第壱話 聖霊皇山
今回も読んでいただきありがとうございます。
これは……血。
そう、血だ。何故だ?
何故、僕の家に血なんか。
考えるな。いや、考えたくもない。
「ミ…コト、に…げて」
「母さんか!どこだ!」
いや、冷静になって考えるんだ、ミコト。
何故、母さんは『逃げろ』と口にしたのか。
何かしらの僕らを殺そうと企む連中。
誰だ?僕は、少なくとも家族を危険にさらすようなことはしていないはず。
じゃあ、母さんか?いや、母さんに限って。
頭を横に振るい考えを改める。
残るは妹、有り得ない、まだたった五歳の女の子が誰かに殺される程のことはしていない。
僕は、気付けば走っていた。
おかしい、僕は先程まで少なくとも家にいた。
何故?
そんなことを考えていると手が温かい。
これは、人の手だ。
誰かが僕の手を繋いで走っている。
「あの、すみませんあなたは?」
「それ、今言わないとダメ?」
声から察するに女性だ。
「というか、君魔法適正あるっしょ」
走りながら女性は言う。
「分かりません、魔力ならありますけど」
息切れをしながら答えた。
「まあ、君のことにゃ大丈夫にゃ」
「にゃ?」
僕は、女性の語尾が気になった。
「ああ、素が出ちゃった」
「素?」
「ああ、私は聖霊王国の第一王女補佐官リバエル=ファロー=デミナロール。獣人族猫人だにゃ」
「聖霊王国の?」
「そうだにゃ、確か女王様が君に憑依したとか何とか」
「エアリアル?」
「そうだにゃ、とそろそろ帝都から出られるけど少しばかり工夫をにゃ」
リバエルはそういうと、近くの馬車の荷台に乗り込み操縦士に【聖霊の囁き】と唱え[あなたは私達を聖霊皇山を運ぶ]と言い「君、名前は?」と僕に聞いた。
「僕は、ミコト=イグナス。それより今の魔法は」
僕の言葉を断ち切り言葉をつなげる。「君には分からなくて当然だにゃ、あれは聖霊公に認められないと使いこなせない術しかし人間には広まらない。何故だと思うにゃ?」
「聖霊の魔法が人間に合わないから、でしょうか?」
「惜しいにゃ、聖霊公に認められる人間がいなかったからだにゃ」
「認められる人間がいない?」
「にゃ、基本的に聖霊魔法は属性魔法とは別のシステムで働くにゃ」
「つまり、システムに順応出来ないと」
「分かったかにゃ?」
「成る程、そういや僕ってこれからどうすればいいんですか?」
「えーと、今聖霊三王と女王様が君の契約聖霊になりたいって言ってるせいで今こっちは大混乱なんだにゃ」
「結局何すれば?」
「聖霊皇山は今日、宴なんだにゃ」
「えーと、ということは僕が聖霊皇山の宴に出て誰かしらと契約しろということ?」
「流石、女王様に認められた身だにゃ、物分かり良いにゃ」
「というか、聖霊術師についてよく分かっていないんですが?」
「では、解説するにゃ。まず前提として聖霊は神の遣いみたいなものだにゃ、しかしその聖霊の因子を少し持った人間がより強大な聖霊と契約するにゃ。この時点でもう聖霊術師だにゃ」
「つまり、聖霊と同じシステムを一部分持っているが術は使えないから聖霊と契約して術を使えるようにするってこと?」
「まあ、要約するとそうなりますにゃ」
「そういや、僕ってこっち戻ってこれるんですか?」
「ええ、明日の朝には帰ってこられると思いますにゃ」
「確か、魔法師高校でしたっけ?に入学するですよね?」
「はい」
「まあ、確実に魔女になれますにゃ」
「そうですかね?」
「魔力もかなりあって聖霊が付いて魔法の習得速度も異常な人が魔女になれなくてどうするんですかにゃ」
「何で魔法の習得速度が早いって分かるんですか?」
「いや、この手の人はだいたいそうだにゃ」
「というか、人間の魔法師高校より聖霊とか魔族の魔法大学のがよっぽど良いにゃ、ミコトのスペックなら普通に入れそうだにゃ」
「へぇ~魔族とか聖霊にもあったんだ」
「そりゃ、基本的に魔族自体が人里に来にゃいから知らないのは当然にゃ」
「お、見えてきたにゃ聖霊皇山」
「だいぶ今さらだけど聖霊皇山って何なの?」
「ほんと、今さらだにゃ。聖霊皇山は、そうにゃね聖霊の王が住みかにしてる山にゃ」
「王の居住地が山ってどうなんですか?」
「まずそもそも、聖霊が自然の摂理みたいなものなのに宮に住んでてたら示しが付かにゃいにゃ」
「まあ、そんなもんか」
「着いたみたいだにゃ」
[あの方がミコト様、流石女王に気に入られた人だ]
遠くから、というより僕らが着いた瞬間からざわめきが大きくなった。
「あの、先ほどからざわついてるんですが大丈夫ですか?」
「あなた、自分で思ってるより有名人ですから」
「そういや、聖霊の姿が見えるんですけど」
