死に誤解を解いたんです。賢くておじいちゃん想いの子ですね。あの子一体いくつですか?俺が見た感じではとても幼くは見えるのですが」
薬莢を置きながら村長の問いに答えそして質問する。
「妖精暦103年、光精期の15日に生まれたから4日後でちょうど10歳じゃ。ミーリャが生まれた瞬間はそれはそれは村中が喜んだものじゃ」
また独特の表し方がでてきたが前世のと同じだとしたら小学4年ぐらいか。
またレティシアに聞かなきゃいけない常識が増えてしまったな。
まぁ避けては通れないというやつだし仕方なし。
「10歳ですか。村中が歓声を上げるって相当喜ばれていたんでしょうね。動き回って大変ではあると思いますがこれからが楽しみです」
「そうじゃろ。儂の自慢の曾曾曾曾曾孫じゃ目に入れても痛くならんよ……して、龍之介それがか?」
笑顔でミーリャの事を話していた村長の顔から笑みが消え俺が持ってきた薬莢を見る目は弁慶も気圧されそうな怒りを湛えいた。
「……これです。中身を出したほうがいいですか?」
そう言い中身を取り出そうとしたが村長に腕を掴まれて止められる。
「そんなことせんでも儂の曾曾曾曾孫を殺した憎きゴブリンなら全体を見なくても分かる。それに彼奴等の汚わらしい血なんぞをミーリャの寝起きする場所に1滴たりとも落としたくないのでな……いや落とさせない。すまんがそのまま容器ごと儂に渡してくれんかの?」
重苦しい空気に包まれながら俺は言われたとおりにゴブリンモドキが入った薬莢を村長に手渡した。
「これは……間違いなくゴブリンじゃな。龍之介、こやつは何処にいて何をしていた。武器は持っていたか、他にもゴブリンはいたのか?出来るだけ詳しく教えてくれ」
チラッと薬莢の中身を一瞥した村長は即座にゴブリンと断定するとそのときの状況について尋ねてきた。
「俺の家からあの小高い山の方向に歩いて半鐘1つ分もかからない場所に俺は籠罠いくつか仕掛けていたんですけど今日見に行くと仕掛けていた籠罠に入っていたカヌレが切り殺されていて嫌な予感がして順繰りに見て回っていたときにでした。このゴブリンは一番最初に俺が仕掛けてあった罠の近くにいました。持ってた武器は棍棒で一応周りを見てもそいつ以外に見当たらなかったですが素人目なので他にはいなかったとは断言しかねます」
聞かれた項目を思い返しながら出来る限り正確に状況が分かりやすくなるように説明する。
「ふむ罠か……その籠罠と言う罠はどんなものじゃ?」
「それはこれぐらいの大きさの……」
レティシアに説明しときと同じ内容に付け加えて現物がないので罠の大きさを説明しているとき俺は自分が絶対に伝えなくてはいけない情報を伝え忘れていたことに気づいた。
「そうだ忘れてた!もう1つ伝えないといけないといけないことがありました!」
籠罠が1つ持ち去られていたことを話していなかったこともあるが足跡のことを言ってなかった。
「なんじゃ!まさか連れ去られている人でもみかけたか。何人連れ去られた!」
村長は息を巻いて詰め寄ってくる。
「い、いえそうじゃなくてそのさっき言った箱罠が1つ奪われているんです。そして奪われた箱罠があった辺りの地面に無数の3本指の足跡と箱罠を持ち上げず引きずったような溝があったんです恐らくゴブ……」
「なぜそんな重要なことを言わんかったのじゃ!いや貴重な情報じゃ。すまん、カッとなってしまった。ただ龍之介が言っておった籠罠は30kgはあるはず……もしや……まずい事態じゃ今すぐ村にこの事を伝えにいかなければ」
間髪入れずに顔を焦燥の色に変えていた村長は怒鳴った事を俺に謝ると顔に憔悴の色を浮かべ立ち上がろうとしたがその前にドタドタと床を蹴り走ってくる音が聞こえ次いで扉が勢いよく開いた。
まさかゴブリンでも来たのかと身構えたが現れたのはいたって平凡な獣人の青年だった。
「長老、丘の方に狩りに行っていた者たちがゴブリンと思われる魔物に襲われて1人が重傷です!」
「遅かったか……リーク、すまないが村の戦える者たち……特にザグ、レティシアに来るようにそれから戸締りの徹底、子供を丘のほうに遊ばせに行かせないように伝えおいてくれ」
リークは村長の言葉が終わったとみるや軽く頭を下げるとまた走って出ていった。
「龍之介もここに残ってくれ。恐らく一番最初に襲われている上に箱罠とやらも盗まれておるからな」
外では先行きを暗示するかのようにサラマンダーの半鐘が不吉に鳴っていた。