第二章 過去の話(4)
夏を少しすぎた9月中頃、俺は山田と新田に一緒に祭りに行かないかと誘われた。
特に断る理由はなかったので3人で祭りに行く計画を立てていた。
地元の祭りは毎年9月中旬に行われており、地元の人は大体みんな来るような、まあまあでかい祭りだ。
祭り開催の1週間前、3人で祭りに行く計画を煮詰めている時、新田が彼女を連れて行ってもいいかと聞いてきた。
別に問題はないと思い俺たちはあっさりとOKした。
新田が彼女を連れてくると決まった途端、山田も彼女を連れていきたいと言い出した。
3人の中で唯一彼女いない俺が悩んでいると2人は
お前は七瀬を誘えばいいじゃん。いい雰囲気になったら告白しちまえ。
という流れになり、みんなそれぞれ女を連れて行くこととなった。
2人が彼女にメールをすると即、行けるとの事だった。
だが問題は俺で、彼女でもない子を祭りに誘うというのは周りから見てもそういうことだと捉えられても仕方ない。
俺は翌日、ガチガチに緊張しながら七瀬のいるクラスへ赴いた。
ドアを開け、近くにいた人に七瀬を呼んでもらうと、ドアの周りは野次馬で溢れかえっていた。
人が人を呼び、時間が経てば経つほど人は増えていく。
意を決して俺は祭りについて説明し、祭りに一緒に行かないか、と誘ってみた。
みるみるうちに七瀬の顔は赤くなり、俯いて1日考えさせて欲しいと言われた。
俺の顔もきっと同じぐらい赤くなっていたのだろう。
顔は熱を持ち、周りから冷やかしの声が飛んでくるがほとんど聞こえなかった。
俺は了解と七瀬に言ってその場を去った。
やはり人の色恋沙汰というのは見る分には楽しいもので、この一件についても話題となった。
休み時間やお昼休憩に廊下に出ると色んな人に冷やかされる。
だが不思議と嫌な気持ちにはならない。
なんというか俺はやってやったぞ。という達成感に満たされていた。
その日の夜、俺はなかなか寝付けなくて翌日のことを考えソワソワしていた。
七瀬と一緒に祭りに行けるかもしれないという興奮から目を閉じてもすぐに開いてしまう。
七瀬のことが好きだったと気づいたのは最近の事だった。
七瀬とは小学5年生で始めて同じクラスになり、最初はお互いクラスカーストの高いグループに所属していたこともあって、今になって思えば、小学生によくある好きな人にはちょっかいを出してしまう的な感じだった。
そんなある日、縦島が俺に言ってきた。
「なんか七瀬、お前のこと」
そう言って縦島がなにかを言おうとすると、この会話が聞こえていたのか七瀬は「ちょっと、ちょっと」と会話に割り込んできて縦島に、「言ったら殺すから」と言って去っていった。縦島さっきの続きを聞くとやっぱりその話はなしと言われた。
だが俺はどこかの鈍感主人公とは違って二人の言動を見ていればだいたい何を言おうとしていたのかが分かった。
それからは視界に七瀬が入ると自然と目で追ってしまったり、話す時になぜか緊張したりと明らかにおかしいことがおきた。
そして中学生になりクラスが離れて分かった。俺は七瀬のことが好きだったのだと。
世にいう相手に好きだと言われたらそれまでなんとも思ってなかったけど気になって、いつの間にか好きになっていると言うやつだった。
クラスが別れてからは話すことはほとんど無くなり一層、七瀬のことが気になりだした。
そして今に至る。
俺は明日、もし断れても祭りに行くか行かないかという話をできるというだけで嬉しかった。
そしてやっと落ち着いた俺は朝を楽しみに眠りにつく。