「たぶん、可視化の魔法を使ってるかと」
「リバエル~、お疲れ様~」
「王女様、お客様の御前ですよ」
「ああ、失礼私聖霊王国グレヴァルベル第一王女ブレミクセ=ヴァル=グレヴァルベルです。以後お見知りおきを」
「ミコトさんすみません、少しあちらでお話が」
「はあ」
僕は、リバエルさんに案内されきらびやかな部屋に案内された。
「わざわざ、ご足労いただきありがとうございます。こちらに来ていただいたのは契約というのも一つですが私を人間の国の魔法師高校なるところに連れていっていただきたいのです」
「何故?」
「実は私は『半霊半人』なので聖霊の学校では合わないのです」
「合わないといいますと?」
「聖霊は人より五倍程の魔力を持ち合わせています。しかし、半霊半人は聖霊の半分つまり、人の二・五倍程しか魔力を持っていません。なので、他聖霊と同じ魔法は行使が出来ないんです」
「一つ聞いても良いですか?」
「はい、何でしょう?」
「魔力量はどのくらい何でしょう?」
「私は三億五千百十で、横のリバエルは五千四百です。」
「なるほど、って僕より魔力量少ないじゃないですか!」
僕は、思わず言ってしまった。
「はははっ、そうなんです」
彼女は少し照れ隠しの笑いをした後に憂鬱そうに言った。
「すみません、失礼なことを言ってしまって」
「いえ、事実なので良いですよ。後、年齢はおんなじなんですし」
「あっ、そうなんですか」
「まあ、事情は察しました。では、こちらに来ていただいて身分証と魔力測定だけして入学しましょう。」
「大丈夫でしょうか?」
リバエルさんは心配そうに言った。
「大丈夫でしょう、王女様のことです。直ぐに馴染みますよ」
「なら良いのですが」
というか、リバエルさん『にゃ』って付くときと付かんときの差がよく分からん。
「ん?どうかしましたか?」
「いえ、少し考えていただけです」
「で、契約はどうすれば?」
「ああ、それなら先ほどから後ろにいらっしゃいますよ」
僕は、後ろを振り返ると一番右に緑色の服を着た大体二十歳くらいの女性、その横にいかにも炎の聖霊っぽい男性とそして、その横にはおしとやかな女性に一番左に何があっても動じ無さそう女性。
というか、聖霊の官僚の女性率の高さスゲーな。
僕が感心していると「どうかしましたか?」と背中側から声が飛んできた。
「いえ、それより一つお聞きしてもいいですか?」
「何でしょうか?」
「この方たちが、三王様とエアリエルさん?」
「はい、この度はご足労いただき誠にありがとうございます。私は聖霊王国グレヴァルベル女王のエアリアル=ヴァル=グレヴァルベルです。数時間ぶりですねミコトさん。そして、横の方たちが聖霊三王の」
「炎の聖霊、イフリーナ=ファア=サラマンです。以後お見知りおきを」
「水の聖霊、シルフィー=ウェブ=クラケです。よろしくお願い申し上げます。ミコト様」
「地の聖霊、べリリン=リード=ドラアイドです。よろしく。ミコト殿」
「失礼します。ここ?ミコト様がいるの」
「なっ、ビフロスト何故あなたがここへ?」
垂れ幕の様な所からひょこと顔を出している派手な女性に対してエアリアルさんが言い放つ。
「あの、すいませんそちらの方は?」
「よくぞ聞いてくれました、私こそ使役不可能とまで恐れられた色の聖霊、ビフロスト=カラ=ゴーリンだ。ミコト様は私を使役できそうなのだ」
「というと?」
「簡単ですよ、彼女は人間というよりそもそも使役できるのがいないんですよ」
エアリエルさんが呆れたように言った。
「使役できない聖霊なんているんですか?」
「いますよ沢山、まずそもそも聖霊は使役するためのものでは無いんです。聖霊はいわば神の遣い。それを操れる者がいるから聖霊側が納得して契約してるのに今の人間と来たら…」
エアリエルさんはため息を漏らしながら言う。
「なんか、すみません」
「あっ、すみませんミコトさん」
「いえいえ、聖霊の方も大変なんですね」
少し同情する。使い走りというのは大変なものだ。
「で、私と契約するのか?」
「では、一つ聞きたい。僕が貴方と契約を結ぶ利点は?」
「……」
「無いんですね。後、僕は女王様と三王、両方とも契約します。」
「本当ですか?」
「ええ、本当ですよ、多分契約しても大丈夫でしょうし」
「ま、まあ、貴方なら上手く調整できそうですしね」
その後、僕はその四人?と契約して帝都まで帰った。
今回は少し長くなってしまいました。
また、次回も読んでいただけると嬉しいです。
アドバイス等も宜しくお願い致します。
一週間に一回投稿を目指したいと思います。
これからも宜しくお願い致します。