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モノクロのアオハル  作者: 雨宮 桜桃
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第一章 始まりの時期(3)

 翌朝、アラームの音で目を覚ました俺がカーテンを開けると昨日の雨がまるで嘘だったかのような爽快な青空が広がっていた。

まだ開ききっていない目を擦りながらリビングに向かい素早く学校への身支度を済ました。

俺は基本朝は何も食べない派なので制服に着替え、歯を磨き、寝癖がついていたら直すだけで、他の高校生に比べれば比較的身支度は早いのだ。

ベットから出て20分ほどで俺は家を出る。

それから駅まで少し歩き、電車に揺られ学校を目指す。

学校に着くと予鈴の10分前だというのに教室には数える程しか生徒はいない。

しかもほとんどがグループとなって雑談をしているので教室内はかなり空いているスペースがあり、少しもの寂しく感じる。

俺が自分の席に着くと昨日と同じく背中をつんつんとつつかれた。

二度目だというのに全く慣れることはなく肩を少し飛びあがらせ俺は振り返った。

「おはよ」

高校に入って3年目初めての挨拶をしてきたのは後ろの席の背中まで伸びる綺麗な黒髪を持つ少女、内本向日葵だった。

これまで挨拶などしてきたことは無いはずなのになんで今になって挨拶をしてきたのだろう。

そんなことを考えながらとりあえず右手を上げ挨拶を返しておく。

「ねぇ、昨日石沢くんが読んでた本ってこれじゃない」

内本さんは綺麗に角が立っているブックカバーに包まれた本を俺に差し出してきた。

俺はそれを受け取り表紙をめくると、確かに俺が読んでいる本(正確にはライトノベル)の1巻だった。

俺が驚いたように内本さんを見ると私も読んでるんだと笑顔で言ってきた。

学校で趣味の話をしたのは初めてだったし、何よりその話し相手が陰キャか陽キャのどちらかというと陽キャに含まれる内本さんだったことにとても驚いた。

休み時間やお昼休憩にアニメやゲームの話をしているクラス内の会話を耳にすることは多々あったが全て盗み聞きで自身が会話に参加したことはなかった。

驚きのあまり俺が何も言わず固まっているとなにかを察したのか内本さんはどのキャラが一番好き?と会話のキャッチボールのボールを出してくれた。

結論からいえばその後俺のぎこちないパスを内本さんが拾ってくれて何とか会話をすることができた。俺は申し訳ないなと思いつつ自分なりに頑張って会話を続けた。

しかしお互いそんなに仲良くないのでやはり限界はきてしまい、会話が一瞬止まった。

その瞬間予鈴が鳴り自然と会話を終了することが出来た。

まだ授業が始まってもいないのに既にかなり疲れた。

正直もう帰りたかったがそんな訳にはいかないので授業を受けヘロヘロになりながらも何とか放課後を迎えることができた。

放課後。文化委員の初顔合わせがあり、帰る時間が1時間ほど遅くなった。

普段なら終礼が終わると誰よりも早く教室を出る俺だが、今日に限っては教室にカバンを取りに戻ると教室にはもう誰もいなかった。

机の中の教科書をカバンに詰めカバンのチャックを閉めた終えた時だった。

教室の後ろ側のドアがガラガラと音を立て勢いよく開かれた。

俺が振り返り、開かれたドアの方を見ると内本さんが教室に入ってきた。

「あれ、石沢くんも忘れ物?」

石沢くんも、ということは、内本さんが教室に来た理由は忘れ物のようだ。

「いや、僕は委員会終わりです。」

普段の一人称は俺だが、ゲーム仲間や高校で話す時は一人称を僕にして少し印象を和らげている。

陰キャぼっちの俺の一人称は、周りから見れば、俺より僕の方がしっくりくるとも思うし。

「そうなんだ。私はイヤホン忘れちゃって」

内本さんはそう言いながら机の中からイヤホンを出して見せた。

俺はそうですか。と素っ気ない態度をとって教室を出ようとカバンに手をかけた。

「ねぇ、なんで石沢くんは誰とも仲良くしようとしないの」

いきなりの話題展開で驚いたが言ってることには少し疑問を思えた。

「いや、僕は別に仲良くしようとして無いわけじゃないんだ。仲良くなれないだけで」

俺としては別に誰かと仲良くなれるのであればなりたいのだが、まるで俺が自ら誰とも仲良くしようとしていないかのような言われ方をしたのでそこは否定した。

「でも周りからしたら石沢くん、結構俺に関わるなオーラ出てるように見えてると思うな」

確かに俺は明るいか暗いかでいうと学校では間違いなく後者だ。

俺は業務連絡の時も物腰低く接していたつもりだった。

やはり主観から見る自分と客観的に見た自分は異なるんだなと思った。

「もしかして、石沢くんは、過去になんか人間関係でなにかあったんじゃないかな。だから無意識のうちに相手に対して距離を保とうとしてしまってるとか」

確かに俺の人生を振り返っても人間関係であまり上手くいった記憶はない。

中学の時の友達で今でも頻繁に連絡を取るのはたった1人だけだ。

俺が黙り込んでいると内本さんはゆっくりと自分の席に腰を下ろした。

「石沢くんは中学生の時、どんな感じだったの。」

完全に話をする体勢になってしまった。

中学時代といわれても何を話すべきなのかと迷っていると内本さんはそうだなぁと顎に指をおいてわざとらしい仕草で考え出した。

「中学の時は何かやってたの?部活とか習い事とか」

一般的には当たり障りない無難な質問だ。

何かやっていればそこから話題を広げられるし、たとえ何もやってなかったとしても、じゃあ普段は放課後何してるの?とか、そんな感じの質問で話を繋げることができる。

「部活は陸上部に入っていたよ、ほとんど行ってなかったから幽霊部員だったけど、あと小1の時から空手やってたからそれを続けてたかな」

そう俺が気まずそうに言うと、内本さんはへぇーといって話を展開し始めた。

「意外とアグレッシブだったんだね。空手は強かったの?」

「一様、一回だけ全国大会に出たことがある。」

「すごいじゃん。それだけ強かったら結構学校とかでも話題になったんじゃない?」

確かに俺が空手をやっていたことは中学時代の面識のあるやつなら全員知っていたと思う。

同じ道場に通っているやつも数人いて、そいつらとは仲がよかった。

過去のことを思い出すとどうしても辛かったことや悲しい記憶が蘇ってしまう。

そんな俺の心情が顔に出てしまっていたのか内本さんは少し申し訳なさそうに聞きてきた。

「もし良かったらその話もっと詳しく聞かしてくれないかな。石沢くんにどんなことがあって今みたいな感じになったのか気になるんだ。」

俺の過去は他の人なら引きこもりになっていたりしてもおかしくないぐらい悲しいことしかない。

確かに楽しい時もあった。

しかし最後にはその楽しい時のつけを返すかのように酷い仕打ちに合う。

中学の頃はよく夜寝る前に思い出して泣いてたっけ。

でも最近では自分のメンタルも強くなったのか、ゲーム仲間に自虐ネタ的な感じで話して楽しめてる。当時は辛かったが今となっては過去の祭りだ。

今回もゲーム仲間に自虐ネタを披露するかのように説明すればいい。

内本さんに中学時代を大まかな出来事を説明することに決めた俺は、ちょっと長いけどいい?とだけ聞き内本さんの了承を得て、話を始めた。


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