魔改造18c
「なら杖か?それにしては不思議な形をしているな。私が知る杖は多少装飾が施されただけの棒のような形だったのだが……ただ龍之介。杖はあくまで威力を上げるためでそもそも魔法が使えない今の龍之介じゃ持っていても意味がないと思うぞ。まさかもうあの複雑怪奇な魔方陣を暗記したのか!?それだったら驚異的だが……」
それが出来てれば御の字だったんだが流石にそれは無理ゲーすぎた。本当になめていた暗記を始める前の俺を殴りたい。
「うーんまぁ確かに威力を上げるものという表現は間違ってないかな。ま、それは見てからのお楽しみ」
百聞は一見に如かずとも言う。実際に撃ったほうが分かりやすいだろう。
俺はスライド側面に増設されている弾丸選択用のレバーを下げ、連射になっているツマミも別にほとんど動かないカヌレに対してだし1発の威力でどれだけ通用するのかも見たいため単発に変更。今回はグリップ内マガジンの9㎜弾を使う最初から9㎜弾用のバレルを着けていたからバレルの交換はいらない。コッキングをして初弾を薬室内に送ると静かに罠の中のカヌレを照門と照星の中に収め狙いを定める。
「レティシア、出来れば耳をふさいでおいてくれる?」
なんの説明もなしに発砲するのだ、せめてそれぐらいは言わないといけない。
一般的な拳銃の発砲音は140dB~170dBほど対して人が耳で聞いて痛みを感じるのは130dBぐらい、本来なら耳栓を付けたほうがいいのだがあいにくそんなものは持ち合わせていなかった
せめて耳を塞ぐだけでもすれば少しはましになるはずだ
「なんだ?杖なのにそんな大きな音がするのか?だがリュウノスケが言うからには必要なんだろうな」
疑問に思ったようだが素直に頷いてくれる
「出来れば少し離れたほうが音も小さくなると思う」
「わかった」
レティシアは素直に俺から2m程離れると自分の両手を使って自分の頭の上にあるモフモフの狐のような耳を頭に押し付けるようにしてふさいだ。
俺も銃を撃つからとしっかりレティシアが耳をふさいでいることを確認してからカヌレに撃とうと思っていたがその前にレティシアの可愛さに撃たれた。
耳を押さえたレティシア可愛ええ~、カヌレにトドメをさす前に俺がレティシアにトドメをさされそうだ。レティシアの可愛さに尊死して照準がぶれるどころか倒れてしまわないうちに引き金を引く。
清々しい破裂音と共に空薬莢が排出される、火薬の爆発に押された弾丸が発射され狙いたがわずカヌレの頭に命中した。
「ブギーー」
断末魔の鳴き声を上げたカヌレは自身の血によって作られた血溜まりに倒れ付した。
「ふぅ、貫通力も問題ないな。通常モデルのグロック18cよりもバレル長も延長して長いしある程度離れた距離でも命中精度はあまり落ちないだろう」
合格点が出せる結果に満足した俺は一旦グリップ内に収めているマガジンをリリースして薬室に装填されている弾丸を取り出し始めた。ダブルアクションオンリーを採用しているグロック17や18cは撃鉄兼撃針であるストライカーが半分程後退した状態でシアにロックされる。この状態であればシアとファイアリングピン・セーフティによってストライカーがロックされ暴発の可能性はないがそれでも万が一はある。
「あまりないことだけど万が一暴発したら大変だからな」
スライドを引くと薬室内に装填されていた次弾が飛び出してくるのでそれをうまい具合に空中でキャッチする。
片手で魔改造18cを持ちながらリリースしたマガジンにキャッチした9㎜弾を込め直してからグリップにつけ直す。
1度スライドを2~3cm後退させハーフコック状態にして空撃ちをしてからホルスターに収める。普通のダブルアクションオンリーならトリガーを引くだけでいいのだがグロック社のセーフアクションは撃針をハーフコックさせないといけない。
余談だがどうやら1から設計した銃火器はすぐには消せないようだ。しかも消したらまた1から組み直さなくてはいけないから今後ともこの二挺の魔改造18cにはお世話になることだろう。今度名前でも付けてあげようかな。
「さてともう良いよレティ……シア……」
ホルスターに銃を収めながら振り返った俺は耳を押さえた状態のままで涙目になって尻尾をクルンと股の間に挟んでしまっているレティシアを見つけた。
「リュウノスケ……出来ればその……今度それを使うときはもう少し音を小さく出来ないか? 私には少し音が大きすぎて……ビックリした」
獣人族の耳は俺が思っていた以上にとても良いのだろう。ただ耳を押さえただけでは不十分だったようだ。今度からは耳当てでも用意しようと考え心の中でレティシアに怖い思いをさせてしまったこと、己がやらかしてしまったことに反省した。
「ごめん……今度からは気を付けるよ。後今度からは言う暇がないとき以外は撃つ前に必ず一言言うよ」
耳当てのついでにサプレッサーも付けれるように改良しよう。今の魔改造18cは俺が取り回しが重要になる正々堂々真っ正面からの戦いを好むため邪魔になるのであまりサプレッサーを好まなかった。そのため今回の魔改造18cのバレルの先端にはねじ切りが施されていない。そのため今のバレルではサプレッサーが取り付けられないのだ。
「まったくびっくりしたぞ、まさかあそこまで大きな音がするとは」
頭を軽く一振したレティシアが近づいてくる。
客観的には普通に会話しているようにしか見えないが耳や尻尾がぜんぜん隠しきれていない。耳がやや後ろ向きにペタンと下がっていることや尻尾がまだ股側にカールしかけていることから内心はまだあの音に怖さを感じているのだ。
あえて隠して怖い思いをさせてしまったことを改めて後悔したがレティシアが必死に俺に負い目を感じさせないようにと普通通りで通そうとしているのに俺がうじうじしていてはいけないと思い、努めて平静を装う。
「それにしてもリュウノスケ。さっきリュウノスケが使ったのは魔法じゃないだろ?たとえそうだとしてもリュウノスケのが使えるのは『インパクト』だけのはずだ。私も『インパクト』についてよくわからないから言えないが長老が言っていた限りでは体の周りぐらいしか届かないらしいだろ。やはりその杖に何か秘密でもあるのか?」
俺の腰のホルスターに目をやりながらレティシアは問う。
「そもそもこれは杖じゃないよ。魔法も一切使っていない……というより使わなくていい。ただレティシアが睨んだ通り秘密はこれにある。詳しいことを説明しだすと長くなるけど良いかな?」
レティシアが頷いたのを見て俺はリークから奇襲を受けたときにも活躍してもらった三八式歩兵銃を召喚する。